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Wake up
楽天家だって悩みはある
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自分は悪魔なのだ。
全てが瓦礫となった後、クロエは自らにかけていた防御魔法達を外していった。
これからまだやることはたくさんあるからだ。
ふと遠くから自分を呼ぶ声が耳に届いた気がする。
自分の心臓の音と、ハァハァと息を吐く音が耳に響く中、微かに聞き取れた声は、聞き覚えのある声のように聞こえた。
その方を見れば、王国の旗を携えた魔術師や騎士が自分の張った結界の外で蠢いている。
アレは私を捕まえに来たのか?
悪いのはココの人たちなのに?
遠くから聞こえてくるのは、先ほどまでと同じく自分に浴びせられる悪意の塊に似ていた。
その悪意の中にジュリアンを見つけたクロエは、『自分は悪魔だから仕方ないか』そう思いながら一度王都の屋敷に戻った。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
子供達はその後クロエの部屋にお見舞いに来た。
大勢が訪れて、部屋は賑やかだったが、相変わらずクロエの目は色を映さなかった。
「クロねえ、早く元気になってね」
子供達はそう言って侍女達の目を盗んではクロエの部屋を訪ね、イシュトハン邸を守る騎士達も片目を瞑る日々を送った。
そして、ジュリアンがクロエの元を訪れたのは、半年も経った後だ。
子供達はイシュトハン邸に1番近い孤児院に預けられ、ヒューベルトは教会本部の闇を告発した。
イシュトハンへの圧力は大きなものだったが、孤高の辺境伯として名高い家門であったことも幸し、味方してくれる貴族が多くいたことで教会本部への調査は実行された。
しかし、王家を潰すことは望んでおらず、ヒューベルトはクロエを罪に問わないかわりに、今回のことは教会の内部抗争による自滅の結果だということにさせた。
教会側の弱体化は、王家には都合が良く内部抗争だとすることは利益のあることだった。
「クロエ、元気にしていましたか」
相変わらず一人でいる事を好むクロエは、時折孤児院へ遊びにいっているようだったが、大抵の時間を裏山で過ごしていた。
甘いものを食べ、ピアノを弾き、淑女教育を受け、旅行にも行って笑っていた。
他人から見れば悩みなんてない子供に見えただろう。
それでもクロエの世界はモノクロだった。
「ジュリアン、久しぶり」
「隣に座っても?」
「悪魔の隣に座りたいの?」
木の枝に座って本を読んでいたクロエは、まさかそんなはずはないか。とでも言うように純粋な目をジュリアンに向けた。
「私はクロエの隣に座りたいのですよ」
久しぶりに見るジュリアンは、いつもより大人びて見えた。
「何か話があるの?」
「えぇ。クロエと2人で話すために休みを取りました」
ジュリアンは幹を2、3度蹴りながらクロエの座る枝を掴んでよじ登ってくる。
「ジュリアン、木登りが上手くなったわね」
「あぁ、最近身体を鍛えてるんですよ」
「へぇそれは意外ね」
ジュリアンは大きな身体を器用にくねらせてクロエよりも枝先に近い方へ座った。
「やれやれ、木に登るのも大変だな」
「体が浮けばどこにでも座れるわ。次からそうしたら?」
クロエは読んでいた本を閉じて隣に座ったジュリアンの話を聞くことにした。
「クロエはいつからそんなに意地悪いことを言うようになったのですか?」
意地悪を言ったつもりはなかったが、ジュリアンはクロエの鼻を摘んで右に左にと引っ張る。
「イッイ痛い!やめてよ!」
「そんなに痛くしたつもりはなかったんですが、すみません」
クロエが痛いと言うとパッと手を離してジュリアンは両手を上げた。
「それで、話ってなに?」
「それなんですけど、クロエは自分が悪魔だと思いますか?」
突然の質問にクロエは目をパチクリさせた。
ジュリアンが私を悪魔だと言ったんじゃないか。
「私は悪魔なんでしょう?」
「そうですね…悪魔に見えるときもありました」
ジュリアンは目を伏せて地面を見る。
「見えない時もあるの?」
「クロエがもし悪魔だとしても、私の大切な従兄妹だということをいいたかったのです」
「どういうこと?」
クロエは悪魔でもいい思っていた。
誰とも関わらなければ罵られることもない。
一人でいればいいのだと結論づけていた。
「クロエを嫌いになることはないと言うことです」
「悪魔だと思っているのに?」
「えぇ。でも、それ以上に私はクロエの優しさを知っています」
「やさしい悪魔ってこと?」
クロエにはジュリアンの言いたいことが掴めない。
優しくたって悪魔なのだ。
「言葉で全てを表すことは難しいですが、それに近いです。クロエだけでなく、ダリアもステラですが、魔力が強大すぎるのです。私達は考えられないような未知の力に遭遇した時、自分と同じ人間なのか疑わしく思える。自分の弱さを盾に、相手を悪魔だと思い込むのです。私のようにね」
「私は本当は悪魔ではないということ?」
「ハッハ!クロエは本物の悪魔だと思っていたんですか?」
「違うの?」
ジュリアンはクロエを抱き上げると、トスンッと地上へと降りた。
そこに衝撃はない。
「クロエは私の可愛い従兄妹です。悪魔のように強い魔力を持っているというだけで、他人と変わりませんよ。何かあれば叔父上も叔母上も、ダンコーネス家の誰だってクロエを守ります。だから前のようにみんなを頼りなさい。一人で魔法の練習をすることはとても危ないのですよ」
元々楽天家だったクロエは、自分は悪魔ではなかったと知って少しずつ家族との距離を元に戻していった。
それでも、相手には悪魔に見えているかもしれないと言う恐怖はクロエの視界に色を与えることはなかったのだ。
全てが瓦礫となった後、クロエは自らにかけていた防御魔法達を外していった。
これからまだやることはたくさんあるからだ。
ふと遠くから自分を呼ぶ声が耳に届いた気がする。
自分の心臓の音と、ハァハァと息を吐く音が耳に響く中、微かに聞き取れた声は、聞き覚えのある声のように聞こえた。
その方を見れば、王国の旗を携えた魔術師や騎士が自分の張った結界の外で蠢いている。
アレは私を捕まえに来たのか?
悪いのはココの人たちなのに?
遠くから聞こえてくるのは、先ほどまでと同じく自分に浴びせられる悪意の塊に似ていた。
その悪意の中にジュリアンを見つけたクロエは、『自分は悪魔だから仕方ないか』そう思いながら一度王都の屋敷に戻った。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
子供達はその後クロエの部屋にお見舞いに来た。
大勢が訪れて、部屋は賑やかだったが、相変わらずクロエの目は色を映さなかった。
「クロねえ、早く元気になってね」
子供達はそう言って侍女達の目を盗んではクロエの部屋を訪ね、イシュトハン邸を守る騎士達も片目を瞑る日々を送った。
そして、ジュリアンがクロエの元を訪れたのは、半年も経った後だ。
子供達はイシュトハン邸に1番近い孤児院に預けられ、ヒューベルトは教会本部の闇を告発した。
イシュトハンへの圧力は大きなものだったが、孤高の辺境伯として名高い家門であったことも幸し、味方してくれる貴族が多くいたことで教会本部への調査は実行された。
しかし、王家を潰すことは望んでおらず、ヒューベルトはクロエを罪に問わないかわりに、今回のことは教会の内部抗争による自滅の結果だということにさせた。
教会側の弱体化は、王家には都合が良く内部抗争だとすることは利益のあることだった。
「クロエ、元気にしていましたか」
相変わらず一人でいる事を好むクロエは、時折孤児院へ遊びにいっているようだったが、大抵の時間を裏山で過ごしていた。
甘いものを食べ、ピアノを弾き、淑女教育を受け、旅行にも行って笑っていた。
他人から見れば悩みなんてない子供に見えただろう。
それでもクロエの世界はモノクロだった。
「ジュリアン、久しぶり」
「隣に座っても?」
「悪魔の隣に座りたいの?」
木の枝に座って本を読んでいたクロエは、まさかそんなはずはないか。とでも言うように純粋な目をジュリアンに向けた。
「私はクロエの隣に座りたいのですよ」
久しぶりに見るジュリアンは、いつもより大人びて見えた。
「何か話があるの?」
「えぇ。クロエと2人で話すために休みを取りました」
ジュリアンは幹を2、3度蹴りながらクロエの座る枝を掴んでよじ登ってくる。
「ジュリアン、木登りが上手くなったわね」
「あぁ、最近身体を鍛えてるんですよ」
「へぇそれは意外ね」
ジュリアンは大きな身体を器用にくねらせてクロエよりも枝先に近い方へ座った。
「やれやれ、木に登るのも大変だな」
「体が浮けばどこにでも座れるわ。次からそうしたら?」
クロエは読んでいた本を閉じて隣に座ったジュリアンの話を聞くことにした。
「クロエはいつからそんなに意地悪いことを言うようになったのですか?」
意地悪を言ったつもりはなかったが、ジュリアンはクロエの鼻を摘んで右に左にと引っ張る。
「イッイ痛い!やめてよ!」
「そんなに痛くしたつもりはなかったんですが、すみません」
クロエが痛いと言うとパッと手を離してジュリアンは両手を上げた。
「それで、話ってなに?」
「それなんですけど、クロエは自分が悪魔だと思いますか?」
突然の質問にクロエは目をパチクリさせた。
ジュリアンが私を悪魔だと言ったんじゃないか。
「私は悪魔なんでしょう?」
「そうですね…悪魔に見えるときもありました」
ジュリアンは目を伏せて地面を見る。
「見えない時もあるの?」
「クロエがもし悪魔だとしても、私の大切な従兄妹だということをいいたかったのです」
「どういうこと?」
クロエは悪魔でもいい思っていた。
誰とも関わらなければ罵られることもない。
一人でいればいいのだと結論づけていた。
「クロエを嫌いになることはないと言うことです」
「悪魔だと思っているのに?」
「えぇ。でも、それ以上に私はクロエの優しさを知っています」
「やさしい悪魔ってこと?」
クロエにはジュリアンの言いたいことが掴めない。
優しくたって悪魔なのだ。
「言葉で全てを表すことは難しいですが、それに近いです。クロエだけでなく、ダリアもステラですが、魔力が強大すぎるのです。私達は考えられないような未知の力に遭遇した時、自分と同じ人間なのか疑わしく思える。自分の弱さを盾に、相手を悪魔だと思い込むのです。私のようにね」
「私は本当は悪魔ではないということ?」
「ハッハ!クロエは本物の悪魔だと思っていたんですか?」
「違うの?」
ジュリアンはクロエを抱き上げると、トスンッと地上へと降りた。
そこに衝撃はない。
「クロエは私の可愛い従兄妹です。悪魔のように強い魔力を持っているというだけで、他人と変わりませんよ。何かあれば叔父上も叔母上も、ダンコーネス家の誰だってクロエを守ります。だから前のようにみんなを頼りなさい。一人で魔法の練習をすることはとても危ないのですよ」
元々楽天家だったクロエは、自分は悪魔ではなかったと知って少しずつ家族との距離を元に戻していった。
それでも、相手には悪魔に見えているかもしれないと言う恐怖はクロエの視界に色を与えることはなかったのだ。
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