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41話 運命が回りだす時4
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リチャードが引き裂かれる思いで、ヒカルとの別れを決意したその時、ヒカルはハンガーストライキを決行していた。軟禁状態の居室から出し貰う為に光の王に会いたいと訴えたのだ。
ただ、ヒカルはこの部屋を出て、リチャードに会ってその想いを伝えたかった。それがどういう結果に転ぼうとも。リチャードは、ウィル王に内定しているのだ、ウィル神界へ帰ってしまうだろうから。お互いにもう会えないだろう、だから最後に告げたいのだ。
あなたを愛していると。
ハンガーストライキを決行して三日目。
最初は良かったが、ヒカルはあまりの空腹に意識を失った。
意識を取り戻したのは数時間後だったと思う。
目の前にコトハと光の王である祖父がいた。祖父とは、何度か顔を合わせていて、何故かヒカルを可愛がってくれていた。今なら分かる、一番可愛がっていた最初の子、ヒカリの子どもだったからだ、ヒカルが。
「……ヒカル」
コトハは泣きそうで新緑の双眸が潤んでいる。腕を引っ張ると点滴が右腕に刺さっていた。栄養剤らしい。朦朧とした意識の中、体を無理矢理起こして、コトハに頷く。
「ヒカル! ごめんね! ヒカリが独断で勝手に動いていて、私が気付くのが遅くなったの!」
コトハにぎゅうっと抱き締められる。今までウィザードの長官と予言の姫として接していたコトハは、上役としてしか話してこなかったが、こうやって親族として触れてくるのは始めてだ。
「コトハ様、おじいちゃん……」
こくりと厳しい顔をして、光の王であるチャーリーはヒカリの問いかけに頷いた。白髪の短髪にヒカルと同じ濃い青の双眸をしている。整った鼻筋に厳しい口元。元光の王国の軍人でもあったため、身長が高く逞しく厳めしい印象だ。
「すまない、ヒカル。私も気付くのが遅くてな。光の王族の一部が暴走して、今回の監禁を行ったらしい。コトハ様と手分けをして、その一派を叩いた。そこで奴らがヒカルの監禁された部屋を吐いた」
コトハは、まだ瞳を潤ませながら頷いた。
「そうなの。そこでヒカルが倒れていて……。ごめんね、ごめんね。ヒカル、私がヒカリを甘く見ていたわ。あんなにウィル神族を恨んでいたなんて思わなかったの。まだアレックス様に想いを残していたしと」
ヒカルを抱き締めながら、コトハがヒカルに謝罪する。
「うん……。わかってます、コトハ様とおじいちゃんのせいじゃないわ。私がリチャードさんとのことをお母さんに言うべきだったの。自分とリチャードさんとのことで頭が一杯で、お母さんにまで気が回らなくて……。お母さん傷ついたろうなあ」
ここまでされて、尚も母親のヒカリを気遣うヒカルにどこまで人がいいのだとコトハとチャーリーは、絶句する。
「ヒカル……」
「私ね、前にオーレリーだった時にたくさん人を傷つけた。だから、今は償いたいの」
コトハは、ヒカルを抱き締めながらはっきりと断言する。
「ヒカル、それは違うわ。それはヒカリに問題があるの。いくら過去にウィル神族に傷つけられたとはいえ、我が子とその恋人を傷つけていい訳がないわ。自分の子の犠牲の上に成り立つ正義なんてないわ」
コトハは、まだ3歳の娘がいる。同じ母親として宣言する。ヒカルは二人と話している内に安心して、お腹がぐーっとなった。二人は目が点になる。
「おじいちゃん、コトハ様、お腹すいた~!」
緊張感のないヒカルに、二人は噴き出す。オートミールを軽くヒカルは、食べてお腹を満たす。お腹が満たされて、ヒカルは、頭が正常に動き出す。ヒカルは、考え出した。リチャードは、在シルフィードのウィル神聖王国の大使館に軟禁されていると光の王族の見知らぬ輩がぺらぺらとヒカルに話したのだ。どうせ軟禁場所から出られないだろうと思われていたからだろう。
(リチャードさんに会いたい! 会って正直な気持ちを伝えないと……)
ヒカルは、両手をぎゅっと握りしめる。だが、まだ弱った身体を回復させないといけない。気を急いてはいけない。焦らないで落ち着かないと。ヒカルは呼吸を整えようとした。
「ヒカル、カーライル公爵に会いたいのね?」
ヒカルの胸の内を読んだ、コトハが言葉を紡ぐ。コトハもチャーリーも急に黙り込んだ。ヒカルは、二人の様子にリチャードに何かあったのだと察するが、首を縦に振る。コトハとチャーリーの二人は顔を見合わせて、ため息を吐いた。
「実はね、ヒカル、ヒカル宛てにカーライル公爵から手紙が届いているの……」
コトハが、鞄から手紙を取り出す。
ヒカルは手紙を受け取り、開く。流麗なリチャードの字で書かれたウィル神聖語の手紙には、こう簡単に書かれていた。前王太子の遺志を汲み取り、次期ウィル王として王太子の地位につくのでヒカルと別れると。ヒカルは、冷静に手紙を読み、閉じた。
「……ヒカル?」
自分を心配そうに視線を注ぐ祖父とコトハに、ヒカルは落ち着いた声音で返す。
「うん、多分もう二度と会えないと思っていたの。だから身体を回復させたら会いに行くわ」
ヒカルは毅然とした声ではっきりと自分の意志を告げる。
「ヒカル!」
「ヒカル……」
ヒカルは、不安そうな二人に向かって微笑む。
「大丈夫。光魔法を使って、大使館に忍び込むわ。そして、リチャードさんに別れを告げてくるわ」
ヒカルの笑みは静かで穏やかだった。
ただ、ヒカルはこの部屋を出て、リチャードに会ってその想いを伝えたかった。それがどういう結果に転ぼうとも。リチャードは、ウィル王に内定しているのだ、ウィル神界へ帰ってしまうだろうから。お互いにもう会えないだろう、だから最後に告げたいのだ。
あなたを愛していると。
ハンガーストライキを決行して三日目。
最初は良かったが、ヒカルはあまりの空腹に意識を失った。
意識を取り戻したのは数時間後だったと思う。
目の前にコトハと光の王である祖父がいた。祖父とは、何度か顔を合わせていて、何故かヒカルを可愛がってくれていた。今なら分かる、一番可愛がっていた最初の子、ヒカリの子どもだったからだ、ヒカルが。
「……ヒカル」
コトハは泣きそうで新緑の双眸が潤んでいる。腕を引っ張ると点滴が右腕に刺さっていた。栄養剤らしい。朦朧とした意識の中、体を無理矢理起こして、コトハに頷く。
「ヒカル! ごめんね! ヒカリが独断で勝手に動いていて、私が気付くのが遅くなったの!」
コトハにぎゅうっと抱き締められる。今までウィザードの長官と予言の姫として接していたコトハは、上役としてしか話してこなかったが、こうやって親族として触れてくるのは始めてだ。
「コトハ様、おじいちゃん……」
こくりと厳しい顔をして、光の王であるチャーリーはヒカリの問いかけに頷いた。白髪の短髪にヒカルと同じ濃い青の双眸をしている。整った鼻筋に厳しい口元。元光の王国の軍人でもあったため、身長が高く逞しく厳めしい印象だ。
「すまない、ヒカル。私も気付くのが遅くてな。光の王族の一部が暴走して、今回の監禁を行ったらしい。コトハ様と手分けをして、その一派を叩いた。そこで奴らがヒカルの監禁された部屋を吐いた」
コトハは、まだ瞳を潤ませながら頷いた。
「そうなの。そこでヒカルが倒れていて……。ごめんね、ごめんね。ヒカル、私がヒカリを甘く見ていたわ。あんなにウィル神族を恨んでいたなんて思わなかったの。まだアレックス様に想いを残していたしと」
ヒカルを抱き締めながら、コトハがヒカルに謝罪する。
「うん……。わかってます、コトハ様とおじいちゃんのせいじゃないわ。私がリチャードさんとのことをお母さんに言うべきだったの。自分とリチャードさんとのことで頭が一杯で、お母さんにまで気が回らなくて……。お母さん傷ついたろうなあ」
ここまでされて、尚も母親のヒカリを気遣うヒカルにどこまで人がいいのだとコトハとチャーリーは、絶句する。
「ヒカル……」
「私ね、前にオーレリーだった時にたくさん人を傷つけた。だから、今は償いたいの」
コトハは、ヒカルを抱き締めながらはっきりと断言する。
「ヒカル、それは違うわ。それはヒカリに問題があるの。いくら過去にウィル神族に傷つけられたとはいえ、我が子とその恋人を傷つけていい訳がないわ。自分の子の犠牲の上に成り立つ正義なんてないわ」
コトハは、まだ3歳の娘がいる。同じ母親として宣言する。ヒカルは二人と話している内に安心して、お腹がぐーっとなった。二人は目が点になる。
「おじいちゃん、コトハ様、お腹すいた~!」
緊張感のないヒカルに、二人は噴き出す。オートミールを軽くヒカルは、食べてお腹を満たす。お腹が満たされて、ヒカルは、頭が正常に動き出す。ヒカルは、考え出した。リチャードは、在シルフィードのウィル神聖王国の大使館に軟禁されていると光の王族の見知らぬ輩がぺらぺらとヒカルに話したのだ。どうせ軟禁場所から出られないだろうと思われていたからだろう。
(リチャードさんに会いたい! 会って正直な気持ちを伝えないと……)
ヒカルは、両手をぎゅっと握りしめる。だが、まだ弱った身体を回復させないといけない。気を急いてはいけない。焦らないで落ち着かないと。ヒカルは呼吸を整えようとした。
「ヒカル、カーライル公爵に会いたいのね?」
ヒカルの胸の内を読んだ、コトハが言葉を紡ぐ。コトハもチャーリーも急に黙り込んだ。ヒカルは、二人の様子にリチャードに何かあったのだと察するが、首を縦に振る。コトハとチャーリーの二人は顔を見合わせて、ため息を吐いた。
「実はね、ヒカル、ヒカル宛てにカーライル公爵から手紙が届いているの……」
コトハが、鞄から手紙を取り出す。
ヒカルは手紙を受け取り、開く。流麗なリチャードの字で書かれたウィル神聖語の手紙には、こう簡単に書かれていた。前王太子の遺志を汲み取り、次期ウィル王として王太子の地位につくのでヒカルと別れると。ヒカルは、冷静に手紙を読み、閉じた。
「……ヒカル?」
自分を心配そうに視線を注ぐ祖父とコトハに、ヒカルは落ち着いた声音で返す。
「うん、多分もう二度と会えないと思っていたの。だから身体を回復させたら会いに行くわ」
ヒカルは毅然とした声ではっきりと自分の意志を告げる。
「ヒカル!」
「ヒカル……」
ヒカルは、不安そうな二人に向かって微笑む。
「大丈夫。光魔法を使って、大使館に忍び込むわ。そして、リチャードさんに別れを告げてくるわ」
ヒカルの笑みは静かで穏やかだった。
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