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Wake up
人形姫
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クロエとフリードは再び同じベッドで寝ることはなかったが、時間を見つけてはフリードがクロエの隣にいるようになり、微笑ましい光景がそこかしこで見られていた。
そのおかげか、社交界ではゆっくりと愛を育む2人として女性達の間で話題になっているらしい。
好意的に捉えられているようだった。
ミーリン島の女神の訪れは、クラーク公爵家の転移装置だった。
すぐに真新しい謁見の間に通された大人数の一行は、考えていたよりも畏まっていた。
「ミーリン島の王、サステナ=ヴォルブル=アテナ=リンクーンと申します。この度は我が国の不手際でご迷惑をお掛け致しまして申し訳ございません」
ピンク色に色めくオーラは、彼女によく似合っていた。
まだ若く美しい国王に、男女問わず彼女を見つめる。
人形、そう形容されるにも相応しく、そしてその言葉に不釣り合いなほど礼儀を叩き込まれているようだった。
この短期間で幾度となく訪れているだろうクラーク公爵邸に、再び貴族達は集まり、歓迎の宴でサステナは貴族達の人気者となった。
官僚や神官、護衛達も非常にフレンドリーに共通語で話が出来たのも大きな理由にもなったが、やはり、神の住まう地から来た彼らへの興味が尽きないようだった。
だが、ステラを含め一握りの人間だけは、表情を曇らせていた。
魔力を扱える者が多い国はいくつかあるが、ミーリン島は別格だった。
その証拠に、このパーティの護衛は、魔法省のトップクラスだけに留まらず、予定外に増員された。
それでもまだ足りない。国民全てを集めても、彼ら全員を止めることが出来るかというほど、魔力保持量に差があった。
「フリード、私、初めて自分より魔力の多い人に出会ったわ」
魔力保持量への危惧はパーティの前に予め聞いていたものの、クロエは自分より魔力保持量の多い幾人かの人間を見つけると、熱い目線を隠せなかった。
「あぁ、全員すごく強大な魔力を持っているみたいだね」
「その中でも女王のサステナ様のオーラの輝かしいこと。他人のオーラにこんなにときめいたのは初めてだわ」
「でも、彼らが攻撃した時のことも考えないといけないけど、大丈夫?結界は」
恐らくフリードは、イシュトハンの地で魔獣を解き放つことがないように、そして万が一戦闘になっても問題ないのかと聞いているのだろう。
だが、安心して欲しい。
「無理ね」
「そうだろうな」
当然、分かりきったことなのだ。
他の者はなんとかなっても、サステナとその側近達だけは勝てそうもない。
だが、彼らの最大出力がどの程度なのか。
そこまで考えれば、分からないと強がるくらいのことは出来そうだけど、知りたくもない。
よって、魔力の使用を控えることが今出来るただ一つの対策なのだ。
「ステラ女王に、ミーリン島でしか作ることのできない回復薬を進呈いたします」
壇上では女王の引き連れた使者たちが木箱を開けていた。
「回復薬?」
「はい。神聖な地と言われる私たちのミーリン島で育つ草や果物などの中には、大地から魔力を吸収しながら育つ種がございます。簡単に言うと、ある程度の傷は治り、体力や魔力量の回復が認められる神話で言うポーションと呼ばれているものといえば伝わりますでしょうか」
神話では神が住まう地とされるミーリン島が魔力創出の地とされるのは伝説の話ではないのか。
その場にいた全員が壇上に目線を向ける。
ポーション。そんなものが存在するのならば、どれだけの高値でも買いたいと言うものは多いだろう。
大きな傷なら何人もの治癒士を使う今までの状況が一変するのだ。
「魔力を持つ草木があると?」
「さようでございます。ごく僅かな種ですが、草木も魔力を溜め込む種がありまして、オーラで光っているため、とても綺麗なんですよ!ご招待できたら良いのですが、それも出来ぬ立場の国ですので、気持ちだけでもご理解頂こうとご用意致しました。どれか一つお選びいただけますか?私が今安全なものであると証明いたします」
「ではその左から2番目のものを。ですが、もし飲むのならば、隣の側近のどちらかにしてもらいましょう」
ステラは意外にも表情を変えずに一つを指示する。
進呈されたものの毒味をさせるのに遠慮はないようだった。
ここで断れば、この国の誰かがその役目をしなければならない。そう思えば正しい選択だ。
「では私がいただきましょう」
失礼とも文句も言わず、真っ白な騎士服の男が差し出された瓶の蓋を開け、コクリコクリとすぐに飲み干す。
「問題はないようですね。このような貴重なものを他の国と取引をしているのですか?」
「いえ、隣の三国は平和協定のために年10本を送りますが、売買の禁止が決められておりますし、時折少量他の国にも渡しすることはあったようですが、喜んで世に出すつもりはないものですわ」
「そうですか。ならばありがたく頂戴いたします」
数によっては物の価値が変わる代物だけに、流通しない物だと聞いて、安堵の息がそこかしこから漏れた。
安堵の後に流れるのは浮ついた空気だ。
実在することすら知られていなかったポーションが国にもたらされたのだから、全員が興味があるに違いない。
20本という数では特に争いになり得る事はないだろうし、治癒士もいるので奪い合いが起こるようなものでもない。
謝罪にきた国に渡すにはこれ以上の物はないだろうというほど、適切な品だった。
「ポーションですって!一度飲んでみたいわね!」
「そうだね。どれほどの効果があるのか気になるね」
他の貴族たちとさほど変わらない会話を2人は楽しんでいた。
そのおかげか、社交界ではゆっくりと愛を育む2人として女性達の間で話題になっているらしい。
好意的に捉えられているようだった。
ミーリン島の女神の訪れは、クラーク公爵家の転移装置だった。
すぐに真新しい謁見の間に通された大人数の一行は、考えていたよりも畏まっていた。
「ミーリン島の王、サステナ=ヴォルブル=アテナ=リンクーンと申します。この度は我が国の不手際でご迷惑をお掛け致しまして申し訳ございません」
ピンク色に色めくオーラは、彼女によく似合っていた。
まだ若く美しい国王に、男女問わず彼女を見つめる。
人形、そう形容されるにも相応しく、そしてその言葉に不釣り合いなほど礼儀を叩き込まれているようだった。
この短期間で幾度となく訪れているだろうクラーク公爵邸に、再び貴族達は集まり、歓迎の宴でサステナは貴族達の人気者となった。
官僚や神官、護衛達も非常にフレンドリーに共通語で話が出来たのも大きな理由にもなったが、やはり、神の住まう地から来た彼らへの興味が尽きないようだった。
だが、ステラを含め一握りの人間だけは、表情を曇らせていた。
魔力を扱える者が多い国はいくつかあるが、ミーリン島は別格だった。
その証拠に、このパーティの護衛は、魔法省のトップクラスだけに留まらず、予定外に増員された。
それでもまだ足りない。国民全てを集めても、彼ら全員を止めることが出来るかというほど、魔力保持量に差があった。
「フリード、私、初めて自分より魔力の多い人に出会ったわ」
魔力保持量への危惧はパーティの前に予め聞いていたものの、クロエは自分より魔力保持量の多い幾人かの人間を見つけると、熱い目線を隠せなかった。
「あぁ、全員すごく強大な魔力を持っているみたいだね」
「その中でも女王のサステナ様のオーラの輝かしいこと。他人のオーラにこんなにときめいたのは初めてだわ」
「でも、彼らが攻撃した時のことも考えないといけないけど、大丈夫?結界は」
恐らくフリードは、イシュトハンの地で魔獣を解き放つことがないように、そして万が一戦闘になっても問題ないのかと聞いているのだろう。
だが、安心して欲しい。
「無理ね」
「そうだろうな」
当然、分かりきったことなのだ。
他の者はなんとかなっても、サステナとその側近達だけは勝てそうもない。
だが、彼らの最大出力がどの程度なのか。
そこまで考えれば、分からないと強がるくらいのことは出来そうだけど、知りたくもない。
よって、魔力の使用を控えることが今出来るただ一つの対策なのだ。
「ステラ女王に、ミーリン島でしか作ることのできない回復薬を進呈いたします」
壇上では女王の引き連れた使者たちが木箱を開けていた。
「回復薬?」
「はい。神聖な地と言われる私たちのミーリン島で育つ草や果物などの中には、大地から魔力を吸収しながら育つ種がございます。簡単に言うと、ある程度の傷は治り、体力や魔力量の回復が認められる神話で言うポーションと呼ばれているものといえば伝わりますでしょうか」
神話では神が住まう地とされるミーリン島が魔力創出の地とされるのは伝説の話ではないのか。
その場にいた全員が壇上に目線を向ける。
ポーション。そんなものが存在するのならば、どれだけの高値でも買いたいと言うものは多いだろう。
大きな傷なら何人もの治癒士を使う今までの状況が一変するのだ。
「魔力を持つ草木があると?」
「さようでございます。ごく僅かな種ですが、草木も魔力を溜め込む種がありまして、オーラで光っているため、とても綺麗なんですよ!ご招待できたら良いのですが、それも出来ぬ立場の国ですので、気持ちだけでもご理解頂こうとご用意致しました。どれか一つお選びいただけますか?私が今安全なものであると証明いたします」
「ではその左から2番目のものを。ですが、もし飲むのならば、隣の側近のどちらかにしてもらいましょう」
ステラは意外にも表情を変えずに一つを指示する。
進呈されたものの毒味をさせるのに遠慮はないようだった。
ここで断れば、この国の誰かがその役目をしなければならない。そう思えば正しい選択だ。
「では私がいただきましょう」
失礼とも文句も言わず、真っ白な騎士服の男が差し出された瓶の蓋を開け、コクリコクリとすぐに飲み干す。
「問題はないようですね。このような貴重なものを他の国と取引をしているのですか?」
「いえ、隣の三国は平和協定のために年10本を送りますが、売買の禁止が決められておりますし、時折少量他の国にも渡しすることはあったようですが、喜んで世に出すつもりはないものですわ」
「そうですか。ならばありがたく頂戴いたします」
数によっては物の価値が変わる代物だけに、流通しない物だと聞いて、安堵の息がそこかしこから漏れた。
安堵の後に流れるのは浮ついた空気だ。
実在することすら知られていなかったポーションが国にもたらされたのだから、全員が興味があるに違いない。
20本という数では特に争いになり得る事はないだろうし、治癒士もいるので奪い合いが起こるようなものでもない。
謝罪にきた国に渡すにはこれ以上の物はないだろうというほど、適切な品だった。
「ポーションですって!一度飲んでみたいわね!」
「そうだね。どれほどの効果があるのか気になるね」
他の貴族たちとさほど変わらない会話を2人は楽しんでいた。
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