上 下
42 / 142
liberty

イシュトハンの攻防

しおりを挟む
一方その頃、イシュトハン家では、フリードが滞在している事を聞いたダリアが再び訪れていた。



夫を放り出して朝一番で転送装置で訪れてみると、客室は兵士達の控室のように扱われており、殿下はどこだと聞けば、クロエの部屋で寝ていると言われ、クロエの部屋のドアの外側からダリアによって放たれた雷玉がドアをぶち破り、そのままフリードが眠るベッドへと突き抜けていった。


フリードはドアの破壊音と同時に、無意識とも言える速度で防御魔法を繰り出したが、この国の大いなる魔物の魔力量に勝てるわけもなく、そのまま窓を突き破り吹き飛ばされている。



「お父様、あの浮気男をなんで家に上がらせたの?」



拘束魔法も雷玉を追うように放っていき、自分の周りの広範囲には強い結界を張れば、青い顔をした騎士達も近寄ることも出来ない。
ヒューベルトも結界が張られたと同時に後方に投げ出される。


「いや…ダリア落ち着け、誤解だ」


情けなく這い上がるようにして立ち上がろうとしたが、突然の衝撃で筋肉が硬くなってしまっている。
魔力でダリアに勝つことは到底出来ない。



「誤解?お父様、私はクロエが王家に取られるならやはり潰してしまった方がいいと思いましたの。そこになんの誤解もありませんわ」


「またこんな事をして、今度こそ許されないぞ!」


「許されないのはイシュトハンをバカにしているこの国の王家の方です」


目の前で伸びている国騎士も、奥で攻撃してきている魔導士も、全てダリアの指導により育てた魔法省の人間だ。


「師匠!!」


「あぁリアム、お前までこんな馬鹿げた仕事を押し付けられていたのね」


魔力コントロール力が高く、攻撃魔法が得意なリアムを筆頭魔導士にのし上げるべく、魔法を教え込んだのはダリア。
バーナム子爵家まで来て教えを乞われ、暫く家に置いて魔法を教えていたのだが、結婚が嫌で逃亡した妹を探す任務に着かせるために時間を費やしたかと思うと情けない限り。



「バーナム子爵はこの事をご存知なのですか?」


「そんな事を聞いてどうするの?かつて主人に粉をかけてくれたのも王族の端くれだった。その時城がどうなったか覚えていないの?」


「それは…」


5年前、子爵家の長男であるウィリアムとの婚約を漸く許され、ダリアが幸せで穏やかな生活をしていた学園時代のこと、あろう事か王弟殿下の娘が執拗にウィリアムに付き纏った。


魔力の多いダリアに注目が集まり気に食わなかった事が動機だったようだが、怒りに任せて王城に乗り込み、結界を破って城内を火の海にした事があった。
それでもダリアが罰せられなかったのは、王族に非があった事に加え、最も魔力を保持している国内でも貴重な人材だったからだ。


「かつて陛下は、あの紙切れのような女を罰することはなく、私の反逆の罪との相殺とした上で、私には魔法省への入閣を強要した」


「しかし、姫も学園の卒業を待たずにパシュトン国への輿入れを余儀なくされたではありませんか」


「あれはその場で、あのゴミの足を切り落としてやったからよ」


「そんなことを!?」


周りの全ての者達が息を呑んだ。
目の前にいるのは王族に危害を加えても罪に問えないような相手。
イシュトハン家に法は通じないということをダリアは証明している。
イシュトハン家が特別な家であることはこの国の常識。
しかしそれ程までに力を有しているとは一部を除き知られてはいなかった。
その時王城にいた全ての者に箝口令が敷かれたからだ。



「無能な王ならばこの国には不要。あのゴミのような女を切り捨てない判断が愚かだったのよ。あの時もっと分からせてやるべきだったわ」


「ダリア、落ち着くんだ」

「師匠、その考えは改めて下さい」


歳上だけど可愛い弟子と父の言う事なら聞いてあげたいが、イシュトハン家に不利益になるような結婚ならば潰すしかない。


「もう、ダリア煩いわよ。屋敷を壊さないでちょうだい」


寝ぼけ眼な母が階段を上がり、ダリアを睨みつける。


「お母様、おはようございます」


「おはよう。それで、貴女はなにをしているの?」


「クロエの部屋にいた蝿を追い出したところです」


指を指すようにクロエの部屋へ向けて腕を上げると、雷玉を再び放出した。



「ブグア〝ーーーぁぁあ」


外からフリードの周りに集まっていた騎士達の叫び声が響いてくる。


「あらそう。でも煩いし、家も壊れるなら他でやりなさい」


巻き上がった埃を嫌ったのか、母の体が一瞬光って結界を張ったのが分かった。


「あぁ、フリードリヒ殿下はクロエがイシュトハンに残れるように動いて下さっているのに…」


その直後、呪文を呟いたサリスによって、2階にいた全ての者が裏庭へと転移させられていた。
一人一人消されていく姿に幾つもの悲鳴が上がり、そして静かになると、サリスは大きくため息をついた。


「全く、後片付けをするメイド達が可哀想だわ」


再び目を擦ると、サリスは階段を降りて寝室へと戻った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...