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20話 戸惑い2
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リチャードは、執務室で頭を抱えていた。彼がウィル王として執る王都の市民や地方の住人を優先した政策が軌道に乗ってきていたが、その政策に新興貴族たちが反対を唱えてきたからだ。元々古参の高位貴族たちも自分たちの領地を守るのが優先でリチャードの執る政策に乗り気ではなかった。リチャードは自分の親友で急逝した前王太子の執ろうとしてきた遺志を引き継いでいた。その旧友の政策は難しいことはわかっていたが、軌道に乗りつつあったのだ。
新興勢力の中心であるクーパー伯爵家の横槍さえなければ。無理矢理婚約者として乗り込んできて、リチャードの隣で微笑んでいたあの強欲な娘と父親。ヒカルとライアンの存在が分からなければ、自分は破綻していた。
(あいつらの思い通りになってたまるものか……)
リチャードは、脳裏にヒカルの言葉がよぎる。もう離れたくないと泣いてすがった最愛の番。ヒカルに離さないと約束したのだ、自分は。リチャードは少しずつヒカルを昔のように信用しつつあった。
「クーパー伯爵家?」
紅茶を手にしてヒカルは中庭でお茶会を開いていた。リチャードの側近や旧王家派の夫人たちと共に。ヒカルは、ウィル正王家であるケッペル家の血を色濃く引く最後の姫であリ、現ウィル王リチャードの正妃で王太子ライアンの実の母親だ。そのヒカルの下にたくさんの人々が権力を求めてきたが、リチャードがヒカルの下に集まる夫人や少女たちを厳選したのだ。
野心を抱かない優しい夫人や柔らかな物腰の少女たちが招待されていた。
「そうなんですわ。陛下は一度悪役令嬢と名高いオーレリー=ジャージ侯爵令嬢との婚約を破棄されて、次にこれも又、悪役令嬢と噂されていたソフィー=クーパー伯爵令嬢との婚約を破棄されてますわ」
ヒカルはかつての自分の名前が出てきて、笑顔を引きつらせた。話の相手であるエヴァ=ハワード公爵令嬢は、ヒカルが、夫であるリチャードが婚約していた話を聞いて心中穏やかでないと勘違いする。
「まあ、陛下はヒカル様のような可憐でお美しい方を正妃にお迎えになって良かったですわ。お優しくて、穏やかですし、何より博識で!」
にこにこと笑う愛くるしい可憐なエヴァは、出逢ってからすぐにヒカルを王妃様と慕ってくれている。まだ18歳だが、頭の回転の早い少女でヒカルが天空界で働いていた頃の話を興味深く聞いてくる向上心の高い少女だ。ヒカルが、ウィザードで神器使いなのもリチャードとの出逢いから知られているので聞いてくる。
「博識じゃないわ。ただ、大学に行けただけで天空界では同じように大学に行って働いている女性はたくさんいるから私のようなレベルはたくさんいるわ……」
ヒカルは、普通に話すがそれを慎み深いと周囲の夫人たちやヒカルを慕う少女たちは誉めるので堪らない。
「それよりクーパー伯爵家がどうしたの?」
メイドがヒカルの紅茶をさっと入れ直す。ヒカルは、ありがとうとメイドにお礼を言うと、紅茶を手に取る。メイドの少女はいつもお礼を言うヒカルにはにかんで挨拶をする。周囲の夫人たちや少女たちはヒカルが天空族育ちの天使だからと最初は自分より下のメイドにお礼を言うヒカルを奇異に感じていたが、その内慣れてしまった。
「あ、ええ。どうも陛下がヒカル様を正妃に迎えるとソフィー嬢との婚約を破棄したことへの仕返しに陛下の執る政策に反対し始めたのですわ」
こそっとエヴァが小さな声でヒカルに耳打ちする。エヴァは、ヒカルにウィル神界の貴族社会のことをヒカルに教えてくれる。恋愛結婚が夢のエヴァには、リチャードとヒカルの種族を超えた恋愛に憧れがあり、ヒカルに味方してくれるのだ。ヒカルは眉を顰める。
「そう……」
ヒカルは、かつては力のあるジャージ侯爵家の姫であった。今は天空界の光の王家のウェルリース家とウィル神界の前王家のケッペル公爵家の血を引く稀有な存在だ。だが、血筋だけだ。今は何の力もない名だけの存在の姫君でしかない自分がリチャードの妻でいいのかとヒカルは考え込む。
リチャードは、ヒカルが自分の正式な番で妻だと何回も繰り返し言ってくる。ヒカルはリチャードの真意が分からない。ライアンがいるからヒカルを正妃としたのだと思っていた。だが、リチャードは毎晩のようにヒカルを甘く抱く。そして、そのヒカルへの視線は変わらず冷たい。
ヒカルはどう動けばいいのか分からない。自分の進む道が分からず、立ち止まっていた。
新興勢力の中心であるクーパー伯爵家の横槍さえなければ。無理矢理婚約者として乗り込んできて、リチャードの隣で微笑んでいたあの強欲な娘と父親。ヒカルとライアンの存在が分からなければ、自分は破綻していた。
(あいつらの思い通りになってたまるものか……)
リチャードは、脳裏にヒカルの言葉がよぎる。もう離れたくないと泣いてすがった最愛の番。ヒカルに離さないと約束したのだ、自分は。リチャードは少しずつヒカルを昔のように信用しつつあった。
「クーパー伯爵家?」
紅茶を手にしてヒカルは中庭でお茶会を開いていた。リチャードの側近や旧王家派の夫人たちと共に。ヒカルは、ウィル正王家であるケッペル家の血を色濃く引く最後の姫であリ、現ウィル王リチャードの正妃で王太子ライアンの実の母親だ。そのヒカルの下にたくさんの人々が権力を求めてきたが、リチャードがヒカルの下に集まる夫人や少女たちを厳選したのだ。
野心を抱かない優しい夫人や柔らかな物腰の少女たちが招待されていた。
「そうなんですわ。陛下は一度悪役令嬢と名高いオーレリー=ジャージ侯爵令嬢との婚約を破棄されて、次にこれも又、悪役令嬢と噂されていたソフィー=クーパー伯爵令嬢との婚約を破棄されてますわ」
ヒカルはかつての自分の名前が出てきて、笑顔を引きつらせた。話の相手であるエヴァ=ハワード公爵令嬢は、ヒカルが、夫であるリチャードが婚約していた話を聞いて心中穏やかでないと勘違いする。
「まあ、陛下はヒカル様のような可憐でお美しい方を正妃にお迎えになって良かったですわ。お優しくて、穏やかですし、何より博識で!」
にこにこと笑う愛くるしい可憐なエヴァは、出逢ってからすぐにヒカルを王妃様と慕ってくれている。まだ18歳だが、頭の回転の早い少女でヒカルが天空界で働いていた頃の話を興味深く聞いてくる向上心の高い少女だ。ヒカルが、ウィザードで神器使いなのもリチャードとの出逢いから知られているので聞いてくる。
「博識じゃないわ。ただ、大学に行けただけで天空界では同じように大学に行って働いている女性はたくさんいるから私のようなレベルはたくさんいるわ……」
ヒカルは、普通に話すがそれを慎み深いと周囲の夫人たちやヒカルを慕う少女たちは誉めるので堪らない。
「それよりクーパー伯爵家がどうしたの?」
メイドがヒカルの紅茶をさっと入れ直す。ヒカルは、ありがとうとメイドにお礼を言うと、紅茶を手に取る。メイドの少女はいつもお礼を言うヒカルにはにかんで挨拶をする。周囲の夫人たちや少女たちはヒカルが天空族育ちの天使だからと最初は自分より下のメイドにお礼を言うヒカルを奇異に感じていたが、その内慣れてしまった。
「あ、ええ。どうも陛下がヒカル様を正妃に迎えるとソフィー嬢との婚約を破棄したことへの仕返しに陛下の執る政策に反対し始めたのですわ」
こそっとエヴァが小さな声でヒカルに耳打ちする。エヴァは、ヒカルにウィル神界の貴族社会のことをヒカルに教えてくれる。恋愛結婚が夢のエヴァには、リチャードとヒカルの種族を超えた恋愛に憧れがあり、ヒカルに味方してくれるのだ。ヒカルは眉を顰める。
「そう……」
ヒカルは、かつては力のあるジャージ侯爵家の姫であった。今は天空界の光の王家のウェルリース家とウィル神界の前王家のケッペル公爵家の血を引く稀有な存在だ。だが、血筋だけだ。今は何の力もない名だけの存在の姫君でしかない自分がリチャードの妻でいいのかとヒカルは考え込む。
リチャードは、ヒカルが自分の正式な番で妻だと何回も繰り返し言ってくる。ヒカルはリチャードの真意が分からない。ライアンがいるからヒカルを正妃としたのだと思っていた。だが、リチャードは毎晩のようにヒカルを甘く抱く。そして、そのヒカルへの視線は変わらず冷たい。
ヒカルはどう動けばいいのか分からない。自分の進む道が分からず、立ち止まっていた。
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