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17話 夜会にて3

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 リチャードの足は、王族の住まう棟に続く回廊にさしかかる。青の絨毯が敷かれた回廊は静かだ。今はダンスホールで舞踏会が催されているからメインの召使たちはそちらに駆り出されているのだから当然だ。
「ウィル王! 離してよ!」
 ヒカルが、ダンスホールからリチャードに抱き上げられて運ばれている間、ジタバタと抵抗していた。難なくヒカルを抱えていたリチャードだが、ヒカルの悪あがきに閉口していた。

 リチャードがヒカルを抱えていると侍従がリチャードの寝室の扉を開いた。
「あのなあ。ヒカル、足をくじいたのだから手当をするんだ。大人しくしてろ」
 リチャードが呆れながら自分の寝室に入ると、ヒカルをソファへと降ろした。ひょいとソファへ置かれて、ヒカルはぽかんとする。リチャードはヒカルのヒールを脱がせて、絹のストッキングを外して剥き出しになった足首に手をかざした。水の魔法をヒカルの足にかけて、冷やしたのだ。

「すごい! ウィル王、水の魔法が使えるの?」
 久しぶりにヒカルらしい無邪気な口調にリチャードは、くすりと笑いを零す。笑われたヒカルはむっとする。
「ウィル王は風と水と炎と大地の魔法を司るウィル界の王だが……」
 リチャードの笑いが止まらない。ヒカルはライアンのようにむうっと頬を膨らませる。
「ウィル王が自然界の王であることは知ってるけど、水の魔法なんて初めて見たんだもの……。そんなに笑わなくてもいいじゃない」
「初めて?」
 こくんとヒカルは頷く。ヒカルは、ウィル神族としては16歳まで高位貴族の令嬢として育ったが、叔父夫婦のお陰でろくに友人も居なかった。また、本来の姿である天使としての力と姿を封印されていた為、力がないと思われていて、魔法力の高い高位貴族の子女たちに蔑まれていた。故に彼女は孤立していた。
「風魔法や光魔法なら自分で使えるし、予言やお告げはコトハ様に散々からかわれたからたくさんあるけど」
 天空族としてのヒカルは人の縁に恵まれているがウィル神族としての彼女は恵まれていなかった。それに気付かずヒカルは、ただリチャードに笑われたことに、ふてくされている。素直で人として善良なのが彼女の美徳なのだろう。シングルマザーとして、天空界でライアンを育てていた時も周囲の人々に助けられていたと聞いた。

 ヒカルを正妃にしたいと申し出たリチャードを心配した側近たちは、ヒカルのウィル神族としてと天空族としての過去を調べ上げたのだ。ウィル神族のオーレリーとしての過去は誉められたものではなかったが、天空族のヒカルとしての過去は天空界の対魔組織ウィザードの警部として働き魔族に苦しむ人々を助けて、高校と大学では勉学に励み大学をスキップで卒業していた。天空界の女王たる予言の姫の信頼の厚い神器使いであり、光の王族の血を引く素直な心優しい少女だった。リチャードに会わなければ彼女はそのまま天使として生きていただろうことも。

 リチャードと出逢って、自分の生まれを知り、ヒカルの人生は狂った。そして、リチャードのつがいであったことでも。ライアンを妊娠して、姿を消した後も彼女はライアンを抱えて一人で一生懸命育てていた。リチャードが誤解していた男の影など一切なく。

 その報告を聞いたリチャードは混乱した。ヒカルが、自分を裏切った理由が分からないのだ。男の影など、ヒカルを抱いて分かった。彼女は自分以外の男を知らなかった。ヒカルへの復讐心はどこへ行けばいいのか分からない。一度振り降ろした復讐の刃は元に戻せない。

「ウィル王?」
 きょとんとしたあどけない風情でヒカルは問いかけてくる。始めてヒカルを抱いたのは彼女が19歳の時だった。ヒカルが抵抗しなかったことをいいことに無理矢理に近かったことを思い出して、リチャードは顔を澄んだ青の瞳から目を逸らした。

「私、自分の部屋に戻るわ……。手当してくれてありがとう。じゃあ……」
 ヒカルは、いつもと様子の違うリチャードに戸惑い揺れる自分が制御できない。距離を取らなければと急いで部屋を出ようとするが、リチャードに腕を掴まれる。

 ヒカルは、振り返りリチャードと視線が合う。ぐいと顎を引かれて強引に口づけられる。ヒカルは目を大きく見開いてリチャードの服に縋りついた。普段なら自分は抵抗するのにどうしたのだろうか。顎を掴まれたままリチャードの舌がヒカルの口腔内に侵入して、歯列を辿りヒカルの舌に搦められる。ぬるりとした舌に舐め上げられる。舌先から甘い痺れが走り、身体の奥が疼く。ちゅくちゅくとリチャードはヒカルの舌を吸い上げる。しごかれるような舌の感触に身体が甘くて堪らない。その甘さに耐え切れず、ヒカルはリチャードの舌から逃げようとすると、リチャードがまたヒカルの舌に己の舌を強く搦めて、吸いあげた。唾液がどちらのものかわらなくなるくらい舌を搦められる。ヒカルはリチャードの服の上着を必死に掴む。そうでないとリチャードから与えられる快楽に耐え切れなかった。
 
 唇が離れる。このまま離れたらまた、二つの世界に別れてしまうような不安にヒカルは、駆られる。ヒカルはリチャードの身体にしがみついて、首筋に腕を回した。リチャードはヒカルに抱き着かれて、驚愕する。
「……ヒカル?」
 リチャードの当惑する声音にヒカルははっとする。自分は何をしているのだろうか、隠していた恋心が隠せなくなりそうだ。
 だけど。
 この恋心がばれる訳にはいかない。
 ヒカルはさっとリチャードからさっと離れるようとするが、反対にリチャードに抱き留められた。

「あ……」
 リチャードは、ヒカルの戸惑う声を他所にヒカルの耳を舌で犯す。熱い舌が耳の中で蠢いて、ヒカルはびくんと身体を震わせる。リチャードのウィル王のつけるネックレスが、ヒカルの身体に当たる。ネックレスの冷たさとは真逆のリチャードの舌の熱さが耳から首筋を辿る。舌が肌を吸い、ちりっとした微かな痛みが身体に走る。リチャードの指がヒカルの胸の先を擦る。胸の先の柔らかさが服の上からリチャードに伝わる。

「い、いや……」
 胸の愛撫に弱いヒカルは、それだけで甘い声を零す。19歳の時からヒカルを幾度となく抱いているリチャードは、ヒカル以上にヒカルの身体を熟知している。リチャードは、ヒカルのドレスの後ろボタンを外して、後ろのコルセットの紐を緩める。胸を強調したドレスの前から大きな双丘がふるりと零れ落ちる。リチャードの長い指がかすかに先端をかすめた。それだけでヒカルは身体の奥が甘く疼いた。

「やっ……」
 自分の甘ったるい声が信じられない。リチャードに無理矢理抱かれている時は、こんな甘い声は出ていなかった。身体が甘さを感じさせてもどこかで醒めた自分がいて、高い声で啼いていても甘くはなかったのに。リチャードが右の胸の突起を口に含んで、もう片方の胸の膨らみを優しくぴんと弾いた。
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