サフォネリアの咲く頃

水星直己

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第四章

[第50話]思慕の一別

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ルヒトとの過去の蟠りが解けたデュークは、ルシュアを探して訓練場に繋がる通用口から外へ出た。
空は相変わらず分厚い雲に覆われ、僅かな雲間から星が覗ける。
右手の山裾に広がる森は、その高さを低くしながら南の海岸方面にも続いていた。

この辺りはだいぶ海から離れているが、足元には細かい砂利と共に、海岸の砂も混ざっているようだ。
地面が擦れあう軽い足音を響かせながら、デュークは訓練場を見渡した。

広場の角に備えられたその場所は、改めて見るとだいぶ廃れている。
過去の記録によると、昔はここで数日、実践訓練をした後に大闇祓いに向かったということだ。
しかし、日々の魔烟駆除も増え、大闇祓いのための準備期間も減ったため、今では使われなくなったのだろう。
崩れかけている馬舎、武器を立てかける置台も腐敗して、残っていた僅かな武器も錆び付いている。
訓練用に立てられた案山子が数台並ぶ一角に、ルシュアが佇んでいた。
殆ど朽ち果てている案山子の前で、その傷み具合でも見るように、外れかけている留め具を指で回している。

「ルシュア、ここに居たのか」

背後に近寄って来る気配に僅かに顔を向けたルシュアだが、再び視線を手元に戻した。

「子供じみてる…と思ってるだろ?」

まるで拗ねたような態度は傍から見ても充分だが、本人にも自覚はあったようだ。

「…そうだな、子供だな…。でもそれならそれで、素直に甘えれば良いじゃないか。あの人は、お前の気持ちを理解できないと自分を責めていたが…それは素直じゃないお前にも原因があるんじゃないか?」

デュークはわざと大きな溜息で返した。
ルヒトにとってルシュアが本当の弟だということは、先程の会話の中で充分解る。

「…素直に甘えろ…か。お前がそれを言うのか?…来てたな、出立式」

「え?あ…あぁ…そうだな」

急に話の矛先を変えられ、不意を突かれたデュークは口籠る。
久しぶりに見た父の横顔。
母は窓硝子越しでその表情は半分しか見えなかったが、口元を隠す扇子と手は、幼い頃の記憶を呼び覚まさせた。

「やはり、なんだかんだと、血の繋がりほど強いものは無い、ということか。…嬉しかったろ?」

その言葉に、デュークは改めて自分の心と向き合う。
嬉しかったのか?…いや、そうではない。
では、腹が立ったのか?…それも違う。
そんな単純な感情では括れない。

デュークはルシュアの傍へ行くと、案山子が着けていたと思われる木製の模擬刀を拾い上げた。
模擬刀はかなり傷んでおり、それがもう案山子の腕に取り付けられないのを確認すると、地面に突き刺した。

「…どうかな。分からない…。今でも母から受けた仕打ちは赦せるものではない…。でも、絶対に生きて帰ると心に誓った。…そして、今度は俺から会いに行ってもいいかもしれない…と…」

愛も憎しみも、それは生きて帰るための原動力だ。
今はこの気持ちの整理はつかないが、自分から会いに行ったときにその答えが見つかる気がする。

デュークの心境の変化を聞いたルシュアは一瞬驚いたが、静かに口元に笑みを浮かべた。

「そうか…。いい目標ができたじゃないか…」

「お前もだろ?」

「……そうだな…」

一般的に騎士が引退するのは、力の衰え、体力の限界、怪我や病などによる身体への影響などが理由になるが、ルヒトは当時どれにも当てはまらず「お前ならもう、総隊長としてやっていけるな」という一言から世代交代となった。

個人的にそれは嬉しかった。
想いを寄せるセルティアに相応しい人物になるために、同じ立場に並ぶことを目標としていたからだ。
だが、ルヒトは任命式が終わるとすぐに消息を絶った。
総隊長としての役割、心構え、行動など、どれも簡単に伝えただけで、旅に出てしまった。

ルシュアもさすがにそれは堪えた。
てっきり、ルヒトは近くで見守ってくれると期待していたからだ。

部下の殆どは、自分よりも経歴の長い、年上ばかりだ。
自分なりに総隊長としての役割をこなそうとしても、経験が無い。
時に悩み、迷い、悔やむことも多かった。
その度にルヒトに会って話をしたい衝動にかられた。

そして、職務の合間をぬっては、その消息を辿りながら何度も考えた。
ルヒトは自分の事を心配していないのか…?

しかし、ルシュアはここでルヒトに会えたことでその答えを見つけ、夜空を見上げながら静かに笑った。

「あぁ、そうか。…ルヒトは旅をしながら…きっと、お前のことも探していたんだな」

「!…俺を…?」

「お前が出て行ったあの日、ルヒトがどれだけ後悔していたかを私は知っているからな…」

デュークが姿を消した日、ルシュアはルヒトを責めに総隊長の部屋に押し入った。
しかしそこにルヒトの姿は無く、夜明けになって憔悴した顔で戻ってきたのを目撃した。
どこへ行っていたのか問い詰めても、のらりくらり交わされ、真相は聞けないでいた。

先程の夕食会、ルヒトの話では、旅の目標はもう達成したような口ぶりだった。
「探したいもの」には、自分が傷つけてしまった大事な同朋の消息と、自ら下した総隊長としての決断の答えも含めていたのではないか…。
そして、総隊長とは孤独で、誰よりも心が強くなくてはならないことを、自らの行動で伝えたかったのではないか…。

ルシュアがデュークに視線を戻すと、デュークは驚きの表情から困ったような笑顔を作った。

「……だとしたら、人の気持ちが解らないのは、俺も一緒だな」

二人は顔を見合わせて破顔すると、大闇祓い前夜、互いに後悔の無い時間を過ごそうとその場を後にした。


   ∽ ∽ ∽ ∽ ∽


翌朝。
大きな広間で雑魚寝状態で睡眠をとった騎士や天使たちが、徐々に起床し始める。

ルシュアは広間の隅にあったカウチで目覚めた。
その肩に掛かっているストールと、隣の空席を見て静かに笑う。

昨夜はあの後、ルヒトを呼び出し、いろいろ語り合った…というほど、会話を交わした訳でもないが、その存在を近くに感じるだけで、空白の数年間を埋めるのには充分だった。

「ルヒトは早くに馬車の準備をしに行ったようですよ?」

後ろを通りかかったセルティアが声を掛けてきた。
昨夜は広間を二つに区切り、男性と女性で寝床を分けたが、セルティアも広間隅のカウチで睡眠をとっていたようだ。

『男女で区切る』という時に、誰もがセルティアの性別を気にするところだが、本人には面と向かって聞けないため、セルティア自身が選ぶ対処に一任している。
それもいつの間にか卒なくこなしている様子は、四半期の旅や再生活動の旅で身に付けたものなのかもしれない。
ルシュアは小さく笑って返した。

「今日から、天使たちのことは頼む。護衛の騎士は四名置いて行くが、全体の指揮は君に任せた」

そう言ってルシュアは立ち上がると、用意されている馬車を見に、待機所外へと向かって行った。


起床した者、まだ寝ている者がごった返す広間では、フィンカナが囁くように、悔しい想いを吐露した。

「うぅ~~…ほんっと…あんたたちが勘違いするのも解るわぁ…」

「…ははは…」

それを聞いたトマークが力ない笑いを返す。

昨夜、『デュークを応援する会』の三人娘たちが何やらコソコソ相談しているので、『サフォーネを護る会』の四人が聞き耳を立てると、それは早朝にデュークの寝顔を見に行こう、というものだった。
呆れる四人だったが、「次にちゃんと会えるのは数カ月後になるのよ」と逆に丸め込まれ、四人もこっそりサフォーネの寝顔を見に来たのだ。

目の前には、まだ目覚める様子の無いサフォーネが、少女のような安らかな顔で、デュークの腕にしがみついたまま眠っている。
その存在が当たり前のように、デュークも安心した表情で眠っている。
それはまるで一晩愛し合った恋人同士のようにも見えた。
誰も二人の間に割って入ることができないと思い知らされながらも、ティファーシャがうっとりと溜息を零す。

「あぁでも…こうして、デューク様の貴重な寝顔を見られるなんてぇ。幸せですぅ…」

「ちょっと、あんたね…ルヒト様に乗り換えたんじゃないの?」

「…まぁまぁ…二人が起きちゃいますよ…」

苛立つカヌシャを宥めようとするシャンネラの背後では、ミゼラとボルザークがルファラの視界にサフォーネが入らないよう、遮るのに必死になっていた。

「ほらー!起きた者は支度しろ!というか、いつまでも寝てる奴は叩き起こすぞ!」

ワグナが広間全体に届くよう大きな声を上げると、デュークの瞳が瞬時に開いた。
突然の目覚めに、周囲にいる者たちは慌てて目を反らし、いそいそと自分たちの支度へと戻って行く。
その気配を訝しく思いながらデュークが身を起こすと、サフォーネも目を覚ました。

「…デューク…おはよー…」

眠そうに目を擦るサフォーネを見ると、その髪が寝ぐせで撥ねている。
それを手櫛で直してやりながら、デュークは微笑んだ。

「よく眠れたか?…今日から騎士団と天使団は別行動だ…。セルティア様や、皆の言うことをよく聞くんだぞ?」

「…うん…」

サフォーネは静かに返事をすると、そのままデュークの胸に突っ伏した。
いつものようにぐずり出すのかと思えば、それはまだ完全に目覚めていない夢見状態のようだ。
間髪して聞こえてくる寝息にデュークは苦笑した。

村人たちが用意してくれた朝食を摂る一同の口数は、少ないものだった。
いよいよ戦いに向かう時が迫ってきた。
互いに想い合う者たちは、その顔を焼き付けようと、時折静かに見つめ合う。
それを見ると心は痛むが、食事を終えたセンゲルは声を上げた。

「それぞれ支度が出来たら、騎士団は広場で部隊ごとに整列しろ」


広場には騎士たちの荷運び用の馬車二台と天馬が準備されていた。
他の馬車は天使たちが移動するときに使用する三台と天馬を残し、それ以外は管理人のルヒトが村人たちと協力し、連峰北口の第五待機所に運ぶ手筈となっている。

ルシュアがそれらの首尾をルヒトと共に確認していると、エンドレが近づいてきた。

「ルシュア。やはり考え直してくれないか?前線が無理なら、せめて天使達の護衛に付かせてくれ」

その言葉に、天馬の状態を確認していたルシュアは手を止め、小さく息を吐いた。

「エンドレ…言った筈だ。参加するのはここまでだと…」

「解っている。俺の気持ちを汲んでここまで同行させてくれたことは、感謝している。だが予定していた護衛を一人、前線にやるのだろう?それなら…」

「駄目だ!変更したキューネラは、精神的に危ういと思い護衛に回していただけで、元よりどちらの人員も足りているんだ」

「人員が足りているなら問題ないだろ。俺の状態も悪くない。それはお前だって認めてくれたじゃないか」

言い合う二人の声が徐々に大きくなり、周囲から注目され始める。
エルーレはその様子を遠くから祈るように見ていた。
傍に居たルヒトが、見兼ねたように間に入る。

「落ち着け、エンドレ…。ルシュア、残酷でも真実は伝えるべきだな」

その言葉に躊躇うように一度俯くルシュアだが、顔を上げてエンドレをまっすぐ見た。

「エンドレ…私が認めたのは、張役程度の仕事なら復帰できるということだ。お前は…闇祓いの騎士としては…もう無理だ…。今まで本当に良くやってくれた。感謝している…」

「……」

そのはっきりとした通達に、エンドレはもちろん、周囲の者も言葉を失う。

「…そうか…。そうだよな…。解ってはいたんだ。前線なら自分の命だけで済むが…天使の護衛なら尚更、だよな…。無理を言って、すまなかった…」

そう言って項垂れるエンドレの背中を、エルーレは涙を堪えて見つめる。

周囲の騎士たちの中にも、涙する者たちが居た。
エンドレは今年で任期12年を迎える二番目に長いベテランで、隊長職の補佐役として頼りにされていた。
階級の無い騎士たちとの橋渡しにも奔走し、相談事にも乗ってくれる為、慕う者も多かったのだ。

同期のムードラは、且つてエンドレと共に、新人のルシュアたちの教育にあたったことを想い出す。
個性的で問題の多かった新人たちの指導に根気よく取り組み、時にその鬱憤が溜まると総隊長のルヒトを交えて酒を酌み交わしたこともあった。
互いに20代後半を迎えるが、まだまだ引退する気はなく、エンドレが怪我を負ったときも懸命に励ましていたのだが…。

それが叶わない現実にムードラが男泣きすると、エンドレは歩み寄ってその肩を叩いた。

「……すまないな、ムードラ。俺は先に離脱する…。あとを頼むな…?」

腕で涙を拭いながら、ムードラは「あぁ」と返すのが精一杯だった。
その様子に苦笑しながら立ち去ろうとするエンドレを、ルヒトが呼び止めた。

「待て、エンドレ。ここで一人で帰るのもな…。もし良ければ、俺を手伝って北口まで同行してくれないか。村の者たちにも協力してもらうが、男手はいくらでも欲しい…」

その提案を聞いて、エンドレの表情が晴れた。
ここまで来て何もできずに立ち去るなどできない。
エルーレの顔を一度見たエンドレは、ルヒトに歩み寄った。

「…はい!是非、やらせて下さい…」

返ってきた明るい声にルヒトは力強く頷く。
エンドレの気持ちは解っている。
自分のいない場所に妹を送り出すことは、相当な気掛かりであろう。
せめて一番近い場所でその帰りを待つことができれば…。
それは、自身の想いとも重なる。

ルヒトは、ほっと胸を撫でおろすルシュアを柔らかく見つめると、不意に目が合った。
ルシュアは慌てて視線を反らし、咳払いをする。

「…助かった。エンドレのことは頼む…」

「あぁ、第五待機所で待っているぞ」

ルヒトは持っていた手綱をルシュアに渡し、エンドレと共にその場を後にする。
再会を願うルヒトの言葉にルシュアの胸は熱くなり、手綱を握る手に力が込もった。


騎士たちが全員集合すると、それを見送ろうと天使たちも外へと出てきた。

婚約を交わしているワグナとファズリカは、自身の翼から羽根を一枚抜くと互いの羽根を交換し、抱き合って再会を約束する。

第三天使団の上位天使であるリカルアは、緩やかに一束に編んだ千草色の髪を揺らしながら、騎士たちの中に必死に目をこらした。
リカルアには、第七騎士団にリケルオという22歳になる弟がいる。
髪色も、緑の瞳も、自分と同じ弟の姿を必死に探すが見当たらない。
その時、背後から肩を叩かれた。

「…!」

驚いて振り返れば、そこには探していた弟の姿があった。

「姉上…」

また更に聴力が落ちたのだろうか、先程から呼んでも気が付かない姉の様子にリケルオは眉を潜めた。
リカルアは、稀に見る程の高い学力を持つが、生まれたときから難聴だった。
年々聴力が落ちて行き、28歳を迎える今年も、障害を抱えながら浄清の天使としての役割を担っている。
そろそろ結婚を期に引退を考えても良い年頃だが、本人も消極的で相手が見つからない。
リケルオはそんな姉をずっと心配している。

リカルアは弟の顔を見て、ほっと笑顔を零すとその体を抱き締めた。

「きを…つけ…て」

聞き取りにくい自分の声を絞り出すように、弟の身を案じる言葉はリケルオの胸を締め付けた。

「姉上も、無事で…」

互いの顔を見合わせて、リケルオは口の動きで言葉を伝える。
リカルアはそれを見て、頷き微笑んだ。



騎士と天使、しばし別れの時を許しているルシュアの隣にセルティアがやってきた。

「こんな時、近い身内が居ると憂慮も耐えがたいですね…」

「…そうかもしれないが…それだけに、この別れが永遠にならないよう、心が強くなるのも事実だな」

そう言ってルシュアはセルティアの手を取る。

「私も必ず無事に帰る。その時はもう一度真剣に、私の話を聞いてもらえないか?」

まだルシュアが一隊長に過ぎなかった頃、セルティアにその想いを伝えたことがあった。
その気持ちは本物であると充分解ってはいたが、セルティアは受け入れることができなかった。

ルヒトに続き、ルシュアのように優れた闇祓いの騎士を輩出できる家系ならば、次の世代への周囲からの期待は大きなものだ。
それはセルティアも同様で、ルシュアにはその血筋を確実に残して欲しいと思っている。

同性同士では子はなせない。
例えルシュアが再び想いを告げようとも、セルティアはそれに応えるつもりはないのだが…。

「…分かりました…」

その約束が生き延びようとする力になるのならば…。
セルティアはそう願って微笑みを返した。


「皆、すまないが、サフォーネのことを頼む」

今にも泣きそうな所をグッと堪えているサフォーネを何とか説き伏せたものの、不安は拭えない。
デュークは三人娘たちとクローヌ、トハーチェに頼った。

「お任せください、デューク様」

フィンカナたちが頬を高潮させて答えると、その隣でクローヌが肩を聳やかした。

「大丈夫です。デューク様。わたし達、セルティア様やキシリカ様の指導のもと、自分たちの身はしっかり守りますから」

一番信用のおけそうな答えがトハーチェから聞けると、デュークはほっと笑みを返した。


皆がそれぞれの別れをする中、メルティオはさり気なくキシリカの元へ近寄っていく。

「あー、その…キシリカ…大闇祓いが終わったら…つまり、その…」

「…大闇祓いが終ったら?…そうですね…私も、晴れて引退の身となります。…互いに生き延びられるよう、頑張りましょう」

緊張気味に頬を紅潮させ、視線を合わせないまま話してくるメルティオを見て、キシリカは何かを悟り、はぐらかした。

「あ、あぁ…そ、そそ、その通りだ。互いの無事が何よりだ…そうだな、うん」

メルティオが何を言いたいのかは、キシリカも解っている。
好意を寄せてもらっているのは、ずっと前から気づいていた。

(しかし、どうして私など…。私より、若く美しい者は他にたくさん居るのに…)

キシリカは子供の頃から、自分の容姿に自信が無かった。
想いを寄せた相手は皆、美しい天使に惹かれていく。
自分にとって、相思相愛など夢のまた夢。
それはいつしか諦めになり、天使としての純潔を生涯守ると誓ったのだ。

メルティオは…嫌いではないが、これまでに想いを寄せた相手とは全く違う。
活発で落ち着きがなく、まるで少年の様に思えるのは、五歳も年下だからだろうか…。
彼と同年代でまだ独り身の天使は数名いる。
ニハルノ、リルシェザ、クシュカ、リアンジュ、リカルア、ミハナ…。
もちろん、彼女たちの意思や性格の相性もあるから誰でもいいだろう、とは思わないが…。

目の前でまだ何か言いたげなメルティオを見ると可愛くも思えるが、自分が相手では申し訳なく思えてしまい、言葉を探した。

「メルティオ…貴方は優しい方です。決して無茶をしないでくださいね」

キシリカの慈母のような眼差しと言葉に、メルティオは更に頬を染めながら、胸を張った。

「あぁ、無茶はしないさ。大闇祓いが終わったら、君に伝えたいことがあるからな」

「…え?」

その思いがけない言葉にキシリカの心臓が高鳴った。
薄く頬を染めるキシリカの表情に、自分が口走った言葉を改めて、メルティオも戸惑う。

「と、とにかく、行ってくる!また会おう!」

踵を返し、隊列に加わるメルティオの手足が同時に動いているのを、シャウザとルーゼルがめざとく見つけて笑いを堪える。
別れを惜しんでいた他の騎士たちも全員隊列に加わった。

「では行くぞ!」

ルシュアの言葉を合図に、隊列は動き出す。
斯くして騎士団は、それぞれの想いを抱え、最初の拠点となる第二待機所を目指して出発した。


~つづく~
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