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挿話~神器使い~

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 オーレリーがデイヴィッドに連れられて行ったのはウィル神聖王国に在るシルフィード大使館だった。

「ああっ!オーレリー!」

 自分を抱き締めて泣くのは、11年前に亡くなった筈の実母だった。そして、身に纏う色彩が違ったのだ栗色の髪に焦げ茶の双眸が濃い金糸の髪に濃い青の双眸。母であった人の清楚で可愛らしい美貌は変わらないのでわかるが、オーレリーは混乱していた。

 濃い金糸の髪は天空界の光の王族が纏う色。それはウィル王の王弟アレックス王子の正妃ヒカリと全く同じ色!

「お、お母様……。その色は」

 驚愕するオーレリーに母であるアカリは笑う。

「私は天空界の光の王家の第二王女アカリ=ウェルリース。ウィル王族の王弟の正妃ヒカリ=ウェルリースは私の姉よ」

「はあ?」

 オーレリーの頭はパニックを起こす。

「私とあなたのお父様はヒカリお姉さまの結婚式で出逢ったの。お互い一目惚れで反対されたけど、私が光の王家の王である父の反対を押し切って家出同然でお父様の所へ押しかけて結婚したの。まさか、光の王族とは言えないからずっと魔法を使ってその色彩を偽っていたの。オーレリーあなたの半分はウィル神族で又半分は天空族です。私はあなたが事故で亡くなっていると思っていた。でも生きていると知ってこうやって今再婚しているデイヴィッドと迎えに来たのよ!」

 母が語るには父エドワードとアカリはエドワードの弟夫妻により事故を仕組まれてエドワードは亡くなり、アカリは光の魔法で命からがら生き延びたが、娘であるオーレリーは行方不明に。失意の底で天空界へと帰った先でシルフィード国の大統領の息子であるデイヴィッドと知り合い、再婚したと。

「天空界の王女……。大統領の息子……」

 聞くだけで眩暈がした。
 天空界の高貴な人々だ。
 それが自分の義理の父?実の母?

「それでね、オーレリー天空界へ来ない?あなた行先がないんでしょう?デイヴィッドもあなたを引き取るのは大賛成なの。私たち子供が居ないし……」

 その申し出にオーレリーは頷くしかない。自分には行く所がないのだから。

「嬉しい!オーレリー!」

 母に抱き締められる。その身体から懐かしい匂いがした。

「これで決まりだね……」

 そうしてオーレリーは天空界へと迎えられた。

 が、彼女は日々目新しい事に追われる。

 天空界では馬車ではなく、車が走り、氷室ではなく冷蔵庫に食べ物を入れる。携帯なる人の声がする機械があり、毎日が驚きの日々であった。

「こ、これを着るのですか?」

 スカートは足が丸見えである。貴族令嬢として足を見せるのははしたないと躾けられていたいたオーレリーには信じられない事だ。

 そして全ての始まりの日を迎える。 

「研究所?」

「そう、私たちが勤めている神器の研究を行う研究所よ」

 義父も母も国の研究機関に勤めており、高給取りであった。生活は豊かだったし、オーレリーに惜しみない愛情を注いでくれる。オーレリーは幸福だった。が、意地の悪さは変わらない。

「今度研究所へ来ない?」

 と母に誘われたのが、オーレリーの運命の分かれ道であった。

 大きな建物の中に母の研究室があった。そのショーケースの一つに木の杖が入っていたのだ。

「これは何ですか?」

 オーレリーが尋ねると嬉しそうに母が語る。
 
「それは研究所で開発された神器よ。私が開発に携わったのよ。本当は秘密なんだけど、あなたも光の王族の血を引くし、ね」

「まあ……」

 目の前にあるのは普通の木の杖だ。ウィル神界では老齢の年を食った魔法使いが使うイメージがある。ふとオーレリーは悪戯心を出す。これを触ってみたらどんな風になるのであろう。

「オーレリー、お茶でも入れてくるから待ってて」

 紅茶を入れに母がその場を外す。その隙にオーレリーはショーケースを鍵でかちゃりと開ける。そして神器である木の杖に手を触れる。それは突然光った。伝わるのは歓喜の感情。そして、部屋一帯が金色(こんじき)に染まる。

『ヤットミツケタワ!ワタシノアルジ!』

 稚い少女の声音がオーレリーの脳裏に広がる。
 金色こんじきの幼い少女が目の前に見える。
 ふわりと笑う少女はオーレリーに溶け込み、そしてオーレリーは光の杖と共鳴を起こす。

 同時に身体の中の封印されていた力が溢れ出す。何かが弾けて、オーレリーの身体は身体ごと作り変えらるような感覚に襲われる。金色(こんじき)の洪水が身体を巡る。
そして光は消えた。

「な、何?」

 神器、光の杖を握りしめたオーレリーは窓に映る自分を見た。
 そこにはさっきまでの緋色の髪に新緑の双眸のきつめの美少女は居なかった。
 居たのは濃い金糸の髪に円らな澄んだ濃い青の双眸、整った鼻筋に桜色の小さな唇。華奢な身体の清楚で可憐な美少女が居た。

「あ、あれ?この子私の服を着ている?」

 首を傾げてみる、両手を動かす、片方ずつの腕を上げてみる。全てオーレリーと同じ動作をしている。

(ま、まさかこれは……私?)

「嘘ー!!」

 オーレリーの大人びた色気のある美貌ではなく、少しあどけなさを感じさせる妖精のような美貌に絶句する。オーレリーは自分の顔がお気に入りだった、それが何だ!こんなあどけない良く言えば可愛らしい美少女に変化している。

「し、信じられない……」

 オーレリーは頭を抱える。

 そして目の前に見えるのは金色(こんじき)の少女。ふわふわと宙に浮いていて、オーレリーが少女を見るとはにかんで嬉しそうに笑う。

「あなた誰?」

『ワタシハアナタノジンキヨ!』

「は?」

『ワタシハアナタガモッテイルヒカリノツエヨ!』

「光の杖?えっ、まさかこれ?」

『ソウヨアルジ!』

「主?」

『アナタノコトヨ!ワタシノゴシュジンサマ!』

「ご、ご主人?」

『ソウヨ!ワタシハアナタヲマスターニエランダノ!』

「マ、マスター!まさか私が神器使いになった?」

 やっと事の重大さを理解したオーレリーは青ざめた。

「神器使いは千年生きる……」

『ソウヨ!マスター』

「嫌ー!」

『ムリヨ!ソレハアナタノホンライノスガタヨ!タダアナタノオカアサンガフウインシテイタノヨ!』

「ふ、封印?」

『ソウ!天空族ノスガタトソノオオキナ光ノマリョクヲ!』

「お、お母様が私の本当の姿を封印?」

『ソウ!ドウシテカシラナイケドネ……』

 光の杖が明かす事実にオーレリーは眩暈がした。それよりもこの気に食わない穢れも知らないような天使面をした美少女が本来の自分の姿らしい。ショックだ。オーレリーはこういう少女が一番嫌いだ、守られて当然のような空気と媚びた顔立ち。

 それが自分?

「嫌っ!元に戻して!」

 オーレリーは余りの衝撃に意識を手放した。
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