元悪役令嬢の私が別人と思われて元婚約者に告白された件について

清里優月

文字の大きさ
上 下
45 / 51

40話 運命が回りだす時3

しおりを挟む
 天空界の光の王国であるウェルリース王国は純血主義を貫いている王国だ。その血筋は天空界で一番古く、光の錫杖を操った光の女王であり、光の聖女たる名もなき少女から歴史が始まった。今やこの天空界を統べる祈りの姫や光のそのつがいである光の神器使いや光の杖の神器使いを輩出する名門であり、ウィル神族の侵入を許さない者が集まる国でもある。

 その王国は小さいが自然豊かな美しい牧草地帯と畑からなり、シルフィード国への輸出で成り立っている国でもある。首都ウェルリースは、王族が住むウェルリース城は、小さいが白い建物に赤煉瓦の特徴ある丸屋根ととんがった三角の屋根からなる可愛らしい女性的なお城である。

 その中の一室にヒカルは半ば監禁状態で閉じ込められていた。ヒカルは、水色を基調としたシンプルで上品なワンピースを身に纏い、友布である水色のリボンで髪を結わかれていた。半月ほど前に、リチャードとの情事を実母であるヒカルに見られた。そして、次期ウィル王であるリチャードと光の杖の神器使いのヒカルの不祥事として、ウィル神聖王国とウェルリース王国に伝わり、沙汰が出るまでリチャードは、シルフィード国の在ウィル神聖大使館にヒカルはこのウェルリース王国へと謹慎となった。

 光の杖の神器使いは、半分しか光の王家の血を引いていなくても、現在の最大の光魔法の使い手であり、初代の光の聖女の名を付けられたヒカルは、光の王家からは喉が出るほど欲しい存在であった。その稀有な存在の少女が、次期ウィル王と通じていたのである、光の王家第一王女でヒカルの実母ヒカリからの訴えでウェルリース王家は、ヒカルを保護という名の軟禁状態へと置いた。

 与えられた滞在の間の居室は、小花柄の可愛らしい壁紙に女性らしい絵画が数点飾られて、出窓のカーテンは薄いピンク色で小型の長椅子が二点に低いソファ。テーブルにストライプのカーペットとベッドが置かれた可愛らしい部屋であった。軟禁される部屋ではない。

「リチャードさん……」

 ヒカルは、沈痛な面持ちでその愛くるしい円らな濃い青の瞳を曇らせていた。別れる時までヒカルはリチャードと引き離されていた。最後に彼にかけた言葉は大っ嫌いだった。その双眸を潤ませて、ヒカルは涙を散らす。

「あんなこと、言わなければ良かった……」

 最後に顔を合わせたのは、リチャードが家を出る時だった。ヒカルはリチャードに手を伸ばしたが、彼はヒカルを一瞥もしなかった。その秀麗な顔をヒカルからずっと背けていた。リチャードにとって、愛したのはヒカルだけだったのに、そのヒカルが彼の手を自分から離したのだ。リチャードは、もうヒカルを見ないだろう。

 だけど。

 ヒカルは、あの時そう言わなければ流されてずっとリチャードに執着されて一生を終えていたであろう。二人の気持ちを通じ合わせたかったのだ、ヒカルは。一緒に歩いて行きたかっただけ、だったのだ。

「何でこんなことに……」

 透明な雫をヒカルはその青の双眸から零した。
 ここを出て、リチャードの許へ行きたい、行って彼を愛していると告げたい。
 なのに自分は光魔法と風魔法を封じられて、この居室に軟禁されている。
 ヒカルは、何度も出してくれと部屋に出入りする侍女たちに訴えたが、誰も聞いてくれない。

 この部屋にたった一人でヒカルは、リチャードを思うだけ。

 リチャードは、在シルフィードのウィル神聖王国の大使館の一室にヒカルと同じく軟禁されていた。次期ウィル王とほぼ確定されていたリチャードが天空族の光の王家の血を引く光の杖の神器使いと通じていたのだ。それもリチャードから天空族の女性を閨に引っ張り込んでいたと光の神器使いの女性の叔母から告発があった。如何にウィル神族と天空族の婚姻が進んでも王家の血筋の源となる王には天空族の正妃は認められない。高位貴族たちはリチャードに天空族との女性との別れを迫ったが、彼は頑として首を縦に振らない。終いには次期王からの辞退を申し出てきた。

 相手の女性は、光の王国に軟禁されている。二人は物理的に会えない。今がチャンスであると、リチャードの親友だった前王太子がリチャードに残した遺言を盾に彼らはリチャードに王位を継ぐように迫った。これには流石のリチャードも断れなかった。前王太子は地獄に居たリチャードを救ってくれた恩人だったのだ。前に進むようにいつも彼を導いてくれた親友だった。

 もう一人、リチャードを救ってくれた少女がいた。金色の長い髪に青の円らな双眸に整った鼻筋。桜色の唇。華奢な肢体は抱き締めるとか細い。可憐な愛くるしい妖精のような天使の彼の最愛のつがい。いつも前を見て、潔く歩いていた素直で優しい少女。 好きで堪らない、今まで知らない人を愛する感情を教えてくれた彼の至高の存在。笑顔で彼を見つめてくれる唯一の。
 
 だが、彼は取らなくてはいけない、大事な存在のどちらかを。
 故に彼は選ぶ、苦渋の果てに前王太子を。

「ヒカル、済まない……」
 リチャードはヒカルとの別れを決意した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 「番外編 相変わらずな日常」 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

処理中です...