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5話 出張は気晴らし旅行ではありません!
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7月初旬に大学のテスト期間が終わり、10月で夏休みに入った。大荷物を抱えてヒカルはウィル神聖王国のシルフィード人街にあるシルフィード大使館に居た。魔法陣で転移して、ウィル神界へと降り、パスポートを提示する。
「三か月の長期出張、おおっ、ウィザード隊員ですか」
「そうです。長官からの指示で」
うんざりした表情のヒカルに大使館員が同情する。
「予言の姫は人使いが荒いですものね」
ここまでコトハの悪評が伝わっていた事にヒカルは仰天する。
「もうめんどくさいので、この長期出張は気晴らしにあちこち旅行しようと思ってます」
ヒカルは既にコトハの命令など無視してこの三か月ウィル神聖王国の王都ウィルディアを観光しようと開き直った。
王城のウィザード隊の詰め所を訪ねたヒカルは愕然とする。
(何よこれ!近衛騎士団に間借りしてるんじゃない!)
近衛騎士団の本部の一室を間借りしている。広い部屋にはシルフィード国風のの近代的オフィスが広がっていた。
(最悪!猊下と顔合わせなかったからと言い訳に使おうと思っていたのに使えない)
「ウィザード本部より長期出張で参りました、ヒカル=パッカード警部です」
支部長に挨拶する。最初支部が作られた時は戦争終了後だったので、切れ者で有名な警視と風の神器使いが配置されていたが、平和になった今は仕事で使えない人材を島流しする場所で有名になっていた。支部長も人の良さそうな使えなさそうな顔をしている。神器使いであるヒカルは本部で走り回っていたので、一発でわかった。やっぱりこの三か月はゆっくりしようとヒカルは決意する。
「長官から話は聞いているよ。支部長のオリバー=ブラウンだ。これから一緒に騎士団に挨拶回りに行きましょう。後君本部からきた神器使いだよね。ここ、暇だから三か月ゆっくりしていってね」
「はい」
ブラウスに階位を示す水色のリボンにベストとキュロットスカートにジャケットのウィル神聖王国の女性貴族に人気のウィザード女性隊員の制服を身に着けて近衛騎士団の本部を支部長と共に歩く。騎士団の若い騎士たちがヒカルにちらちらと視線を投げかけてくる。
「うーん。まずは騎士団長に挨拶しようと思ったが、会議でいないって。それにここは地区ごとに第5部隊まであるんだが、皆王都内をパトロールしているから居るのが第3部隊の隊長だけなんだ。まあ、挨拶に行こう」
本当にやる気がなさそうなブラウン支部長にヒカルはがっくりする。
(何かこう本当に覇気のない人だなあ)
「リチャード=カーライル隊長!いますか?」
第3部隊の隊室をブラウン支部長は叩く。
「いるぞ。入れ」
どこかで聞き覚えのある声にヒカルは首を傾げて、ブラウン支部長に続いて隊室へ入る。
目の前には黒の短髪に濃い純粋な紫の双眸に涼やかな美貌のリチャード=カーライル第3部隊隊長に驚愕する。が、ヒカルが驚愕したのは隊長の上に居る紫の神器の精霊だった。
可愛らしい幼い少年姿の神器の精霊がヒカルを面白そうに見てくる。
『うわあ……。若い神器使いだ』
「?」
声が脳裏に響いてくる。
『ウルサイ!』
光の杖が目を覚まして、姿を現した。
こちらはヒカリには見慣れた金色の可愛らしい少女の姿である。むうっと頬を膨らまして不機嫌そうに起きてきたばかりですと顔が語っている。紫の色を纏った少年姿の神器の精霊は、光の杖を見て、叫んだ。
『か、可愛い!』
何か可笑しな方向になっているとヒカルとカーライル第3部隊隊長が顔を見合わせる。お前の神器をどうにかしろとヒカルは暗に表情で隊長に語る。
『ハ?』
『僕と 番おう!』
『ハ?ジョウダンジャナイワヨ!』
くすりと紫の神器の少年が笑う。何やら怪しいオーラが伝わる。
舌なめずりをした四宝の剣が、光の杖を狙っている!
これは神器が神器を番う際のそれである。
まだ若い神器が同じく番っていない若い神器を狙う事があると神器の研究者である両親から教えられた。
『タスケテ!ヒカル!』
光の杖の悲鳴が聞こえる。
ヒカルはあまりの恐怖にリチャードを指差して真っ白な顔で彼を見る。彼は思い当たることがあるのか申し訳なさそうな顔をしていた。
「しっしっしっ」
周囲の騎士団の騎士やウィザードの隊員が怪訝そうにヒカルを見る中、
「四宝の剣が光の杖を狙っている~!いやー!」
と叫んで意識を手放した。
「三か月の長期出張、おおっ、ウィザード隊員ですか」
「そうです。長官からの指示で」
うんざりした表情のヒカルに大使館員が同情する。
「予言の姫は人使いが荒いですものね」
ここまでコトハの悪評が伝わっていた事にヒカルは仰天する。
「もうめんどくさいので、この長期出張は気晴らしにあちこち旅行しようと思ってます」
ヒカルは既にコトハの命令など無視してこの三か月ウィル神聖王国の王都ウィルディアを観光しようと開き直った。
王城のウィザード隊の詰め所を訪ねたヒカルは愕然とする。
(何よこれ!近衛騎士団に間借りしてるんじゃない!)
近衛騎士団の本部の一室を間借りしている。広い部屋にはシルフィード国風のの近代的オフィスが広がっていた。
(最悪!猊下と顔合わせなかったからと言い訳に使おうと思っていたのに使えない)
「ウィザード本部より長期出張で参りました、ヒカル=パッカード警部です」
支部長に挨拶する。最初支部が作られた時は戦争終了後だったので、切れ者で有名な警視と風の神器使いが配置されていたが、平和になった今は仕事で使えない人材を島流しする場所で有名になっていた。支部長も人の良さそうな使えなさそうな顔をしている。神器使いであるヒカルは本部で走り回っていたので、一発でわかった。やっぱりこの三か月はゆっくりしようとヒカルは決意する。
「長官から話は聞いているよ。支部長のオリバー=ブラウンだ。これから一緒に騎士団に挨拶回りに行きましょう。後君本部からきた神器使いだよね。ここ、暇だから三か月ゆっくりしていってね」
「はい」
ブラウスに階位を示す水色のリボンにベストとキュロットスカートにジャケットのウィル神聖王国の女性貴族に人気のウィザード女性隊員の制服を身に着けて近衛騎士団の本部を支部長と共に歩く。騎士団の若い騎士たちがヒカルにちらちらと視線を投げかけてくる。
「うーん。まずは騎士団長に挨拶しようと思ったが、会議でいないって。それにここは地区ごとに第5部隊まであるんだが、皆王都内をパトロールしているから居るのが第3部隊の隊長だけなんだ。まあ、挨拶に行こう」
本当にやる気がなさそうなブラウン支部長にヒカルはがっくりする。
(何かこう本当に覇気のない人だなあ)
「リチャード=カーライル隊長!いますか?」
第3部隊の隊室をブラウン支部長は叩く。
「いるぞ。入れ」
どこかで聞き覚えのある声にヒカルは首を傾げて、ブラウン支部長に続いて隊室へ入る。
目の前には黒の短髪に濃い純粋な紫の双眸に涼やかな美貌のリチャード=カーライル第3部隊隊長に驚愕する。が、ヒカルが驚愕したのは隊長の上に居る紫の神器の精霊だった。
可愛らしい幼い少年姿の神器の精霊がヒカルを面白そうに見てくる。
『うわあ……。若い神器使いだ』
「?」
声が脳裏に響いてくる。
『ウルサイ!』
光の杖が目を覚まして、姿を現した。
こちらはヒカリには見慣れた金色の可愛らしい少女の姿である。むうっと頬を膨らまして不機嫌そうに起きてきたばかりですと顔が語っている。紫の色を纏った少年姿の神器の精霊は、光の杖を見て、叫んだ。
『か、可愛い!』
何か可笑しな方向になっているとヒカルとカーライル第3部隊隊長が顔を見合わせる。お前の神器をどうにかしろとヒカルは暗に表情で隊長に語る。
『ハ?』
『僕と 番おう!』
『ハ?ジョウダンジャナイワヨ!』
くすりと紫の神器の少年が笑う。何やら怪しいオーラが伝わる。
舌なめずりをした四宝の剣が、光の杖を狙っている!
これは神器が神器を番う際のそれである。
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『タスケテ!ヒカル!』
光の杖の悲鳴が聞こえる。
ヒカルはあまりの恐怖にリチャードを指差して真っ白な顔で彼を見る。彼は思い当たることがあるのか申し訳なさそうな顔をしていた。
「しっしっしっ」
周囲の騎士団の騎士やウィザードの隊員が怪訝そうにヒカルを見る中、
「四宝の剣が光の杖を狙っている~!いやー!」
と叫んで意識を手放した。
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