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29話 告白は道端で2
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我に返ったヒカルはリチャードに謝る。
「リチャードさんのせいにしてごめんなさい。は、恥ずかしくて……」
頬を紅潮させて、羞恥心に震えるヒカルがリチャードに謝罪する。まだ道の往来だ。リチャードは、抱き締めてキスしたかったが、人の目があるので、大丈夫というかわりにヒカルの頭を撫でるに留めた。二人はそっと立ち去ろうとしたが、他の人々より囃されてしまう。二人は慌ててその場を去った。
リチャードのホテルの部屋に入ると、ヒカルが噴き出した。青の双眸がくるくると愛くるしく表情を変える。
「ふふっ! おかしかった! あんな道の真ん中で告白し合って……」
こんな風に無邪気に振舞うヒカルは始めてで、リチャードは驚く。くすくすと声を出して笑っている。ふっとヒカルは、正気に戻った。
「リチャードさん、今までごめんなさい。私、リチャードさんのこと、最初ヒカルとしては、嫌いだったの。オーレリーとして婚約破棄されて、それで人生が180度変わってしまって。天空族のヒカルとしてやっと幸せになれたのに、それなのに一目惚れしたって押してくるから怖くて……」
ヒカルは青の大きな瞳を縁取る睫毛を上下させる。ヒカルは、ぎゅっと両手を握るがその手は震えていた。本当は黙っていても良かったのに、その気持ちを隠そうとするには彼女は正直すぎた。
「ヒカル……」
「ずっとリチャードさんが怖かった、知らないから仕方ない。でも、過去の自分を否定された相手に、好きって言われて。やっと幸福になれた今の人生も、壊されるんじゃないかって。なのに、ヒカルとして違う面でリチャードさんを好きになって、ずっと怖かった……」
ヒカルの青の双眸から透明な雫が溢れる。それがぼろぼろと溢れては落ちる。
「リチャードさん、あのね……」
ヒカルは必死に何かを伝えようとする。リチャードはヒカルの華奢な身体を引き寄せて抱き締める。その身体は危うげでか細い。
「ヒカル、もういい……。今まですまなかった……」
リチャードは指でヒカルの頬の涙を拭う。そして、唇を寄せようとした時、ヒカルに手で止められる。
「よくない! リチャードさんの悪いのはそこ! きちんと話そうとする相手に誤魔化そうとする! 私はリチャードさんの過去は知らない。だけど、現在(いま)は知ってるわ! きちんと話し合ってからいくらでもキスはできるよ!」
涙を溢れさせているのに、ヒカルはきっちり言い募る。リチャードはヒカルの勢いに押されて、頷く。
「す、すまない……」
「う、うん。ねえ、リチャードさんって、家のこと聞くとすぐに顔色変えるけど、話し合いとか嫌がるのはそのせい?」
ヒカルがリチャードの腕の中で、首を傾げる。リチャードは表情を硬くしたので、ヒカルは黙り込む。静寂が二人を包み込む。
「ごめんなさい、人に触れられたくない面があるよね……」
ヒカルは、自分が過去に人を傷つけてそのせいで自分も痛手を負った過去があるからこそ人の気持ちに敏感で、優しい。だからこそリチャードの痛い過去に触れなかった。ヒカルは、大人しくておっとりしている。そして、お人好しでどこまでも優しい少女だ。だからリチャードはヒカルに惹かれたのだろう。
「俺は……」
「うん」
ヒカルはこくんと頷く。
「過去はどうでもいい。今のヒカルが好きなんだ」
「リチャードさん……」
ヒカルの青の瞳は、リチャードのその紫の瞳を見抜く。困ったような感情を滲ませたヒカルの瞳は、困ったような戸惑うような感情に揺れる。そしてヒカルの手がリチャードの頭を撫でた。親からもされたことのない幼子を宥めるような仕草にリチャードはぽかんとする。そしてその手が自分から永遠に離れないといいと願った。
「リチャードさん、嬉しいけど、リチャードさんは何を怯えてるの? まるでリチャードさんと前の私の関係みたい。嫌なら聞かないけど、私の話は聞いて欲しいな」
よしよしとヒカルがリチャードの漆黒の短い髪を撫でる。その手は母親のような優しい手で。リチャードは幼い頃亡くした母の手を思い出した。リチャードはヒカルをぎゅっと抱き締めて、その小さな赤い唇に自分の唇を寄せた。何度も啄むような触れるだけの口づけを繰り返して、ヒカルの身体をぎゅっと自分の身体に寄せる。ヒカルの甘い柑橘系の芳香がリチャードの鼻腔をくすぐる。
始めてヒカルと出逢った時を回想する。その金色に染まった気丈な双眸。あの瞳に惹かれた。ウィル神族の女性と違うヒカルの気の強さ。弱い自分を受け止めて欲しかった。リチャードは王家の分家の長子としては有り得ない純粋な濃い紫の双眸を持って生まれた。ウィル王家の正当な跡継ぎが持って生まれる瞳の色彩。そして、カーライル公爵家の身分とその見た目から彼は周囲の期待に応えてきた。
そんな中、出逢った天使の少女はリチャードを困惑の瞳で見つめてきた。何の期待もない、そして彼の気持ちを否定してくる。ずっと求められるだけの彼の人生に彼女は違う色彩を与えた。ヒカルがどうしても欲しかった。嫌がる少女に自分の気持ちを押し付けていたのは気付いていた。だが、止めるつもりはなかった。諦めるには彼の人生は恵まれ過ぎていたし、手に入れられない物はなかった。手に入れると決めた彼は、天使の少女の気持ちを無視した。
ヒカルの唇とリチャードの唇が離れる。リチャードはヒカルの金色の長い髪を指で搦めて、自分の唇に寄せる。その甘い空気にヒカルは困惑する。
「ヒカル、俺は……」
「もういいよ……。リチャードさんの過去は聞かない。そのかわり私の話は聞いてね」
ふうとヒカルは溜息をついて、苦笑する。リチャードはヒカルの髪をもてあそびながら、首を縦に振る。
「私、こんなにリチャードさんが甘えたがりだと知らなかった」
ヒカルがリチャードの髪を撫でる。優しいヒカルの指がリチャードの髪を梳く。
「……」
やっと手に入れた少女をぎゅっとリチャードは抱き締める。そして、彼の態度に困り果てている己 番のの天使の少女が可愛くて、仕方なかった。
「リチャードさんのせいにしてごめんなさい。は、恥ずかしくて……」
頬を紅潮させて、羞恥心に震えるヒカルがリチャードに謝罪する。まだ道の往来だ。リチャードは、抱き締めてキスしたかったが、人の目があるので、大丈夫というかわりにヒカルの頭を撫でるに留めた。二人はそっと立ち去ろうとしたが、他の人々より囃されてしまう。二人は慌ててその場を去った。
リチャードのホテルの部屋に入ると、ヒカルが噴き出した。青の双眸がくるくると愛くるしく表情を変える。
「ふふっ! おかしかった! あんな道の真ん中で告白し合って……」
こんな風に無邪気に振舞うヒカルは始めてで、リチャードは驚く。くすくすと声を出して笑っている。ふっとヒカルは、正気に戻った。
「リチャードさん、今までごめんなさい。私、リチャードさんのこと、最初ヒカルとしては、嫌いだったの。オーレリーとして婚約破棄されて、それで人生が180度変わってしまって。天空族のヒカルとしてやっと幸せになれたのに、それなのに一目惚れしたって押してくるから怖くて……」
ヒカルは青の大きな瞳を縁取る睫毛を上下させる。ヒカルは、ぎゅっと両手を握るがその手は震えていた。本当は黙っていても良かったのに、その気持ちを隠そうとするには彼女は正直すぎた。
「ヒカル……」
「ずっとリチャードさんが怖かった、知らないから仕方ない。でも、過去の自分を否定された相手に、好きって言われて。やっと幸福になれた今の人生も、壊されるんじゃないかって。なのに、ヒカルとして違う面でリチャードさんを好きになって、ずっと怖かった……」
ヒカルの青の双眸から透明な雫が溢れる。それがぼろぼろと溢れては落ちる。
「リチャードさん、あのね……」
ヒカルは必死に何かを伝えようとする。リチャードはヒカルの華奢な身体を引き寄せて抱き締める。その身体は危うげでか細い。
「ヒカル、もういい……。今まですまなかった……」
リチャードは指でヒカルの頬の涙を拭う。そして、唇を寄せようとした時、ヒカルに手で止められる。
「よくない! リチャードさんの悪いのはそこ! きちんと話そうとする相手に誤魔化そうとする! 私はリチャードさんの過去は知らない。だけど、現在(いま)は知ってるわ! きちんと話し合ってからいくらでもキスはできるよ!」
涙を溢れさせているのに、ヒカルはきっちり言い募る。リチャードはヒカルの勢いに押されて、頷く。
「す、すまない……」
「う、うん。ねえ、リチャードさんって、家のこと聞くとすぐに顔色変えるけど、話し合いとか嫌がるのはそのせい?」
ヒカルがリチャードの腕の中で、首を傾げる。リチャードは表情を硬くしたので、ヒカルは黙り込む。静寂が二人を包み込む。
「ごめんなさい、人に触れられたくない面があるよね……」
ヒカルは、自分が過去に人を傷つけてそのせいで自分も痛手を負った過去があるからこそ人の気持ちに敏感で、優しい。だからこそリチャードの痛い過去に触れなかった。ヒカルは、大人しくておっとりしている。そして、お人好しでどこまでも優しい少女だ。だからリチャードはヒカルに惹かれたのだろう。
「俺は……」
「うん」
ヒカルはこくんと頷く。
「過去はどうでもいい。今のヒカルが好きなんだ」
「リチャードさん……」
ヒカルの青の瞳は、リチャードのその紫の瞳を見抜く。困ったような感情を滲ませたヒカルの瞳は、困ったような戸惑うような感情に揺れる。そしてヒカルの手がリチャードの頭を撫でた。親からもされたことのない幼子を宥めるような仕草にリチャードはぽかんとする。そしてその手が自分から永遠に離れないといいと願った。
「リチャードさん、嬉しいけど、リチャードさんは何を怯えてるの? まるでリチャードさんと前の私の関係みたい。嫌なら聞かないけど、私の話は聞いて欲しいな」
よしよしとヒカルがリチャードの漆黒の短い髪を撫でる。その手は母親のような優しい手で。リチャードは幼い頃亡くした母の手を思い出した。リチャードはヒカルをぎゅっと抱き締めて、その小さな赤い唇に自分の唇を寄せた。何度も啄むような触れるだけの口づけを繰り返して、ヒカルの身体をぎゅっと自分の身体に寄せる。ヒカルの甘い柑橘系の芳香がリチャードの鼻腔をくすぐる。
始めてヒカルと出逢った時を回想する。その金色に染まった気丈な双眸。あの瞳に惹かれた。ウィル神族の女性と違うヒカルの気の強さ。弱い自分を受け止めて欲しかった。リチャードは王家の分家の長子としては有り得ない純粋な濃い紫の双眸を持って生まれた。ウィル王家の正当な跡継ぎが持って生まれる瞳の色彩。そして、カーライル公爵家の身分とその見た目から彼は周囲の期待に応えてきた。
そんな中、出逢った天使の少女はリチャードを困惑の瞳で見つめてきた。何の期待もない、そして彼の気持ちを否定してくる。ずっと求められるだけの彼の人生に彼女は違う色彩を与えた。ヒカルがどうしても欲しかった。嫌がる少女に自分の気持ちを押し付けていたのは気付いていた。だが、止めるつもりはなかった。諦めるには彼の人生は恵まれ過ぎていたし、手に入れられない物はなかった。手に入れると決めた彼は、天使の少女の気持ちを無視した。
ヒカルの唇とリチャードの唇が離れる。リチャードはヒカルの金色の長い髪を指で搦めて、自分の唇に寄せる。その甘い空気にヒカルは困惑する。
「ヒカル、俺は……」
「もういいよ……。リチャードさんの過去は聞かない。そのかわり私の話は聞いてね」
ふうとヒカルは溜息をついて、苦笑する。リチャードはヒカルの髪をもてあそびながら、首を縦に振る。
「私、こんなにリチャードさんが甘えたがりだと知らなかった」
ヒカルがリチャードの髪を撫でる。優しいヒカルの指がリチャードの髪を梳く。
「……」
やっと手に入れた少女をぎゅっとリチャードは抱き締める。そして、彼の態度に困り果てている己 番のの天使の少女が可愛くて、仕方なかった。
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