元悪役令嬢の私が別人と思われて元婚約者に告白された件について

清里優月

文字の大きさ
上 下
33 / 51

28話 告白は道端で

しおりを挟む
 ヒカルは早朝の窓から入った陽射しに目を覚ました。目を擦り、身体を起こそうとすると、目の前に裸のリチャードが寝入っていた。ヒカルは頬を紅潮させて、リチャードを見入る。鍛えられた騎士の身体は均整な身体つきだ。ヒカルはリチャードを凝視している自分に気付き、顔を赤らめる。

(わ、私は痴女か!)
 リチャードの腕の中から抜けて、一旦家に帰ってからまた、リチャードと話をしようと決意して、ヒカルは立ち上がる。今までのオーレリーとしての気持ちと、ヒカルとしての気持ちを纏めてこようとベッドの下に落ちている服を着て、ホテルの部屋から出る。

 ホテルから出て、ホテルをちらりと見ると、超1級のホテルだったことにヒカルは気付き、びびる。最近建てられた現代式のホテルだが、内装は昔ながらの格式高い内装だったので、驚愕する。

(さ、さすが公爵様の泊るホテルは違う……)
 ヒカルは絶句すると、駅へと続く歩道橋を渡り、足を速める。

「ヒカル!」
 急に腕を引かれて、抱き締められた。ヒカルは驚いて抵抗するが、その腕の主がリチャードだとわかると、一転抱き締め返す。リチャードがぎゅうぎゅうとヒカルを抱き締めてくる。ヒカルは、抱き締められて嬉しいが、身体がきついので声を上げる。

「リチャードさん、腕の力緩めて! 逃げたんじゃなくて、家に帰ってから着替えてこようと思っただけ! 私の家はこの駅の先のウェルリード駅なの。それに昨日リチャードさんとそういうことして、逃げたらおかしいよ」
 リチャードの慌てっぷりがおかしくて、ヒカルはくすくす笑い出した。本当にヒカルとして再会してからリチャードの格好悪い所ばかり見せられているのにむしろ、ヒカルはそっちのリチャードに惹かれていた。

「ウィル神聖王国きってのイケメンが、道端で女の子を捕まえるなんてカッコ悪い!」
 ヒカルはきゃらきゃらと地を出して、笑い出す。ヒカルは今どきの女子大生なのだ。この年齢は何をしてもおかしく感じると笑い転げる。そして、気難しい。リチャードはヒカルが見せた新たな一面に戸惑う。

「私、戻ってきてきちんと自分の気持ちを告白するつもりだったのになあ……」
 まだ笑い転げているヒカルは、笑いながら口を開く。

「なんで、元悪役令嬢が元婚約者に告白されてるんだろう。それだけでもおかしいのに私まで元婚約者が好きになっちゃうなんて、ねえ?」
「ヒカル……」
「私、リチャードさんのこと、好きよ。オーレリーじゃなくてヒカルとしてね。もうリチャードさんには負けたわ」
 ふうとヒカルは、リチャードの腕の中で力を抜いて苦笑する。なんて、変な関係。一度は婚約破棄されて、別人と思われて告白されて、結婚を申し込まれるなんて。笑うしかない。おかしくてヒカルは笑い転げる。

「ヒカル?」
 ずっと思い続けた少女に告白されたのに、ひたすらに笑い転げられてリチャードは複雑だった。どうも見た目ではなくて、内面がいいと言われたらしいが、何だか納得がいかない。自分はもっと冷静な質だったのに、ヒカルをウィル神界で見染めて以来、調子が狂いっぱなしで。

 ヒカルは天空界の天使だ、それも年頃の。ウィル神族として生きて、天空族になって。彼女は強くて、負けず嫌いでそれでいて、泣き虫で。今度は笑い上戸ときた。リチャードには理解できない。自分の番(つがい)の少女はよくわからない。

 それでも、好きなものは好きで。ようやっと素直な気持ちを告白してくれた少女を抱き締める。

「ヒカル、俺もヒカルが好きだ……」
「うん……。私も……」
 ヒカルがリチャードを抱き締め返す。リチャードは長い片思いが実ったと安堵する。ヒカルに己の唇を寄せようとした瞬間、往来からひゅーひゅーと二人を囃し立てる声に気付く。二人は、道端で告白の過程を公開していたのだから当然だ。

「よっ! 両想い、おめでとう!」
「若いものはいいのう!」
 知らない他人からおめでとうと言われて、恥ずかしいことこの上ない。
 抱き締め合っていた二人は、顔を真っ赤にして離れる。

 が、今更だ。

「リ、リチャードさんの馬鹿!」
 ヒカルはリチャードのせいにして、叫ぶ。
「ヒ、ヒカル?」
 あわあわとしているリチャードに不貞腐れた顔を向ける。もうヒカルは一切、リチャードに取り繕っていない。リチャードはころころ変わる恋人の表情に振り回されていて、落ち着かない。

 
 その二人をカメラが隠し撮りしていたことに、誰も気づいていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

公爵家のご令嬢は婚約者に裏切られて~愛と溺愛のrequiem~

一ノ瀬 彩音
恋愛
婚約者に裏切られた貴族令嬢。 貴族令嬢はどうするのか? ※この物語はフィクションです。 本文内の事は決してマネしてはいけません。 「公爵家のご令嬢は婚約者に裏切られて~愛と復讐のrequiem~」のタイトルを変更いたしました。 この作品はHOTランキング9位をお取りしたのですが、 作者(著者)が未熟なのに誠に有難う御座います。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ
恋愛
 ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。  ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。  解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。 「君は、おれに、一体何をくれる?」  呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?  強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。   ※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

処理中です...