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15話 夜会にて1
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今日はウィル王家主催の舞踏会だ。その時にウィル王の息子である紫の王眼を持つ王太子とウィル王の正式な番で正妃であり、王太子の母であり、旧ウィル王家の血を引くケッペル公爵令嬢が臨席する。王の寵愛する天空族の血の濃い可憐な美女であると王都中に噂が広まっていた。
21時半から舞踏会が始まるが、ライアンは始まりの挨拶の際にお披露目として臨席を許される。そして子どもなのですぐに席から下がり、その後ヒカルはウィル王で夫であるリチャードの玉座の隣に座る予定だ。
21時になり、ヒカルは侍女やメイドたちに寄ってたかられて、ドレスアップさせられる。クリーム色の肩が出るネックラインにひもで縁取られた花のモチーフが胸のラインとスカート正面に絹サテンが用いられて、腰は取り外し可能なサシュで腰の自然なウエストラインを強調する。またスカートの裾に縁取りされた柔らかい絹のシフォンは肩のネックラインにも使用されていて、一か月かけて流行の最先端のオートクチュールで作られた。首周りをウィル神聖王国の東洋の地で取れた天然のパールのネックレスで飾り、腕は長い白の手袋で覆っている。金色の髪はアップして白い薔薇の生花が飾られている。
「完成ですわ! まあ、お綺麗な……」
侍女とメイドたちはヒカルの仕上がりにほうとため息をついて、感心する。ヒカルは、元がいいので着飾れば可憐な淑女の出来上がりである。自分たちの成果をウィル王に見せられると、侍女とメイドたちは安堵する。
「ヒカル様、窓の外を見てくださいな。ウィル神族の高位貴族の方々が見えられてますわ」
ヒカル付きの侍女のエマがカーテンをそっと捲り、外を見せてくれる。広い王城の車寄せに家紋の着いた箱馬車で乗り付けて、外套を身に着けた舞踏会の招待客が次々と降り立ってくる。その数は幾多にも及び、ヒカルは圧倒される。ランプの光の中、人々がざわめき合っている。
「支度が出来たか……」
そこへ白のウィル王の正装で纏めたリチャードがライアンを連れて現れる。ライアンは、リチャードの正装と同じような王太子の正装をしている。
「ママ、可愛い! お姫様みたい!」
ぴょんぴょんと兎のように跳ねて、ライアンははしゃいでいる。両親がいる空間が嬉しいのだ。リチャードが、ヒカルのドレス姿をじっと凝視する。随分長いこと、眺めているのでヒカルは不安になり、リチャードに問いかける。
「ウィル王、このドレス姿、変?」
リチャードは、ヒカルから視線を逸らして、ぽつんと呟く。
「いや、似合ってる……」
「!」
ヒカルは、意外なリチャードの言葉に頬を紅潮させる。仲睦まじいウィル王と正妃のやり取りに侍女とメイドたちがくすくすと笑いだす。
「パパとママ、仲良し!」
ライアンがご機嫌に笑いながら叫び、リチャードとヒカルははっとする。
「ヒカル、ライアン、行くぞ!」
リチャードは、侍女とメイドたちが微笑ましく自分たちを見ていることに気付いて、それを振り切るように背中を向けて、部屋を出る。
「……」
ヒカルは、リチャードの言葉が嬉しくてくすぐったく感じる。リチャードの照れている仕草にくすりと笑いを漏らす。再会してからずっとすれ違っていたが、最近妙に優しい。少しは近づけるかもしれないとヒカルは優しい予感を覚える。
リチャードは、腕をヒカルに向ける。ヒカルは、戸惑うようにその腕を掴んだ。胸が不安に揺れる中、リチャードの腕に引かれて、玉座の前に進む。ライアンは新しい乳母に手を引かれて歩く。リチャードに導かれる様にヒカルは、玉座の隣に座る。その斜め横にライアンが子ども用の小さな椅子に座る。
招待された高位貴族たちは、ライアンのリチャードに瓜二つの容貌とその濃い純粋な紫の王眼を見て、驚愕する。そして、リチャードの隣の美女を確かめるように凝視する。リチャードは、すっと立ち上がると、ライアンを抱き上げて、宣言する。
「今まで明かされていなかったが、私と番であるヒカルとの間の子、ライアンだ。紫の王眼を持つ。ライアンを王太子に据える」
リチャードの聞き心地のいい低いテノールの声が大広間にこだまする。わっと人々が歓声を上げる。リチャードは、今年31歳だ。番の天空族の少女を正妃に迎えると新しくウィル神族を進める声を聞かず、挙句の果てにその番は姿をくらませた。やけになったリチャードは、政務には手を抜かなかったが、貴婦人たちとの女遊びに現を抜かしていた。
だが、再びウィル王は最愛の番と運命的に出逢い、その女性を寵愛しているという。普段ならば反対される正妃への提案も、その天空族の少女が、ウィル旧王家の血を引いていたのでスムーズに行えた。現宰相で前ウィル王の弟であるアレックス=ウィル=ケッペル公爵の娘だ。新王家のカーライル家が、旧王家の血を引く最後の姫を正妃に迎えるのだ。誰も文句は言えなかった。
その女性は、天空族の光の王家の特徴である太陽の如き長い金糸の髪。濃い円らな青の瞳。華奢な肢体にクリーム色の可憐なドレスを身に着けている。可憐な妖精を連想させる儚い美女。子どもがいるのにまだ10代後半にも見える。これはウィル王が骨抜きになるのも仕方ないと高位貴族の男性たちは嘆息する。
そして、ウィル王の遊び相手だった貴婦人たちは嫉妬の炎を燃やし、ウィル王を狙っていた妙齢の少女たちは絶望する。
「ウィル王、正妃様をご紹介頂けますか?」
そう口火を切ったのは名門であるハワード公爵だ。温厚で旧王家派の中心人物である。今まで新王家のリチャードには、穏健な態度を取ってきたが、あくまで態度であった。それが、旧王家のヒカルを正妃に据えると言い出してからリチャードと対等に話をするようになってきた。リチャードが視線でヒカルに挨拶を促す。手に持っていた扇を右手に持ち、ヒカルはしゃんと背を伸ばして名前を名乗る。
「ヒカル=ウェルリース=ケッペルです。天空界のシルフィード国育ちで叔母のアカリ=ウェルリース=パッカードに育てられました。第26代シルフィード国大統領グレッグ=パッカードは義理の祖父です」
見た目の儚さとは違う凛とした毅然な態度にその鈴の音を思わせる声音。ほうと人々は感嘆の声を漏らす。パッカード大統領の息子を義理の父に持つ天空界でも指折りの名家の令嬢。
「そしてアレックス=ウィル=ケッペル公爵と光の王家出身のケッペル公爵の正妃ヒカリ様の唯一のお子ですな。お若い頃のヒカリ様に瓜二つだ」
嬉しそうに目を細めるハワード公爵にヒカルはこくんと頷いた。にこにこと微笑むハワード公爵は本当に嬉しそうだ。
(これで、ヒカルは正妃として認められたな……)
政界の重鎮であるハワード公爵がヒカルを気に入ったのだ。リチャードは、穏やかな王の仮面の下で狡猾な笑みを浮かべていた。
21時半から舞踏会が始まるが、ライアンは始まりの挨拶の際にお披露目として臨席を許される。そして子どもなのですぐに席から下がり、その後ヒカルはウィル王で夫であるリチャードの玉座の隣に座る予定だ。
21時になり、ヒカルは侍女やメイドたちに寄ってたかられて、ドレスアップさせられる。クリーム色の肩が出るネックラインにひもで縁取られた花のモチーフが胸のラインとスカート正面に絹サテンが用いられて、腰は取り外し可能なサシュで腰の自然なウエストラインを強調する。またスカートの裾に縁取りされた柔らかい絹のシフォンは肩のネックラインにも使用されていて、一か月かけて流行の最先端のオートクチュールで作られた。首周りをウィル神聖王国の東洋の地で取れた天然のパールのネックレスで飾り、腕は長い白の手袋で覆っている。金色の髪はアップして白い薔薇の生花が飾られている。
「完成ですわ! まあ、お綺麗な……」
侍女とメイドたちはヒカルの仕上がりにほうとため息をついて、感心する。ヒカルは、元がいいので着飾れば可憐な淑女の出来上がりである。自分たちの成果をウィル王に見せられると、侍女とメイドたちは安堵する。
「ヒカル様、窓の外を見てくださいな。ウィル神族の高位貴族の方々が見えられてますわ」
ヒカル付きの侍女のエマがカーテンをそっと捲り、外を見せてくれる。広い王城の車寄せに家紋の着いた箱馬車で乗り付けて、外套を身に着けた舞踏会の招待客が次々と降り立ってくる。その数は幾多にも及び、ヒカルは圧倒される。ランプの光の中、人々がざわめき合っている。
「支度が出来たか……」
そこへ白のウィル王の正装で纏めたリチャードがライアンを連れて現れる。ライアンは、リチャードの正装と同じような王太子の正装をしている。
「ママ、可愛い! お姫様みたい!」
ぴょんぴょんと兎のように跳ねて、ライアンははしゃいでいる。両親がいる空間が嬉しいのだ。リチャードが、ヒカルのドレス姿をじっと凝視する。随分長いこと、眺めているのでヒカルは不安になり、リチャードに問いかける。
「ウィル王、このドレス姿、変?」
リチャードは、ヒカルから視線を逸らして、ぽつんと呟く。
「いや、似合ってる……」
「!」
ヒカルは、意外なリチャードの言葉に頬を紅潮させる。仲睦まじいウィル王と正妃のやり取りに侍女とメイドたちがくすくすと笑いだす。
「パパとママ、仲良し!」
ライアンがご機嫌に笑いながら叫び、リチャードとヒカルははっとする。
「ヒカル、ライアン、行くぞ!」
リチャードは、侍女とメイドたちが微笑ましく自分たちを見ていることに気付いて、それを振り切るように背中を向けて、部屋を出る。
「……」
ヒカルは、リチャードの言葉が嬉しくてくすぐったく感じる。リチャードの照れている仕草にくすりと笑いを漏らす。再会してからずっとすれ違っていたが、最近妙に優しい。少しは近づけるかもしれないとヒカルは優しい予感を覚える。
リチャードは、腕をヒカルに向ける。ヒカルは、戸惑うようにその腕を掴んだ。胸が不安に揺れる中、リチャードの腕に引かれて、玉座の前に進む。ライアンは新しい乳母に手を引かれて歩く。リチャードに導かれる様にヒカルは、玉座の隣に座る。その斜め横にライアンが子ども用の小さな椅子に座る。
招待された高位貴族たちは、ライアンのリチャードに瓜二つの容貌とその濃い純粋な紫の王眼を見て、驚愕する。そして、リチャードの隣の美女を確かめるように凝視する。リチャードは、すっと立ち上がると、ライアンを抱き上げて、宣言する。
「今まで明かされていなかったが、私と番であるヒカルとの間の子、ライアンだ。紫の王眼を持つ。ライアンを王太子に据える」
リチャードの聞き心地のいい低いテノールの声が大広間にこだまする。わっと人々が歓声を上げる。リチャードは、今年31歳だ。番の天空族の少女を正妃に迎えると新しくウィル神族を進める声を聞かず、挙句の果てにその番は姿をくらませた。やけになったリチャードは、政務には手を抜かなかったが、貴婦人たちとの女遊びに現を抜かしていた。
だが、再びウィル王は最愛の番と運命的に出逢い、その女性を寵愛しているという。普段ならば反対される正妃への提案も、その天空族の少女が、ウィル旧王家の血を引いていたのでスムーズに行えた。現宰相で前ウィル王の弟であるアレックス=ウィル=ケッペル公爵の娘だ。新王家のカーライル家が、旧王家の血を引く最後の姫を正妃に迎えるのだ。誰も文句は言えなかった。
その女性は、天空族の光の王家の特徴である太陽の如き長い金糸の髪。濃い円らな青の瞳。華奢な肢体にクリーム色の可憐なドレスを身に着けている。可憐な妖精を連想させる儚い美女。子どもがいるのにまだ10代後半にも見える。これはウィル王が骨抜きになるのも仕方ないと高位貴族の男性たちは嘆息する。
そして、ウィル王の遊び相手だった貴婦人たちは嫉妬の炎を燃やし、ウィル王を狙っていた妙齢の少女たちは絶望する。
「ウィル王、正妃様をご紹介頂けますか?」
そう口火を切ったのは名門であるハワード公爵だ。温厚で旧王家派の中心人物である。今まで新王家のリチャードには、穏健な態度を取ってきたが、あくまで態度であった。それが、旧王家のヒカルを正妃に据えると言い出してからリチャードと対等に話をするようになってきた。リチャードが視線でヒカルに挨拶を促す。手に持っていた扇を右手に持ち、ヒカルはしゃんと背を伸ばして名前を名乗る。
「ヒカル=ウェルリース=ケッペルです。天空界のシルフィード国育ちで叔母のアカリ=ウェルリース=パッカードに育てられました。第26代シルフィード国大統領グレッグ=パッカードは義理の祖父です」
見た目の儚さとは違う凛とした毅然な態度にその鈴の音を思わせる声音。ほうと人々は感嘆の声を漏らす。パッカード大統領の息子を義理の父に持つ天空界でも指折りの名家の令嬢。
「そしてアレックス=ウィル=ケッペル公爵と光の王家出身のケッペル公爵の正妃ヒカリ様の唯一のお子ですな。お若い頃のヒカリ様に瓜二つだ」
嬉しそうに目を細めるハワード公爵にヒカルはこくんと頷いた。にこにこと微笑むハワード公爵は本当に嬉しそうだ。
(これで、ヒカルは正妃として認められたな……)
政界の重鎮であるハワード公爵がヒカルを気に入ったのだ。リチャードは、穏やかな王の仮面の下で狡猾な笑みを浮かべていた。
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