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35話 平穏な日々
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ヒカルはリチャードと再び想いを通わせて監禁を解かれた。驚いたのはリチャードの変わりようだった。ライアンが、ヒカルのいない間にリチャードを追いかけ回していたのはリチャードから聞いていた。
「パパ!」
ライアンは、リチャードの足にどーんと体当たりする。そうするとリチャードがライアンを高い位置まで抱き上げて、たかいたかいをする。リチャードは、男親だ。ダイナミックな遊びもできる。
「ライアン、行くぞ! そら!」
リチャードは、ライアンをふわりと上に放り投げて受け止める。ヒカルはぎょっとする。だが、ライアンは平然として、むしろ喜んでいる。
「パパ! もっとして!」
嬉しそうにきゃっきゃっと幼い子ども独特の高い声を上げて、父親にしがみつく。
天空界で保育園に通っていたライアンは、大人には慣れている。しかし、ウィル神界ではヒカルにしか懐かず周囲を警戒していた。大人に慣れているから人懐っこいと思いこみ、痛い目に見た使用人が数多くいた。
だけど。
ライアンはリチャードには、天空界で会った時から心を開いていた。
血のつながりがそうさせたのだろうか。
ヒカルは、二人の親子として心が通い合ったことに喜びを隠しきれなかった。
「良かった……。リチャードさんとライアンが仲良くなって」
ヒカルが青の瞳に涙をためて、一滴零す。ライアンが泣いているヒカルを見て、慌てる。
「ママ? ないているの? どうしたの!」
リチャードは笑いながらライアンを抱きとめる。
「違うんだ。ライアン、ママはパパとライアンが仲良しになったのが嬉しいんだよ」
ライアンは父親によく似た顔をきょとんとさせた。
「そうなの? なんで? ぼく、さいしょからパパのこと、だいすきだったよ。ママとおなじくらいだいすき!」
ぎゅっとリチャードに抱き着く。子ども独特の太陽の匂いがリチャードの鼻をくすぐる。リチャードはライアンの言葉に苦笑いする。
「パパは最初、子どもに慣れてなくてライアンが苦手だったんだけどなあ」
ライアンはびっくりする顔をした。
「ほんとう?」
「ああ……。ライアンは、顔はパパに似ているのに性格はママに似ていて、負けたんだ。いつもパパは、ママには負けているよ」
「ぼくにも?」
ライアンがリチャードの顔を覗き込んだ。リチャードはライアンの頭をそっと撫でた。頭を撫でられて気持ちよさそうにライアンは、猫の子のように目を細めた。
「ああ……。ライアンにも負けた」
リチャードが端正な顔を無邪気に破顔させた。ヒカルはどきんとする。リチャードが、心から笑うのを見たのは初めてだった。恋人時代はヒカルにだけ心を開いていたが、どこかいつもリチャードは、緊張していた。ライアンがリチャードを変えたのだろう。ヒカルは、ライアンが可愛くてしかたがない。リチャードもそうだと確信して、ヒカルの心は喜びを感じていた。
「だが、パパが一番大好きなのはママだ」
リチャードが、ライアンを抱っこしたままヒカルに近づいてヒカルの頬に口づける。
「わあ! パパ、チューした! 仲良し」
楽しそうにライアンが、歓声を上げる。おそらく保育園時代に覚えた単語だろう、ヒカルが顔を赤らめて叫ぶ。
「リチャードさん! ライアン!」
ヒカルが二人を叱る声が王宮中に響き渡る。
「まったく、もう……」
親子でタッグを組むのだから質が悪い。ヒカルは、リチャードとライアンと家族として過ごすようになったことに慣れていなかった。調子に乗って遊ぼうとするライアンを叱り飛ばし、ライアンをかばうリチャードを仕事に行かせた。リチャードは、ライアンと遊ぶとき、心から楽しんでいた。ヒカルは王妃の間のソファに腰を下ろして、軽くため息を吐く。どうもリチャードは、ヒカルが思っていたより子どもっぽい。ライアンと同レベルだ。
「リチャードさんとライアンって同レベル……」
はあとヒカルは思わず心の声を漏らしていた。ヒカルの金色の長い髪を櫛で梳いていた侍女のエマがぷっと苦笑する。そのヒカルの言葉に女官長が組んで平然と返す。
「ヒカルさま、殿方なんて子どもですわ」
年配の女官長の台詞にヒカルは目を丸くした。
「じゃあ、ウィル王もライアンも中身は同じ?」
ヒカルが叫んで、侍女たちは笑い声を我慢できず、噴き出していた。
女官長は、こくりと頷いた。
このウィル神界を司るウィル王があれでいいのかとヒカルは眩暈を覚えた。
リチャードは、ヒカルの自分を見る目が冷たいことを察知していた。ウィル王になってから人の目に晒されていた経験は否が応でもリチャードを王らしくさせていた。だが、相手は最愛の番で妻だ。
「ヒカル?」
久しぶりにふたりっきりになれたのだ。抱けなくても共寝したい。なのにヒカルはじっとリチャードを凝視していた。
「リチャードさんってライアンと精神年齢が一緒なのね」
ふうとヒカルがこれ見よがしにやれやれと首を振る。リチャードはかちんとする。その日、始めて夫婦喧嘩をした二人は、暫くライアンを挟んでしか会話をしなかった。
リチャードがこんなに子どもだとは知らなかったヒカルは、その後苦労することになる。
「パパ!」
ライアンは、リチャードの足にどーんと体当たりする。そうするとリチャードがライアンを高い位置まで抱き上げて、たかいたかいをする。リチャードは、男親だ。ダイナミックな遊びもできる。
「ライアン、行くぞ! そら!」
リチャードは、ライアンをふわりと上に放り投げて受け止める。ヒカルはぎょっとする。だが、ライアンは平然として、むしろ喜んでいる。
「パパ! もっとして!」
嬉しそうにきゃっきゃっと幼い子ども独特の高い声を上げて、父親にしがみつく。
天空界で保育園に通っていたライアンは、大人には慣れている。しかし、ウィル神界ではヒカルにしか懐かず周囲を警戒していた。大人に慣れているから人懐っこいと思いこみ、痛い目に見た使用人が数多くいた。
だけど。
ライアンはリチャードには、天空界で会った時から心を開いていた。
血のつながりがそうさせたのだろうか。
ヒカルは、二人の親子として心が通い合ったことに喜びを隠しきれなかった。
「良かった……。リチャードさんとライアンが仲良くなって」
ヒカルが青の瞳に涙をためて、一滴零す。ライアンが泣いているヒカルを見て、慌てる。
「ママ? ないているの? どうしたの!」
リチャードは笑いながらライアンを抱きとめる。
「違うんだ。ライアン、ママはパパとライアンが仲良しになったのが嬉しいんだよ」
ライアンは父親によく似た顔をきょとんとさせた。
「そうなの? なんで? ぼく、さいしょからパパのこと、だいすきだったよ。ママとおなじくらいだいすき!」
ぎゅっとリチャードに抱き着く。子ども独特の太陽の匂いがリチャードの鼻をくすぐる。リチャードはライアンの言葉に苦笑いする。
「パパは最初、子どもに慣れてなくてライアンが苦手だったんだけどなあ」
ライアンはびっくりする顔をした。
「ほんとう?」
「ああ……。ライアンは、顔はパパに似ているのに性格はママに似ていて、負けたんだ。いつもパパは、ママには負けているよ」
「ぼくにも?」
ライアンがリチャードの顔を覗き込んだ。リチャードはライアンの頭をそっと撫でた。頭を撫でられて気持ちよさそうにライアンは、猫の子のように目を細めた。
「ああ……。ライアンにも負けた」
リチャードが端正な顔を無邪気に破顔させた。ヒカルはどきんとする。リチャードが、心から笑うのを見たのは初めてだった。恋人時代はヒカルにだけ心を開いていたが、どこかいつもリチャードは、緊張していた。ライアンがリチャードを変えたのだろう。ヒカルは、ライアンが可愛くてしかたがない。リチャードもそうだと確信して、ヒカルの心は喜びを感じていた。
「だが、パパが一番大好きなのはママだ」
リチャードが、ライアンを抱っこしたままヒカルに近づいてヒカルの頬に口づける。
「わあ! パパ、チューした! 仲良し」
楽しそうにライアンが、歓声を上げる。おそらく保育園時代に覚えた単語だろう、ヒカルが顔を赤らめて叫ぶ。
「リチャードさん! ライアン!」
ヒカルが二人を叱る声が王宮中に響き渡る。
「まったく、もう……」
親子でタッグを組むのだから質が悪い。ヒカルは、リチャードとライアンと家族として過ごすようになったことに慣れていなかった。調子に乗って遊ぼうとするライアンを叱り飛ばし、ライアンをかばうリチャードを仕事に行かせた。リチャードは、ライアンと遊ぶとき、心から楽しんでいた。ヒカルは王妃の間のソファに腰を下ろして、軽くため息を吐く。どうもリチャードは、ヒカルが思っていたより子どもっぽい。ライアンと同レベルだ。
「リチャードさんとライアンって同レベル……」
はあとヒカルは思わず心の声を漏らしていた。ヒカルの金色の長い髪を櫛で梳いていた侍女のエマがぷっと苦笑する。そのヒカルの言葉に女官長が組んで平然と返す。
「ヒカルさま、殿方なんて子どもですわ」
年配の女官長の台詞にヒカルは目を丸くした。
「じゃあ、ウィル王もライアンも中身は同じ?」
ヒカルが叫んで、侍女たちは笑い声を我慢できず、噴き出していた。
女官長は、こくりと頷いた。
このウィル神界を司るウィル王があれでいいのかとヒカルは眩暈を覚えた。
リチャードは、ヒカルの自分を見る目が冷たいことを察知していた。ウィル王になってから人の目に晒されていた経験は否が応でもリチャードを王らしくさせていた。だが、相手は最愛の番で妻だ。
「ヒカル?」
久しぶりにふたりっきりになれたのだ。抱けなくても共寝したい。なのにヒカルはじっとリチャードを凝視していた。
「リチャードさんってライアンと精神年齢が一緒なのね」
ふうとヒカルがこれ見よがしにやれやれと首を振る。リチャードはかちんとする。その日、始めて夫婦喧嘩をした二人は、暫くライアンを挟んでしか会話をしなかった。
リチャードがこんなに子どもだとは知らなかったヒカルは、その後苦労することになる。
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