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Promenade
腹の虫
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準備が出来たと連絡があり、クロエとフリードはイシュトハン本邸へと向かった。
意外にも連絡係としてサリスが転移できる魔導士を5人、先に転移させたということで、特に急いではいないようだった。
「騎士25名、魔導士25名、総人数50名です。転移できる限界までクロエ様にお願いしたいと考えています」
騎士と魔導士の目の前に立つと、圧迫感がある。
そんなに期待の眼差しで見られても、転移は一瞬なので感動は届けられないだろう。
1人で転移するのとそうは変わらない。
「リアム、あなたも転移魔法が使えたのね」
「もちろんです。筆頭魔術師には必須条件ですから」
筆頭魔術師にそんな条件があったとは驚く限り。
母も筆頭魔術師だったのだから転移魔法が使えることは意外と知られていたのかもしれない。
少なくとも、ダリアは知っていたはずだ。
「まぁいいです。リアムは1人で戻れますね?」
「もちろんです」
「では、なるべく広いところへ転移させます」
クロエは小さく呪文を唱え、役場を確認した。
役場の前はやはり人の出入りがあり、大人数を転移させることは難しいと判断し、裏手を確認する。
煙草吸って休憩している男が2人いたが、予想外の動きをするとは思えず、その場へ転移させることにした。
「いきます」
クロエが目を開けると、役場の裏手の景色と騎士達とが二重に見える。
パチンと指を鳴らすと、一気に魔力が無くなり体がふわりとした。
「大丈夫ですか?」
リアムが肩を抱こうとしたその瞬間、その手は跳ね除けられ、クロエはフリードに横抱きにされていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫。学園に通う位の魔力を消費しただけよ」
足元が震えただけで、倒れたわけでもない。
若干の怠さを感じるのは仕方のないことで、少し休憩すれば治まるだろう。
「50人全員を一度で転移させるなんて流石に凄すぎます!」
リアムは興奮したように2人の周りをクルクルと回りながら踊り出しそうなほどはしゃいでいる。
クロエは苦笑いしながら、自分でもよく出来たなと驚愕している。
「師匠の魔法も凄いですが、クロエ様の魔法も惚れ惚れしてしまいます」
フリードは無言で屋敷に戻ろうとしているが、リアムとはあまり相性はようなさそうで、不快感を隠しもしていない。
降ろしてとも言い難い雰囲気になってしまったので、大人しくフリードの首に腕を回す。
「魔獣は見つかりそうなの?」
「目撃されているのは恐らく狼でしょうね。エイフィルには生息していませんし、恐らく3人の魔術師とやらが持ち込んだか、逃げ出したか。どちらにしても事はそう簡単には終わらせられないでしょう」
「魔術師も見つけなきゃいけないわね」
「魔術師の方も目撃情報は多いですね。身体強化の魔法が使えるのも確実。これだけ目撃されているとなると、隠れる気は更々なかったのだと思う程なのですが…」
「狼か…では転送装置は使わず、転移魔法を使用した移動か、陸路での移動だな。もし逃げ出したとしたら、周辺の宿を調べるのも手だな」
「そうですねぇ。進言しておきましょう。テントが貼れる場所も確認していきます」
リアムは屋敷の中まで付いてくるらしく、屋敷の扉を大きく開けた。
「さぁ姫様、中へどうぞ」
リアムはまるでフリードを無視したかのように部屋までの戸を開けていった。
その後、父も交えて軽食を取りながら、エイフィルの現状をリアムから報告を受けた。
役場の小さな転送装置は魔石の管理不足で在庫が足りず手配中で、3日前から使用が出来なかった。
更に夜の騒ぎだったことから連絡したくとも遅れてしまった事故だったらしい。
魔獣の目撃情報はエイフィル外ではまだない事も分かった。
大賢人様の補佐に、転移魔法を使える魔術師が、治癒士を都度派遣するという。
既にリアムは今日2人転移させたらしく、暫く魔力の回復に努めているところで、夜にはエイフィルへ戻る予定ということだ。
「さぁクロエ、そろそろ行こうか」
軽食を簡単に終えてからも、魔獣について話をしていたクロエは、エイフィル周辺の地図を見続けている。
プロムなんてものはもう頭から消えてしまったのかもしれない。
初めてクロエをエスコート出来る今日をどれだけ楽しみにしていたか、クロエには分からないだろう。
夫として隣に立てる幸福がクロエにも感染して仕舞えばいいと思う。
どうやら恋愛に関しては才能がなかったようだが、それでもクロエを愛する気持ちは伝えていけばうまくいくはずだ。
王室を去る準備と、目の前にまで来た結婚と、クロエに言われた不甲斐ない自分への後悔とで、昨晩は一睡も寝れなかった。
同じようにとは言わなくとも、ほんの少しだけでもプロムを楽しみにしていて欲しかった。
でもそれは出過ぎた感情だった。
それでもいい。まずはクロエの夫という立場を手に入れた。
時間がかかっても、必ずクロエの全てを手に入れる。
フリードの闘志に火をつけたクロエだっが、プロムに行けば美味しい料理が待っているなと、呑気に一日中満たされることのなかった腹を気にかけていた。
意外にも連絡係としてサリスが転移できる魔導士を5人、先に転移させたということで、特に急いではいないようだった。
「騎士25名、魔導士25名、総人数50名です。転移できる限界までクロエ様にお願いしたいと考えています」
騎士と魔導士の目の前に立つと、圧迫感がある。
そんなに期待の眼差しで見られても、転移は一瞬なので感動は届けられないだろう。
1人で転移するのとそうは変わらない。
「リアム、あなたも転移魔法が使えたのね」
「もちろんです。筆頭魔術師には必須条件ですから」
筆頭魔術師にそんな条件があったとは驚く限り。
母も筆頭魔術師だったのだから転移魔法が使えることは意外と知られていたのかもしれない。
少なくとも、ダリアは知っていたはずだ。
「まぁいいです。リアムは1人で戻れますね?」
「もちろんです」
「では、なるべく広いところへ転移させます」
クロエは小さく呪文を唱え、役場を確認した。
役場の前はやはり人の出入りがあり、大人数を転移させることは難しいと判断し、裏手を確認する。
煙草吸って休憩している男が2人いたが、予想外の動きをするとは思えず、その場へ転移させることにした。
「いきます」
クロエが目を開けると、役場の裏手の景色と騎士達とが二重に見える。
パチンと指を鳴らすと、一気に魔力が無くなり体がふわりとした。
「大丈夫ですか?」
リアムが肩を抱こうとしたその瞬間、その手は跳ね除けられ、クロエはフリードに横抱きにされていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫。学園に通う位の魔力を消費しただけよ」
足元が震えただけで、倒れたわけでもない。
若干の怠さを感じるのは仕方のないことで、少し休憩すれば治まるだろう。
「50人全員を一度で転移させるなんて流石に凄すぎます!」
リアムは興奮したように2人の周りをクルクルと回りながら踊り出しそうなほどはしゃいでいる。
クロエは苦笑いしながら、自分でもよく出来たなと驚愕している。
「師匠の魔法も凄いですが、クロエ様の魔法も惚れ惚れしてしまいます」
フリードは無言で屋敷に戻ろうとしているが、リアムとはあまり相性はようなさそうで、不快感を隠しもしていない。
降ろしてとも言い難い雰囲気になってしまったので、大人しくフリードの首に腕を回す。
「魔獣は見つかりそうなの?」
「目撃されているのは恐らく狼でしょうね。エイフィルには生息していませんし、恐らく3人の魔術師とやらが持ち込んだか、逃げ出したか。どちらにしても事はそう簡単には終わらせられないでしょう」
「魔術師も見つけなきゃいけないわね」
「魔術師の方も目撃情報は多いですね。身体強化の魔法が使えるのも確実。これだけ目撃されているとなると、隠れる気は更々なかったのだと思う程なのですが…」
「狼か…では転送装置は使わず、転移魔法を使用した移動か、陸路での移動だな。もし逃げ出したとしたら、周辺の宿を調べるのも手だな」
「そうですねぇ。進言しておきましょう。テントが貼れる場所も確認していきます」
リアムは屋敷の中まで付いてくるらしく、屋敷の扉を大きく開けた。
「さぁ姫様、中へどうぞ」
リアムはまるでフリードを無視したかのように部屋までの戸を開けていった。
その後、父も交えて軽食を取りながら、エイフィルの現状をリアムから報告を受けた。
役場の小さな転送装置は魔石の管理不足で在庫が足りず手配中で、3日前から使用が出来なかった。
更に夜の騒ぎだったことから連絡したくとも遅れてしまった事故だったらしい。
魔獣の目撃情報はエイフィル外ではまだない事も分かった。
大賢人様の補佐に、転移魔法を使える魔術師が、治癒士を都度派遣するという。
既にリアムは今日2人転移させたらしく、暫く魔力の回復に努めているところで、夜にはエイフィルへ戻る予定ということだ。
「さぁクロエ、そろそろ行こうか」
軽食を簡単に終えてからも、魔獣について話をしていたクロエは、エイフィル周辺の地図を見続けている。
プロムなんてものはもう頭から消えてしまったのかもしれない。
初めてクロエをエスコート出来る今日をどれだけ楽しみにしていたか、クロエには分からないだろう。
夫として隣に立てる幸福がクロエにも感染して仕舞えばいいと思う。
どうやら恋愛に関しては才能がなかったようだが、それでもクロエを愛する気持ちは伝えていけばうまくいくはずだ。
王室を去る準備と、目の前にまで来た結婚と、クロエに言われた不甲斐ない自分への後悔とで、昨晩は一睡も寝れなかった。
同じようにとは言わなくとも、ほんの少しだけでもプロムを楽しみにしていて欲しかった。
でもそれは出過ぎた感情だった。
それでもいい。まずはクロエの夫という立場を手に入れた。
時間がかかっても、必ずクロエの全てを手に入れる。
フリードの闘志に火をつけたクロエだっが、プロムに行けば美味しい料理が待っているなと、呑気に一日中満たされることのなかった腹を気にかけていた。
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