元悪役令嬢の私が別人と思われて元婚約者に告白された件について

清里優月

文字の大きさ
上 下
17 / 51

12話 公爵様の胸の内

しおりを挟む
 リチャードは屋敷に戻ると服を従者に着替えさせて、軽い夜食を取り自室へと引き上げた。シャツにズボン姿で寝つけの酒を煽る。

(ヒカルが何を考えてるか全くわからない……)

 この前ヒカルの上司であるソウ=シルフィーディア警視にヒカルが光の王族と現在のシルフィード国のパッカード家の血を引いていると聞いて焦っていたのかもしれない。神器使いで上流階級に属しているのならいずれ親の決めた相手と結婚するのかもしれないから今、自分の近くにいる内に手に入れたかった。

 金色こんじきに光る翼を広げた神器使いを見て、一目で恋に落ちた。強さを秘めた金の双眸。忘れられない、忘れたくない。可憐な愛くるしい容貌と大人しいのに気が強くてお人好しな所とか全部好きだ。

 手に入れたいと思えた存在は初めてで。多分、適当な高位貴族の令嬢と結婚すると思っていた。
 だけど。
 自分は知ってしまったこの衝動を人を欲する気持ちを。知らなかった頃には戻れない。焦がれる、彼女に。

 今日馬車の中であれだけの事をした。顔を赤らめていたが、拒絶されなかった所を見ると決して嫌われてはいないと思う。寧ろ好意さえ感じる。強引に押さないと逃げられている。自分がここまで押しても落ちない。自惚れではないが、自分は公爵でウィル王家の血を引いて、王家の瞳を持っていて、現在の王太子の学友だ。外見も剣の腕も騎士団一と言われている。貴族の子女からは熱い目で見られている。そんな常識が天空族の天使には通じないというより彼女だけだ。

 彼女だけが、思い通りにならない。

 自分が誘った観劇で寝てしまったことを攻める訳でもなく共感してくれて、次に出かけようと提案してくれた。

『うん。天空界の演目みたいなもので男性物の出し物もあるの。シルフィード人街に映画館あるから良かったら今度いかない?』

「少しは期待してもいいのか?」

 全くもって彼女は思い通りにならない。

 次の早朝だった。王城で用事を言い使っていたヒカルと偶然に会った。

「あ。おはよう」

 ウィザードの制服を着たヒカルがにっこりと微笑む。

「おはよう……」

 昨日あれだけの事をしたのに全く平気な顔をしているヒカルに腹が立った。ぐいと腕を掴んで王城の自室へ連れ込んだ。王城の廊下が長く感じた。

「な、何?」

「ヒカル。私と結婚して欲しい」

 ヒカルは顔を赤らめて、さすがに焦っているらしい。

「な、何言ってるのよ!ふざけないで」

 頭が沸騰した。今まで女性にこんなに馬鹿にされたことはない。

「本当に納得いかない。君は私がキスをしても抵抗もせずにいたじゃないか。それにデートもしていたし。なのに今更私が告白すると断るというのか?」」

「だから、あなたは私には過ぎた人なの!ウィル王家の分家筋でカーライル公爵家の公爵様で王家を継ぐ証である濃い純粋な紫の双眸も持っているのよ!」

 そんな言い訳をされて、更に怒りが増した。

「君は光の王家の血を半分引いているのに?」

 嫌味がてらに言ってやるとさすがに青ざめた。

「な、何故それを!」

「君の先輩のソウから聞いた。ウェルリース家はアレックス第二王子の正妃であるヒカリ様の実家じゃないか」

 青ざめたヒカルに必死に言い募った。後はほぼ覚えていない。後はかっとなってキスをして、ヒカルに平手打ちされて、大嫌いと言われた。

 そして、リチャードは頭を抱える羽目になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...