あなたの心に触れたい

清里優月

文字の大きさ
上 下
3 / 4

3

しおりを挟む
 生徒会の部屋の扉を開くとあの桜の下で出逢った少女が親友の一樹と話していた。

 奏が扉を開けた音に少女はびっくりして振り返り、あの黒曜石の瞳で奏を見る。

 奏はその瞳から目が離せなくて、思わず視線を返す。一瞬視線が交差した。

 少女には何も視えない。あるのは少女が身に纏う透明な空気と少し不思議な自分への視線だけ。



「おい、奏!」

 何回か呼ばれていたのであろう友人の問いかけにはっとする。

「一樹……。いたのか」

 思わず本音が漏れて一樹に苦笑される。

「蒼ちゃんと二人で世界作るなよなー。俺もいたんですけど」

「ち、違う……。何でき、君がここにいるんだと思って……」

 自分が真っ赤になりしどろもどろになっているのを自覚しながら一樹に言い返す。

「山村留学生代表で生徒会を手伝ってくれることになったんだよ。お前、一回会ってんだろ。前野蒼ちゃん、ちなみに晶の同室で友達」

 一樹の言葉を受けて蒼がぺこりと頭を下げて自己紹介する。

「前野蒼です。折角山村留学してきたんだから生徒会にも参加してみようと思って今日から宜しくお願いします」

 さっきまでの透明な空気は一変する。明るいはきはきとした物言いの普通の女の子だ。奏はほっとして、蒼に笑いかけた。

「えーと名波奏です。ごめん、一回会ってたのに名前覚えてなかった……」

 桜色の花弁と戯れていた淡い色のイメージが強すぎて、まさかイメージと違う名前を忘れていたとは言えなかった。それを知らない蒼は少しむっとしたような顔をする。

「えーと、本当にごめん」

 奏の言葉に自分の気持ちが顔に出てしまっていることに気づいた蒼は真っ赤になり、ぶんぶんと首を振った。



 それから毎日蒼は生徒会に顔を出して手伝いとしてくれることになった。

初日と二回目に出逢ったあの不思議な自分への視線を蒼から感じることはなく、蒼は唯の明るい元気な女の子だった。なのに時折、不思議な感覚を味わう。

「はい。名波会長。コピーです」

 と蒼が差し出した用紙に手を伸ばして、手が触れた瞬間。

 ふわりと空気が一変する。蒼の身に纏う空気が透明な空気に変る。

(俺は視ているのか……?前野蒼は一体……)



 本当に前野蒼という少女はどういう存在なのだろうかと奏は調子を狂わされる自分を自覚しつつ不審に思い始めていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

こちら夢守市役所あやかしよろず相談課

木原あざみ
キャラ文芸
異動先はまさかのあやかしよろず相談課!? 変人ばかりの職場で始まるほっこりお役所コメディ ✳︎✳︎ 三崎はな。夢守市役所に入庁して三年目。はじめての異動先は「旧館のもじゃおさん」と呼ばれる変人が在籍しているよろず相談課。一度配属されたら最後、二度と異動はないと噂されている夢守市役所の墓場でした。 けれど、このよろず相談課、本当の名称は●●よろず相談課で――。それっていったいどういうこと? みたいな話です。 第7回キャラ文芸大賞奨励賞ありがとうございました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

職業、種付けおじさん

gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。 誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。 だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。 人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。 明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載中

【完結】ホワイトローズの大敗

yukimi
キャラ文芸
『ウェインは今日から一年以内に結婚するか、しないか』  無口で冷酷無感情、女嫌いと揶揄されるウェインを酒の肴に、なんの間違いか、酒場『ホワイトローズ』で大博打が始まった。  参加したのは総勢百二十八人。  結婚する相手すら存在しない本人も賭けに参加し、彼はたった一年間、誰とも結婚しないだけで大金を得られる身の上となった。  ところが大変残念なことに、運命で結ばれたヘレンが掃除婦としてウェインの家へやって来る。  酒場では『(誰でも良いから)ウェインに結婚させたい派』と、彼に恋人ができることさえ危機と感じる『結婚させたくない派』が暗躍する中、うっかりヘレンを住み込みにしてしまうウェイン。  狂人の大富豪やら恋敵からヘレンを守りながら、恋に不器用な男は果たして結婚せずに一年を逃げ切ることができるのか――?  場所は架空の街コヴェン、時代設定はスマホが登場するより少し前の現代です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

これもなにかの縁ですし 〜あやかし縁結びカフェとほっこり焼き物めぐり

枢 呂紅
キャラ文芸
★第5回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました!応援いただきありがとうございます★ 大学一年生の春。夢の一人暮らしを始めた鈴だが、毎日謎の不幸が続いていた。 悪運を祓うべく通称:縁結び神社にお参りした鈴は、そこで不思議なイケメンに衝撃の一言を放たれてしまう。 「だって君。悪い縁(えにし)に取り憑かれているもの」 彼に連れて行かれたのは、妖怪だけが集うノスタルジックなカフェ、縁結びカフェ。 そこで鈴は、妖狐と陰陽師を先祖に持つという不思議なイケメン店長・狐月により、自分と縁を結んだ『貧乏神』と対峙するけども……? 人とあやかしの世が別れた時代に、ひとと妖怪、そして店主の趣味のほっこり焼き物が交錯する。 これは、偶然に出会い結ばれたひととあやかしを繋ぐ、優しくあたたかな『縁結び』の物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

呪いの三輪車――え、これホラー? いや、色々な意味で。

されど電波おやぢは妄想を騙る
キャラ文芸
 表題通り、大枠で合ってます。  ――何処が⁉︎(笑)  ある意味と言うか、色々違う意味でホラー。  作風に抑圧された筆者が、ギャグニウム補填と言う崇高な目的の為に晒している、筆者による筆者の為の筆者的気分転換な内容がないよう〜な怪文書、みたいな?  ふう。  そこ、笑ちゃうトコね。(-.-;)y-~~~  そして原則、全編ギャグです。  そして原則、全編ギャグなんです!  大事なことなので、二度記しておきます。  ま、サラっと読み捨てて下さい。(笑)  ふう。ここも、笑うトコね。(-.-;)y-~~~

処理中です...