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25話 天使の乙女心は複雑です
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シルフィード国の首都シルフィードは湖がたくさんあったその湖を埋め立てて作られた都だ。夏は涼しく、冬は暖かい。首都シルフィードは残された湖が点在していて、初夏の今は濃い緑と共に青い透き通った美しい湖が楽しめる。
その首都のビジネス街の真ん中にある警視庁の中に間借りした対魔族組織ウィザードの長官室に、ヒカルは呼び出されていた。
「はい。これが、マンションのルームキーよ」
上司であるコトハ自らが、今回の同居の住まい探しに動いてくれた。シルフィードの中心街にある最高級なタワーマンションの最上階を、用意してくれたのだ。ちなみに5LDKなので、4人分の部屋がある。
「ありがとうございます。コトハ様、大変だったんでは……」
ヒカルは仕事の帰りでウィザードの制服を着たまま、遠慮気味にお礼を述べる。コトハは苦笑した。
「仕方ないわ。ウィル神族の王弟と王族の血を引く公爵がいるのよ、手を抜けないわ」
「私の両親がすみません」
ヒカルの申し訳なさそうな口調に、コトハは首を振る。
「いいのよ、ヒカリは私の従姉であり、私の夫の姉なのよ。だから私の叔母に当たるの。それよごめんね、私が力足らずで、色々迷惑をかけちゃって」
コトハに申し訳なさそうな言葉をかけられ、ヒカルは目を丸くする。コトハがなにか言いたげなヒカルに、複雑な顔をする。
「何?私だってたまにはこういう態度を取るのよ」
「いえ。コトハ様、ヒカリお母さんのこと大切にしているんだなあって……」
「まあ、私の番(つがい)の姉だからね」
くすりと可愛らしく笑ったコトハの言葉に、ヒカルは固まった。
(つ、番(つがい)……)
先日の自分の叔父であったウィル王が告げた、自分とリチャードとの関係を思い出してヒカルは頬を紅潮させた。そして、そんな関係は、二人の間に絶対に有り得ないと結論を出した。ヒカルは、一時はリチャードと恋人関係になった。しかし、今は王弟である実父のアレックスの護衛とその娘と言う関係だけだ。
(番(つがい)なら、婚約破棄なんてしないだろうし、もっと違う態度を取られていた筈……)
リチャードとのことがぐるぐるとヒカルの心の中を回る。未練がましく考える自分が、嫌で嫌で仕方がない。自分は一人で生きていくのだ、それか自分と同じ天使と結婚するかその二つの内のどちらかだ。ウィル神族のリチャードと一緒に生きていくなんて選択はありはしないのだから。もう境界線を作って接しなければ。ヒカルはぶんぶんと首を振る。
一人で百面相を繰り広げているヒカルに、コトハは怪訝そうな顔をする。
「ヒカル、どうしたの?」
「ええっ、何でもありません」
コトハに声をかけられて、自分の世界から戻ってきたヒカルに、コトハはにやりと人の悪い笑みを浮かべる。
「あら。あなたの元婚約者で番(つがい)のリチャード=カーライル公爵のことでも考えていた?」
「ぐっ……」
ヒカルは、コトハに自分の心中を言い当てられて、絶句する。ヒカルは、自分の顔が真っ赤に染まっていることに全く気付いていない。
「ヒカル」
くすくすとコトハがヒカルに向けて、柔らかく笑う。恋に純粋なヒカルが可愛らしくて、苦笑してしまう。ところが、ヒカルはぴしゃりとコトハを跳ね付けた。
「カーライル公爵は私の番(つがい)ではありません!」
「ヒカル?」
「番(つがい)なら婚約破棄なんて、しないもの!あんな態度は、取らないわ!」
今にも泣きそうなヒカルに、コトハは珍しくおろおろする。ヒカルは、仕事においては泣いたことはない。コトハがからかっても困った顔をするだけだった。こんなヒカルは初めてで、コトハは狼狽する。
この前会った時にカーライル公爵のヒカルのことが好きで仕方がない気持ちが、コトハにもストレートに伝わってきた。ヒカルだってカーライル公爵と一時は恋人だったのに。なのにどうしてこんなに自分の恋心を否定するのだろう。リチャードとヒカルの気持ちには乖離(かいり)がある。
コトハはあまりにも自分の恋心を否定する、強情なヒカルに唖然とする。そして、コトハは納得した。要はヒカルは、恋人のリチャードに甘えているのだ。自分のことを好きで仕方ないリチャードにヒカルは戸惑い、どう対応すればいいかわからない。だけど、リチャードは、今のヒカルしか見ていない。ヒカルは、昔のオーレリーだった頃の自分もリチャードに、認めて欲しかったのだ。
(女心は複雑ってね……)
コトハは心の中で嘆息した。
その首都のビジネス街の真ん中にある警視庁の中に間借りした対魔族組織ウィザードの長官室に、ヒカルは呼び出されていた。
「はい。これが、マンションのルームキーよ」
上司であるコトハ自らが、今回の同居の住まい探しに動いてくれた。シルフィードの中心街にある最高級なタワーマンションの最上階を、用意してくれたのだ。ちなみに5LDKなので、4人分の部屋がある。
「ありがとうございます。コトハ様、大変だったんでは……」
ヒカルは仕事の帰りでウィザードの制服を着たまま、遠慮気味にお礼を述べる。コトハは苦笑した。
「仕方ないわ。ウィル神族の王弟と王族の血を引く公爵がいるのよ、手を抜けないわ」
「私の両親がすみません」
ヒカルの申し訳なさそうな口調に、コトハは首を振る。
「いいのよ、ヒカリは私の従姉であり、私の夫の姉なのよ。だから私の叔母に当たるの。それよごめんね、私が力足らずで、色々迷惑をかけちゃって」
コトハに申し訳なさそうな言葉をかけられ、ヒカルは目を丸くする。コトハがなにか言いたげなヒカルに、複雑な顔をする。
「何?私だってたまにはこういう態度を取るのよ」
「いえ。コトハ様、ヒカリお母さんのこと大切にしているんだなあって……」
「まあ、私の番(つがい)の姉だからね」
くすりと可愛らしく笑ったコトハの言葉に、ヒカルは固まった。
(つ、番(つがい)……)
先日の自分の叔父であったウィル王が告げた、自分とリチャードとの関係を思い出してヒカルは頬を紅潮させた。そして、そんな関係は、二人の間に絶対に有り得ないと結論を出した。ヒカルは、一時はリチャードと恋人関係になった。しかし、今は王弟である実父のアレックスの護衛とその娘と言う関係だけだ。
(番(つがい)なら、婚約破棄なんてしないだろうし、もっと違う態度を取られていた筈……)
リチャードとのことがぐるぐるとヒカルの心の中を回る。未練がましく考える自分が、嫌で嫌で仕方がない。自分は一人で生きていくのだ、それか自分と同じ天使と結婚するかその二つの内のどちらかだ。ウィル神族のリチャードと一緒に生きていくなんて選択はありはしないのだから。もう境界線を作って接しなければ。ヒカルはぶんぶんと首を振る。
一人で百面相を繰り広げているヒカルに、コトハは怪訝そうな顔をする。
「ヒカル、どうしたの?」
「ええっ、何でもありません」
コトハに声をかけられて、自分の世界から戻ってきたヒカルに、コトハはにやりと人の悪い笑みを浮かべる。
「あら。あなたの元婚約者で番(つがい)のリチャード=カーライル公爵のことでも考えていた?」
「ぐっ……」
ヒカルは、コトハに自分の心中を言い当てられて、絶句する。ヒカルは、自分の顔が真っ赤に染まっていることに全く気付いていない。
「ヒカル」
くすくすとコトハがヒカルに向けて、柔らかく笑う。恋に純粋なヒカルが可愛らしくて、苦笑してしまう。ところが、ヒカルはぴしゃりとコトハを跳ね付けた。
「カーライル公爵は私の番(つがい)ではありません!」
「ヒカル?」
「番(つがい)なら婚約破棄なんて、しないもの!あんな態度は、取らないわ!」
今にも泣きそうなヒカルに、コトハは珍しくおろおろする。ヒカルは、仕事においては泣いたことはない。コトハがからかっても困った顔をするだけだった。こんなヒカルは初めてで、コトハは狼狽する。
この前会った時にカーライル公爵のヒカルのことが好きで仕方がない気持ちが、コトハにもストレートに伝わってきた。ヒカルだってカーライル公爵と一時は恋人だったのに。なのにどうしてこんなに自分の恋心を否定するのだろう。リチャードとヒカルの気持ちには乖離(かいり)がある。
コトハはあまりにも自分の恋心を否定する、強情なヒカルに唖然とする。そして、コトハは納得した。要はヒカルは、恋人のリチャードに甘えているのだ。自分のことを好きで仕方ないリチャードにヒカルは戸惑い、どう対応すればいいかわからない。だけど、リチャードは、今のヒカルしか見ていない。ヒカルは、昔のオーレリーだった頃の自分もリチャードに、認めて欲しかったのだ。
(女心は複雑ってね……)
コトハは心の中で嘆息した。
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