55 / 142
liberty
コルクが落ちる時
しおりを挟む
「ダン、ウラリー昨日のワイン飲んでみたら?」
ウラリーが作ったシチューを食べながらもふもふのパンを口に入れた。
野菜の皮を綺麗に剥く魔法を使ったが、思ったよりも繊細な魔法のようで、ニンジンは歪な形をしていた。
だけどとても美味しいと感じる。
掃除も料理も皿洗いも、魔法でやろうと思えば出来てしまう。
それでも時間をかけて作った料理は何にも変え難い幸せの味がするのだ。
「俺も昨日のジュース飲みたい」
「そんなに気に入ってくれたの?」
「うん。甘いけど甘すぎないし、それに紫の舌で魔王様になれる」
「じゃあ魔王のキリアンはグラスを持ってきてくれる?」
ウラリーとキリアンが席を立つと、その後を追うようにダンも席を立った。
当たり前に手伝おうとしているのだ。
「ダンも飲むでしょう?」
キッチンからウラリーの話し声が聞こえる。
その様子をクロエは1人座ったまま見ていた。
「いえ、私は仕事中のですので」
「私が護衛をするからダンは今から休みね」
キッチンに向けて声をかけるが、ダンは中々頷く事はなかった。
「ウラリー一人でボトルを飲むのは大変よ?」
そう言ってやっと、仕方なくといった様子で、ワインとジュースを持って戻ってきた。
昼も夜も寝ている間ですら仕事をしそうなダンらしい態度だ。
「キリアンと私はジュースで乾杯ね!」
「かんぱ~い」
4人はグラスを高く上げて何に対してでもない乾杯をした。
たくさん食べてたくさん話してたくさん飲んだ。
そして私はまた、ウラリーの家で次の日を迎えようとしていた。
もう幸せな日は終わるのだ。
「ウラリー、ごめんなさい」
酔っ払いとは言えないが、トロンとした目のウラリーに謝ると、私はダンに拘束魔法を掛けた。
大きな輪で身体ごと腕を拘束し、足首も同時に縛りつけ、それとほぼ同時に転移させた。
「魔女の姉ちゃん!」
眠そうにしていたキリアンが目を丸くして立ち上がる。
「キリアンも驚かせてごめんなさい。ダンはいい人だけど…でも私にとっては悪者だったみたいなの。また来るわね」
護衛のいなくなったウラリーの家に強い結界を張り、ダンを飛ばしたフラットへと急いで身を移した。
勘違いならそれでいい。でも、きっとそうではないだろう。
「フリード、それに触らないで!」
「クロエ…」
ダンを夫として契約したフラットの小さな部屋でソファに座るフリードの横では、サイドテーブルの小さな小さな花びらが一枚落ちていた。
苛立った魔力がバチバチと体で弾けるのを感じる。
「ダン、貴方騎士だったというのは嘘ね?」
「はい」
小さなベッドに横たわったダンは、身を捩るようにして上体を起こした。
「いつから?まさか最初から騙してたの?」
「それは違います!」
彼は今日、ミスを犯した。
私が声を出した瞬間に、ウラリー達の元に走った彼は、足音一つたてずに移動した。
そして、護衛対象を依頼主である私に預け、家の周りを見に行くとその場を去ったのだ。
護衛は絶対に護衛対象から離れてはならない。
それなのに、まるで私をあの場から動かしたくないかのようにウラリーとキリアンを預けた。
あの場では小さな違和感だった。
私の元に預けるのが最善であると思ったのだ。
しかし、時間が経てば経つほど確信に変わっていった。
「彼は嘘をついていない!」
「黙りなさい!」
フリードに拘束魔法を投げつけたのと同時に、呪文を呟いたダンによって右手を壁に拘束され、ダンッと大きな音を立てた。
「あらダン…上手くなったじゃない」
あれだけゆっくりと放っていた拘束魔法を迷いなく投げつけてきたダンに目を細めて笑いかける。
「すみません」
「ふふっいいのよ。こんなもの、手ごと壊せばいいのだもの」
目を伏したダンに怒っているわけではない。
ジワジワと追い詰めるようなそのやり方が気に入らないんだ。
「やめろー!」
フリードの叫びが耳に届く頃には「うっ」と体内から漏れ出た声と痛みが耳に響いていた。
血が指を伝ってボタリボタリと滴り落ちる。
「クロエ!」
「メイリーさん!」
腹這いになって近づいて来るフリードの周りに人も通さない強い結界を張った。
腕は焼けるように熱く、腰も、足の指までもが苦々しい痛みを感じているかのように強張っている。
ウラリーが作ったシチューを食べながらもふもふのパンを口に入れた。
野菜の皮を綺麗に剥く魔法を使ったが、思ったよりも繊細な魔法のようで、ニンジンは歪な形をしていた。
だけどとても美味しいと感じる。
掃除も料理も皿洗いも、魔法でやろうと思えば出来てしまう。
それでも時間をかけて作った料理は何にも変え難い幸せの味がするのだ。
「俺も昨日のジュース飲みたい」
「そんなに気に入ってくれたの?」
「うん。甘いけど甘すぎないし、それに紫の舌で魔王様になれる」
「じゃあ魔王のキリアンはグラスを持ってきてくれる?」
ウラリーとキリアンが席を立つと、その後を追うようにダンも席を立った。
当たり前に手伝おうとしているのだ。
「ダンも飲むでしょう?」
キッチンからウラリーの話し声が聞こえる。
その様子をクロエは1人座ったまま見ていた。
「いえ、私は仕事中のですので」
「私が護衛をするからダンは今から休みね」
キッチンに向けて声をかけるが、ダンは中々頷く事はなかった。
「ウラリー一人でボトルを飲むのは大変よ?」
そう言ってやっと、仕方なくといった様子で、ワインとジュースを持って戻ってきた。
昼も夜も寝ている間ですら仕事をしそうなダンらしい態度だ。
「キリアンと私はジュースで乾杯ね!」
「かんぱ~い」
4人はグラスを高く上げて何に対してでもない乾杯をした。
たくさん食べてたくさん話してたくさん飲んだ。
そして私はまた、ウラリーの家で次の日を迎えようとしていた。
もう幸せな日は終わるのだ。
「ウラリー、ごめんなさい」
酔っ払いとは言えないが、トロンとした目のウラリーに謝ると、私はダンに拘束魔法を掛けた。
大きな輪で身体ごと腕を拘束し、足首も同時に縛りつけ、それとほぼ同時に転移させた。
「魔女の姉ちゃん!」
眠そうにしていたキリアンが目を丸くして立ち上がる。
「キリアンも驚かせてごめんなさい。ダンはいい人だけど…でも私にとっては悪者だったみたいなの。また来るわね」
護衛のいなくなったウラリーの家に強い結界を張り、ダンを飛ばしたフラットへと急いで身を移した。
勘違いならそれでいい。でも、きっとそうではないだろう。
「フリード、それに触らないで!」
「クロエ…」
ダンを夫として契約したフラットの小さな部屋でソファに座るフリードの横では、サイドテーブルの小さな小さな花びらが一枚落ちていた。
苛立った魔力がバチバチと体で弾けるのを感じる。
「ダン、貴方騎士だったというのは嘘ね?」
「はい」
小さなベッドに横たわったダンは、身を捩るようにして上体を起こした。
「いつから?まさか最初から騙してたの?」
「それは違います!」
彼は今日、ミスを犯した。
私が声を出した瞬間に、ウラリー達の元に走った彼は、足音一つたてずに移動した。
そして、護衛対象を依頼主である私に預け、家の周りを見に行くとその場を去ったのだ。
護衛は絶対に護衛対象から離れてはならない。
それなのに、まるで私をあの場から動かしたくないかのようにウラリーとキリアンを預けた。
あの場では小さな違和感だった。
私の元に預けるのが最善であると思ったのだ。
しかし、時間が経てば経つほど確信に変わっていった。
「彼は嘘をついていない!」
「黙りなさい!」
フリードに拘束魔法を投げつけたのと同時に、呪文を呟いたダンによって右手を壁に拘束され、ダンッと大きな音を立てた。
「あらダン…上手くなったじゃない」
あれだけゆっくりと放っていた拘束魔法を迷いなく投げつけてきたダンに目を細めて笑いかける。
「すみません」
「ふふっいいのよ。こんなもの、手ごと壊せばいいのだもの」
目を伏したダンに怒っているわけではない。
ジワジワと追い詰めるようなそのやり方が気に入らないんだ。
「やめろー!」
フリードの叫びが耳に届く頃には「うっ」と体内から漏れ出た声と痛みが耳に響いていた。
血が指を伝ってボタリボタリと滴り落ちる。
「クロエ!」
「メイリーさん!」
腹這いになって近づいて来るフリードの周りに人も通さない強い結界を張った。
腕は焼けるように熱く、腰も、足の指までもが苦々しい痛みを感じているかのように強張っている。
0
お気に入りに追加
507
あなたにおすすめの小説
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる