元悪役令嬢の私が別人と思われて元婚約者に告白された件について

清里優月

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挿話 ~初恋と失恋~

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オーレリー5歳

 雨が降っていた。
 雨の中、黒衣のドレスを着ていた5歳のオーレリーは墓標の前で泣いていた。

 馬車の事故で両親を亡くしたオーレリーを気にする者などなく、真っ暗な空の下、彼女は唯泣き続けるしかない。

 そこへオーレリーの泣いている頭を撫でてくれた少年が居たのだ。

「大丈夫?大変だったね……」

 とその高貴な濃い純粋な紫の双眸を優しい色に滲ませて。
 それが、オーレリーの初恋だった。
 その人と将来結婚出来ると知ってどれだけ心を躍らせたか!

オーレリー16歳

 ウィル神界、ウィル神聖王国の王都の貴族たちが住まう住宅街の中心の大きなお屋敷がオーレリー=ジャージ侯爵令嬢の婚約者リチャード=カーライル公爵長子の住まうお屋敷だ。今日は彼との婚約の正式な披露も兼ねている夜会が開かれる日だ。

 大きなシャンデリアの照明の下で婚約者である公爵家長子リチャード=カーライルが近衛騎士団の白い礼装に儀式用の剣を身に着けている。黒の短髪にそれよりもそのウィル王家の炎と風と大地と水をの四つの力を振るうものだけに許された濃い純粋な紫の双眸に涼やかな端正な美貌。この世界を司るウィル王家の分家であるが故に具現した色彩である。彼は22歳で次期公爵だ。本当に自分はついているとオーレリーは思う。

 この婚約はオーレリーが生まれた時に決められたものだ。父親同士が親友であった事から成立した婚約だった。しかし、オーレリーが5歳になった時に両親は馬車の事故で亡くなり、両親とオーレリーの住んでいたお屋敷に叔父夫妻が乗り込んできた。そして、今まで厳しくも優しく育ててくれていた両親と違い、オーレリーを猫可愛がりしはじめたのだ。
 
 何事も無責任に放置され、いい加減に可愛がられた。そして愛は貰えず、物をたっぷりと与えられた。このウィル神界の者ならば四つの元素の力の一つを振るえるのだが、オーレリーは生まれつきその力を持っていなかった。それ故のコンプレックスがあり、更に環境の悪さが影響し16歳になった今立派な悪役令嬢と称される様になったのである。

 しかし、オーレリー=ジャージ侯爵令嬢は美しかった。緋色の燃え上げる如き髪。新緑の萌えるきつい双眸。整った鼻筋にきつさを感じさせる赤の唇に出る所の出た身体。年齢よりも色気のあるきつめの美女であった。その見た目に起伏の激しい性格。ウィル神聖王国の貴族の通う王立学園では、自分より下の位の貴族を貶める事は平気で行い、使用人には人間扱いしない。
その性格の悪さが顔に出ていると言われていた。

(とうとう今日はリチャード様との正式な婚約の披露のパーティー!)

 オーレリーは新緑の鮮やかなドレスを身に纏い、顔を上気させていた。ずっと幼い頃から慕って憧れていたリチャードと正式に婚約できるのだ。穏やかで優しく清廉なリチャードと!

 馬車に乗り込み会場へと到着したオーレリーを迎えたものは悲惨な言葉だった。

 オーレリーを出迎える筈の白い近衛騎士団の白い礼装を身に着けた涼やかな美貌の青年はオーレリーを汚いものを見る如き視線をオーレリーに向け、こう言い放った。

「オーレリー=ジャージ侯爵令嬢。私はあなたとの婚約を今破棄します」
 と。

 それから社交界は大騒ぎになった。
 穏やかで優しく高潔な性格のリチャードはオーレリーの悪評を流れ聞いていたが、信じてはいなかった。だが、オーレリーが自分のお屋敷の使用人に無理難題を言い付けて、脅している所を見てしまったのだ。

「私は公爵家の使用人ですから侯爵令嬢様のご命令を聞く必要はございません」

 と言い募る侍女にオーレリーは平手打ちを食らわせたのだ。

わたくしは将来の公爵夫人ですわ!今から言うことを聞きなさい!」

 と嘲笑いながら命令する所を。

 その結果、利用価値のなくなったオーレリーは侯爵家から追われることになる。 荷物もなく、みずぼらしい服装一つで屋敷を追われた彼女に屋敷の前で上品な壮年の男性が声を掛けてきた。

「オーレリー=ジャージ侯爵令嬢ですか?」

 それが天空界での義父となるデイヴィッド=パッカードだった。
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