大嫌いな婚約者の秘密を知ってしまいました~心読みの魔法が効いてしまった結果~

清里優月

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12話 あなたの心を知りたい2

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 夜会の会場に父親を伴って会場入りした美しい少女が注目を浴びていた。令嬢たちや夫人たちの声が小さく囁かれている。また、貴族の青年たちが少女へ先に声をかけようと牽制し合う。
「あの綺麗な令嬢は誰?」
 ひそひそと声が飛び交う中、少女に一人の青年が勇気を出してダンスに誘おうと声をかけた。レヴィははっとして、少女と青年の間を割って入る。

 青年がレヴィを睨みつけて、抗議する。
「こちらの令嬢は、私が先にダンスへ誘って……」
「その令嬢は私の婚約者だ。エリン、踊ろう」
 前髪を切って、ドレスアップした自分がレヴィはわからないだろうと思っていたエリンは驚愕する。

「レヴィ様、前髪を切ったのに私がわかったのですか?」
 驚いているエリンの手をレヴィは取り、優雅な仕草でエスコートする。レヴィの手は剣だこが手の節々に出来ていて、それだけで彼は努力の人なのだとエリンは実感する。今までになく至近距離でエリンの青の濁りない双眸に凝視されて、レヴィは顔を赤らめた。
「『エリンのことなら何でもわかる』」
 心の声と実際に口から出た台詞が一致する。

「え?」
 青の大きな瞳が更に大きく見開かれる。
「だ、だから。十二歳の頃から一緒にいるからわからないことない……」
 いつもは塩対応でエリンを遠ざける言葉しか口にしないレヴィがしどろもどろになっていた。
『エリンが可愛いことは俺が一番知っているし、好きな食べ物も使っている香りのメーカーも身長も体重も』
「はあ~? 何を言っているのですか! そんなこと知っていてどうするんですか!」
 心の声を聞いてエリンは叫んだのだが、レヴィは自分が声に出したのだと思い、頬を紅潮させた。

 愛くるしい名も知らない令嬢とレヴィの組み合わせは聴衆の注目を集めていた。二人のコメディショーのようなやりとりに陰で噴き出すものもいた。それにエリンは気付いて、小さな声でレヴィの耳に囁いた。
「十二歳の頃からなら知らないこともあります」
 ぶすっとしたエリンにレヴィははっと顔を上げて、頷く。
「そ、そうだな……。すまない」
『ドレスアップしたエリンが可愛すぎて、取り乱してしまった。我ながら情けない……』
(ヘタレ!ヘタレと次から呼ぼう! ヘタレ純情青年!)
 レヴィの思考にエリンは、ふっと彼へのあだ名を思いついて、心の中で大いに笑った。

 すっとレヴィがエリンの手を取り直す。エリンは心の中で笑っていたが、どきんと胸を高鳴らせる。
「エリン=スミス令嬢、私と踊ってもらえますか?」
 心の中では緊張しながらも表は余裕の笑みを浮かべている。その微笑みがかっこよくて、つい頷いてしまう。
「は、はい……」
「良かった……」
 小さな声でレヴィは呟くと、エリンをエスコートして大広間の中心へと誘う。レヴィのリードに合わせて、エリンはふわりと妖精のように舞う。元々踊りは好きで十五歳になるまでスミス家でレヴィの妻になるべく淑女教育を受けていたエリンにとってはダンスは得意の科目のひとつだった。ドレスの裾を翻して、レヴィの胸の中で楽しそうにエリンは踊る。愛くるしいエリンがレヴィに近づいては遠くなり、また近くなる。二人のダンスに招待客たちは目を奪われていた。二人が最後に挨拶をすると、凄まじい拍手が二人を襲った。

「え? え?」
「エリンのダンスが上手だから皆誉めているんだよ」
 レヴィの柔らかい微笑みが目の前にあり、エリンは顔を真っ赤にさせた。
「え……」
『本当に可愛いなあ……。隠していた目を出したら可愛いことは俺も知っていたけど、こんなに表情豊かなエリンが見れて嬉しい……。妖精、いや女神みたいだ』
「は? レヴィ様、あなたいつもと態度が随分違うけど、頭大丈夫?」
 自分に微笑むことなど、知り合って六年経つが始めてのことだ。エリンは、さすがに固まっていた。いつもの敬語から普通の言葉へと変わっていた。

 だが、レヴィの耳にはエリンの台詞など届いていない。
『うん。女神決定だな。可愛い俺の女神』
「はあ~?」
 エリンのツッコミすら届かない程、レヴィは暴走していた。
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