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生徒会の部屋の扉を開くとあの桜の下で出逢った少女が親友の一樹と話していた。
奏が扉を開けた音に少女はびっくりして振り返り、あの黒曜石の瞳で奏を見る。
奏はその瞳から目が離せなくて、思わず視線を返す。一瞬視線が交差した。
少女には何も視えない。あるのは少女が身に纏う透明な空気と少し不思議な自分への視線だけ。
「おい、奏!」
何回か呼ばれていたのであろう友人の問いかけにはっとする。
「一樹……。いたのか」
思わず本音が漏れて一樹に苦笑される。
「蒼ちゃんと二人で世界作るなよなー。俺もいたんですけど」
「ち、違う……。何でき、君がここにいるんだと思って……」
自分が真っ赤になりしどろもどろになっているのを自覚しながら一樹に言い返す。
「山村留学生代表で生徒会を手伝ってくれることになったんだよ。お前、一回会ってんだろ。前野蒼ちゃん、ちなみに晶の同室で友達」
一樹の言葉を受けて蒼がぺこりと頭を下げて自己紹介する。
「前野蒼です。折角山村留学してきたんだから生徒会にも参加してみようと思って今日から宜しくお願いします」
さっきまでの透明な空気は一変する。明るいはきはきとした物言いの普通の女の子だ。奏はほっとして、蒼に笑いかけた。
「えーと名波奏です。ごめん、一回会ってたのに名前覚えてなかった……」
桜色の花弁と戯れていた淡い色のイメージが強すぎて、まさかイメージと違う名前を忘れていたとは言えなかった。それを知らない蒼は少しむっとしたような顔をする。
「えーと、本当にごめん」
奏の言葉に自分の気持ちが顔に出てしまっていることに気づいた蒼は真っ赤になり、ぶんぶんと首を振った。
それから毎日蒼は生徒会に顔を出して手伝いとしてくれることになった。
初日と二回目に出逢ったあの不思議な自分への視線を蒼から感じることはなく、蒼は唯の明るい元気な女の子だった。なのに時折、不思議な感覚を味わう。
「はい。名波会長。コピーです」
と蒼が差し出した用紙に手を伸ばして、手が触れた瞬間。
ふわりと空気が一変する。蒼の身に纏う空気が透明な空気に変る。
(俺は視ているのか……?前野蒼は一体……)
本当に前野蒼という少女はどういう存在なのだろうかと奏は調子を狂わされる自分を自覚しつつ不審に思い始めていた。
奏が扉を開けた音に少女はびっくりして振り返り、あの黒曜石の瞳で奏を見る。
奏はその瞳から目が離せなくて、思わず視線を返す。一瞬視線が交差した。
少女には何も視えない。あるのは少女が身に纏う透明な空気と少し不思議な自分への視線だけ。
「おい、奏!」
何回か呼ばれていたのであろう友人の問いかけにはっとする。
「一樹……。いたのか」
思わず本音が漏れて一樹に苦笑される。
「蒼ちゃんと二人で世界作るなよなー。俺もいたんですけど」
「ち、違う……。何でき、君がここにいるんだと思って……」
自分が真っ赤になりしどろもどろになっているのを自覚しながら一樹に言い返す。
「山村留学生代表で生徒会を手伝ってくれることになったんだよ。お前、一回会ってんだろ。前野蒼ちゃん、ちなみに晶の同室で友達」
一樹の言葉を受けて蒼がぺこりと頭を下げて自己紹介する。
「前野蒼です。折角山村留学してきたんだから生徒会にも参加してみようと思って今日から宜しくお願いします」
さっきまでの透明な空気は一変する。明るいはきはきとした物言いの普通の女の子だ。奏はほっとして、蒼に笑いかけた。
「えーと名波奏です。ごめん、一回会ってたのに名前覚えてなかった……」
桜色の花弁と戯れていた淡い色のイメージが強すぎて、まさかイメージと違う名前を忘れていたとは言えなかった。それを知らない蒼は少しむっとしたような顔をする。
「えーと、本当にごめん」
奏の言葉に自分の気持ちが顔に出てしまっていることに気づいた蒼は真っ赤になり、ぶんぶんと首を振った。
それから毎日蒼は生徒会に顔を出して手伝いとしてくれることになった。
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ふわりと空気が一変する。蒼の身に纏う空気が透明な空気に変る。
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