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30話 真実1
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ヒカルは、薔薇の庭園のベンチから立ち上がり、アリッサに振り返る。さっきまで泣きじゃくっていた姪が一転ベンチから立ち上がり、泣いていた原因である夫に会わなくてはと言っているのだ。アリッサは、呆然としている。
「アリッサおばさま、ありがとう。私、リチャードさんに会わないと……」
そう言い残して、ヒカルは走り出す。
「え? ヒカル?」
ベンチに取り残されたアリッサは、ぽかんとしていた。
今日もソフィーは、自分の部屋に閉じこもっていた。貴族のお茶会や夜会に出ると話の種はウィル王夫妻のこととなる。天空界に帰りたいと王に泣きながら訴える王妃を寵愛する王は、それを無視して王妃を王妃の間に閉じ込めていると人々が噂し合っているのだ。それと同時にどれだけ王が王妃を愛しているのかと。ウィル王を半ば騙して婚約したソフィーは、その噂と共に高位貴族たちの物笑いの種となっていた。
自分の嘘が火種となりウィル王夫妻が揉めたと噂を聞いたソフィーは、暫くの間嘲笑っていた。しかし、リチャードが嫌がるヒカルを閉じ込めて、執務の合間にヒカルのいる王妃の間に通い詰めてヒカルを抱き続けているという話が陰で囁かれるようになり怒り狂っていた。
バン!と自分の居室の扉にソファーの上に置かれていたクッションを投げつける。
その瞬間、ソフィーの部屋の扉が開かれて、ソフィーがウィル王の妃ヒカルの侍女として潜り込ませていた間諜である少女が悲鳴を上げている。
「シャーロット?」
不貞腐れて、寝台に寝ていたソフィーが起き上がる。幼いころ、自分を育ててくれた乳母の子どもでソフィーの幼なじみで侍女であるシャーロットは、ソフィーの腹心だ。何があろうとも自分を裏切らないシャーロットは、気性の激しいソフィーが唯一信用をしている存在だ。
ソフィーに声をかけられて、クッションを投げつけられて驚いていたシャーロットははっとする。ソフィーに慌てて近づくと、ソフィーの腕を掴むなり、ソフィーの菫色の瞳を見つめて泣き出した。
「シャーロット?」
訝しむソフィーに憐れむように視線を向ける。
「お可哀想なソフィー様……」
ただ泣きじゃくるシャーロットの次の発言にソフィーは、我を失った。
「正妃ヒカル様は、ウィル王のご寵愛を受けるばかりか、ご懐妊されているとヒカル様付きの侍女たちの間で噂が広がっています」
シャーロットが掴んでいるソフィーの身体が震える。
「じゃあ、殺さなくちゃ……」
くすくすとソフィーは笑う。
ソフィーの陰からふわりと黒い影が飛び出した。
ソフィーが恋い慕って止まないウィル王、リチャード。
まだ14歳の頃、新興貴族として新たに伯爵の位を頂いたクーパー伯爵家は貴族として認められていなかった。新しい王の戴冠式の後、王として即位したリチャードの祝いに貴族の姫として招待されていたソフィーは同い年の貴族の少女たちから嫌がらせを受けていた。大商人の家の出の母に、庶民から支持を受けた政治家の父を持った中流階級から上流貴族の仲間入りを果たした少女に周囲は冷たかった。流行の最先端のドレスに身を包んだ愛くるしい美少女に貴族の少女たちは嫉妬し、王宮の休憩室の一室にソフィーを閉じ込めたのだ。
「出して……」
と泣きじゃくるソフィーの小さな声を聞き逃さず、助けてくれたのはウィル王として即位したばかりのリチャードだった。泣いているソフィーにハンカチを差し出してくれた。おべっかを使ってくる貴族たちから逃げていたと笑ってソフィーの頭を撫でてくれたのだ。生真面目で清廉な王にはまだ不釣り合いな若者だった。
そんなリチャードにソフィーは恋をした。彼には騎士の時代から定められた番で最愛の恋人がいると知っても、諦められなかった。
リチャードは、行方不明になった番を想い続けていることがわかっても。
生真面目で清廉だった青年が周囲に踊らされて、変わり果ててしまっても。
ソフィーは、リチャードを想い続けた。
恋に狂い、その暗い情念が恐ろしい存在、西の魔王の配下を呼び出したのだ。
そして、自分の命と引き換えに西の魔王と契約したのだ。
契約した悪魔の存在により、ソフィーは別れたと言われていたヒカルの両親、アレックス=ウィル=ケッペル公爵と天空界の光の王家の王女ヒカリの関係が続いていてまだ3歳になったばかりの子どもがいる事実を掴んだ。そして、その子どもの存在を秘密にしたいアレックスを脅して、リチャードを罠にかけた。お茶に睡眠薬を入れて、眠り込んでいるリチャードの服を脱がせて、その隣に裸のソフィーがいると使用人たちの前で思わせた。案の定、ソフィーの思惑通りリチャードと婚約できた。
だけど、リチャードの最愛の番を殺そうと悪魔を差し向けたことがソフィーの運命を狂わせた。
彼の番のヒカルは、神器使いでその悪魔たちと拮抗した力の持ち主で。リチャードの最愛の恋人で番のヒカルとリチャードとヒカルの子ライアンの行方をリチャードが掴んだのだ。最愛の番を取り戻したリチャードは、ソフィーとの婚約を破棄した。
そればかりか、リチャードは、ヒカルを正妃に据えて、ライアンを王太子とした。
「駄目じゃない、西の魔王……。ほら、やっぱりあの天使を殺さないと……」
愛くるしい美少女は、その存在を呼ぶなり、黒い影と一体化し姿を消したのだ。
「アリッサおばさま、ありがとう。私、リチャードさんに会わないと……」
そう言い残して、ヒカルは走り出す。
「え? ヒカル?」
ベンチに取り残されたアリッサは、ぽかんとしていた。
今日もソフィーは、自分の部屋に閉じこもっていた。貴族のお茶会や夜会に出ると話の種はウィル王夫妻のこととなる。天空界に帰りたいと王に泣きながら訴える王妃を寵愛する王は、それを無視して王妃を王妃の間に閉じ込めていると人々が噂し合っているのだ。それと同時にどれだけ王が王妃を愛しているのかと。ウィル王を半ば騙して婚約したソフィーは、その噂と共に高位貴族たちの物笑いの種となっていた。
自分の嘘が火種となりウィル王夫妻が揉めたと噂を聞いたソフィーは、暫くの間嘲笑っていた。しかし、リチャードが嫌がるヒカルを閉じ込めて、執務の合間にヒカルのいる王妃の間に通い詰めてヒカルを抱き続けているという話が陰で囁かれるようになり怒り狂っていた。
バン!と自分の居室の扉にソファーの上に置かれていたクッションを投げつける。
その瞬間、ソフィーの部屋の扉が開かれて、ソフィーがウィル王の妃ヒカルの侍女として潜り込ませていた間諜である少女が悲鳴を上げている。
「シャーロット?」
不貞腐れて、寝台に寝ていたソフィーが起き上がる。幼いころ、自分を育ててくれた乳母の子どもでソフィーの幼なじみで侍女であるシャーロットは、ソフィーの腹心だ。何があろうとも自分を裏切らないシャーロットは、気性の激しいソフィーが唯一信用をしている存在だ。
ソフィーに声をかけられて、クッションを投げつけられて驚いていたシャーロットははっとする。ソフィーに慌てて近づくと、ソフィーの腕を掴むなり、ソフィーの菫色の瞳を見つめて泣き出した。
「シャーロット?」
訝しむソフィーに憐れむように視線を向ける。
「お可哀想なソフィー様……」
ただ泣きじゃくるシャーロットの次の発言にソフィーは、我を失った。
「正妃ヒカル様は、ウィル王のご寵愛を受けるばかりか、ご懐妊されているとヒカル様付きの侍女たちの間で噂が広がっています」
シャーロットが掴んでいるソフィーの身体が震える。
「じゃあ、殺さなくちゃ……」
くすくすとソフィーは笑う。
ソフィーの陰からふわりと黒い影が飛び出した。
ソフィーが恋い慕って止まないウィル王、リチャード。
まだ14歳の頃、新興貴族として新たに伯爵の位を頂いたクーパー伯爵家は貴族として認められていなかった。新しい王の戴冠式の後、王として即位したリチャードの祝いに貴族の姫として招待されていたソフィーは同い年の貴族の少女たちから嫌がらせを受けていた。大商人の家の出の母に、庶民から支持を受けた政治家の父を持った中流階級から上流貴族の仲間入りを果たした少女に周囲は冷たかった。流行の最先端のドレスに身を包んだ愛くるしい美少女に貴族の少女たちは嫉妬し、王宮の休憩室の一室にソフィーを閉じ込めたのだ。
「出して……」
と泣きじゃくるソフィーの小さな声を聞き逃さず、助けてくれたのはウィル王として即位したばかりのリチャードだった。泣いているソフィーにハンカチを差し出してくれた。おべっかを使ってくる貴族たちから逃げていたと笑ってソフィーの頭を撫でてくれたのだ。生真面目で清廉な王にはまだ不釣り合いな若者だった。
そんなリチャードにソフィーは恋をした。彼には騎士の時代から定められた番で最愛の恋人がいると知っても、諦められなかった。
リチャードは、行方不明になった番を想い続けていることがわかっても。
生真面目で清廉だった青年が周囲に踊らされて、変わり果ててしまっても。
ソフィーは、リチャードを想い続けた。
恋に狂い、その暗い情念が恐ろしい存在、西の魔王の配下を呼び出したのだ。
そして、自分の命と引き換えに西の魔王と契約したのだ。
契約した悪魔の存在により、ソフィーは別れたと言われていたヒカルの両親、アレックス=ウィル=ケッペル公爵と天空界の光の王家の王女ヒカリの関係が続いていてまだ3歳になったばかりの子どもがいる事実を掴んだ。そして、その子どもの存在を秘密にしたいアレックスを脅して、リチャードを罠にかけた。お茶に睡眠薬を入れて、眠り込んでいるリチャードの服を脱がせて、その隣に裸のソフィーがいると使用人たちの前で思わせた。案の定、ソフィーの思惑通りリチャードと婚約できた。
だけど、リチャードの最愛の番を殺そうと悪魔を差し向けたことがソフィーの運命を狂わせた。
彼の番のヒカルは、神器使いでその悪魔たちと拮抗した力の持ち主で。リチャードの最愛の恋人で番のヒカルとリチャードとヒカルの子ライアンの行方をリチャードが掴んだのだ。最愛の番を取り戻したリチャードは、ソフィーとの婚約を破棄した。
そればかりか、リチャードは、ヒカルを正妃に据えて、ライアンを王太子とした。
「駄目じゃない、西の魔王……。ほら、やっぱりあの天使を殺さないと……」
愛くるしい美少女は、その存在を呼ぶなり、黒い影と一体化し姿を消したのだ。
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