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ジュリアンの憂鬱
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「それで?魔法の痕跡を辿ってここまで来たわけだけど、君はここで何をしているのかな?」
さっきまでの可愛さをどこに置き忘れてきたんだというほど恐ろしい顔をしたフリードに、クロエは益々顔が青くなった。
フリードはつかつかと教官室に入り、ソファのクロエの前にしゃがみ込み、クロエの顔を見上げる。
長距離移動後にも2度も校内で移動魔法を使ったから身体はまだだるい。
もう逃げ場は残されていない。いや、もう一回くらい近い距離ならいけるかな。
そんなずるい事を考えて、取り敢えず逃げやすいロビーの様子でも見るために目を瞑ると、両頬をパチンと捕まえられ、目を開こうとした瞬間に唇に生暖かい何かが触れた。
「んんんんんーーーー」
あまりのことに思い切り右手を振り上げるが、既の所で手首を掴まれる。
わなわなと唇が震えるのを感じると、ゆっくりフリードの顔が離れていった。
こいつ最後にぺろりと唇を舐めやがった!
大切な大切なファーストキッスをこんな意図も簡単に同意もなく!
目を瞑らなくても透視はできるのに、つい視界が邪魔になるからと癖で目を瞑ってしまった自分を呪いたい。
次から目を見開いて透視してやると斜め上の対策をする事を決めたクロエだったが、それこそ今、瞬きもせず近すぎて焦点の合わないフリードの顔を見ている。
「もう逃げるのは禁止。無詠唱でも転移魔法が使えるのに呪文を唱えるのはなにか理由があるのかな?次逃げたら陛下に立ち会ってもらって説明してもらうからね」
転移魔法だけなら物心ついた頃には無詠唱で使えていたらしいので、それは周知の事実だ。
陛下と聞いて背筋が伸びるのを感じる。
透視魔法の呪文は魔法書に載っているような意味のある言葉ではない。
幼い頃に作り出した3通りくらい候補のあった呪文で、1番ハッキリと見える呪文を選んだだけ。
うまく説明なんて出来るわけもないし、透視魔法の呪文だなんて話せるわけもなかった。
「ジュ、ジュリアーんん」
ジュリアンのシャツを再び締め上げようと両手を伸ばすが、すぐに背後から手が伸びてきて、一瞬体が浮く。
クロエが気付くと、今まで座っていたソファにフリードが座っていて、その膝の上に手を拘束されて座らされていた。
「ちょ…」
「そうやってまた僕以外の男に縋りつこうとするんだ。もう縛り付けて僕の部屋に監禁しなきゃだめかな…」
耳元で危ない独り言を言わないでほしい。
いや独り言だよね?宣言じゃないよね?
ジタバタと動くが、お腹に手が回されていて全く解放されない。
必死の抵抗も虚しく、耳元で不穏な呪文が聞こえて振り向くが、次の瞬間には光の輪がクロエの足と手を拘束し、フリードの両手が後ろからしっかりと腹部に回されていた。
もう逃げようがない。
「はいはい。もうここで魔法は禁止です。クロエも魔力不足で体調が悪いのですから、2人とも大人しくそこに座ってなさい。それと、フリードリヒ殿下、婚約が内定したと聞きましたが、まだ婚約者ではない女性の唇を奪うのはどうかと思いますよ。可愛い私の従兄妹に乱暴はよしてくださいね」
「だめ、クロエは逃亡癖があるから絶対離さない」
今になってそんな可愛い言い方したって遅い!
絶対口を尖らせてほっぺたを膨らませているに違いない。
もう絶対その可愛さに騙されない。
ジュリアンは立ち上がってグラスに水を入れると、一つをフリードに差し出し、もう一つを持って向かい側の1人用のソファに優雅に座った。
「フリードリヒ殿下!私の肩は顎を置く所じゃありません!」
「むーおとなしく話をしてくれるなら魔法は解いてあげてもいいけど」
こんな事なら関係ないと思っていた解呪魔法を習得しておくべきだったし、普通に生活していたら人生の中で拘束されることなんてないだろうと思っていたのは間違いだった。
意外に近くに危険というのはあるものだ。
真っ先に習得するべき魔法一覧に追加しておくことにする。
果物の皮を綺麗に剥く魔法より優先順位は高い。
「分かりましたから。何がお聞きになりたいのです?」
クロエが大人しくなると、フリードはクロエを拘束していた魔法を解いた。
しかし、クロエの腹部には二つの腕がしっかりと回されたままだった。
もうクロエはだらんとフリードに身を任せることしかできなかった。
腕を動かすことすら体が重くてつらい。
さっきまでの可愛さをどこに置き忘れてきたんだというほど恐ろしい顔をしたフリードに、クロエは益々顔が青くなった。
フリードはつかつかと教官室に入り、ソファのクロエの前にしゃがみ込み、クロエの顔を見上げる。
長距離移動後にも2度も校内で移動魔法を使ったから身体はまだだるい。
もう逃げ場は残されていない。いや、もう一回くらい近い距離ならいけるかな。
そんなずるい事を考えて、取り敢えず逃げやすいロビーの様子でも見るために目を瞑ると、両頬をパチンと捕まえられ、目を開こうとした瞬間に唇に生暖かい何かが触れた。
「んんんんんーーーー」
あまりのことに思い切り右手を振り上げるが、既の所で手首を掴まれる。
わなわなと唇が震えるのを感じると、ゆっくりフリードの顔が離れていった。
こいつ最後にぺろりと唇を舐めやがった!
大切な大切なファーストキッスをこんな意図も簡単に同意もなく!
目を瞑らなくても透視はできるのに、つい視界が邪魔になるからと癖で目を瞑ってしまった自分を呪いたい。
次から目を見開いて透視してやると斜め上の対策をする事を決めたクロエだったが、それこそ今、瞬きもせず近すぎて焦点の合わないフリードの顔を見ている。
「もう逃げるのは禁止。無詠唱でも転移魔法が使えるのに呪文を唱えるのはなにか理由があるのかな?次逃げたら陛下に立ち会ってもらって説明してもらうからね」
転移魔法だけなら物心ついた頃には無詠唱で使えていたらしいので、それは周知の事実だ。
陛下と聞いて背筋が伸びるのを感じる。
透視魔法の呪文は魔法書に載っているような意味のある言葉ではない。
幼い頃に作り出した3通りくらい候補のあった呪文で、1番ハッキリと見える呪文を選んだだけ。
うまく説明なんて出来るわけもないし、透視魔法の呪文だなんて話せるわけもなかった。
「ジュ、ジュリアーんん」
ジュリアンのシャツを再び締め上げようと両手を伸ばすが、すぐに背後から手が伸びてきて、一瞬体が浮く。
クロエが気付くと、今まで座っていたソファにフリードが座っていて、その膝の上に手を拘束されて座らされていた。
「ちょ…」
「そうやってまた僕以外の男に縋りつこうとするんだ。もう縛り付けて僕の部屋に監禁しなきゃだめかな…」
耳元で危ない独り言を言わないでほしい。
いや独り言だよね?宣言じゃないよね?
ジタバタと動くが、お腹に手が回されていて全く解放されない。
必死の抵抗も虚しく、耳元で不穏な呪文が聞こえて振り向くが、次の瞬間には光の輪がクロエの足と手を拘束し、フリードの両手が後ろからしっかりと腹部に回されていた。
もう逃げようがない。
「はいはい。もうここで魔法は禁止です。クロエも魔力不足で体調が悪いのですから、2人とも大人しくそこに座ってなさい。それと、フリードリヒ殿下、婚約が内定したと聞きましたが、まだ婚約者ではない女性の唇を奪うのはどうかと思いますよ。可愛い私の従兄妹に乱暴はよしてくださいね」
「だめ、クロエは逃亡癖があるから絶対離さない」
今になってそんな可愛い言い方したって遅い!
絶対口を尖らせてほっぺたを膨らませているに違いない。
もう絶対その可愛さに騙されない。
ジュリアンは立ち上がってグラスに水を入れると、一つをフリードに差し出し、もう一つを持って向かい側の1人用のソファに優雅に座った。
「フリードリヒ殿下!私の肩は顎を置く所じゃありません!」
「むーおとなしく話をしてくれるなら魔法は解いてあげてもいいけど」
こんな事なら関係ないと思っていた解呪魔法を習得しておくべきだったし、普通に生活していたら人生の中で拘束されることなんてないだろうと思っていたのは間違いだった。
意外に近くに危険というのはあるものだ。
真っ先に習得するべき魔法一覧に追加しておくことにする。
果物の皮を綺麗に剥く魔法より優先順位は高い。
「分かりましたから。何がお聞きになりたいのです?」
クロエが大人しくなると、フリードはクロエを拘束していた魔法を解いた。
しかし、クロエの腹部には二つの腕がしっかりと回されたままだった。
もうクロエはだらんとフリードに身を任せることしかできなかった。
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