サフォネリアの咲く頃

水星直己

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第四章

[第51話]未知なる物

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連峰は大陸の西側、海岸線に沿って南北に伸びている。
大闇祓いの行程は、その南口から北上し、北口までの間にある三カ所の待機所を拠点に遂行される。
これは蒼の聖殿の歴史書や、前回行った緑の聖殿の報告書を参考に組まれたものだ。

連峰には僅かな森と、そこに生まれる動植物以外、棲みつくものはない。
森以外は岩場だらけで豊かな土壌も無く、精霊たちも殆ど存在しない場所が多いため、魔烟や魔物の巣窟となっている。

結界を施し、連峰を封鎖しても、土に染み込んだ魔烟は、長い時間を掛けて大陸に広がると言われ、羽根人たちの祖先は定期的にこの地を浄化することに決めたのだ。


騎士団が向かう第二待機所は、100人程度が一時待機できる場所だ。
最低限の設備が整っているが、普段管理する者が居ないため、騎士たちはまず最初にその整備を課せられる。

偵察、会議、戦闘後の休息を含め、騎士団の滞在期間は大凡15日前後。
魔烟を駆除したら天使団に連絡をし、騎士団は第三待機所に移動する。
第二待機所はその後、天使団の仮屋となり、第三待機所以降も、その繰り返しとなる。


蒼の騎士団は、広葉樹が拡がる山道を適度な速度で移動していた。

「思ったよりなだらかな道ですね…。山と聞いていたからそれなりの覚悟をしてましたが…」

第一騎士団のヒューゼラが斜め前を歩くセンゲルに話しかける。
隊列は第一部隊を先頭に、その次に第三部隊から第七部隊となり、しんがりは第二部隊が務めることになった。
二台の馬車は第三、第四部隊と、第六、第七部隊の間に配置されている。
馬車には野営用の荷物の他に、通信係の術師たちと救護隊の癒しの天使たちが乗り込み、騎士たちは交替しながら徒歩で進んでいた。

「今のところはな。第三から第四待機所の間は、それなりの急登が待っているらしいぞ?そこから先は下りになるようだが…何にしても、皆初めての場所だからなぁ。こんな時でも気を引き締めておいた方がいい」

センゲルがそう答えた矢先に、後列の方で「わぁ」と叫び声が上がった。
先頭を進むルシュアが、何事かと歩みを止め、後列からの情報を待つ。
様子を見に後退しかけたワグナだが、第四部隊長のカリュオが先に進み出たため、踏みとどまった。

カリュオは今年27歳になる熟練者で、騎士の排出が多い家の出身だ。
家柄の所為か、幼い頃より『騎士になるからには総隊長を目指せ』と教えられ、今でも『総隊長』の座を意識している。
…とは言っても、現総隊長で自分よりも若いルシュアに対して反感を持っている訳ではない。
きちんと弁えながらも、本人曰く『有事の際に備えている』ということだ。

状況を確認しに行ったカリュオは、第七部隊と第二部隊の間で隊列が乱れているのを目撃した。

「どうした?何があった」

声を掛けながら歩み寄ると、第七部隊長のシズラカと目が合った。
二人は昔から家同士で競い合っているため、何かと張り合うことも多い。
カリュオより二年後輩のシズラカも、次期総隊長を意識している。
なるべくなら顔を合わせたくない相手だ。
シズラカから視線を反らしたカリュオは、その近くに居たデュークから答えを求めた。

「申し訳ありません。大したことでは…」

デュークから状況を聞くと、カリュオは素早く踵を返し、ワグナに伝達した。
事情を聴いたワグナは、ルシュアの元へ駆け寄り、軽く肩を軽く聳やかした。

「何でもない。キューネラが岩に躓いたところ、カルニスが巻き添えを食ったらしい」

「…そうか…デュークも苦労しそうだな」

第七部隊のキューネラは、前を歩くリケルオとソシュレイに遅れを取りそうになり、急ぎ足になったところで足元の岩に躓いた。
その後ろを歩いていた第二部隊のカルニスが、辺りの珍しい景色に気を取られて、躓いたキューネラに更に躓いたのだ。

「全く、お前はぁ!ちゃんと足元見ろよ!」

カルニスが八つ当たりの様にキューネラを責めると、デュークがカルニスの頭を軽く小突いた。

「人のことを言ってる場合か。お前はきちんと前を見ろ。よそ見をするな」

そのやり取りを見て、第七部隊前の馬車に乗り込んでいた癒しの天使たちが、くすくすと笑った。

今回招集された癒しの天使団は男性六名、女性四名の十名で、騎士団には八名、天使団には二名配属となった。
彼らや彼女らが前線に赴くことは無いが、過酷な戦闘状況になった時はその命も危険に及ぶ可能性もある。
もちろんそうならないよう、騎士たちが全力を尽くすのだが…どうにも緊張感に欠けるキューネラやカルニスを見ていると、その自覚が足りているのか不安を覚える。
デュークは軽く溜息を零しながら、周囲の景色を見渡した。

(まだ秋も初旬なのに、枯れ木が多い。これも魔烟の影響なのか…?)

後ろを振り返れば、第一待機所の屋根が枯れ木の合間から少しだけ覗けた。
しばらくそれを見ていたデュークだったが、再び前を見ると大きく歩き出した。


「さぁ、騎士団も出発しました。我々は万全の準備を整えて連絡を待ちましょう」

セルティアの言葉に天使たちが力強く頷くのを、護衛に残った騎士たちが大広間の隅で見守っている。
天使の護衛についたのは、第六部隊長ムードラ、第四部隊副隊長ノルシュライガ、第七部隊副隊長トッティワ、第三部隊のディランガだ。

「我々の人選を見ると…ルシュアなりに気を使ってくれた、というところなのか…?」

灰色の短髪を搔き揚げた28歳のトッティワが、苦笑交じりに言葉を零す。
ムードラには八歳と六歳の二人の息子、トッティワには三歳になる娘がいる。
騎士団で子持ちはこの二人だけで、顔を合わせれば子供の話が尽きない。
出立式の時、互いの子供たちが泣きじゃくっていたのを想い出す。

茶髪に空色の瞳を持つディランガは、中堅の26歳。
昨年結婚したばかりで、妻のアンリネは第二天使団トハーチェの世話役を務めている。
妻に二人分の心配を課していると思うと、ディランガの胸は小さく痛んだ。

ノルシュには第三天使団長エルジュケルトという二つ年上の婚約者がいる。
以前より家同士で決められた許嫁だが、互いに恋愛をした上での婚約となった。
エルジュは今年30歳を迎え、大闇祓い後、結婚を機に引退することになっている。

確かに、護るべき家族や恋人が居る者が選ばれた状況に、ルシュアが気を使ってくれたと考えても仕方なかったが…。

「いや、それを言ったらワグナに申し訳ない。彼もファズリカという大切な人がいるのだから」

ノルシュが恐縮そうに言うと、ムードラがその背中を叩いた。

「そんな簡単な括りでは無いだろう。天使たちの護衛程、責任が大きいものは無い。我々ならそういった責務をしっかり全うできると思っての事だろう…。さすがルヒト様の弟だ…」

ルシュアを褒めているつもりが、その称賛はルヒトにまで及ぶムードラの言葉にディランガは笑いを堪えた。
トッティワも笑いを誘われそうなところ、気を引き締めて真顔になる。

「だが、前線で何かあれば我々も加勢することになるかもしれない。それだけは心得ておかなければな」

そこへ、その日の食事を用意した村人たちと共に、ルヒトとエンドレが現れた。
ルヒトとエンドレは天使たちを見送った後、地上ルートを使って残りの天馬と馬車を連峰北口、第五待機所へ輸送することになっている。
約一月掛けて届けた後は、そこで騎士団が到着するまで管理するのだ。

「ルヒト様!…恐れ多い…手伝います!」

ムードラが慌てて駆け寄り、ルヒトが手にしている荷物を受け取った。

「どっちかと言ったら、ムードラ隊長の気持ちを汲んでこの人選にしたとも言えますかね?」

ディランガが面白そうに言うと、トッティワとノルシュもついに笑みを零し、三人もムードラに続いて食事の準備に取り掛かりに行った。


騎士団が第二待機所に辿り着いたのは、陽が落ちかけた頃だった。

待機所は山を切り拓いた平地に構えられていた。
正面の入り口は馬車を引き入れられる程広く、石組みと漆喰の外壁は長年の時を思わせる程苔生している。
窓は小さな覗き窓程度のもので、一階建ての要塞という佇まいだ。

かなり朽ち果てている印象だが、第二から第四待機所までは造られた歴史はまだ浅く、前々々回にあたる蒼の聖殿が担当した45年前の大闇祓い直後に建立された。
それまで、最終地点北口の待機所は『第二』と呼ばれていたが、それ以降『第五』となっている。

山間の待機所は、術師が15年毎に結界を更新するため、魔物に破壊されることは無いが、その間放置されている家屋の中は埃や蜘蛛の巣で荒れていた。

それらを簡単に片付け、馬車からの荷降ろしと食事の用意が済む頃には、辺りはすっかり闇に包まれていた。

壁の一角に、連峰の区域を細かく記した巨大な地図が貼り出され、その前にルシュアが立った。

「皆、今日は慣れない道をご苦労だった。時間が押しているから、食事を摂りながら聞いてくれ。明日の朝早くに調査隊二組でこの一帯を手分けして魔烟を捜索したい。これまでの記録書によれば、待機所より山頂に向かっての中腹辺りから魔物を発見することが多いようだ。まず行うのはその魔物の種類、特徴と大凡の数の調査。一組は南寄りから、もう一組は北寄りから山頂を目指して欲しい…」

忙しなく軽い夕飯を取りながら、総隊長の話に耳を傾ける騎士たちの顔はどれも真剣だった。
出立前からここまで、散々聞かされてきてはいるが、その実戦が間もなくだと思うと、緊張感は高まる。

「北調査隊を発表する。カリュオ、メルティオ、マーツ、ヴィーガル。指揮はカリュオに任せる。続いて南調査隊。シズラカ、ジャンシェン、イルギア、リケルオ。指揮はシズラカだ。待機組には追ってその役割を告げる。以上だ」

当初の予定通りの人員に誰も異論はない。
食事が速やかに終わると、騎士たちは翌日の準備に取り掛かり始めた。


「騎士団、第二待機所に到着しました」

「予定通り、明朝より調査を開始するとのことです」

二人の女性術師から報告を受けると、セルティアはほっと息を吐いた。
第二待機所への道のりは、魔物の出現は殆ど無いと聞いていたが、万が一ということもある。
傍らで聞いていた上位の天使たちも、騎士団の無事に互いの顔を見合わせて微笑み合った。

「ありがとう。ご苦労様でした。もう休んで結構ですよ」

セルティアからの言葉に、双子の女性術師リスンクとミラドネは、綺麗に揃えられた桃色の乙女刈りの頭を下げた。

今回同行した術師は、騎士団と天使団にそれぞれ二名ずつ配属されている。
大闇祓いは過酷な長期間故に、男性術師の参加を求めざるを得ないが、術師は元より女性が多く、男性術師は希少である。
天使団に配属されたこの二名は、20歳という若さに加え、女性という身でありながら、自ら志願した貴重な存在だ。

(あとは…騎士団から魔烟駆除の報告を待つだけ、ですね…)

去って行く二人の存在を感じながら、セルティアは祈るように両手を組んだ。
そこへキシリカが歩み寄ってきて、静かに声を掛ける。

「セルティア、明日からしばらくは、新人三名の調整を私に任せてもらえませんか」

不意の申し出に一瞬驚いたが、キシリカはセオルトやクシュカと同様に、天使団を共に支えてくれる頼りになる同朋だ。
何か考えがあってのことに違いないと思ったセルティアは、穏やかな笑みを返した。

「構いませんよ?何か気になることでも?」

「…えぇ、少し…。先日のトーエンでの浄化の時に、サフォーネの力加減が気になったもので…。それから、クローヌとトハーチェも。あの二人には自信が必要です」

トーエンでのサフォーネの様子は直接見ていない為、セルティアには解らなかったが、杓を用いない浄化を施した話は気になっていた。
他の二人についても、普段から色々報告を受けている。
実戦がまだ少ない分、今回も不安を抱えていることだろう。

「そうですね。助かります、キシリカ。よろしく頼みます」

「畏まりました」

キシリカはセルティアに一礼すると、同じ天使団のザンカーロの元へ歩み寄った。

ザンカーロはセオルトの次に任期の長い上位の男性天使で、キシリカ率いる第五天使団の補佐に当たっている。
茶色の髪を綺麗に纏めた後姿は、一見女性に見えるが、体格は騎士にも引けを取らない程がっしりして、天使団内での力仕事には重宝されている。
人柄も申し分ないが、後輩たちへの指導は不得手のようで、同じ天使団のクローヌへの適切な助言もできないでいることが気になっていた。
キシリカはこの機会に、ザンカーロの指導者育成も狙っていた。

「ザンカーロ。明日から新人たちの再調整をします。私の補佐を頼みますね」

「承知しました。何なりと」

尊敬しているキシリカからの頼み事に、ザンカーロは背筋を伸ばした。




術師からの報告は蒼の聖殿にも届いた。

騎士団へ配属された男性術師ゴルディは、今年60歳を迎える初老の男性で、蒼の聖殿では術師長も務めるベテランである。
一緒に配属された25歳の男性術師シルベアは、ゴルディの指示に従い、聖殿のアリューシャ及び同席している長老たちとババ様に、これまでの報告を述べた。

「何!?ルヒトが見つかっただと?」

耳元でシャモスに大きな声を出されて、アリューシャは顔をしかめた。

「どうしてその時に報告を入れないのだ…。あぁ、もういい!ルシュアに代われるか?」

『…あー、はいはい。私はおりますよ、ここに…』

ソムルカの剣幕にたじろぐシルベアが気の毒になり、ルシュアは面倒そうにも替わってやった。

「良いか、大闇祓いが終わると同時にルヒトを連れ戻してきなさい」

『…解っております。…が、ルヒトがそう簡単に応じるかは、私にも責任は負いかねます』

「何を言っておるか!ルヒトが戻らぬのなら、ルシュア、お前に縁談を持ち込むぞ!!」

『!!…ちょ、それはまた別の話でしょう。…解りましたよ。できるだけ手を尽くします』

ソムルカとシャモスは、ルヒトが退団と同時に縁談を持ち掛けようとしていたのだが、あっさり交わされて行方不明になったことを腹立たしく思っていたのだ。
妙な矛先が自分に向けられ、ルシュアもひとまず返事をする。

「まぁまぁ、長老方…。今はとにかく大闇祓いが無事に終わることが先決です。ルシュア、しっかり頼みましたよ?」

ババ様の助け舟にルシュアはほっとしながらも気を引き締める。

「無論。騎士団、天使団全員無事の帰還を目指します。…それよりも…長の具合はいかがですか?」

報告の冒頭でアリューシャが零した長の容体が気になって、ルシュアが問いかける。

『急に気温も下がってきましたから、少々体調を崩されたようです。昨夜出ていた熱も今は下がっていますから、心配には及びません』

ババ様の言葉にルシュアを始め、一緒に通信を聞いていた術師や他の隊長たちも安堵し、その日は早めの就寝を迎えた。


翌朝、二つの調査隊が出発したのを見送った後、残った騎士たちは待機所の環境整備の続きを行う。
その傍らで、隊長クラスの者たちは改めて作戦を確認し合った。

「過去の記録によると、魔物は影よりも実体化していることが多いようだな」

「一番想定しやすいものでは山や森を好むベアルやマーラか…。ただ、この辺の様子を見ても、森というほど木も群生していないし、我々の方が有利にもなりそうだが…」

「山での討伐は皆あまり経験が無いからな。とにかく小隊での行動でしっかり互いを補い合うのが重要だ」

敵が単体だった場合、群れだった場合、またはその種類、実体か影か…それらによって作戦は変更される。
様々な想定をしながら確認する内容に、待機所の整備を続ける他の騎士たちも真剣に耳を傾けていた。


その日の夕刻、戻ってきた調査隊の様子に、皆の緊張感が更に増す。

北調査隊のマーツが片腕に傷を負い、ヴィーガルが背に打撲を負って帰還した。
すぐさま癒やしの天使たちがその処置を施す。
北調査隊長のカリュオが、ルシュアにその状況を報告した。

「実体化したベアルが三体。それから…あれは何と言ったら良いのか…体格はベアルなのだが、その背に角を携えた影が一体…。ここより北の瓦礫の岩場に潜んでいた」

カリュオは動揺する気持ちを抑えようと息を整えながら、壁に掛けてある地図の一角を指す。
メルティオがそれに補足するように口を開いた。

「三体のベアルは然程大きくない。問題はその影の方だ。他のベアルよりも一回り大きく、ヴィーガルとマーツを出会い頭に薙ぎ払った力や速さは格上だった」

二人の報告に耳を傾けていたルシュアは低く唸った。

「未知なる物か…想定はしていたが、意外と早く遭遇したな。南はどうだ?」

南調査隊長シズラカが一歩前に出る。

「こちらはベアルを二体発見。大きさは並程度。通常の部隊構成でもすぐに片が付くと思うが…どうする?」

シズラカが言いたいことは、隊長クラスの者ならみな考えることだ。
部隊を分けずに一丸となって南から北に向かうのか、それとも効率を狙って南と北に部隊を分け、同時に戦闘態勢に入るのか…。

「…いや、部隊は分けずに行こう。その『影』も気になるが、状況もいつもとは違う。15年間放置されている地では、想定外の事もあるだろう。隊を分けたことで、戦力が崩れるようなことがあれば全体に影響が及ぶ…」

ルシュアの言葉に皆静かに頷いた。

「明朝、全員で南から北方面へ向かう。1日の討伐目標は二体から三体。戦闘時は各班の班長の指示に従って行動してくれ」

その夜は皆、それぞれに不安と動揺を抱えながら眠りについた。


デュークは夜が明ける前に目を覚ました。
まだ薄暗い待機所の中、僅かにのぞき窓から差し込む光の中、衝立の向こうに、もうひとり目覚めている気配を感じる。
白く細い腕、背中から腰の滑らかな線が見えて、慌てて目を反らした。
エルーレが着替えている。
恐らく人目のつかないうちに水浴びをしてきたのだろう。
全て装備を身に纏ったエルーレは、愛用の弓を手にすると、静かに立ち上がって待機所の外へ出て行った。
程なくすると、木の幹に矢を打ち込む音が聞こえてきた。
エルーレらしい行動に、デュークは静かに笑みを浮かべ、ゆっくりと体を起こした。

五体のベアルに未知の魔物。
恐らく今日は、南で見かけたベアル二体まで討伐して区切ることになるだろう。
慣れない土地環境での戦いには何が起こるか予測はつかないが、恐らく問題なく終わるとみている。
問題は翌日に遭遇するだろう未知の魔物だ。

(前衛と中衛の連携が鍵になりそうだ…)

前衛が主な攻撃を加え、中衛の騎士たちがその補佐に回る。
折を見て入れ替えをし、体力温存を図る。
後衛は、エルーレが指揮を執る弓部隊六名。
リケルオ、トマーク、ボルザーク、ルファラ、セディム。
全員、普段は長剣を使用するも、この時に向けて弓も鍛錬してきている。
少数ではあるが精鋭ぞろいだ。

(…大丈夫だ。俺たちは乗り切ってみせる)

待機所の覗き窓に陽光が射しこむ。
戦いの朝の始まりだ。


~つづく~
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