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liberty
王城の攻防
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時を同じくして、王城の謁見の間では、イシュトハン家長女のステラが呼び出されていた。
「ステラ嬢、王城の結界が破られたのだが、心当たりはあるか?」
「大変恐縮ながら、結界が破られた事は一度もありません。確認は済んでいるのでは?」
玉座から離れた部屋の前方に置かれた椅子に1人座ったステラは、サイドテーブルに置かれたカップを手に取ると、一口含んだ。
玉座の前では平伏す立場であるステラをもてなすように置かれた椅子を見れば、護衛達もその態度に声を上げる事はなかった。
「確かに、魔法省も結界が消失した事実を把握出来ていない」
「ならば、何故そのような事をお聞きになるのですか?」
王城内の結界は魔法省の管轄であり、複数人で結界を維持している。
ことになっているが、ダリアが結界を壊して以降はステラ1人で王城の結界を維持していた。
これは結界の軟弱性が露呈したことに対する王家としての防御策であり、魔法省に講師として駆り出されているダリアと同じく、魔力量の多いステラに常に魔力を放出させ、王家への反逆の意思がない事を証明させるものである。
「先日、ステラ嬢の妹君であるクロエ嬢が居住区へと侵入した」
「クロエはお転婆ですものね」
クスクスと上品に笑うステラは、一つ歳下の筆頭公爵家であるクラーク家の長男デイヴィッドと恋に落ち、今は公爵夫人として地位を確立している。
「笑い事ではないぞ」
「あら、クロエなら仕方のない事ですわ。もうお分かりになっているのでしょう?クロエは結界を壊す事なく転移できます。対処のしようがないことだと思いますが」
「やはりそうか…ステラ嬢は知っておったのか?」
深くため息をついて髭を撫でる陛下を、不安を表に出していることを咎めるようにニッコリと笑うと、護衛には一瞬緊張が走った。
本能が危険信号を発したかのようにブワッと全身から汗が噴き出していた。
「もちろん結界内にも転移する事ができることは知っておりました」
「何故報告しなかった」
「クロエは私やダリアよりも優しい子、ですので」
「それは理由にはならん」
「大きな問題がなかったことは今の城を見れば明らかです。クロエをどうするおつもりで?」
「今は行方を追っているところだ」
「追って、どうするのですか」
ステラの周りは魔力が威嚇するように蠢いており、護衛達は無意識に剣に手が伸びていた。
優雅に笑うその姿がまた恐ろしく感じる。
「陛下、失礼致します。」
慌てた様子の宰相が、緊迫した空気を切り裂いて謁見の間のドアを開ける。
椅子に座ったステラの横に跪き、陛下の発言の許可を待つ。
「申せよ」
「はい。イシュトハンで、フリードリヒ殿下がダリア嬢による襲撃を受けているとの一報があり、更に魔法省内でも、官僚達が複数行方不明になっているとのことです」
早口で捲し立てるように報告する宰相の隣では、ステラが笑みを崩さずに紅茶を飲んでいた。
対照的な2人に、陛下は一度目を閉じて再び髭を撫でた。
「イシュトハンの転送装置は使えるのだな?」
「はい」
「なら騎士の増援を送ってフリードの命を最優先に動け。魔法省の件は詳細が分からなければ対応出来ない。情報を掴んでこい」
「御意」
指示を受けると嵐のように素早く謁見の間を後にする宰相を見て「慌ただしい事」とステラは呟いた。
「話の途中ですまなかったな」
「いえ、緊急事態と判断したのなら仕方のない事ですわ」
「ダリア嬢の件に心当たりはあるか?」
「人の心を覗く事はできません。母が在宅ならすぐに落ち着く事でしょう。騎士や魔法師がいくらいても、ダリアを止める事なんて出来ませんわ」
お茶請けに添えられたクッキーを食す姿を見れば、どちらが玉座なのか分からなくなる程堂々としている。
公爵夫人という立場がそうさせているのか、本来高位貴族というものはこの位の器がなければいけないのかもしれない。
「ステラ嬢、王城の結界が破られたのだが、心当たりはあるか?」
「大変恐縮ながら、結界が破られた事は一度もありません。確認は済んでいるのでは?」
玉座から離れた部屋の前方に置かれた椅子に1人座ったステラは、サイドテーブルに置かれたカップを手に取ると、一口含んだ。
玉座の前では平伏す立場であるステラをもてなすように置かれた椅子を見れば、護衛達もその態度に声を上げる事はなかった。
「確かに、魔法省も結界が消失した事実を把握出来ていない」
「ならば、何故そのような事をお聞きになるのですか?」
王城内の結界は魔法省の管轄であり、複数人で結界を維持している。
ことになっているが、ダリアが結界を壊して以降はステラ1人で王城の結界を維持していた。
これは結界の軟弱性が露呈したことに対する王家としての防御策であり、魔法省に講師として駆り出されているダリアと同じく、魔力量の多いステラに常に魔力を放出させ、王家への反逆の意思がない事を証明させるものである。
「先日、ステラ嬢の妹君であるクロエ嬢が居住区へと侵入した」
「クロエはお転婆ですものね」
クスクスと上品に笑うステラは、一つ歳下の筆頭公爵家であるクラーク家の長男デイヴィッドと恋に落ち、今は公爵夫人として地位を確立している。
「笑い事ではないぞ」
「あら、クロエなら仕方のない事ですわ。もうお分かりになっているのでしょう?クロエは結界を壊す事なく転移できます。対処のしようがないことだと思いますが」
「やはりそうか…ステラ嬢は知っておったのか?」
深くため息をついて髭を撫でる陛下を、不安を表に出していることを咎めるようにニッコリと笑うと、護衛には一瞬緊張が走った。
本能が危険信号を発したかのようにブワッと全身から汗が噴き出していた。
「もちろん結界内にも転移する事ができることは知っておりました」
「何故報告しなかった」
「クロエは私やダリアよりも優しい子、ですので」
「それは理由にはならん」
「大きな問題がなかったことは今の城を見れば明らかです。クロエをどうするおつもりで?」
「今は行方を追っているところだ」
「追って、どうするのですか」
ステラの周りは魔力が威嚇するように蠢いており、護衛達は無意識に剣に手が伸びていた。
優雅に笑うその姿がまた恐ろしく感じる。
「陛下、失礼致します。」
慌てた様子の宰相が、緊迫した空気を切り裂いて謁見の間のドアを開ける。
椅子に座ったステラの横に跪き、陛下の発言の許可を待つ。
「申せよ」
「はい。イシュトハンで、フリードリヒ殿下がダリア嬢による襲撃を受けているとの一報があり、更に魔法省内でも、官僚達が複数行方不明になっているとのことです」
早口で捲し立てるように報告する宰相の隣では、ステラが笑みを崩さずに紅茶を飲んでいた。
対照的な2人に、陛下は一度目を閉じて再び髭を撫でた。
「イシュトハンの転送装置は使えるのだな?」
「はい」
「なら騎士の増援を送ってフリードの命を最優先に動け。魔法省の件は詳細が分からなければ対応出来ない。情報を掴んでこい」
「御意」
指示を受けると嵐のように素早く謁見の間を後にする宰相を見て「慌ただしい事」とステラは呟いた。
「話の途中ですまなかったな」
「いえ、緊急事態と判断したのなら仕方のない事ですわ」
「ダリア嬢の件に心当たりはあるか?」
「人の心を覗く事はできません。母が在宅ならすぐに落ち着く事でしょう。騎士や魔法師がいくらいても、ダリアを止める事なんて出来ませんわ」
お茶請けに添えられたクッキーを食す姿を見れば、どちらが玉座なのか分からなくなる程堂々としている。
公爵夫人という立場がそうさせているのか、本来高位貴族というものはこの位の器がなければいけないのかもしれない。
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