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4話 大嫌いな婚約者4
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エリンはレヴィの塩対応に切れた。
今までも冷たい関係ではあったが、少しはましだった。
だけど。
エリンを見ることもなく、口にしたのは二言のみ。
十二歳から十八歳までの六年間、耐えに耐えてきたエリンの我慢の糸がぷつりと切れた。
(そっちがそうくるなら、こっちもこっちよ!)
エリンは今現在、魔法院で魔法オタクの魔法使いとして大人しく振る舞ってはいるが、元来負けん気の強い性格である。以前から考えていたレヴィに大嫌いな義理妹クロエを押し付ける計画を今こそ実行する時だと決意する。
(何を考えているのかわからないレヴィ様の心を読んでやるわ!)
座っていた椅子を蹴とばさん勢いで立ち上がり、ずかずかと大股で立ち去ろうとした。エリンはぎょっとする。目の前にレヴィが居たのだ。今度はなんだ、とエリンの身体は強張る。
レヴィは、ルビーを連想させる綺麗な瞳をエリンに向けて一言。
「マナーの勉強はしているのか?」
とだけ呟いた。
今の行為を見られていたのだ、自分のマナーを正面から咎められるのではなく、言葉で歪曲的に責められた。
その瞬間、エリンの切れた我慢の糸がぷつーんとブチ切れた。
しかし、ここはダグラス伯爵家のタウンハウスだ。
実の父親ベンの面子もある。
エリンは堪えて、笑顔で答えた。
「誰かさんが、塩対応するので切れまして」
おほほとおまけに笑ってやる。
エリンの正面からの嫌味にレヴィもぎょっとした顔をする。
だけど。
それは一瞬のこと。
「そうか」
とエリンに興味なさそうに身を翻して去っていった。
残されたエリンの頭は怒りで一杯だった。
二人きりにさせようとレヴィの父親の気遣いで人払いはされているが、人の目はあるのでエリンは必死に堪える。
名門貴族の跡取り息子と成り上がりの商人の娘。
元々相容れない婚約者同士ではあった。
見下す価値もないと言わんばかりのレヴィのこの6年間の態度の数々はエリンの心を傷つけてきた。
いつの間にか期待もしなくなった。それでも最初、エリンは嬉しかったのだ。レヴィが婚約者で。
綺麗な婚約者にときめいた過去もあったのだ。
前髪に隠れたエリンの双眸から透明な雫が数滴、落ちた。
レヴィはエリンが立ち去るのを見ると隠れていた木陰から姿を現し、やれやれと嘆息する。ガゼボのテーブルの上にエリンの魔法の杖が置かれていたのだ。魔法の愛し子には特別の剣や杖が国から支給される。その特別な杖を忘れたのだ。迂闊にもほどがある。使用人に持っていってもらってはまずかろう、レヴィ自ら行かねばなるまい。
魔法院へダグラス伯爵家の家紋入りの箱馬車で送られて、エリンは馬車から降りる。今すぐにでも心読みの薬を生成せねばと自室へと急いで戻る。今日こそ心読みの薬を生成せねば。自分の部屋に戻り、資料と大事な場所に隠してある賢者の石を出す。虹色に輝く、希少なアイテムである賢者の石をかざしてみる。賢者の石から出来る魔法薬全集を片手にエリンは集めた魔法薬の素を机に出す。
大きな鍋に水を入れて湯を沸かす。そして魔法の呪文を唱えながら心読みの魔法薬を作るアイテムを鍋に放り込んでいく。最後に賢者の石を放り込もうとした、その時。
「エリン」
エリンの部屋の扉を叩かれる音がした。そして、レヴィの自分の名を呼ぶ声がエリンには聞こえた。レヴィが今までエリンを訪ねて来たことなど一度もない。それに実家ならともかく、何故魔法院の自分の部屋に訪れたのだ。エリンは混乱して、唱える魔法の呪文を一小節間違えてしまった。
賢者の石が虹色もとい七色に発光して、爆発した。七色の光の発現と共に凄まじい爆発音がその場に響いた。爆発音にハッとしたレヴィは、扉を蹴破りエリンの姿を探す。白い煙と臭気が立ち込める中、エリンは七色の光の膜に包まれて、守られていた。
「……」
レヴィは一瞬、現実を忘れたようにその神秘的な光景に見入った。信じられないと深紅の瞳を瞬かせる。が、正気を取り戻し、時間をかけてエリンを包みこむ七色の膜を炎を使い、取り除いた。信じられない現実にさすがのレヴィも戸惑う。
しかし、エリンはこのスペンサー王国の最高位の蒼のマントを持つ魔導師ステラの弟子にして、水の精霊の女王の愛し子。
そのエリンが持つ神秘の力が奇跡を起こしたのか、とレヴィは自分を納得させた。
今までも冷たい関係ではあったが、少しはましだった。
だけど。
エリンを見ることもなく、口にしたのは二言のみ。
十二歳から十八歳までの六年間、耐えに耐えてきたエリンの我慢の糸がぷつりと切れた。
(そっちがそうくるなら、こっちもこっちよ!)
エリンは今現在、魔法院で魔法オタクの魔法使いとして大人しく振る舞ってはいるが、元来負けん気の強い性格である。以前から考えていたレヴィに大嫌いな義理妹クロエを押し付ける計画を今こそ実行する時だと決意する。
(何を考えているのかわからないレヴィ様の心を読んでやるわ!)
座っていた椅子を蹴とばさん勢いで立ち上がり、ずかずかと大股で立ち去ろうとした。エリンはぎょっとする。目の前にレヴィが居たのだ。今度はなんだ、とエリンの身体は強張る。
レヴィは、ルビーを連想させる綺麗な瞳をエリンに向けて一言。
「マナーの勉強はしているのか?」
とだけ呟いた。
今の行為を見られていたのだ、自分のマナーを正面から咎められるのではなく、言葉で歪曲的に責められた。
その瞬間、エリンの切れた我慢の糸がぷつーんとブチ切れた。
しかし、ここはダグラス伯爵家のタウンハウスだ。
実の父親ベンの面子もある。
エリンは堪えて、笑顔で答えた。
「誰かさんが、塩対応するので切れまして」
おほほとおまけに笑ってやる。
エリンの正面からの嫌味にレヴィもぎょっとした顔をする。
だけど。
それは一瞬のこと。
「そうか」
とエリンに興味なさそうに身を翻して去っていった。
残されたエリンの頭は怒りで一杯だった。
二人きりにさせようとレヴィの父親の気遣いで人払いはされているが、人の目はあるのでエリンは必死に堪える。
名門貴族の跡取り息子と成り上がりの商人の娘。
元々相容れない婚約者同士ではあった。
見下す価値もないと言わんばかりのレヴィのこの6年間の態度の数々はエリンの心を傷つけてきた。
いつの間にか期待もしなくなった。それでも最初、エリンは嬉しかったのだ。レヴィが婚約者で。
綺麗な婚約者にときめいた過去もあったのだ。
前髪に隠れたエリンの双眸から透明な雫が数滴、落ちた。
レヴィはエリンが立ち去るのを見ると隠れていた木陰から姿を現し、やれやれと嘆息する。ガゼボのテーブルの上にエリンの魔法の杖が置かれていたのだ。魔法の愛し子には特別の剣や杖が国から支給される。その特別な杖を忘れたのだ。迂闊にもほどがある。使用人に持っていってもらってはまずかろう、レヴィ自ら行かねばなるまい。
魔法院へダグラス伯爵家の家紋入りの箱馬車で送られて、エリンは馬車から降りる。今すぐにでも心読みの薬を生成せねばと自室へと急いで戻る。今日こそ心読みの薬を生成せねば。自分の部屋に戻り、資料と大事な場所に隠してある賢者の石を出す。虹色に輝く、希少なアイテムである賢者の石をかざしてみる。賢者の石から出来る魔法薬全集を片手にエリンは集めた魔法薬の素を机に出す。
大きな鍋に水を入れて湯を沸かす。そして魔法の呪文を唱えながら心読みの魔法薬を作るアイテムを鍋に放り込んでいく。最後に賢者の石を放り込もうとした、その時。
「エリン」
エリンの部屋の扉を叩かれる音がした。そして、レヴィの自分の名を呼ぶ声がエリンには聞こえた。レヴィが今までエリンを訪ねて来たことなど一度もない。それに実家ならともかく、何故魔法院の自分の部屋に訪れたのだ。エリンは混乱して、唱える魔法の呪文を一小節間違えてしまった。
賢者の石が虹色もとい七色に発光して、爆発した。七色の光の発現と共に凄まじい爆発音がその場に響いた。爆発音にハッとしたレヴィは、扉を蹴破りエリンの姿を探す。白い煙と臭気が立ち込める中、エリンは七色の光の膜に包まれて、守られていた。
「……」
レヴィは一瞬、現実を忘れたようにその神秘的な光景に見入った。信じられないと深紅の瞳を瞬かせる。が、正気を取り戻し、時間をかけてエリンを包みこむ七色の膜を炎を使い、取り除いた。信じられない現実にさすがのレヴィも戸惑う。
しかし、エリンはこのスペンサー王国の最高位の蒼のマントを持つ魔導師ステラの弟子にして、水の精霊の女王の愛し子。
そのエリンが持つ神秘の力が奇跡を起こしたのか、とレヴィは自分を納得させた。
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