あなたの心に触れたい

清里優月

文字の大きさ
上 下
1 / 4

1

しおりを挟む
探す流浪の旅人の如く。

 自分の居場所。

 それが私。



 冷たい水の中で深海魚のように海を漂う。海の如き紺青の空に泡のような白い星たち。真夜中の冬の東京。聴こえる恐怖と戦う日々。戦場のような毎日。



 ふらりと帰りたくない自宅に帰ると又自分の事について揉めている両親。

「あの子が学校に行かなくなってもう半年よ!」

 だんとテーブルを叩く母親とそれを無視してテレビを見る父親。

「……」

 両親の声が聴こえる。



『蒼あおいは又ふらりと外へ出てこの人は無視。この家は私が居なくなったら崩壊するわ!』

『どうしようもないだろう……。行きたくないならほうっておけ。俺は仕事で疲れているのに。

ったくどうしようもない』

 母親の叫びと父親の無関心な本音。



(……もうこの家は崩壊している)

 醒めた目で蒼は両親の諍いを一瞥して、すっと自分の部屋へと向かう。

 部屋で父親が居なくなるまで眠り、母親の溜息と共に朝食と昼食を食べて、父親が戻る夕食時にぶらりと外へ夢遊病者のように散歩へ出る。



 それを一年近く繰り返してこの山田町へやってきた。



 桜の綺麗な薄紅色の花弁が舞う山田高校の入学式。散った桜の花弁を手で掬い、ふわりと少女が戯れていた。くるくると踊っているように風と桜の花びらと遊んでいるように奏には見えた。思わず拳で目を擦る。



 翠の長い黒髪に黒曜石を連想させる大きな双眸にセーラー服。昔の女子学生のような美少女。



 奏はこの高校に山村留学にやってきた外部からの入学生を迎えに来た山田高校の生徒会長だ。

奏も外部からの留学生(山田町ではこう呼ばれている)で奏にはこの山田町へ入学してきた理由がある。奏には視える力がある妖や人外のものの類。都会にはそういうものが溢れていてこの田舎である山田町ならばのんびりした善良な人々と呑気な同級生に囲まれて奏は生まれて初めてゆったりとした日々を送っていた。



(なんだ、精霊かと思った……。妖でもない。人間だ……全く視えるのも楽じゃない)

 深呼吸をして、少女に声をかける。



「前野蒼さん?生徒会長の名波奏です」

 出迎えの挨拶も兼ねて自分の名を奏は名乗った。奏の声より先に少女は振り返り、じっと黒曜石の瞳で奏を凝視していたらしい。こくんと頷くと奏に近付いてきた。

「はい。前野蒼です。宜しくお願いします」

 静かな声で返してきた。まだちらりちらりと視線を気づかれないように蒼は奏の方へやってくる。その視線に戸惑いつつ奏は生徒会長としての職務を果たすべく蒼に説明を始めた。



 山田町の山村留学生の制度の事。部活や委員会、寮の事等を説明した。留学生は寮か又は下宿するかどちらかだ。蒼は寮に入寮するので寮について詳しく話した。じっと蒼から凝視されて居心地が悪く説明は手短にすませ、学内を案内する。



 私立山田高校はキリスト教の学校である。故に木造のレトロな外観に中は最新の造りの本校に

白い可愛らしい教会に学内にある女子寮も木造の可愛らしい二階建ての造りである。

「わあー」

 思わず溜息を漏らす蒼に奏は苦笑して

「女の子にはうちの学校は人気あるんだ。可愛いみたいだからね。じゃあ、これから寮長に案内してもらって。僕はここまで」

 と友人から穏やかと評される態度で返しつつ、蒼の黒い大きな双眸に見つめられずにすむかと思うとほっとした。自分の中の何かを見抜かれているような気がして落ち着かなかった。



 だけど、桜の下でふわりふわりと戯れる少女を眩しげに見た自分が居たのも事実。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

月下のヴェアヴォルフ

幽零
キャラ文芸
先の大戦で活躍した、超人部隊。 その英雄達も平和な時代の到来で、用済みになった。 平和な時代が到来した某国「アトラ」では、政府関係者達が次々殺害される事件が発生していた。 英雄は、影の執行者へ…… イラスト 十六夜 様

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

職業、種付けおじさん

gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。 誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。 だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。 人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。 明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載中

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】ホワイトローズの大敗

yukimi
キャラ文芸
『ウェインは今日から一年以内に結婚するか、しないか』  無口で冷酷無感情、女嫌いと揶揄されるウェインを酒の肴に、なんの間違いか、酒場『ホワイトローズ』で大博打が始まった。  参加したのは総勢百二十八人。  結婚する相手すら存在しない本人も賭けに参加し、彼はたった一年間、誰とも結婚しないだけで大金を得られる身の上となった。  ところが大変残念なことに、運命で結ばれたヘレンが掃除婦としてウェインの家へやって来る。  酒場では『(誰でも良いから)ウェインに結婚させたい派』と、彼に恋人ができることさえ危機と感じる『結婚させたくない派』が暗躍する中、うっかりヘレンを住み込みにしてしまうウェイン。  狂人の大富豪やら恋敵からヘレンを守りながら、恋に不器用な男は果たして結婚せずに一年を逃げ切ることができるのか――?  場所は架空の街コヴェン、時代設定はスマホが登場するより少し前の現代です。

処理中です...