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27話 出逢い1
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王の間の寝台の上でヒカルは、目覚めた。昨日もリチャードは、執務の合間にヒカルの下を度々訪れては、ヒカルを抱いていく。ヒカルは、リチャードに天空界へ帰してくれと泣いて訴えるが、いつも彼はヒカルを冷たく振り切る。
寝台の上でヒカルは、その澄んだ青の瞳に涙を浮かべて雫を零した。自分はリチャードの子どもを産む為の道具なのだと思い知らされた。そして、最愛の子ライアンにも会わせてもらえない。ヒカルは、精神的に追いつめられていた。
「天空界へ戻りたい……。アカリお義母さんやデイビッドお義父さんに会いたい……」
ウィル神界には、もう居たくない。ウィル神界には、ヒカルを愛してくれる存在が誰もいない。最愛の息子ライアンさえも夫リチャードに取り上げられた。いつものように泣きじゃくっていたヒカルはふと気づく。
リチャードの居室、王の間の空気の流れがおかしいのだ。風の高位魔法を操れるヒカルだからこそ気づけた事実だ。ヒカルは
風の流れをたどり、そうっと歩き出す。本棚の辺りから風の流れが狂っている。本棚を押すと、かたんと隠されていた扉が開いた。
「え……?」
ヒカルは、扉を開いて恐る恐る歩き出す。多分歴代のウィル王たちしか知らない隠し通路のようだ。暗くてかび臭い隠し通路は、狭くて人ひとり歩ける位だ。ランプを右手に持って、ヒカルは歩き続ける。風の向きが変わったのを感じて、風の向きを魔法で辿りながらヒカルは歩く。隠し通路は、広い庭へと着いた。
今は昼間だ。広い庭を進むと、綺麗な薔薇が咲き誇る庭園が広がっていた。庭園に一人の女性が居る。銀色の長い髪にサファイヤを想わせる青の瞳。整った鼻筋に赤い唇に華奢な肢体。美しい女性だ、例えるなら冷えた水を連想させる美貌。初対面なのにどこか懐かしい感覚をヒカルは覚えた。そう、会ったこともないのに既視感を感じる。相手の女性も同じなのかも知れない。ヒカルをそのサファイヤのような瞳に映しだして、驚いた顔をしている。
「あなた、だれ?」
可憐な優しい花を連想させる声音。麗しいその女性は、ヒカルを唯見つめている。
「あ、現ウィル王の正妃で、ヒカル=ウェルリース=カーライルです。あなたは?」
ヒカルは、戸惑うように女性に名乗る。
「まあ……。わたくしと同じね」
女性は、ヒカルにふわりと優しく微笑んだ。
同性なのにあまりのその綺麗さにヒカルはその女性に見惚れる。
「わたくしは、前ウィル王の正妃でアリッサ。アリッサ=ウエスト=ケッペルよ」
流れる水のような瑞々しい美しさにヒカルはぼうっとする。前ウィル王の正妃。可憐でいて麗しい水の王女。
その美しい少女を巡り、まだ少年だったウィル王は少女の恋人だった炎の神器使いから少女を奪い、正妃にした。
それは有名な恋の話だ。
「それよりどうやってこの庭園に入ってきたの? ここはルカがわたくしのために作ってくれた枯れることのない薔薇の庭園。この庭には誰も入れないようにルカが、結界を張っているのに」
サファイヤの澄んだ瞳で問いかけてくる。ヒカルはふと気が付く。
「私の父はおじさまの弟でアレックスと言います。アレックス=ウィル=ケッペル」
「まあ……。あなたは、アレックスの娘なの? わたくしの義理の姪なのね」
「前ウィル王っておじさまの奥様なの?」
ヒカルの問いかけに女性は、青の瞳を瞬かせて、そしてぷっと噴き出した。
「おじさま! ルカがおじさま! でもこんなに可愛らしい姪がいるなんて嬉しいわ」
ヒカルよりも年上なのに可愛らしくあどけなく映る。その様は愛くるしい。
立ちっぱなしのヒカルに気が付いて、アリッサは手を動かす。
「ずっと立ちっぱなしでしょう? わたくしの隣に座って」
ヒカルを促すようにベンチをぽんぽんと叩く。ヒカルは、一瞬躊躇いつつもアリッサの隣に腰を下ろす。アリッサは、ふふと声を上げて嬉しそうにヒカルに笑いかける。何をしても絵になる人がいるんだなあとヒカルは溜息を吐く。
「あなたは」
そう言いかけて、ふとアリッサは気付く。
「ヒカルと呼んでいいかしら? わたくしもアリッサと呼んで」
まるで夢見るような謳うような風情にヒカルはほうっとする。
「え、えっとアリッサおばさま?」
戸惑いながらヒカルがアリッサを呼ぶとアリッサは目をぱちくりさせた。
「あら……。わたくしおばさまなのね」
「え、ええ……」
自分の方が年下なのに何故が庇護欲をかきたてられるのだ。外見は水のように冷えた美貌なのに中身はあどけない少女のようで。
守ってあげたい、そんな気分になる。あの難物の叔父が恋に落ちたのも理解できる。
「ヒカルは、可愛いわね。天空界の王族の色彩を纏っているのね。綺麗……」
指でふわりとヒカルの金糸の髪に触れる。白魚のような手に思わずドキンとしてしまい、ヒカルは慌てる。
「そ、そんなことはないです。き、綺麗ってアリッサおばさまの方がお綺麗ですよ」
女性相手に赤くなる自分は変だと思いながらヒカルは、何故か視線をアリッサから外す。
「そう? あの騎士王が、骨抜きになるのもわかるわ」
くすりとアリッサは、微笑する。その言葉だけ何故か毒を感じさせる。ヒカルは、反らした視線を元に戻す。
「あの……アリッサおばさまは、リチャードさんのことが嫌いなの?」
まだ出会ってほんの僅かの時間しか共有していない、なのにヒカルは心をアリッサに許しかけていた。その証拠にヒカルは、アリッサの前でリチャードを昔の呼び方で呼んでいた。
アリッサは目を丸くして、笑い出す。
「あの気難しい騎士王をリチャードさん呼ばわりするなんて、さすが騎士王の掌中の珠ね」
「はあ? 私がリチャードさんの? そんな訳ないわ!」
ヒカルは思わず動揺し、アリッサの言葉を否定する。自分がリチャードの掌中の珠な訳ない。自分は、リチャードの形だけの正妃だ。
ヒカルが怒り出したので、アリッサはぽかんとする。知らないのは本人ばかりとはこのことだとアリッサは可笑しくなる。気難しくて、有能な騎士王と称される現ウィル王、リチャードが自分の腕の中に閉じ込めて離さない天空界の妖精姫。それがヒカルの呼び名だ。出会った現実のヒカルは、見た目は愛くるしく可憐な天使そのものだが、生き生きとした表情が印象的な全く噂とは異なる存在だった。人と関わるのが嫌いなアリッサが魅せられた。そしてルカが結界の中へ通すのを許した人間。
アリッサはこの10分ほどの邂逅でヒカルに興味を持ち始めていた。
「ヒカル、あなたとはまたお話ししたいわ。また、この時間に薔薇の庭園にこれる?」
首をちょこんと傾げて微笑む様は稚い童女のよう。そのお願いにヒカルは、思わず頷いた。
それにアリッサは破顔する。頷いておいて、自分は今監禁されているのだとヒカルははっとする。
だが、アリッサの嬉しそうな仕草に次に会う約束をしてしまうのだった。
寝台の上でヒカルは、その澄んだ青の瞳に涙を浮かべて雫を零した。自分はリチャードの子どもを産む為の道具なのだと思い知らされた。そして、最愛の子ライアンにも会わせてもらえない。ヒカルは、精神的に追いつめられていた。
「天空界へ戻りたい……。アカリお義母さんやデイビッドお義父さんに会いたい……」
ウィル神界には、もう居たくない。ウィル神界には、ヒカルを愛してくれる存在が誰もいない。最愛の息子ライアンさえも夫リチャードに取り上げられた。いつものように泣きじゃくっていたヒカルはふと気づく。
リチャードの居室、王の間の空気の流れがおかしいのだ。風の高位魔法を操れるヒカルだからこそ気づけた事実だ。ヒカルは
風の流れをたどり、そうっと歩き出す。本棚の辺りから風の流れが狂っている。本棚を押すと、かたんと隠されていた扉が開いた。
「え……?」
ヒカルは、扉を開いて恐る恐る歩き出す。多分歴代のウィル王たちしか知らない隠し通路のようだ。暗くてかび臭い隠し通路は、狭くて人ひとり歩ける位だ。ランプを右手に持って、ヒカルは歩き続ける。風の向きが変わったのを感じて、風の向きを魔法で辿りながらヒカルは歩く。隠し通路は、広い庭へと着いた。
今は昼間だ。広い庭を進むと、綺麗な薔薇が咲き誇る庭園が広がっていた。庭園に一人の女性が居る。銀色の長い髪にサファイヤを想わせる青の瞳。整った鼻筋に赤い唇に華奢な肢体。美しい女性だ、例えるなら冷えた水を連想させる美貌。初対面なのにどこか懐かしい感覚をヒカルは覚えた。そう、会ったこともないのに既視感を感じる。相手の女性も同じなのかも知れない。ヒカルをそのサファイヤのような瞳に映しだして、驚いた顔をしている。
「あなた、だれ?」
可憐な優しい花を連想させる声音。麗しいその女性は、ヒカルを唯見つめている。
「あ、現ウィル王の正妃で、ヒカル=ウェルリース=カーライルです。あなたは?」
ヒカルは、戸惑うように女性に名乗る。
「まあ……。わたくしと同じね」
女性は、ヒカルにふわりと優しく微笑んだ。
同性なのにあまりのその綺麗さにヒカルはその女性に見惚れる。
「わたくしは、前ウィル王の正妃でアリッサ。アリッサ=ウエスト=ケッペルよ」
流れる水のような瑞々しい美しさにヒカルはぼうっとする。前ウィル王の正妃。可憐でいて麗しい水の王女。
その美しい少女を巡り、まだ少年だったウィル王は少女の恋人だった炎の神器使いから少女を奪い、正妃にした。
それは有名な恋の話だ。
「それよりどうやってこの庭園に入ってきたの? ここはルカがわたくしのために作ってくれた枯れることのない薔薇の庭園。この庭には誰も入れないようにルカが、結界を張っているのに」
サファイヤの澄んだ瞳で問いかけてくる。ヒカルはふと気が付く。
「私の父はおじさまの弟でアレックスと言います。アレックス=ウィル=ケッペル」
「まあ……。あなたは、アレックスの娘なの? わたくしの義理の姪なのね」
「前ウィル王っておじさまの奥様なの?」
ヒカルの問いかけに女性は、青の瞳を瞬かせて、そしてぷっと噴き出した。
「おじさま! ルカがおじさま! でもこんなに可愛らしい姪がいるなんて嬉しいわ」
ヒカルよりも年上なのに可愛らしくあどけなく映る。その様は愛くるしい。
立ちっぱなしのヒカルに気が付いて、アリッサは手を動かす。
「ずっと立ちっぱなしでしょう? わたくしの隣に座って」
ヒカルを促すようにベンチをぽんぽんと叩く。ヒカルは、一瞬躊躇いつつもアリッサの隣に腰を下ろす。アリッサは、ふふと声を上げて嬉しそうにヒカルに笑いかける。何をしても絵になる人がいるんだなあとヒカルは溜息を吐く。
「あなたは」
そう言いかけて、ふとアリッサは気付く。
「ヒカルと呼んでいいかしら? わたくしもアリッサと呼んで」
まるで夢見るような謳うような風情にヒカルはほうっとする。
「え、えっとアリッサおばさま?」
戸惑いながらヒカルがアリッサを呼ぶとアリッサは目をぱちくりさせた。
「あら……。わたくしおばさまなのね」
「え、ええ……」
自分の方が年下なのに何故が庇護欲をかきたてられるのだ。外見は水のように冷えた美貌なのに中身はあどけない少女のようで。
守ってあげたい、そんな気分になる。あの難物の叔父が恋に落ちたのも理解できる。
「ヒカルは、可愛いわね。天空界の王族の色彩を纏っているのね。綺麗……」
指でふわりとヒカルの金糸の髪に触れる。白魚のような手に思わずドキンとしてしまい、ヒカルは慌てる。
「そ、そんなことはないです。き、綺麗ってアリッサおばさまの方がお綺麗ですよ」
女性相手に赤くなる自分は変だと思いながらヒカルは、何故か視線をアリッサから外す。
「そう? あの騎士王が、骨抜きになるのもわかるわ」
くすりとアリッサは、微笑する。その言葉だけ何故か毒を感じさせる。ヒカルは、反らした視線を元に戻す。
「あの……アリッサおばさまは、リチャードさんのことが嫌いなの?」
まだ出会ってほんの僅かの時間しか共有していない、なのにヒカルは心をアリッサに許しかけていた。その証拠にヒカルは、アリッサの前でリチャードを昔の呼び方で呼んでいた。
アリッサは目を丸くして、笑い出す。
「あの気難しい騎士王をリチャードさん呼ばわりするなんて、さすが騎士王の掌中の珠ね」
「はあ? 私がリチャードさんの? そんな訳ないわ!」
ヒカルは思わず動揺し、アリッサの言葉を否定する。自分がリチャードの掌中の珠な訳ない。自分は、リチャードの形だけの正妃だ。
ヒカルが怒り出したので、アリッサはぽかんとする。知らないのは本人ばかりとはこのことだとアリッサは可笑しくなる。気難しくて、有能な騎士王と称される現ウィル王、リチャードが自分の腕の中に閉じ込めて離さない天空界の妖精姫。それがヒカルの呼び名だ。出会った現実のヒカルは、見た目は愛くるしく可憐な天使そのものだが、生き生きとした表情が印象的な全く噂とは異なる存在だった。人と関わるのが嫌いなアリッサが魅せられた。そしてルカが結界の中へ通すのを許した人間。
アリッサはこの10分ほどの邂逅でヒカルに興味を持ち始めていた。
「ヒカル、あなたとはまたお話ししたいわ。また、この時間に薔薇の庭園にこれる?」
首をちょこんと傾げて微笑む様は稚い童女のよう。そのお願いにヒカルは、思わず頷いた。
それにアリッサは破顔する。頷いておいて、自分は今監禁されているのだとヒカルははっとする。
だが、アリッサの嬉しそうな仕草に次に会う約束をしてしまうのだった。
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