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liberty

しあわせの匂いのするワンピース

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「魔女のねぇちゃん!ずっと気になってたんだけど、このでかい箱は何が入ってるんだ?」


「ふふっ開けてみて!」



キリアンが魔法書の上に置かれた箱をトントンっと掌で叩いて開けたそうにしていて、許可を得るとすぐに箱の蓋を開ける。


「これは?コンロ?」


「コンロ?もしかしてテーブルの上で使えるコンロなの?」


コンロは普通キッチンに取り付けられていたが、大きな魔石を使っていて、長い年月をかけて自然に魔力を溜め込んだ魔石の交換は高い出費となる。


最近売り出されてから平民の中で噂の的で人気なのが、魔石も小さい代わりに出力も少ない小型の持ち運びできるコンロだった。
調理の幅は狭まるが、普段の料理ならば問題はなく、さらに魔石の交換も小さい石で済むために負担が軽いというのが人気の理由で、さらにどこででも調理ができる手軽さが魅力だった。


テーブルでも庭でも、戦場でも料理が出来る!という触れ込みがウケたらしい。


「そうなの。魔石もセットで売っていたし、パーティにはピッタリかなと思って」


「じゃあ、もしかしてチーズも目の前で溶かせるのか??」


「ええ!すごいわ!鍋も置けるし座りながら目の前でお肉も焼けるわ!ねぇダン。ちょっとチーズを持ってきて!私はチーズを入れる鍋を洗っちゃうから!あ、キリアンはパンを切ってくれる?」


目をキラキラとさせたウラリーが足取りも軽やかにキッチンへ向かうと、ダンとキリアンもチーズを想像したのかすぐに動き出した。


「メイリーさんはお皿を並べてくれると嬉しいわ!」


「はい!」


何をしたらいいのか分からず寂しさを感じたのは一瞬だった。
テーブルの上に重ねられたお皿を並べていき、スプーンとフォークも並べ終わる頃には、みんな戻ってきていた。





「すごい。これならチーズが固まらないから好きな時にチーズをつけて食べられるわ!」


「うん。いつもチーズは一番最初に食べないとすぐに冷えちゃったから、熱々で食べれるなんて夢みたいだ」


みんなで席につけば、キリアンの持ってきたパンをテーブルに乗せるともう隙間もないほどにテーブルはいっぱいだった。
ウラリーとキリアンは、茹でた野菜やパンを鍋に入ったチーズをつけて、ずっと食べる手が止まらない。


ダンは生活魔法も使える貴族なので、冷えないチーズも物珍しくないだろうが、きっとこんな風に同じ鍋を共有して食べることや、大きなお皿に盛られた料理を小皿に取って分け合うことには、私と同じように慣れていないだろう。


少し動けば腕が当たりそうなテーブルで食事をするのは、ウラリー達と行動を共にしてから初めての体験だったが、この小さな空間がとても愛おしく、とても暖かく感じていた。
ダンも同じように思っていてくれたら嬉しいと思う。


「席が近いと親密になれた気がするわ!そう思わない?」


「はい。それは私も思いました」


隣に座ったダンも大きく頷いてすぐに同意してくれた。
本当にこの人を雇えて良かったと思う。



「ダンが来てくれて本当に良かった」


「うん。ダン兄ちゃんでよかった!」


「そうね、本当にいい人で良かったわ!」


食事が終わってケーキを食べた後、クロエは口から幸せが漏れてしまいそうな程の幸福を感じていた。
慣れない洗い物を手伝うことも楽しかった。


同じ貴族なのに騎士であったダンは、実は小さいテーブルに慣れていたこと、洗い物や簡単な料理なら作れることに驚かされることになった。


「今日はもうこの匂いに包まれて眠りたい」


このワンピースや髪や体に染み付いた料理たちの入り混ざった匂いこそが、しあわせの香りなのだと結論付けていた。


この香りを消してしまったら幸せも消えていってしまいそうで、このままこの匂いを纏った体を抱き締めて眠ってしまいたかった。


「ふふっなら明日の朝シャワーを浴びればいいわよ」


「そうするわ。ねぇ明日も来てもいい?」


「もちろん大歓迎よ!」


「うぅーん…魔女のねえちゃんもう帰っちゃうの?」



ぽんぽこりんのお腹でヒーヒー言いながらクッションを抱えていたキリアンも今にも眠ってしまいそうだった。



「えぇ。寂しいけれど今日はもう帰るわ。とっても楽しかった。夢の中でまた会いましょう」


「うん。夢の中でもパーティしようね。おやすみなさい」


「おやすみなさい。明日はたくさん魔法を見せてあげるね」



最後にギュッとクロエに抱きついた後、キリアンはフラフラしながらリビングを後にした。


「歯磨きしてから布団に入ってねー!」


「はーい」


明日からウラリーが家いる時間にダンに魔法を教えることを約束し、クロエは匂いと一緒に家に転移した。



そのままベッドに横になると、丸まるようにして眠りについた。


もう今日はフリードのいる家にもう一度転移しようとは思えなかった。
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