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liberty
痕跡
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「わー!魔女の姉ちゃんどうしたんだ!」
素っ裸で突然現れたクロエに、びっくりしすぎて後方に飛んでいった弟君は、クロエだと気付くと、昨夜置いていったマントをクロエの肩に掛ける。
「ありがとう。突然ごめんね。お姉さんはどこにいったの?」
一度イシュトハンに戻れば暫くはまた転移出来ないと考えれば、この姉弟を逃す事が優先される。
イシュトハンよりも王都に近いというのも幸いだった。
彼女たちを使った以上、最後まで責任を負わなければならない。
「少し買い物に行っただけだからすぐ戻るよ。姉ちゃんの服でも着るか?」
「ええ、貸してもらえると助かるわ。あと彼女が戻ったらここから逃げる事になるわ。準備が必要なら今からしてちょうだい」
「それなら大丈夫。昼までに魔女が来なければそのまま引っ越すって、ねえちゃんが朝まで準備してたから」
弟君の目線の先を見ると、部屋の隅にはパンパンに荷物が詰め込まれた鞄が置かれていた。
「これとこれと後これも?」
箪笥にはまだ荷物が残されていた様で、弟君は肌着と黒のワンピース、靴下等を取り出す。
「魔女っぽく黒いワンピースだ!魔女も一緒に逃げるのか?」
「ありがとう。あなたたちの安全保障は私の仕事だもの住む場所が決まるまで一緒に行くわ」
黒いワンピースをすっぽりと着ると、なんだか昨日に戻ったかの様に感じる。
今ならばあの部屋に彼女を送ろうとは考えないのに、無知とは恐ろしいものだ。
「ただいまー!ご飯買ってきたわよー」
玄関のドアが開き、化粧もしていない彼女が帰宅する。
彼女の化粧をしていない顔を見るのは初めてだったが、思っていたよりも若いのかもしれない。
彼女を見てようやく自分のもう一つの失態に気づくとこになった。
防御魔法と加護の魔法を未だ彼女は纏っている。
心で泣きながら魔法を解いた。
「あら、メイリーさんいらっしゃい。戻って来ないかと思ったわ」
パタパタと部屋へ入ってくると、持ってきた紙袋から魚が挟まれたパンを取り出す。
「メイリーさんも食べます?今のうちに買っておこうと思ってたくさん買ったのだけど」
「待って、ここも解析によって場所が割れるわ。出来るだけ早くここを出た方がいい」
「あら、今朝のうちに出ようと思って準備しといて良かったわ。なら何処かで食べればいいわね。すぐに出ましょう」
ここで転移すれば痕跡が残って転移先はバレる。
ここを出てから人目のないところで髪の色や服を変えるのがいいだろう。
マントに入っている金貨以外は何も持ってないクロエだったが、力が戻れば一度結界を解きに家に戻る予定で、とりあえず2人を逃す事を最優先事項としていた。
彼女に靴も借りたクロエは朝から櫛も通していない髪にワンピース姿でとても貴族とは思えない装いだったがそんな事を気にすることもなく、これから手に入れる未来だけを思い描いていた。
「2人は何処に行こうとしていたの?」
弟君の鞄を一つ持って歓楽街の裏通りを3人で歩く。
夜の街なのに意外と人は歩いているし、屋台もいくつか出ていて生活を感じる。
こんな風に街を歩く事は王都の貴族街しかない。
別の人物になったかのようで少しだけウキウキと心が弾んでいた。
「隣国へ渡ろうと思ってたんだけど、このまま北へ行って、小さな村で定住できそうなところを探すつもりです。その方が家賃も物価も安いですし」
「物価を考えれば国を出るのは得策ではないわね。ねぇ。灯台下暗しって言葉があるじゃない?私の領地ね、東の端に川が流れる港町があるの。昔一度だけ行ったことがあるのだけど、穏やかで治安もいいわ。このまま少し人力で移動したあと、そこへ行ってみない?」
「転々とするよりも少しでも情報のある地に行った方が効率がいいですけど」
「なら決まりね。とりあえず今日は魔力を溜めることに専念したいの。馬車で隣国に向かうふりをしながら、どこかで髪の色や服を変えて早めに宿をとりましょう」
「やったー!宿だ宿だー!」
まだ家を出たばかりだと言うのに弟君は今夜泊まる宿に目を輝かせている。
少し感じる怠さを抱えて、クロエは逃亡生活を開始した。
プロムなんてどうでもいい。あの男と結婚するくらいならば平民として生活してやる!
クロエが女当主となるのもヒューベルトが引退した後。
後継者不在は困るが、すぐにジュリアンを充てがわれる事はないはずで、フリードが諦めてどこかの誰かと結婚してからふらっと戻ればいい。
結婚して王家に取り込めないのなら、きっと魔法省の監視が付くことになる位だろう。
伯爵家を継ぐのには何も問題はない。
今はなんとしてでも逃げきる!
素っ裸で突然現れたクロエに、びっくりしすぎて後方に飛んでいった弟君は、クロエだと気付くと、昨夜置いていったマントをクロエの肩に掛ける。
「ありがとう。突然ごめんね。お姉さんはどこにいったの?」
一度イシュトハンに戻れば暫くはまた転移出来ないと考えれば、この姉弟を逃す事が優先される。
イシュトハンよりも王都に近いというのも幸いだった。
彼女たちを使った以上、最後まで責任を負わなければならない。
「少し買い物に行っただけだからすぐ戻るよ。姉ちゃんの服でも着るか?」
「ええ、貸してもらえると助かるわ。あと彼女が戻ったらここから逃げる事になるわ。準備が必要なら今からしてちょうだい」
「それなら大丈夫。昼までに魔女が来なければそのまま引っ越すって、ねえちゃんが朝まで準備してたから」
弟君の目線の先を見ると、部屋の隅にはパンパンに荷物が詰め込まれた鞄が置かれていた。
「これとこれと後これも?」
箪笥にはまだ荷物が残されていた様で、弟君は肌着と黒のワンピース、靴下等を取り出す。
「魔女っぽく黒いワンピースだ!魔女も一緒に逃げるのか?」
「ありがとう。あなたたちの安全保障は私の仕事だもの住む場所が決まるまで一緒に行くわ」
黒いワンピースをすっぽりと着ると、なんだか昨日に戻ったかの様に感じる。
今ならばあの部屋に彼女を送ろうとは考えないのに、無知とは恐ろしいものだ。
「ただいまー!ご飯買ってきたわよー」
玄関のドアが開き、化粧もしていない彼女が帰宅する。
彼女の化粧をしていない顔を見るのは初めてだったが、思っていたよりも若いのかもしれない。
彼女を見てようやく自分のもう一つの失態に気づくとこになった。
防御魔法と加護の魔法を未だ彼女は纏っている。
心で泣きながら魔法を解いた。
「あら、メイリーさんいらっしゃい。戻って来ないかと思ったわ」
パタパタと部屋へ入ってくると、持ってきた紙袋から魚が挟まれたパンを取り出す。
「メイリーさんも食べます?今のうちに買っておこうと思ってたくさん買ったのだけど」
「待って、ここも解析によって場所が割れるわ。出来るだけ早くここを出た方がいい」
「あら、今朝のうちに出ようと思って準備しといて良かったわ。なら何処かで食べればいいわね。すぐに出ましょう」
ここで転移すれば痕跡が残って転移先はバレる。
ここを出てから人目のないところで髪の色や服を変えるのがいいだろう。
マントに入っている金貨以外は何も持ってないクロエだったが、力が戻れば一度結界を解きに家に戻る予定で、とりあえず2人を逃す事を最優先事項としていた。
彼女に靴も借りたクロエは朝から櫛も通していない髪にワンピース姿でとても貴族とは思えない装いだったがそんな事を気にすることもなく、これから手に入れる未来だけを思い描いていた。
「2人は何処に行こうとしていたの?」
弟君の鞄を一つ持って歓楽街の裏通りを3人で歩く。
夜の街なのに意外と人は歩いているし、屋台もいくつか出ていて生活を感じる。
こんな風に街を歩く事は王都の貴族街しかない。
別の人物になったかのようで少しだけウキウキと心が弾んでいた。
「隣国へ渡ろうと思ってたんだけど、このまま北へ行って、小さな村で定住できそうなところを探すつもりです。その方が家賃も物価も安いですし」
「物価を考えれば国を出るのは得策ではないわね。ねぇ。灯台下暗しって言葉があるじゃない?私の領地ね、東の端に川が流れる港町があるの。昔一度だけ行ったことがあるのだけど、穏やかで治安もいいわ。このまま少し人力で移動したあと、そこへ行ってみない?」
「転々とするよりも少しでも情報のある地に行った方が効率がいいですけど」
「なら決まりね。とりあえず今日は魔力を溜めることに専念したいの。馬車で隣国に向かうふりをしながら、どこかで髪の色や服を変えて早めに宿をとりましょう」
「やったー!宿だ宿だー!」
まだ家を出たばかりだと言うのに弟君は今夜泊まる宿に目を輝かせている。
少し感じる怠さを抱えて、クロエは逃亡生活を開始した。
プロムなんてどうでもいい。あの男と結婚するくらいならば平民として生活してやる!
クロエが女当主となるのもヒューベルトが引退した後。
後継者不在は困るが、すぐにジュリアンを充てがわれる事はないはずで、フリードが諦めてどこかの誰かと結婚してからふらっと戻ればいい。
結婚して王家に取り込めないのなら、きっと魔法省の監視が付くことになる位だろう。
伯爵家を継ぐのには何も問題はない。
今はなんとしてでも逃げきる!
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