大嫌いな婚約者の秘密を知ってしまいました~心読みの魔法が効いてしまった結果~

清里優月

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25話 もう心読みの薬はいらない1

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 警備隊が精霊の愛し子たちの誘拐犯を目掛けて突入してきた。もうこれで大丈夫だと安堵したエリンは、レヴィの腕の中で意識を失った。

 エリンは目を覚ました。
 以前見た白い天井。壁には淡いピンクの壁紙。窓には夏用の薄手の淡いピンクのカーテン。ふかふかの寝心地のベッド。

「あれ? ここはダグラス邸の客間?」
 まだ目覚めたばかりで頭がぼーっとしたままのエリンは、目を擦る。
 エリンの手を誰かが握っている。
 その手の先を見ると、眠っているレヴィが居た。

「レ、レヴィ様?」
 エリンが素っ頓狂な声を上げると、その声の大きさにレヴィが目を覚ました。
「エリン?」
 ふわりと柔らかい笑顔をエリンに向けた。驚いて固まったエリンの茶色の長い髪に触れる。
「髪が少し焦げてしまったな……」
 レヴィの長い指が髪に触れて、エリンは心臓が早鐘を打ったようになる。その髪に指を絡めて、自分の唇に当てた。

「レ、レヴィ様?」
 記憶が混乱しているエリンは頬を紅潮させた。身体が緊張から暑くなる。
「何だ……。エリン、いつものようにレヴィと呼べばいいのに」
 レヴィが切れ長の深紅の瞳を優しい色に染め上げて、エリンに視線を向けた。
「エリン。良かった、今度はすぐに目覚めて」
 ふわりと身体を抱き寄せられる。レヴィの温もりとコロンの匂いがした。

 エリンははっと我に返る。
 蘇った幼い頃の記憶と現在の記憶が交差して、エリンの心に落ちた。8歳のレヴィと21歳のレヴィがエリンの中で重なる。
「レヴィ様……。ううん……レヴィ。良かった……」
 エリンは青の瞳を潤ませて、温かな腕の中で泣き出す。
 レヴィがふっと顔を和ませるとエリンの額に口づけると、そっと唇に触れるだけのキスをする。

 唇が離れて、エリンは抱き寄せらる。
「エリン、迷惑だなんて言ってごめん。俺は八歳の時からエリンのことがずっと好きだ」
 顔を真っ赤にさせたエリンは、レヴィの告白に胸をいっぱいにさせた。
「私もレヴィ様じゃなくて、レヴィのことが大好きよ。それに12歳で再会してからまたレヴィに恋しちゃったし」
 ふわりと愛らしくエリンが微笑んだ。

「……エリン、可愛い」
 レヴィがエリンを抱きしめた。エリンは、レヴィの言葉に、ん?と既視感を覚える。そして、ぼんと頬を真っ赤にさせた。
「こ、心読みの薬が効いてる?」
 エリンの科白にレヴィは首を傾げて、エリンを見る。

「エリン?」
「い、今可愛いって……」
「言った」
 レヴィが頬を赤く染め上げて、恥ずかしそうに答える。
「俺、エリンのこと、いつも可愛いって思ってたから」
 エリンは何とも言えない奇妙な顔をしていた。

(知ってます、女神とか妖精とか天使とか。挙句に耽美派の詩人、キルゲールに例えて……)
 エリンは、吹き出しそうになるのを必死に堪える。
「エリン?」
「あ、はい……」
「俺、そんなに変なこと言ったか?」
 首を左右に振り、笑いをこらえながら誤魔化した。
「いいえ。可愛いなんて言ってもらえて嬉しい。でもいつも塩対応だったから慣れなくて……」
 ふふっと愛くるしく笑んだ。

 エリンはぎゅっと抱き寄せられて、離される。レヴィは、真剣な面持ちでエリンに向き合う。
「俺はエリンのことを抱きたい」
 エリンは青の瞳を瞬きさせて、見開く。
「は……い?」
 想像もしない展開に頭が真っ白になる。ここは、告白しあって、キスをして終わりでしょう?とエリンは突っ込みたくなる。

「俺は誘拐犯にエリンの純潔を奪われて、思ったんだ。思ったことは言わないと後悔すると」
 レヴィは躊躇いながら口を開く。
(違うから~! あれは誘拐犯の嘘だから!)
 エリンは心の中で必死に突っ込むが、驚きのあまり、口が利けない。

 沈黙をレヴィは、了承されたと受け取ったのか。
 エリンをひょいっと抱き上げた。

(ひ~! 勘違いだってば!)
 エリンは心の中で悲鳴を上げて、手足をバタバタさせる。
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