婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜

佐原香奈

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liberty

はじめてのお呼ばれ

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引越しパーティの準備を始めたものの、全く捗らないでいた。
寝間着のまま、揃えた平民向けのワンピースを手に取っても適切かどうか分からない。



「どうしよう…」


引っ越しパーティに相応しい服装の為に透視をするのはどうしても避けたかった。


パーティだからアクセサリーをつけるべきか、ならば平民向けのアクセサリーを買いに行かなくてはならない。
考えれば考える程時間は過ぎていった。



結局、買った中で1番おしゃれと思われた裾にフリルのついたワンピースを着ると、慌てて部屋を出た。


コルセットで締め付けることもなく、髪を櫛でとかしただけの髪をファサッと靡かせて、軽く化粧をしただけの顔でたくさんの人が行き交う街を歩く。


誰の目を気にすることもなく、屋敷の裏山に行くかのように気軽に歩くのは、それはそれは気分が良かった。
ここにいる間はフリードの婚約者でもなく、辺境伯の娘でもなく、ただのメイリーだと思うと、食べ歩きだって出来てしまいそうだ。



「まぁ!メイリーさんおかえりなさい」



大きな花束を小脇に携え、大きなケーキと魔法書を3冊と大きな箱を積み上げて両手で支えて歩いてここまできた。
転移すれば早いのに何故かここに来るまで転移のことは思いつきもしなかった。



「引っ越しパーティなんて初めてだから、何を持ってきたらいいか分からなくて遅くなってしまったわ。ごめんなさい」


ケーキの箱の上に乗った本と箱をウラリーが取って、後から現れたキリアンがケーキの箱を嬉しそうに受け取ると、漸く脇の力だけで支えていた大きな花束を手に持つことが出来た。
「おかえりなさい」という言葉が妙に耳の奥に残る。



「ありがとう。今日はね、たくさんご馳走を用意したの。ほらあがって!」


リビングの扉を開けると、ダンが一礼するが、その手にはビスケットの入った籠と、鍋を持っている。
護衛なのだから玄関を開けるのはダンの仕事ではないかと一瞬頭をよぎったが、ウラリーが咄嗟に指示を出したのなら仕方ないかもしれない。



「この花も良かったら飾って」


「本当にありがとう。こんな立派な花をもらったのは初めてだわ!嬉しい」


「喜んでくれたならよかった」


顔が火照るような感覚を覚え、それが妙に嬉しいと感じ頬に手を当てると、添えた手も暖かく、なんだか体全体が喜んでいるように感じた。


「実は私たちからもメイリーさんにプレゼントがあります」


「えっ!?」


「引っ越しをしたのは私たちだけじゃなくてメイリーさんもでしょう?」


家族からではなく、他人から何かをもらうなんて久しぶりのことだった。
誕生日だって今は家族にしか祝ってもらっていない。
その言葉だけで涙が出そうなほど嬉しかった。
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