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13話 現実と嘘2

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 ヒカルは、リチャードと隣接して続いている部屋を割り当てられた。リチャードの青を基調とした部屋に対して、ヒカルの部屋は女性らしい優しいペールグリーンを基調とした部屋だった。天蓋付きのベッドに可愛らしいドレッサーにソファとローテーブルと暖炉が配置されているが、どれも女性らしいデザインのものであった。

 ヒカルは、いつもリチャードの天蓋付きのベッドで目覚める。昨晩もリチャードに抱かれていた。リチャードは、いつも早く起きて鍛錬と王としての執務に向かうのでヒカルが目覚める時にはベッドには居ない。ヒカルは、自室に戻るとコルセットをきゅうきゅうに締められて、ドレスを着せられる。今日は、ペールピンクのドレスだ。そして、王妃としての勉強を午前と午後に受けさせられる。

「それにしてもヒカル様は見事なウィル神聖語をお話になりますね」
 ウィル神聖語の教師に言われた時、さすがにヒカルは焦った。まさか過去にウィル神界の高位貴族でしたとは言えない。ヒカルは、ウィル神界では、天空界で叔母夫婦に育てられた設定になっているのだ。そして国内の情勢や貴族たちの力量関係、そしてウィル王の正室としてのマナーを教え込まれる。16歳までウィル神界の侯爵令嬢として生活していたが、親代わりの叔父夫婦に
甘やかされてろくな教育を受けさせて貰えなかった。今、下地となっているのは光の王家の血を引く者として受けさされたマナーである。ヒカルは、真面目に叔母であるアカリに教えを請うて良かったと安堵する。

「ママ!」
 午前と午後の授業の合間に休憩を取っていたヒカルの部屋に、ライアンが入ってきた。お昼寝を済ませて、機嫌がいい。乳母ナニーとして雇われた女性が控えている。ヒカルは、数日ぶりにライアンを抱き締める。お日様の匂いが気持ちいい。

「ライアン、会いたかった」
 ヒカルが、ライアンを抱き上げながら微笑む。
「ぼくもママに会いたかった。皆、ママに会いたいって言ってもママお仕事で忙しいって。夜はパパと一緒だし。パパとねんねしているの?ずるーい! ぼくも一緒に寝たい」
 誰から聞いたのか、ヒカルがリチャードと夜を過ごしていると話したらしい。ヒカルは、子どもに何を話すんだと頬を紅潮させて、黙り込む。

「ライアン、それ誰が話したの?」
 ヒカルは怒りを抑えて、穏やかにライアンに問いかける。
「うーんとね、乳母ナニーのグレイス! ね?」
 ライアンはにっこりと笑い、控えている乳母ナニーを指差す。ヒカルは、軽く咳払いをする。
「ライアン、ちょっと向こうに行ってくれる?」
 ヒカルはライアンを降ろして、視線をライアンに合わせるように屈んで話す。
「えーっ。せっかくママと会えたのに……」
 むうーっと頬を膨らませるライアンに、ヒカルは微笑む。
「うん。だからね、今日はお昼を一緒に食べようね。少しだけパパのお部屋に行ってくれる?」
 ヒカルは、続きの間のリチャードの居室に少し行っていてねとライアンに手を合わせてお願いする。ライアンはヒカルのお願いにいやいや頷いて、ヒカル付きの侍女の手を取り、歩いて行く。
「さて……」
 ヒカルは、にっこりと微笑み、乳母ナニーのグレイスに振り返る。

 夜になり、ヒカルはリチャードに彼の部屋に呼び出された。ヒカルは、特別に発注させたシルフィード国風のワンピースを纏っていた。日中はウィル神聖王国のドレスを身に纏うが、夜は天空界の服を身に着けている。リチャードは、いつもの通り風呂上りと思ったが、今日は王の略装のままだ。
乳母ナニーを解任したと聞いたが……」
 腕を組んで、ヒカルに詰問する。王であるリチャードに断りなく、勝手にリチャードが決めた乳母ナニーを解雇したのだ。それはリチャードは、怒るであろうとヒカルは想定していた。

 濃い純粋な紫の王眼で冷たくヒカルを見据える。ヒカルは大きな青の双眸をリチャードに向ける。ヒカルはこくんと首を振る。
「ええ。だってライアンにあなたと私が夜一緒に過ごしていると教えたのよ。まだ3歳の子どもに!」
 ヒカルの声は怒りで上ずってしまう。ヒカルが冷静を失い、怒っているのに対して、リチャードは落ち着き払っていた。
「ヒカル、俺たちは夫婦なんだから夜は一緒に過ごして当たり前だろう? 恥ずかしいのか?」
 くくっと皮肉な笑みを口元に浮かべる。揶揄されているのだとヒカルは気付く。
「まだ夫婦ではないわ。議会に認められてないでしょう?」
 ヒカルは、リチャードをきっと睨みつける。まだ夫婦となった訳でもなく、結婚式も挙げていない単に子どもがいるという間柄の元恋人同士という関係なのだ。そんな曖昧な関係なのに子どもに夜を一緒に過ごしていると暗に告げたのだ。悪意があってのことだろう。ヒカルは、その悪意を感じ取り、先手を打って乳母ナニーを解任した。王宮の女性たちに対するヒカルの宣戦布告でもある。

 そのヒカルの気の強さが、リチャードを煽る。リチャードはくつりと笑い、組んでいた腕を解いてヒカルの腕を引き寄せて、もう片方の手でヒカルの顎を掴む。
「いやっ!」
 ヒカルは、リチャードの手を振り解こうとするが、力が強くて振り解けない。ぐいっと唇を強引に奪われる。突然の口づけにヒカルは、目を見開く。抗議しようと口を動かす。その瞬間をリチャードは見逃さない。開きかけた唇から熱い肉厚の舌を侵入させる。リチャードの舌は歯列を辿り、ヒカルの口腔内を舐め尽くす。そうしている内にヒカルの舌を探し当てると、ぬるりとした舌に舌先を搦めとられて、強く吸われる。ヒカルは、身体の奥が甘く疼きだすのを感じた。

 呼吸が出来ない程の強さだ。眦から透明な涙が零れ落ちる。執拗に舌で強く吸われて、ヒカルの舌をリチャードは、己の唇に引き込む。ヒカルの下腹部から何かが湧いてきて、とろりと下着を濡らす。唾液を啜られて、どちらかの唾液かわからなくなる位だ。ぴちゃぴちゃと唾液が啜られる音が互いの耳に反響する。更に吸われてまるで食べ尽くされるような強さと激しいキスにヒカルは、思考が出来なくなる。甘い絶頂がヒカルの背中を走る。

 リチャードの唇が離れて、唾液が互いの唇につーっと橋のようにかかる。唾液がぷちんと壊れる。ヒカルは、何回も口づけられていたが、再会してからこんな激しい口づけは始めてでリチャードの腕の中で戸惑う。また口づけられる。執拗に舌を吸い上げられて、今度はワンピースの上から長い指で擦られる様に胸の先を愛撫される。くりくりと柔らかい胸の先を優しく弄られて、身体の芯が熱い。胸の先が尖ってきて、敏感に感じてしまう。涙がまた溢れる。

「ヒカル……」
 リチャードは、ヒカルの名を艶めいた声で呼ぶ。ずるいと思う。いつも冷たく刺すような視線で自分を見つめるのにこんな時だけ優しく自分の名を呼ぶのだ。

「あ……。ウィル王」
 ヒカルは、抱き上げられて、ベッドに押し倒される。
 ヒカルの青の瞳から涙が一筋、落ちた。
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