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liberty
甘い蜂蜜
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「しょうもないことをしてないで食べなさい」
「手が拘束されてるから食べられないよ。クロエ、食べさせて?」
いつ選択を間違えてこうなってしまったのかと考え始めても全てを後悔するだけだった。
フリードは平気そうにしているが、苺のようだった唇は血の気が引いているし、肩に乗せられたフリードの顔は見れないが、起き上がっているのも辛いのは肩にかかる息で明らかだ。
顔が近くにあるのも心臓に悪いが、抱きしめられているのも落ち着かない。
「分かったから口を開けて」
ダルそうに首を持ち上げたフリードは無防備に口を開けて見つめてくる。
早く食べさせてとでも言うように見つめる様はまるで小鳥だ。
忘れていたが顔はいいんだ顔は。
「誰がフリードを転移させたの?」
ウインナーを口の中に放り込んで目を逸らす。
この顔に至近距離で見つめられたら心臓が破裂しそうで気不味い。
「イシュトハン伯爵夫人だけど」
「え、お母様?」
折角逸らせた視線は再びフリードの甘い視線とぶつかることになった。
「そうだよ。ほら、次を食べさせて」
フリードは太ももの上に乗っていた私を、膝を曲げて器用に引き寄せて密着してくる。
「ちょっと!近すぎるわ!」
「うん。でももっと近付きたい」
ウインナーを掴んだ手を自分で確認することが出来ない程ピッタリとくっついた体はヒンヤリとしている。
フリードの服は破れてはだけているので、しっとりとした肌が吸い付くように手に触れていた。
「んっ」
抱き込まれていた背中の手が緩められて、フリードの蕩けたような視線に危機感を覚えた時にはもう唇が奪われた後だった。
フリードの唇は易々とクロエの唇をこじ開け、舌を侵入させて魔力を流し込んでくる。
魔力が流れて来ることで、フリードよりも魔力を失っていたのかと驚く一方、魔力を流し込まれる感覚に頭の中は痺れるようだった。
「食べるつもりが食べられちゃったみたい」
ペロリと唇を舐めたフリードから視線が外れない。
「拘束魔法を解かなくていいの?」
血の通わない唇が動くのを我を忘れて見入っていると、再びフリードは唇を重ねた。
深まっていく口付けに彼のシャツを握りしめることしか出来ない。
いつの間にか器用に頭は固定され、息苦しさを感じてフリードの胸を叩いても、体はびくともしなかった。
そんな体力がどこに残っていたんだと恨めしく思っていたが、気付くと魔力を流し込まれていたはずが、魔力を流し込んでいることに気付く。
少ない魔力がお互いの間を行き来していることにお互いの魔力不足を自覚させられ、現実に引き戻される。
そして下腹部に感じる熱に気が付くと、途端にフリードの腕の中が居心地の悪いものに変わっていった。
「ヒッ」
「あぁやっとクロエを抱きしめられる」
拘束魔法を解いた瞬間ギュウギュウに締め上げられて、シャツを握りしめていた左手は悲鳴をあげている。
「ちょっと離してよ!」
「逃げないって約束してくれる?」
力を緩める事ない腕には熱を感じないのに、耳元にかかる吐息にはしっかりと熱を感じて怖い。
これは私の貞操の危機だ!
「逃げないからちょっと離れて…」
腕の力が抜かれて、久しぶりにまともに息が出来たことに安堵してフリードの肩におでこを乗せていると、フリードは耳にチュッと軽くキスをしてきた。
なんだこの甘い空間は!と顔が引き攣る。
その甘い空間で投げ出された私の右手には忘れ去られたウインナーがいる。
これは現実のようだ。
「フリードは私のことが好きなの?」
「やっと分かってくれた?」
心底嬉しそうにホッペに音を立てて唇を当てられ、無意識に左手でその部分を拭ったが、それは失敗だった。
まぶたやおでこを含めた顔中にキスの嵐が降ってきて、ゲンナリとすることになったので、もう次からは好きにさせておくことにして、代わりにウインナーを口に押し込んだ。
「さっき、お母様が転移させたと言ってたけど、本当?」
母のサリスが転移魔法を使うところは見たことがないし、使えると聞いたこともなかった。
「あぁ本当だよ。最初にここに転送してくれたのもサリス夫人だ」
「あなたお母様まで味方につけたの?」
意図的に隠していたと思われる転移魔法を使わせるなんて末恐ろしいことだ。
母は普段父といる時は温厚だが、決してそれだけの人ではない。
魔力を扱うなら自己責任だという考えから、子供たちに回復魔法の一つもかけることはなく、イシュトハンやダンコーネス領の敵と判断した者には容赦ない鉄槌を送り、結婚してからは社交界に顔を出すことなく敵を排除する幻鬼だと恐れられている。
「味方というか…ここで死なれても困るから、もう一度転移してやる。クロエを連れて来られないなら、死に絶えろと転移させられた…」
「…それはお気の毒様」
母なら言いかねないと、聞いたことを後悔する。
きっと寝ているところを起こされて気も立っていたに違いない。
「なら私が転移させてからすぐに戻されたのね」
「あぁ。最初にウェルズに会ったあの家の近くに転移させられて、君の家にたどり着くまでも凄く苦労したんだ」
「え、ここに転移してきたんじゃないの?」
「あぁ、君の転移魔法を解析した座標しかなかったからね。この部屋はウェルズが教えてくれてたから辿り着けたんだ」
それならばあの後ウラリーの家に行ったのとすれ違いのようになってしまったわけだ。
干からびていた理由がわかって少しだけすっきりとしたが、全然食事は進まなかった。
「手が拘束されてるから食べられないよ。クロエ、食べさせて?」
いつ選択を間違えてこうなってしまったのかと考え始めても全てを後悔するだけだった。
フリードは平気そうにしているが、苺のようだった唇は血の気が引いているし、肩に乗せられたフリードの顔は見れないが、起き上がっているのも辛いのは肩にかかる息で明らかだ。
顔が近くにあるのも心臓に悪いが、抱きしめられているのも落ち着かない。
「分かったから口を開けて」
ダルそうに首を持ち上げたフリードは無防備に口を開けて見つめてくる。
早く食べさせてとでも言うように見つめる様はまるで小鳥だ。
忘れていたが顔はいいんだ顔は。
「誰がフリードを転移させたの?」
ウインナーを口の中に放り込んで目を逸らす。
この顔に至近距離で見つめられたら心臓が破裂しそうで気不味い。
「イシュトハン伯爵夫人だけど」
「え、お母様?」
折角逸らせた視線は再びフリードの甘い視線とぶつかることになった。
「そうだよ。ほら、次を食べさせて」
フリードは太ももの上に乗っていた私を、膝を曲げて器用に引き寄せて密着してくる。
「ちょっと!近すぎるわ!」
「うん。でももっと近付きたい」
ウインナーを掴んだ手を自分で確認することが出来ない程ピッタリとくっついた体はヒンヤリとしている。
フリードの服は破れてはだけているので、しっとりとした肌が吸い付くように手に触れていた。
「んっ」
抱き込まれていた背中の手が緩められて、フリードの蕩けたような視線に危機感を覚えた時にはもう唇が奪われた後だった。
フリードの唇は易々とクロエの唇をこじ開け、舌を侵入させて魔力を流し込んでくる。
魔力が流れて来ることで、フリードよりも魔力を失っていたのかと驚く一方、魔力を流し込まれる感覚に頭の中は痺れるようだった。
「食べるつもりが食べられちゃったみたい」
ペロリと唇を舐めたフリードから視線が外れない。
「拘束魔法を解かなくていいの?」
血の通わない唇が動くのを我を忘れて見入っていると、再びフリードは唇を重ねた。
深まっていく口付けに彼のシャツを握りしめることしか出来ない。
いつの間にか器用に頭は固定され、息苦しさを感じてフリードの胸を叩いても、体はびくともしなかった。
そんな体力がどこに残っていたんだと恨めしく思っていたが、気付くと魔力を流し込まれていたはずが、魔力を流し込んでいることに気付く。
少ない魔力がお互いの間を行き来していることにお互いの魔力不足を自覚させられ、現実に引き戻される。
そして下腹部に感じる熱に気が付くと、途端にフリードの腕の中が居心地の悪いものに変わっていった。
「ヒッ」
「あぁやっとクロエを抱きしめられる」
拘束魔法を解いた瞬間ギュウギュウに締め上げられて、シャツを握りしめていた左手は悲鳴をあげている。
「ちょっと離してよ!」
「逃げないって約束してくれる?」
力を緩める事ない腕には熱を感じないのに、耳元にかかる吐息にはしっかりと熱を感じて怖い。
これは私の貞操の危機だ!
「逃げないからちょっと離れて…」
腕の力が抜かれて、久しぶりにまともに息が出来たことに安堵してフリードの肩におでこを乗せていると、フリードは耳にチュッと軽くキスをしてきた。
なんだこの甘い空間は!と顔が引き攣る。
その甘い空間で投げ出された私の右手には忘れ去られたウインナーがいる。
これは現実のようだ。
「フリードは私のことが好きなの?」
「やっと分かってくれた?」
心底嬉しそうにホッペに音を立てて唇を当てられ、無意識に左手でその部分を拭ったが、それは失敗だった。
まぶたやおでこを含めた顔中にキスの嵐が降ってきて、ゲンナリとすることになったので、もう次からは好きにさせておくことにして、代わりにウインナーを口に押し込んだ。
「さっき、お母様が転移させたと言ってたけど、本当?」
母のサリスが転移魔法を使うところは見たことがないし、使えると聞いたこともなかった。
「あぁ本当だよ。最初にここに転送してくれたのもサリス夫人だ」
「あなたお母様まで味方につけたの?」
意図的に隠していたと思われる転移魔法を使わせるなんて末恐ろしいことだ。
母は普段父といる時は温厚だが、決してそれだけの人ではない。
魔力を扱うなら自己責任だという考えから、子供たちに回復魔法の一つもかけることはなく、イシュトハンやダンコーネス領の敵と判断した者には容赦ない鉄槌を送り、結婚してからは社交界に顔を出すことなく敵を排除する幻鬼だと恐れられている。
「味方というか…ここで死なれても困るから、もう一度転移してやる。クロエを連れて来られないなら、死に絶えろと転移させられた…」
「…それはお気の毒様」
母なら言いかねないと、聞いたことを後悔する。
きっと寝ているところを起こされて気も立っていたに違いない。
「なら私が転移させてからすぐに戻されたのね」
「あぁ。最初にウェルズに会ったあの家の近くに転移させられて、君の家にたどり着くまでも凄く苦労したんだ」
「え、ここに転移してきたんじゃないの?」
「あぁ、君の転移魔法を解析した座標しかなかったからね。この部屋はウェルズが教えてくれてたから辿り着けたんだ」
それならばあの後ウラリーの家に行ったのとすれ違いのようになってしまったわけだ。
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