婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜

佐原香奈

文字の大きさ
上 下
40 / 142
liberty

アンジャッシュ

しおりを挟む
彼女の連れていた護衛の1人が部屋の内部に立ち、残りの2人はドアの外で仕事を全うするようだった。


「クロエ様、よかったら名産の葡萄ジュースも飲んでいかれませんか?」

「そういえば、ワインだけじゃなくてジュースも力を入れ始めたのでしたね」


ワイン用の葡萄は甘味を抑えた品種で皮も厚い。
ジュースにするには適さない為、食用の葡萄をジュースにする事が多い。


「そうなのです!既にいくつかは品質も高いと認められてきています。2年前の嵐の日、我が領は1夜で多くのものを失いました。ここ数年は苦労も多かったのですが、今年は今までで一番の出来なんです」

「あの嵐は王都の被害も大きかったものね」


学園にいた私も覚えている。
遠くで雷が鳴り始めたと思っていたら、急に窓の外が暗くなり、大きな雷がすぐ近くで聞こえるようになったのと同時に、校庭の木は大きく揺れ、何度も窓の割れる音がしたあと、校内に派遣されている魔術師により結界が張られたが、暫く悲鳴が止むことはなかった。

その嵐は王都を駆け抜けた後、隣接するコーンウォリス男爵領へと進んでいった。
元々降水量の少ない地だったミルハナンは日照りや大雨の被害を毎年のように受けている苦労していた時期で、そこに大きな嵐が駆け抜けるように領土を縦断したことで、何とか凌いでいたところに一夜で多大な損害を受けた。
コーンウォリス男爵は私財から領地に還元して建て直しを図ったはずだ。
ワインを主力産業としていたので、まだその影響は残っているだろう。



「はい。でも今年は天候も良く、自信を持って勧められる味です。ハミル、私は葡萄ジュースとポトフをいただくわ。ジュースはボトルでオーダーしてちょうだい」



サリーは護衛に声をかけると、そのままメニューを渡した。




一階で食べていた食事はそのまま置いて来たので、今テーブルにはミントの浮かんだ水差しと、2人分のグラスが乗っているだけ。
いつ話を切り出すか、そればかりが頭に浮かんでいた。



「そういえば、クロエ様はプロムのドレスは何色にされたんですか?」


そっちからプロムの話をしてくるとは肝が据わっている。


「ドレスは当日まで秘密にしているの」


ドレスは頼んでいないし、プロムに出る予定も無い。


「フリードリヒ殿下から贈られたのなら、きっとクロエ様にもとても似合うドレスを贈られているのでしょうね」



何か思い出すようにうっとりしているサリーはミスに気付いていない。
'クロエ様にも'サリーと同じように素敵なドレスを贈ったのだろうとそう言ったのだ。


「あぁそういえば、サリーも殿下からドレスを贈られたのでしたね」


カーーーーンと頭の中でゴングが鳴った。
嫌味には嫌味で返す。食われる前に食う。それが私たち貴族の常識だ!
私にはドレスの一つも届いていないんだよ!!しかしそんな事を言えるわけがないだろう!


「ヤダ!婚約者なら、そう言った話も聞かされていて当然ですよね。お恥ずかしい話ですが、すごく素敵なドレスをいただきましたの!私には勿体ないくらい高価なドレスでした」


「そう…良かったわね。プロムのエスコートの相手もそんな素敵なドレスを着たらそれはそれは褒めてくださるでしょうね」


フリードとプロムに出るのによくも私にプロムの話を振ったなと暗に秘めたつもりだったが、サリーは頬を染めてクネクネとしている。
戦いのゴングが鳴ったというのに、余裕な顔が悔しい。


「そうなのです。早く見てもらいたいのと恥ずかしいのとでドレスを見てからドキドキしてしまって。クロエ様も一生に一度のプロムですもの、ドキドキして眠れないのではないですか?」


プロムのことなんて忘れて昨日は風呂も入らずベッドで寝ていた。


「私は毎日熟睡してます」

「まぁ!流石クロエ様!学園みんなの弟とも言われたフリードリヒ殿下を射止めただけありますわ!見習わなくては」


本当、そのクロエ様を出し抜いてフリードとイチャコラ過ごそうと計画したサリー様はすごいよ。
こうして堂々と利用しようとしている友人に惚気られるんだから。


「お待たせいたしました」


キーッと歯軋りし始める直前、タイミングを見計らったかのように料理が運び込まれた。
先程食べかけだった料理は、作り直されたようで、クロエの分も新たに運び込まれる。

魔力を回復しないと夕方までに帰れないし、また胃袋の限界への挑戦が始まる予感に、戦意は喪失し始めていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

姉妹の中で私だけが平凡で、親から好かれていませんでした

四季
恋愛
四姉妹の上から二番目として生まれたアルノレアは、平凡で、親から好かれていなくて……。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...