31 / 51
26話 天使の乙女心は複雑です2
しおりを挟む
ヒカルはリチャードと、15時に大学の正門前で待ち合わせをした。皆で同居するマンションに家電を揃えるから一人で出かける予定だとリチャードにうっかり話すと、護衛として着いていくと言われて、二人は喧嘩になった。リチャードの押しの強さにヒカルが根負けして、渋々待ち合わせを約束させられた。
ヒカルは心理学のゼミの途中で、そわそわしている自分に気付き、嫌気がさした。服を無意識にいつもの大学に通うジーンズ姿ではなくて、ワンピースを選んでいることにもだ。どうもリチャードと再会してから、浮かれている自分がいる。
(リチャードさんとは、もう距離を置こうと決めたのに!)
ヒカルは、自分の気持ちについていけない。ヒカルは、リチャードと接点を持ちたくなかった。オーレリーの時に婚約破棄された、最低な記憶。オーレリーは、光の杖に選ばれて天空族の姿になり、ヒカルとして生きることを選んだのだ。オーレリーはそれから消えた、どこにもいない。今、ヒカルはただのごく普通の女子大生だ。もう、侯爵令嬢だったオーレリーはいない。だが、ヒカルはオーレリーとして犯した過去の贖罪はしなくてはいけない。それでも自分はオーレリーを忘れてしまっていた。優しい人たちに囲まれて、幸福だったヒカルは、過去を忘れ始めていた。
なのに。
ヒカルの中にオーレリーの気持ちの残滓があって、リチャードに未練を残していた。そして、新たにヒカルとしてリチャードに出逢ってしまった。リチャードに振り回されていた間に、彼にまた惹かれ始めてしまった。
(最低……)
過去の贖罪は終わってないのに、自分だけ幸せになろうだなんて許されない。リチャードと恋人関係になった時、忘れ去っていたオーレリーの頃のことばかりを思い出していた。悪役令嬢と称されていた自分の過去を。ヒカルはゼミの途中なのに、涙が零れそうになり、顔を俯かせた。
ゼミが終わって、正門の前まで行くとリチャードの周囲に人だかりが出来ている。リチャードの高身長と涼やかな美貌の見た目は女性の目を引く。当然、ヒカルの大学でも目立つ美人な自分に自信があるであろう、女子大生たちがリチャードに声をかける。ヒカルはその光景に腹を立てた。
(リチャードさんは、私の番(つがい)なのに!)
自分の脳裏に浮かんだ言葉にヒカルははっとし、信じられない気持ちになる。自分はリチャードを番(つがい)と思っていたのか、と。ヒカルは、ぶんぶんと首を振る。太陽を連想させるヒカルの金糸の長い髪が揺れる。ヒカルは、その天空界の王族のみが身に纏う金色の髪をしているので大学で嫌でも目立つ。加えて妖精のような可憐な容貌。大学で男子学生から告白されても振ってしまう高嶺の花と影で噂されていたのだ。ヒカルに男子学生が近づき、声をかける。同じゼミの男子学生なので、ヒカルも普通に笑顔で対応する。リチャードがそんな二人の様子を見て、むっとする。リチャードが、ヒカルの腕を掴んだ。
「ヒカル」
「リチャードさん」
リチャードは厳しい顔つきでヒカルを咎めるが、ヒカルは意味が分からずきょとんとしている。リチャードは己の番(つがい)の恋愛に於ける幼さに気付き、ため息を吐く。さすがに自分に溜息を吐いたのはヒカルにもわかる。むっとした顔をリチャードに向ける。
「なんでそんなため息を私に向かってつくの!」
ヒカルは腰に手を当てて、リチャードに怒る。ウィル神族のリチャードは、男女が等しく育てられたという天空界の女性の気の強さは知っていたが、自分の恋人がそうだとはかつて知らなかったのだ。最初に可憐で儚げに見えたヒカルは、実は頑固で気が強い。
「……」
「な、何?」
「君は俺のつ」
「うわー!」
ヒカルはリチャードの口を塞ぐ。ウィル神族のいる前ならいい。だが、天空族に番(つがい)の概念はない。リチャードが皆におかしな人扱いされるのが嫌だとヒカルは必死に止める。
「ちょっとヒカル!」
リチャードに群がっていた女子学生がヒカルを睨みつける。
「え?」
「このイケメン、あんたの知り合い?」
ヒカルに不躾な態度を取ってくる女子学生にリチャードは逆に睨みつけた。ヒカルは戸惑い、口を開く。もうこうなればヤケだ。
「リチャードさんは私の恋人よ!」
リチャードがヒカルの言葉に固まり、口に手を当てる。ヒカルは顔を真っ赤にしてリチャードに向き直る。
「そういうことだから! 家電を買いに行きます!」
ヒカルは、リチャードの手を引いて歩き出す。二人は、羞恥心から顔が火照って仕方がない。
「ヒカル……」
リチャードの問いかけにヒカルは顔を真っ赤にさせて返す。
「だって、そうでしょ? 番(つがい)はわからないけど、恋人でしょう」
もうやけになっているヒカルは本音をさらけ出す。リチャードは嬉しいようなくすぐったい不可思議な感情になる。
「まあ……な」
「ならそれでいいじゃない」
ヒカルは恥ずかしくて顔を背けている。しかし、ヒカルはリチャードとの繋いだ手を離さなかった。
家電量販店に二人で行ったが、リチャードと繋いだ手が意識から離れず、ヒカルは買い物に集中できなかった。
ヒカルは心理学のゼミの途中で、そわそわしている自分に気付き、嫌気がさした。服を無意識にいつもの大学に通うジーンズ姿ではなくて、ワンピースを選んでいることにもだ。どうもリチャードと再会してから、浮かれている自分がいる。
(リチャードさんとは、もう距離を置こうと決めたのに!)
ヒカルは、自分の気持ちについていけない。ヒカルは、リチャードと接点を持ちたくなかった。オーレリーの時に婚約破棄された、最低な記憶。オーレリーは、光の杖に選ばれて天空族の姿になり、ヒカルとして生きることを選んだのだ。オーレリーはそれから消えた、どこにもいない。今、ヒカルはただのごく普通の女子大生だ。もう、侯爵令嬢だったオーレリーはいない。だが、ヒカルはオーレリーとして犯した過去の贖罪はしなくてはいけない。それでも自分はオーレリーを忘れてしまっていた。優しい人たちに囲まれて、幸福だったヒカルは、過去を忘れ始めていた。
なのに。
ヒカルの中にオーレリーの気持ちの残滓があって、リチャードに未練を残していた。そして、新たにヒカルとしてリチャードに出逢ってしまった。リチャードに振り回されていた間に、彼にまた惹かれ始めてしまった。
(最低……)
過去の贖罪は終わってないのに、自分だけ幸せになろうだなんて許されない。リチャードと恋人関係になった時、忘れ去っていたオーレリーの頃のことばかりを思い出していた。悪役令嬢と称されていた自分の過去を。ヒカルはゼミの途中なのに、涙が零れそうになり、顔を俯かせた。
ゼミが終わって、正門の前まで行くとリチャードの周囲に人だかりが出来ている。リチャードの高身長と涼やかな美貌の見た目は女性の目を引く。当然、ヒカルの大学でも目立つ美人な自分に自信があるであろう、女子大生たちがリチャードに声をかける。ヒカルはその光景に腹を立てた。
(リチャードさんは、私の番(つがい)なのに!)
自分の脳裏に浮かんだ言葉にヒカルははっとし、信じられない気持ちになる。自分はリチャードを番(つがい)と思っていたのか、と。ヒカルは、ぶんぶんと首を振る。太陽を連想させるヒカルの金糸の長い髪が揺れる。ヒカルは、その天空界の王族のみが身に纏う金色の髪をしているので大学で嫌でも目立つ。加えて妖精のような可憐な容貌。大学で男子学生から告白されても振ってしまう高嶺の花と影で噂されていたのだ。ヒカルに男子学生が近づき、声をかける。同じゼミの男子学生なので、ヒカルも普通に笑顔で対応する。リチャードがそんな二人の様子を見て、むっとする。リチャードが、ヒカルの腕を掴んだ。
「ヒカル」
「リチャードさん」
リチャードは厳しい顔つきでヒカルを咎めるが、ヒカルは意味が分からずきょとんとしている。リチャードは己の番(つがい)の恋愛に於ける幼さに気付き、ため息を吐く。さすがに自分に溜息を吐いたのはヒカルにもわかる。むっとした顔をリチャードに向ける。
「なんでそんなため息を私に向かってつくの!」
ヒカルは腰に手を当てて、リチャードに怒る。ウィル神族のリチャードは、男女が等しく育てられたという天空界の女性の気の強さは知っていたが、自分の恋人がそうだとはかつて知らなかったのだ。最初に可憐で儚げに見えたヒカルは、実は頑固で気が強い。
「……」
「な、何?」
「君は俺のつ」
「うわー!」
ヒカルはリチャードの口を塞ぐ。ウィル神族のいる前ならいい。だが、天空族に番(つがい)の概念はない。リチャードが皆におかしな人扱いされるのが嫌だとヒカルは必死に止める。
「ちょっとヒカル!」
リチャードに群がっていた女子学生がヒカルを睨みつける。
「え?」
「このイケメン、あんたの知り合い?」
ヒカルに不躾な態度を取ってくる女子学生にリチャードは逆に睨みつけた。ヒカルは戸惑い、口を開く。もうこうなればヤケだ。
「リチャードさんは私の恋人よ!」
リチャードがヒカルの言葉に固まり、口に手を当てる。ヒカルは顔を真っ赤にしてリチャードに向き直る。
「そういうことだから! 家電を買いに行きます!」
ヒカルは、リチャードの手を引いて歩き出す。二人は、羞恥心から顔が火照って仕方がない。
「ヒカル……」
リチャードの問いかけにヒカルは顔を真っ赤にさせて返す。
「だって、そうでしょ? 番(つがい)はわからないけど、恋人でしょう」
もうやけになっているヒカルは本音をさらけ出す。リチャードは嬉しいようなくすぐったい不可思議な感情になる。
「まあ……な」
「ならそれでいいじゃない」
ヒカルは恥ずかしくて顔を背けている。しかし、ヒカルはリチャードとの繋いだ手を離さなかった。
家電量販店に二人で行ったが、リチャードと繋いだ手が意識から離れず、ヒカルは買い物に集中できなかった。
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる