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5話 心読みの魔法1
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(冷たい……)
額に冷たい感触がしてエリンは目を覚ました。長い前髪の下の空を連想させる深い青の双眸が見開かれる。
白い天井と柔らかいベッドの感触。ぼうっとした意識のまま、エリンは身体を起こす。見渡すと魔法院の自分の部屋ではなかった。簡易のベッドが二つほど置かれている殺風景な一室。ここは魔法院の救護室だ。魔法を失敗して、担ぎ込まれる魔法使い見習いの為の部屋。
(げっ! 私、心読みの魔法の生成に失敗したの?)
自分が倒れる前に必死に自分の名を呼ぶレヴィの声を聞いた気がしたのだ。気のせいかと独り言ちる。
自分の額から濡れタオルがぽとりと落ちた。
「エリン!」
自分を呼ぶレヴィの声がした。エリンは呆然とする。レヴィはエリンの手をぎゅっと握っていたのだ。
「レヴィ……様?」
信じられないとエリンはレヴィを凝視する。いつもは冷静な深紅の瞳が我を忘れている。
エリンは身体を起こして、レヴィに瞳を合わせる。
何故だろう、その真剣な深紅の双眸から瞳が逸らせなかった。
どきんと胸が高鳴る筈だったが、エリンの脳内に変な声が響いた。
『ああ……。良かった、目を覚ました。俺の愛しのエリン』
「は、はい?」
頭にレヴィの声が響いてくるのだ、エリンは固まった。そしてその内容に思考が付いていけない。
深紅の綺麗な瞳はエリンを凝視していた。
「い、愛しのエリン?」
思わずエリンは、レヴィの声の言葉を口にする。
レヴィがばっとエリンを握る手を離して、自分の手を上に挙げた。
レヴィの顔は、熟れた林檎のように真っ赤だった。
今まで目にしたことのないレヴィの感情が浮かんだ顔にエリンは驚愕する。
『なんで、エリンが俺の思考を……。いや気のせいか』
真っ赤になったまま手を口に当てている。
エリンは、レヴィの思考が自分の頭の中に流れ込んでくるのに驚いた。
(こ、これって心読みの魔法が成功したの?)
そう言えば、自分は心読みの魔法を生成していた時、爆発した煙を吸い込んだ。そのせいかとエリンは納得する。
そしてふと気づく。
自分の額に当てられていた濡れタオルのことを。
(もしかして、もしかしてじゃなくて……)
「レヴィ様、私を看病してくれたのですか?」
エリンは、きょとんと首を傾げて尋ねた。いくら大嫌いな婚約者といえど、看病してもらったのだ。正直、嬉しかった。かつては仲良くしたかった相手に優しくされて。エリンの無邪気な笑顔がレヴィに向けられた。
『か、かわいい! なんてかわいいんだ! 俺のエリン!』
氷を思わせるレヴィの無表情な表情と感情駄々洩れな思考が一致しない。そして、氷の騎士と陰で呼ばれているレヴィの思考の現実にエリンは、混乱した。
(もしかしてもしかしてじゃなくて、レヴィ様って私のことが好き?)
エリンは、この数分に起きた出来事が信じられない。
婚約破棄をしようと思っていたのに。
そして、外見と中身の一致しなさ!
エリンは笑いがこみ上げてきて、爆笑したい気持ちに駆られる。
『忘れた魔法の杖を渡そうと……。あ、どうすればいい? また失敗して嫌われてしまう。俺の可愛いエリンに』
(はい? いや、私あなたの物じゃないんですが)
誰がお前の物だとツッコミたいが、エリンはその衝動をぐっと堪える。
頭が疑問符で一杯になる。
だけど。
今はこの現実を受け止めるために一人になって考える時間が欲しい。
「看病して頂いてありがとうございました。レヴィ様、騎士院へお戻りになられては?」
一人になって冷静に考えようとエリンは、わざとレヴィに冷たく言い放った。
(い、言い過ぎたかな?)
良心の呵責を感じて、ちらりとレヴィを仰ぎ見た。
レヴィの無感動な顔からは何も伺えないが、また心の声がエリンの頭の中へ流れ込む。
『か、かわいい! 冷たい顔も可愛いな! だけど、俺は嫌われているな』
(レ、レヴィ様って思ったよりポジティブ? というか変人じゃ……)
その突き抜けた思考回路に呆れるエリンだった。
額に冷たい感触がしてエリンは目を覚ました。長い前髪の下の空を連想させる深い青の双眸が見開かれる。
白い天井と柔らかいベッドの感触。ぼうっとした意識のまま、エリンは身体を起こす。見渡すと魔法院の自分の部屋ではなかった。簡易のベッドが二つほど置かれている殺風景な一室。ここは魔法院の救護室だ。魔法を失敗して、担ぎ込まれる魔法使い見習いの為の部屋。
(げっ! 私、心読みの魔法の生成に失敗したの?)
自分が倒れる前に必死に自分の名を呼ぶレヴィの声を聞いた気がしたのだ。気のせいかと独り言ちる。
自分の額から濡れタオルがぽとりと落ちた。
「エリン!」
自分を呼ぶレヴィの声がした。エリンは呆然とする。レヴィはエリンの手をぎゅっと握っていたのだ。
「レヴィ……様?」
信じられないとエリンはレヴィを凝視する。いつもは冷静な深紅の瞳が我を忘れている。
エリンは身体を起こして、レヴィに瞳を合わせる。
何故だろう、その真剣な深紅の双眸から瞳が逸らせなかった。
どきんと胸が高鳴る筈だったが、エリンの脳内に変な声が響いた。
『ああ……。良かった、目を覚ました。俺の愛しのエリン』
「は、はい?」
頭にレヴィの声が響いてくるのだ、エリンは固まった。そしてその内容に思考が付いていけない。
深紅の綺麗な瞳はエリンを凝視していた。
「い、愛しのエリン?」
思わずエリンは、レヴィの声の言葉を口にする。
レヴィがばっとエリンを握る手を離して、自分の手を上に挙げた。
レヴィの顔は、熟れた林檎のように真っ赤だった。
今まで目にしたことのないレヴィの感情が浮かんだ顔にエリンは驚愕する。
『なんで、エリンが俺の思考を……。いや気のせいか』
真っ赤になったまま手を口に当てている。
エリンは、レヴィの思考が自分の頭の中に流れ込んでくるのに驚いた。
(こ、これって心読みの魔法が成功したの?)
そう言えば、自分は心読みの魔法を生成していた時、爆発した煙を吸い込んだ。そのせいかとエリンは納得する。
そしてふと気づく。
自分の額に当てられていた濡れタオルのことを。
(もしかして、もしかしてじゃなくて……)
「レヴィ様、私を看病してくれたのですか?」
エリンは、きょとんと首を傾げて尋ねた。いくら大嫌いな婚約者といえど、看病してもらったのだ。正直、嬉しかった。かつては仲良くしたかった相手に優しくされて。エリンの無邪気な笑顔がレヴィに向けられた。
『か、かわいい! なんてかわいいんだ! 俺のエリン!』
氷を思わせるレヴィの無表情な表情と感情駄々洩れな思考が一致しない。そして、氷の騎士と陰で呼ばれているレヴィの思考の現実にエリンは、混乱した。
(もしかしてもしかしてじゃなくて、レヴィ様って私のことが好き?)
エリンは、この数分に起きた出来事が信じられない。
婚約破棄をしようと思っていたのに。
そして、外見と中身の一致しなさ!
エリンは笑いがこみ上げてきて、爆笑したい気持ちに駆られる。
『忘れた魔法の杖を渡そうと……。あ、どうすればいい? また失敗して嫌われてしまう。俺の可愛いエリンに』
(はい? いや、私あなたの物じゃないんですが)
誰がお前の物だとツッコミたいが、エリンはその衝動をぐっと堪える。
頭が疑問符で一杯になる。
だけど。
今はこの現実を受け止めるために一人になって考える時間が欲しい。
「看病して頂いてありがとうございました。レヴィ様、騎士院へお戻りになられては?」
一人になって冷静に考えようとエリンは、わざとレヴィに冷たく言い放った。
(い、言い過ぎたかな?)
良心の呵責を感じて、ちらりとレヴィを仰ぎ見た。
レヴィの無感動な顔からは何も伺えないが、また心の声がエリンの頭の中へ流れ込む。
『か、かわいい! 冷たい顔も可愛いな! だけど、俺は嫌われているな』
(レ、レヴィ様って思ったよりポジティブ? というか変人じゃ……)
その突き抜けた思考回路に呆れるエリンだった。
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