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帝王学を学んだ男
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「んーやっぱお肉が1番漲るわ!ギリギリだけどここまで満ちればあとは時間が解決してくれるわね」
ジュリアンがサンドイッチを持ってきた後、サンドイッチを口に押し込まれていると、カートを押した侍女が食事を持ってきてくれた。
最初は無理やり口に放り込まれた料理も、次第に自分で座って食べられるようになっていった。
体の中心まで暖かくなると、今度は指先が冷えるのを感じる。
まだ完全ではないのが窺えるが、魔力の放出を抑えれば帰るには問題ないだろう。
フリードの拘束からも解放されて気分がいい。
危うくあと少しでフリードを頭から丸齧りするところだった。
「それで、さっき僕のことが好きだったって聞こえたけど?」
大きく伸びをしているクロエに、容赦なく閉ざされていた室内での会話が聞こえていたことを知らせる声が届く。
振り向きたくない。
「クロエ?聞こえてるよね?」
「聞こえてはいけない声が聞こえたので、きっと幻聴だったのでしょう」
「クロエ、もう観念しなさい。僕の声だけが聴こえるようにしようか?」
好きだったフリードはこんなに歪んでいない。
愛しの可愛いフリードを今すぐ返して欲しい。
「昔の話です。今のこんな意地悪なフリードは好きではないので誤解しないで」
ぷんっと目も合わせずに反対方向を見る。
「そう。さっきも言ってた婚約者候補の話だけど、あれは兄上の婚約者候補の話だと思うよ。もちろん自動的に僕の婚約者候補にもなるのだけど、先に決まる兄上の婚約者になんてされたら困るから外してもらった記憶ならあるよ」
「同じことではありませんか!下手な言い訳はやめてください。惨めになります」
泣いたら涙で魔力が逃げてしまう。そう思うのに思えば思うほど涙が頬を伝う。
「ねぇクロエ、婚約者候補に入っていないのにこうやって婚約出来るんだから、候補は候補でしかないんだよ?将来の王妃として公爵家に嫁ぐより面倒臭かったけど、僕がクロエに嫁ぐほうが僕たちには合ってたと思うよ。素直に受け止めて」
「あなたは嫁に来るんじゃなくて婿に入るんでしょうが!」
「そうだよ!もぅ分かってるじゃないか」
再び抱きしめられたクロエは、助けを求めるようにジュリアンに手を伸ばすが、ジュリアンは「諦めなさい」とにんまりと笑っていた。
「ダンコーネス先生は最初から僕の味方だから無駄だよ。協力しないならダンコーネス先生に伯爵家を継いでもらって公爵家の嫁にするって脅してあるから」
まさかの告白に眩暈がする。
たった1人の味方だと思っていたジュリアンが殿下の手に落ちていたなんて!
ここに来たことから間違いだったということだ。
「そんな脅し無効じゃないですか!継承権がある以上、第一王子の有事の際は国王になる殿下の嫁は、どうなったって次期王妃でしょうが!そうなった時は結局ジュリアン位しか伯爵家を任せられる人はいません!」
第一王子であるフロージアの子供も一人しかいない。フリードが繰上げで国王になることは往々にあり得る話だ。
その宿命からは逃れられようはずがない。
「まだ公表されていないが、兄の子供がもう一人生まれる。いまは無理だけど10年くらいすれば何も言われずに継承権も放棄出来るよ」
「はぁあああ?」
つい野太い声が出てしまっていた。
他国に嫁いだりした姫が継承権を放棄することは今までもある話だ。
しかし、国内の伯爵家に婿入りして継承権を放棄するなんて許されるのか。
頭が痛い。
「大人しく婚約してね僕の可愛いクロエちゃん!今頷いてくれたら君が何故か見たっていう、僕の私室でのやり取りをどこから見ていたのか、追求しないであげるけど?」
悪魔のような囁きに思わず頷いてしまった。
追求されたら問答無用で結婚させられてしまう。
それこそジュリアンに伯爵家を任せてせっせと派閥争いの中、茶会に勤しむ未来が来てしまう!
すでに頷いてしまったクロエは、その日の遅くまでジュリアンの教官室で悪夢に魘されながら寝込むことになった。
「ぜ…ぜったい…けっこん…は…しな…い…」
魘されているクロエの寝言は呪詛のように消えていった
ジュリアンがサンドイッチを持ってきた後、サンドイッチを口に押し込まれていると、カートを押した侍女が食事を持ってきてくれた。
最初は無理やり口に放り込まれた料理も、次第に自分で座って食べられるようになっていった。
体の中心まで暖かくなると、今度は指先が冷えるのを感じる。
まだ完全ではないのが窺えるが、魔力の放出を抑えれば帰るには問題ないだろう。
フリードの拘束からも解放されて気分がいい。
危うくあと少しでフリードを頭から丸齧りするところだった。
「それで、さっき僕のことが好きだったって聞こえたけど?」
大きく伸びをしているクロエに、容赦なく閉ざされていた室内での会話が聞こえていたことを知らせる声が届く。
振り向きたくない。
「クロエ?聞こえてるよね?」
「聞こえてはいけない声が聞こえたので、きっと幻聴だったのでしょう」
「クロエ、もう観念しなさい。僕の声だけが聴こえるようにしようか?」
好きだったフリードはこんなに歪んでいない。
愛しの可愛いフリードを今すぐ返して欲しい。
「昔の話です。今のこんな意地悪なフリードは好きではないので誤解しないで」
ぷんっと目も合わせずに反対方向を見る。
「そう。さっきも言ってた婚約者候補の話だけど、あれは兄上の婚約者候補の話だと思うよ。もちろん自動的に僕の婚約者候補にもなるのだけど、先に決まる兄上の婚約者になんてされたら困るから外してもらった記憶ならあるよ」
「同じことではありませんか!下手な言い訳はやめてください。惨めになります」
泣いたら涙で魔力が逃げてしまう。そう思うのに思えば思うほど涙が頬を伝う。
「ねぇクロエ、婚約者候補に入っていないのにこうやって婚約出来るんだから、候補は候補でしかないんだよ?将来の王妃として公爵家に嫁ぐより面倒臭かったけど、僕がクロエに嫁ぐほうが僕たちには合ってたと思うよ。素直に受け止めて」
「あなたは嫁に来るんじゃなくて婿に入るんでしょうが!」
「そうだよ!もぅ分かってるじゃないか」
再び抱きしめられたクロエは、助けを求めるようにジュリアンに手を伸ばすが、ジュリアンは「諦めなさい」とにんまりと笑っていた。
「ダンコーネス先生は最初から僕の味方だから無駄だよ。協力しないならダンコーネス先生に伯爵家を継いでもらって公爵家の嫁にするって脅してあるから」
まさかの告白に眩暈がする。
たった1人の味方だと思っていたジュリアンが殿下の手に落ちていたなんて!
ここに来たことから間違いだったということだ。
「そんな脅し無効じゃないですか!継承権がある以上、第一王子の有事の際は国王になる殿下の嫁は、どうなったって次期王妃でしょうが!そうなった時は結局ジュリアン位しか伯爵家を任せられる人はいません!」
第一王子であるフロージアの子供も一人しかいない。フリードが繰上げで国王になることは往々にあり得る話だ。
その宿命からは逃れられようはずがない。
「まだ公表されていないが、兄の子供がもう一人生まれる。いまは無理だけど10年くらいすれば何も言われずに継承権も放棄出来るよ」
「はぁあああ?」
つい野太い声が出てしまっていた。
他国に嫁いだりした姫が継承権を放棄することは今までもある話だ。
しかし、国内の伯爵家に婿入りして継承権を放棄するなんて許されるのか。
頭が痛い。
「大人しく婚約してね僕の可愛いクロエちゃん!今頷いてくれたら君が何故か見たっていう、僕の私室でのやり取りをどこから見ていたのか、追求しないであげるけど?」
悪魔のような囁きに思わず頷いてしまった。
追求されたら問答無用で結婚させられてしまう。
それこそジュリアンに伯爵家を任せてせっせと派閥争いの中、茶会に勤しむ未来が来てしまう!
すでに頷いてしまったクロエは、その日の遅くまでジュリアンの教官室で悪夢に魘されながら寝込むことになった。
「ぜ…ぜったい…けっこん…は…しな…い…」
魘されているクロエの寝言は呪詛のように消えていった
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