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35話 親には内緒の関係にしてください!4

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 ヒカルは隣に人の温もりを感じて、目を覚ます。今日は大学の試験はない。午後からレポート提出に大学に行かなければいけないが、もう既にレポートは完成している。もうひと眠りしようと毛布を引っ張る。ぐいっと身体を抱き寄せられた。

「眠い……からほっといて」
 誰だと思考がまだ眠気に呑まれてヒカルの頭はぼーっとしている。目を擦りながら不機嫌そうに相手を睨みつける。おかしそうな顔で笑うリチャードが自分のベッドに裸のままでいた。ヒカルは一気に覚醒する。

「いつもヒカルが先に目が覚めて俺を置いて行っていたのにな」
 くすくすと笑いながらキスをヒカルに落とす。啄むようなキスが何回も繰り返される。リチャードの逞しい身体に抱き締められて、ヒカルは顔を赤らめる。いつもはヒカルが朝早く目が覚めて身支度をしていたり、大学があるからリチャードを置いて出て行っていたのだ。情事の後を感じさせて、リチャードは何だか色気がある。普通男女逆だろうとヒカルは、脳内で一人でつっこむ。

 今までは夜に抱かれていたので良かった。眩しい朝の光の中で事後の自分を見られるのは恥ずかしい。
「ひゃあ!」
 リチャードに身体をベッドに押し倒されて、ヒカルは悲鳴を上げる。
「ヒカル……」
 ヒカルに覆いかぶさって、自分の名前をリチャードに甘く囁かれる。ヒカルは身の危険を感じる。いくら何でも朝から止めてくれと。この甘い空気を変えようとリチャードに話しかける。

「リチャードさん、お仕事は?」
「今日は午後からだ」
 げっとヒカルは、顔をこわばらせる。リチャードは、ヒカルの金色の長い髪を指で弄びながら己の唇をヒカルの唇に重ねて、何度もヒカルの身体を甘く抱いた。

「ひ、酷い目に合った……」
 ヒカルは、レポートを提出して大学のカフェでテーブルに突っ伏していた。あの後、リチャードはヒカルが音を上げるまでヒカルを抱いて、ヒカルの身体を貪った。ヒカルは、欠伸をしながら考える。何だかリチャードは、いつも自分の家庭環境や過去を教えてくれない。ヒカルがその話を振ると無表情になり、黙る。過去にウィル神族のオーレリーだった頃、自分は彼の婚約者だったが何も知ろうとしてなかった。唯リチャードの見た目や身分に気を取られていた。今は違う、リチャードのことが好きだ。彼のことを知りたいと思う。でもそうすると彼はヒカルから距離を取ろうとする。いくら身体を重ねても、心が離れていたら普通なら満たされないのに。 

 リチャードは、ヒカルと身体を重ね合う事で何かを紛らわしているみたいにヒカルには思えた。リチャードの過去には何かがあるとヒカルは確信していた。リチャードの過去を知りたいが、それでリチャードとの今の関係が壊れそうでヒカルはリチャードとの今の境界線を覆せない。

「眠い……」
 再度ヒカルは大きな欠伸をする。寝不足もいい所だ。本当に自分はリチャードに甘いとヒカルはため息を吐いた。ヒカルは、後ろから声を掛けられた。

「ヒカル!」
 ヒカルが所属している推理ミステリー研究会のグレースでサークル内では一番親しい友人だ。ヒカルがウィザードで働いていることも知っている大学での唯一の友人である。

「何か眠そうね」
「うん、大学の試験やレポートで寝不足で」
 ヒカルが目を擦りながら眠いと唸ると、グレースがにやりと笑った。
「あの大学の正門の前で恋人宣言した人が原因?」
 ヒカルは眠気が一気に覚めて、顔を真っ赤にした。
「な……なっな」
 あまりにわかりやすいヒカルの反応にグレースは苦笑する。相手は、ウィル神界の貴族様なことも大学で噂になっている。今まで誰に告白されても断っていた大学の高嶺の花と影で称されていたヒカルである。見た目も可憐で性格も素直で優しいからもてる。そんなヒカルが選んだ男性だからどんな男性ひとだろうとグレースはミーハー心と友人として不器用なヒカルの相手が大丈夫か確認したいいう心配の気持ちで訊ねる。

「ヒカル! 恋人の男性の写真見せて!」
 興味本位というより友人としてのグレースの申し出にヒカルは迷うが、親しいグレースのお願いだ。リチャードの写真を見せる。グレースは、リチャードの写真を見て驚愕する。ヒカルも妖精のような可憐な愛くるしい美少女だが、ヒカルの彼氏は滅多にお目にかかれない美青年だ。涼やかな美貌にどこか色気を感じさせる紫の双眸に均整な身体つき。

「ヒカル~! 彼氏とどこで知り合ったの? こんなカッコいい男性ひとと! いいなあ!」
 ヒカルは固まる。まずい、グレースもリチャードの外見にやられている。ヒカルは、リチャードの外見ではなくて、中身が好きなのだ。見た目とは違う不器用な所や真摯で真面目で清廉な所が大好きなのだ。

 ヒカルはため息をひとつ落とした。
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