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just married

オオカミさんたちの策略

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「結婚式もこれからだし、クロエも心の準備も出来ていなかった。前日の夜に、好意を持てるはずがないとまで言われていて、手が出せるやつがいるか?」


フリードはため息を吐いた2人にむくれたようにしながら説明をした。


「殿下が婚約したのは半年前でしたよね?」


ハーベストはサリーから聞いていた話との相違点を埋めようと質問をする。
熱烈に求婚をして結ばれたのではなかっただろうかと。
頭の中では、マトゥルス王国建国時の騒動が過ぎる。
実はただの政略結婚だったのではないか。
不仲を悟らせないための演技をしているのではないか。
芽生えた疑念はハーベストの頭の中で膨らんでいった。


ハーベストがよからぬ疑念を持ったことは、貴族である2人ははっきりと感じられた。
感情を顔に出さないことは貴族の嗜みの一つ。だからこそ、少ない表情から感情を読もうとする癖がついてしまっている。


「ハーベストは知らないかもしれないが、元々、社交界でも殿下の結婚相手はイシュトハンの末娘だということは暗黙の了解だった。いつ伯爵令嬢をお連れになるのか。社交界に顔を出さない超越者が王室に入れば安寧が訪れる。イシュトハンと王室の婚姻は何年も前から期待されていたんだ。それに、幼いころから、殿下の伯爵夫人に対する配慮はとても有名なんだよ」

マグシスが、意図を汲んだ様に前座とばかりにハーベストに説明をする。


「婚約をしたのは半年前だが、ずっとすれ違ってしまっていたんだ。今はまだ出来てしまった隙間を埋めているところ。情けない話だね」

「えっと…情けないとは思いませんが、それは初夜もままならない程の隙間だったのですか?」


こんな話まですることになるとは思っていなかったフリードは、少しだけ躊躇した様に一瞬だけ目を閉じる。


「拒んだのは私なんだ」

「前日に振られてたら手は出しにくいだろうが、女性の為にもそこは口説き落とさなきゃダメなんじゃないか?」

「そうですね。それに、特にこう言った茶会の前は周りに不仲だと思われない様に配慮するものだと聞きました」


マグシスもハーベストも独身の男だ。
それでも理解してもらう為にはもう全てを話さなければならなかった。
誰かに理解してほしい。そういう思いも少なからずあった。


「対外的には結婚式を挙げていないというのを理由に出来ると思っていた。それに、ここ数日は一緒に寝ているし、当主であるのは彼女であり、周りを気にする環境ではないというのもある」


「なるほど。見方を変えれば、ないがしろにされているのは殿下の方だと…」


「でも…内情を知らない人から見れば、男性が当主だと思われる方も多いのでは?どうしても『伯爵』と呼ばれるのは男性ですし、爵位を持っていても、夫人と呼ばれれば伯爵の夫人であるかのように平民には思えてなりません。平民にもオーラが見える者は沢山いますし」


ハーベストの平民からの視点に、2人はハッとした。
貴族であるからこそ、爵位を持っているのは誰なのか認識しているが、他国の使者たちはどうだろうか。
女性であるから当たり前に伯爵という爵位を持っている女性という意味で伯爵夫人と呼ぶことが一般的だった。
どちらにせよ、オーラは重要になってくるということだ。


「無理に身体を許してくれても私は何も嬉しくないし、長い目で見ればこれだけ待ったのに、初夜だというだけで許されたくはないんだよ。義務で妻を抱くなんて、それこそ政略結婚のようじゃないか」

「まぁ…では噂を流してはどうです?」

「噂?」

「イシュトハン夫妻は結婚式まで純潔を守る信心深い考えをお持ちだと」


マグシスの提案が頭の中で一周した後、霧が晴れていく様な感覚を覚えた。
フリードは椅子の背に身を任せて一呼吸すると口元を緩ませる。



「いい考えだ」


「丁度ここにいるのは公爵家の私と、噂を流すには適任とも言える商会のご子息。貴族にも平民にも噂を流しやすい。それに、記者に記事を書かせるのもいいですね。手はいくらでもあります」


悪巧みを楽しむようなマグシスの黒い笑みに、フリードもつられる。


「お二人とも、そんな国でも滅ぼす策略のような顔をしていますが、ただの夫婦仲の話ですよ?」


「重大な伯爵家の機密事項の話だ」


心底真面目な顔をしてフリードはお茶を口にする。


「あとは、初夜のために殿下が納得のいくシチュエーションを用意出来るかどうかですね」


マグシスがお茶を含んだあと、気軽に言ったこの言葉でフリードはこの策略をやめることになる。


「いや、この話を流せば結婚式まで待たなくてはならない。この後新婚旅行もあるのに何の拷問なんだ…信心深くなくていいから、期間を限定しない言い訳はないか?」


「新婚旅行…確かに拷問ですね。もう今すぐに抱いてきたらどうです?その方が楽でしょう。夫人も拒まないのでしょう?」

「いや拒むだろう。毎日同じベッドで寝るのにどれだけ苦労していると思っている」

「そうか。同じベッドでは寝ているのに難儀なことですね…あと一歩だと思うのですが…」


堂々巡りの予感がしたマグシスは、無理矢理にゲームを再開する。


「きっとその内いい案が浮かびますよ」


面倒くささを隠そうともせず矢を放ったマグシスは、そのまま優勝をもぎ取った。
フリードは散々な結果だったという。



いくつかの代替え案を出してお開きになったゲームの勝者には、戦略の見本と言われる貴重なイシュトハン戦記の先読み権が贈与されたそうだ。


マグシスとハーベストは後に少しだけ後悔する。
やはりもっと嗾けるべきだったと。
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