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16話 砕けた心と偽りの言葉
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「……だ」
「え?」
「迷惑だ……」
レヴィの予想外の冷たい言葉にエリンは戸惑った。
レヴィの紅の瞳からは何の感情も感じられない。以前の冷たい視線をエリンに投げかけてくる。
「あ……。ご、ごめんなさい」
エリンの青の瞳からぶわっと涙が溢れて止まらない。レヴィは、エリンに手を伸ばそうとして止めた。そして、その手を強く握りしめた。
黙り込んだレヴィは顔を俯かせている。
何でだろう、あんなに心の中では自分のことを好きだと言っていたのに、現実のレヴィは自分への気持ちを否定する。
エリンは自分の身体にかけられた毛布を上げると、カフェの従業員室から飛び出した。
カフェの裏口からエリンは飛び出して、近くの公園へと走る。
涙が止まらない。
いつの間にこんなにレヴィのことを好きになったのだろうか。
見た目の端正さと違って不器用で純粋なレヴィのことを。
公園の緑の濃い森の中へと駆け込んだ。
緑の精霊たちの存在がエリンを包み込んだ。
『水の精霊の女王の愛し子、どうしたの?』
『エリン?』
ふわりと緑の精霊たちが泣いているエリンを慰めるように声をかける。
柔らかい日差しと濃い緑が生み出す空気が感じられて、精霊たちが居る空間。ほうとエリンはため息を漏らす。
緑の息吹が感じられて、エリンはほっとする。
「……たの。振られちゃった」
『誰に? 水の精霊の女王の愛し子を振るなんて……』
スペンサー王国では四大精霊の王たちの愛し子たちは王族にも匹敵する存在。現在の国王の妃は前の大地の王の愛し子である。精霊たちは驚愕している。そんな存在を振るなんて、と。
「レヴィ様よ」
『炎の王の愛し子! あいつがエリンを振ったの?』
緑の精霊が属する大地の精霊たちは水の精霊と親和性が高い。
故にエリンとは親しい。
精霊たちは怒り出す、炎の王の愛し子である、レヴィに。
緑の精霊たちの優しさにエリンはほっとする。
そして気づく。レヴィは迷惑だと言い放った時に酷く苦しい表情をしていたことに。
エリンは、この僅かな間にレヴィの無表情に近い顔から感情を読みだせるようになっていた。
(レヴィ様は、何であんなに苦し気な表情をしていたんだろう……)
心の中ではあんなにエリンを好きだと言っていたレヴィと現実ではエリンに塩対応を取っていた彼。
「緑の精霊たち、ありがとう。私……」
カフェに戻って、レヴィと話をしないといけない。
緑の精霊たちが騒ぎ出した。エリンは首を傾げて、振り返る。
人の気配が感じられた。口が塞がれて、エリンの意識が遠くなり倒れ込んだ。
ふっとエリンの意識が戻る。
薄暗い日差しがエリンを差していた。
見たことのない小汚い小屋の中、干し草が積まれている。木で造られた今にも壊れそうな小屋に羊飼いたちが使っていたであろう干し草が残っていて、臭い。何か意識を失う薬をかがされて、自分は気絶したのであろう。
エリンは数人の男たちに囲まれていた。
「おっ。水の精霊の女王の愛し子が目を覚ましたぜ」
「本当に青の瞳をしているな」
「上級の愛し子様だな」
その中から右の頬に傷跡のある男がエリンに問いかけた。
「愛し子、名前は?」
圧を感じさせて、口を閉ざすことは許されない。
これは尋問だとエリンは感じ取った。
「エリン、エリン=スミス……」
男はにたりと笑う。
「やはりな。スミス商会の娘か……。おい身代金の請求先を追加しろ。スペンサー王国とスミス商会だ。今までとは違う。四大精霊の王の愛し子だ」
この男がエリンを誘拐した一味の中心人物なのだろう。
以前からスペンサー王国の精霊の愛し子たちが誘拐されて身代金を請求される事件が多発していた。エリンは注意するようにと何度も師匠のステラから忠告されていた。それを自分は四大精霊の王の愛し子だからと油断していた。
エリンの腕には精霊使いの力を封じる腕輪がされていた。水の精霊の女王どころか、もはや下級の精霊すら呼べない。
(レヴィ様!)
エリンは心の中で最愛の人であるレヴィの名を呼んだ。
「え?」
「迷惑だ……」
レヴィの予想外の冷たい言葉にエリンは戸惑った。
レヴィの紅の瞳からは何の感情も感じられない。以前の冷たい視線をエリンに投げかけてくる。
「あ……。ご、ごめんなさい」
エリンの青の瞳からぶわっと涙が溢れて止まらない。レヴィは、エリンに手を伸ばそうとして止めた。そして、その手を強く握りしめた。
黙り込んだレヴィは顔を俯かせている。
何でだろう、あんなに心の中では自分のことを好きだと言っていたのに、現実のレヴィは自分への気持ちを否定する。
エリンは自分の身体にかけられた毛布を上げると、カフェの従業員室から飛び出した。
カフェの裏口からエリンは飛び出して、近くの公園へと走る。
涙が止まらない。
いつの間にこんなにレヴィのことを好きになったのだろうか。
見た目の端正さと違って不器用で純粋なレヴィのことを。
公園の緑の濃い森の中へと駆け込んだ。
緑の精霊たちの存在がエリンを包み込んだ。
『水の精霊の女王の愛し子、どうしたの?』
『エリン?』
ふわりと緑の精霊たちが泣いているエリンを慰めるように声をかける。
柔らかい日差しと濃い緑が生み出す空気が感じられて、精霊たちが居る空間。ほうとエリンはため息を漏らす。
緑の息吹が感じられて、エリンはほっとする。
「……たの。振られちゃった」
『誰に? 水の精霊の女王の愛し子を振るなんて……』
スペンサー王国では四大精霊の王たちの愛し子たちは王族にも匹敵する存在。現在の国王の妃は前の大地の王の愛し子である。精霊たちは驚愕している。そんな存在を振るなんて、と。
「レヴィ様よ」
『炎の王の愛し子! あいつがエリンを振ったの?』
緑の精霊が属する大地の精霊たちは水の精霊と親和性が高い。
故にエリンとは親しい。
精霊たちは怒り出す、炎の王の愛し子である、レヴィに。
緑の精霊たちの優しさにエリンはほっとする。
そして気づく。レヴィは迷惑だと言い放った時に酷く苦しい表情をしていたことに。
エリンは、この僅かな間にレヴィの無表情に近い顔から感情を読みだせるようになっていた。
(レヴィ様は、何であんなに苦し気な表情をしていたんだろう……)
心の中ではあんなにエリンを好きだと言っていたレヴィと現実ではエリンに塩対応を取っていた彼。
「緑の精霊たち、ありがとう。私……」
カフェに戻って、レヴィと話をしないといけない。
緑の精霊たちが騒ぎ出した。エリンは首を傾げて、振り返る。
人の気配が感じられた。口が塞がれて、エリンの意識が遠くなり倒れ込んだ。
ふっとエリンの意識が戻る。
薄暗い日差しがエリンを差していた。
見たことのない小汚い小屋の中、干し草が積まれている。木で造られた今にも壊れそうな小屋に羊飼いたちが使っていたであろう干し草が残っていて、臭い。何か意識を失う薬をかがされて、自分は気絶したのであろう。
エリンは数人の男たちに囲まれていた。
「おっ。水の精霊の女王の愛し子が目を覚ましたぜ」
「本当に青の瞳をしているな」
「上級の愛し子様だな」
その中から右の頬に傷跡のある男がエリンに問いかけた。
「愛し子、名前は?」
圧を感じさせて、口を閉ざすことは許されない。
これは尋問だとエリンは感じ取った。
「エリン、エリン=スミス……」
男はにたりと笑う。
「やはりな。スミス商会の娘か……。おい身代金の請求先を追加しろ。スペンサー王国とスミス商会だ。今までとは違う。四大精霊の王の愛し子だ」
この男がエリンを誘拐した一味の中心人物なのだろう。
以前からスペンサー王国の精霊の愛し子たちが誘拐されて身代金を請求される事件が多発していた。エリンは注意するようにと何度も師匠のステラから忠告されていた。それを自分は四大精霊の王の愛し子だからと油断していた。
エリンの腕には精霊使いの力を封じる腕輪がされていた。水の精霊の女王どころか、もはや下級の精霊すら呼べない。
(レヴィ様!)
エリンは心の中で最愛の人であるレヴィの名を呼んだ。
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