サフォネリアの咲く頃

水星直己

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第二章

[第24話]四半期の旅

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ルシュアの自室に呼ばれ、デュークは扉の前で深い溜息を落とす。
仕事の合間に話がある時、大抵その内容は決まっていた。
デュークの世話役志願を断り切れない時、ルシュアが面倒臭そうに持ってくる話だ。

扉をノックし、中に入ると、ルシュアが執務机で書類に目を通していた。
デュークの気配に気づき、顔を上げるとお決まりの台詞を口にする。

「お前、やっぱり世話役をつけろ」

「…またその話か‥何度も言ってるだろ、俺には…」

案の定の話に、うんざりして返そうとしたデュークは、部屋の隅に控えていた男性に目を見張った。
それは、デュークが修行中の時に、世話役としてついてくれた者だった。

「アルイト…?」

「お久しぶりです。デュークヘルト様」

アルイトは当時30代後半で、デュークの世話役を終えると同時に引退したはずだった。
滅多なことでは笑わない寡黙な男が、懐かしそうな笑みを浮かべて頭を下げた。
驚き戸惑っているデュークの傍ら、アルイトに代わり、ルシュアが口を開く。

「この忙しさだ。身の回りのことまで自分でやっていると、碌な休暇もとれないんじゃないか?…と、ナチュアが心配していたぞ」

「…あ」

先日、サフォーネの部屋でうたた寝してしまったことだろう。
目が覚めた時はサフォーネとナチュアの二人も寄りかかるように寝ていたが。

「…それに、お前にしっかりした世話役がいれば、私も板挟みにならなくて済むというか‥まぁその方がいろいろ助かるからな。ちなみに、アルイトを説得したのはナチュアだ」

「ナチュアが…?」

「…はい。引退し、聖都に移った私の所へわざわざ訪ねてきました。ナチュア君の世話役としての誇りに感銘を受け、再びデュークヘルト様にお仕えできるのなら、と…」

当時、アルイトは引退の予定を取り止め、デュークの世話役を続けて行くことも思案してくれた。
それは、異端という容姿で隊に馴染めるか心配もあったからだ。
しかし、アルイトの事情を察して、デュークはそれを断った。

「御父上の病状は?アルイトが家業を継がなくて大丈夫なのか?」

「…お陰様で、父は病を克服し、昨年から仕事に復帰しております。そのまま私も仕事を継ぐことを考えましたが…父もナチュア君に感化されたと申しましょうか…私の背中を押してくれました…どうかまた、デュークヘルト様にお仕えさせてください」

深々と頭を下げるアルイトを見て、デュークはしばらく考えていたが、静かに笑った。

「そうか…。御父上が元気になられたなら良かった…。俺のために戻ってきてくれたこと、感謝します。…それから…」

「もう、デュークヘルトではない。今はただのデュークだ。な?」

ルシュアが代わって訂正する。
デュークが苦笑いしながら頷き、アルイトと握手を交わす。
話がまとまり、ルシュアもほっと息をついた。
アルイトをデュークの部屋に案内させるよう、自身の世話役に頼むと、ルシュアはデュークに真剣な表情を向けてきた。

「近日中に全隊長に話をするが、大闇祓いに向けての予行訓練を行う。そのつもりでいてくれ」

「予行訓練…?」

「あぁ、その前に世話役の件を解決しておきたくてな。ナチュアにも礼を言っておいたほうがいいぞ?…まぁ、礼を言いたいのは私の方だがな」

デュークの世話役になりたがる女性たちは後を絶たず、その度にルシュアが間に入り断り続けていたが、いつまでも埒の開かない問題を解決するにはこれが一番だった。
ナチュアの機転に感謝するしかない。

(予行訓練?…今にも増して慌ただしい日々がやってくる、ということか…)

デュークはルシュアの部屋を出ると、浄清の塔に向かった。


ルシュアはその一月後、闇祓いの騎士団、浄清の天使団に属する者たちを大広間に集めた。
広間の右半分を闇祓い、左半分を浄清の天使団がそれぞれの部隊に分かれて並んでいる。
救護部隊、術師など、闘いの場に必要な部隊の責任者、及び関係者なども大広間の端に控え、そこにはアリューシャやサフォーネとナチュアも居た。

休暇中の部隊、これから出陣する部隊とで、様々な出で立ちの騎士や天使たちが居る中、第二部隊の先頭にいるデュークを見つけて、サフォーネが手を振った。
デュークは静かに笑みを返すだけで、一同の前に立っているルシュアに向き直る。
それだけ真剣な場なのだと肌で感じたサフォーネは、振った手を引っ込めてその場を静かに見守った。

演台に立ったルシュアが、広間の隅々に通るように声を張り上げた。

「忙しい中、良く集まってくれた。皆知っての通り、我々、蒼の聖殿は、一年後の大闇祓いを担うことになっている。それに向け、まだ実戦に慣れていない者たちの訓練も兼ね、四半期の旅に出てもらうことにした」

ざわつく一同。デュークや、他の隊長たちも一瞬戸惑った。
予行訓練をする、とは聞いていたが…こんなこととは…。
ルシュアは続ける。

「旅に出る…というのは、これから示す三カ所で四半期の間、聖殿には帰らずに調査と魔烟駆除を続けてもらう、ということだ。いずれも蒼の聖殿宛てに依頼が来る地域だ。依頼を片付けるのは当然のこと、あとはまだ報告に上がらない魔烟の調査を行い、解決してもらいたい」

「…ちょっと待ってくれ、ルシュア。四半期の間ずっと…?我々騎士団は、長くて一週間はそんな野営も経験するから何とかなるが…浄清の天使たちにもそれを強いるのか?」

口を挟んできたのは、第三部隊長のワグナだった。
ワグナは先日、第四天使団長のファズリカと婚約を発表したばかりで、その身を案じているのが周囲にも伝わった。

本来、天使たちは闇祓いの見通しが経つ頃、術師からの伝令で聖殿を出立し、現地に赴くのが流れだ。
状況によって、その地に停泊してもせいぜい三日ほどになる。

「長期滞在に関しては、実際の『大闇祓い』に基づいた計画だが…。通例通り、最初の出立は騎士団だけだ。闇祓いの見通しが経つまで、天使たちは聖殿で待機してもらうが、そのあとは、騎士団が天使たちの安全を確保しながら、現地に滞在してもらう」

ワグナの疑問に対するルシュアの回答に、天使団から不安めいた声が漏れた。

「…うそ…私、そんなに長い野営なんて、怖くてできそうにないわ…」

「私も…その間、食事はどうなるの?お風呂も我慢しないと行けないのかしら…」

その中でも、まだ若い女性たちが小声で話すのが周囲の耳にも届く。

「…俺たち、まだ入隊したばかりなのに…いきなりそんな旅に出て大丈夫なのかな…」

「オレも、実戦経験殆ど無いんだけど…」

その声に煽られるように、騎士団に入隊したばかりの新人たちも動揺し始める。
自分たちの隊員がざわめくのを各隊長が諫める様子にルシュアが深く息を吐いた。

「思った以上に…蒼の騎士団・天使団には軟弱な者が多いということか…。これは私の不徳の致すところだな…」

その言葉には、全員が凍り付いたように静かになった。
普段は軟派なルシュアでも、騎士団や天使団たちに対する想いや厳しさは皆知っている。
総隊長をがっかりさせたくない、期待に応えたい、という想いが口を噤ませた。
そのカリスマ性はさすがだと、デュークは思った。
ルシュアは改めて口を開く。

「…実質、大闇祓いを経験しているのは、この聖殿では長と聖都に滞在している引退した数名の者くらいだ。その先駆者たちに話を聞けば、大闇祓いは短くてひと月…長引けば四半期にも及ぶこともあるらしい。そしてその戦いで、命を落とす者も、毎回と言っていいほど出るそうだ…。我々蒼の騎士団・天使団は他の聖殿に比べ、若い集団で経験も少ない。それを補うための予行訓練なのだ。君たちの命を護るために…どうか、理解してほしい」

その言葉には、もう誰も反論もなく、泣き言を口にした天使や新人たちも反省したように項垂れた。
やっと場が落ち着いた様子に、ルシュアは役人に大きな地図を持ってこさせ、皆が見えるように掲げさせた。

「話を続けさせてもらう…先ほど言った三カ所はこの地図に示した通りだ。
第五、第六部隊は入隊してまだ間もない者も多いため、比較的魔烟の発症が少ないと思われる東の湖近辺を担当してもらう。
第三、第四、第七部隊は西の森…精霊の森の手前になるな。ここは浄化が間に合わず再び魔烟が発症している場所も多いため、人数は多めに配置する。
第一、第二部隊は、ここより北の荒れ地一帯。光の聖殿のおひざ元と言ってもいい場所だが、あそこは小人族や獣人族が住む村や町が多く、かの聖殿が放置している場所だ。それ故に最も危険な場所かもしれないが…実力者を揃えた部隊だ。信じているぞ」

その声に、先日第二部隊に配属された若い羽根人は武者震いするように拳を握り、声を潜めて目の前に立っているデュークに声を掛けた。

「…デューク隊長、俺、精一杯頑張ります!」

軽く後ろを振り向いたデュークはその若い羽根人を見る。
名前はカルニス。アイリスカラーの髪を「紫色だ」と言い張る17歳の少年だ。
明るく快活で、隊のムードメーカーと言ったら聞こえはいいのかもしれないが、他の隊員からはうるさいと、疎まれる存在だ。
以前は第七部隊に配属されていたが、剣術大会でのデュークの腕を見て惚れこみ、第二部隊の配属を強く願って訓練に邁進してきた。
その結果、やっとルシュアに認めてもらい、この度晴れて憧れの隊長のもとに…という経緯があった。
夢が叶い、尊敬する人物の傍に立てる喜びに、その高揚感は半端なく、目をキラキラさせている。

「落ち着けカルニス。まだ話は続いている」

「はい!」

たしなめるように言うと、嬉しそうに敬礼で返してくる。
その様子は微笑ましくもあるが…落ち着きのなさは実戦でどこまでいけるのか、心配なところだ。



デュークは軽く息をついて再びルシュアに注目する。

「闇祓いの騎士団はそれぞれの地で発症する魔烟や魔物を退治する。浄清の天使団は、伝令が出次第、それぞれの部隊に分かれ、旅に出てもらう。天使団の編成は今回特別な組み合わせになるが、それは全てセルティアに任せている。天使たちは、その指示に従ってくれ。
各騎士団、天使団には、交信できる水晶玉と、それを操れる術師を付けさせる。
魔烟が出る場所、魔物がいる場所は、その水晶玉から精霊と交信したアリューシャが知らせてくれる。

闇祓い各隊長には隊員たちに適度な休息を取らせるよう約束させるが、予測のつかない旅になることは間違いない。通常、戦いの場には赴かない天使たちも途中から加わるため、彼ら、彼女らの身もしっかり守るよう、各自覚悟を持って挑んでもらいたい。
補足として。各地区により、四半期を待たずに全ての任務が遂行できたところは、別の地区に補佐に回ってもらうことになるだろう。
これはその都度、私の判断で指示を出す。以上だ」

話が終わると、大広間は一斉にざわつき始めた。

闇祓いの新人は16~18歳が6名。
先日初めて隊に加わった、という者も多く、皆動揺している。
各隊長は、新入隊員たちの不安を取り除くように入念な話をする姿もあった。

ルシュアは大広間の様子を横目に、隅の方に控えているサフォーネとその背後にいたナチュアの元へ歩んでいった。
サフォーネには難しい話かもしれず、代わりにナチュアが聞く必要もあったための同行だった。

「サフォーネの調子はどうだ?」

広間の騒ぎをきょとんとした顔で見ている本人よりも、ナチュアに聞いた方が早いと、ルシュアは声を掛けた。

「はい。ひと月前ほどから、セルティア様より精神修行も再び始まりまして…ただ、まだなんというか…」

「そうか…他にもまだ浄清の修行を続けている者もいるため、セルティアも旅には参加せず、ここに残すことになっている。セルティアの判断で、その新人たちも途中から旅に参加させる可能性もあるが…まぁ、サフォーネが加わることは無いだろうな…。…それと、アリューシャ!」

術師の責任者と会話しているアリューシャをルシュアは呼び寄せ、ナチュアに向き直った。

「サフォーネは普段の修行を続けながら、時々アリューシャの元にも行かせてやってくれ」

「そそ。おばあちゃまから、サフォーネには精霊との交信も勉強させるように言われたの、よろしくね!」

あれから、サフォーネと精霊の事情を聴かされたナチュアは「畏まりました」と頭を下げた。
そこへ、人波を押し分けてデュークがやってくると、サフォーネが嬉しそうにその腕に絡みついた。
デュークはサフォーネに一度視線を送ったあと、ルシュアの顔を見た。

「…まさか、予行訓練がこんな長旅の話、だったとはな…大丈夫なのか?」

「やるしかないだろ…蒼の聖殿の威信にかけても。時には荒療治も必要だ…」

『旅に出る』という、凡その内容を理解したサフォーネが、まるで連れてってくれとねだる様に、デュークの腕を軽くゆすった。

「デューク、たび、でるの?みんないくの?サフォは?」

「サフォ…これは危険な旅で、修行が終わっていないお前は連れていけないんだ」

その言葉に「え」という顔をした後、しゅんとなって項垂れる。

「デューク…またあぶない?いたい、する?」

メルクロの元に居た時のことを言っているのだろう。
その顔が見えるように腰を落とすと、デュークは安心させるように優しく言った。

「今度はみんながいる。大丈夫だ。俺がいない間でも、サフォは頑張って修行するんだぞ?ちょっと長くなるが、必ず帰ってくる。待っていてくれるか?」

その声に顔を上げた瞳は涙が溜まっていたが、黙ってこくりと頷いた。
デュークの相変わらずの過保護っぷりを見て、ルシュアは苦笑いを浮かべながら、再び大広間にいる全員に聞こえるように声を上げた。

「騎士団の旅立ちは一週間後の早朝。各隊長の指示のもと集合してくれ。解散」


出立の日は早朝に関わらず、聖殿の城門付近には、旅立つ者と、それを見送りにきた家族や関係者で賑わっていた。
大闇祓いの時はその無事を祈る祈祷や儀式で、聖都入り口までもっと人で溢れることになるのだろうが、今回の旅もそれに匹敵するほどの騒ぎだった。
若手の騎士や天使の育成を兼ねた旅と聞いて、期待する民も多く、直接の関係者ではないが、それを讃えようと集まる人たちで、ちょっとした祭りのようにも見えた。

サフォーネは、ナチュアと共にデュークの見送りに来ていた。
そこかしこで、家族や恋人が別れを惜しんでいる。
騎士たちが率いる天馬たちが嘶き、天馬を持たない者たちが乗る、天井のない4人乗りの二輪馬車も数輌止まっていた。
それらの間を潜り抜けながら探していると、ナチュアが城門近くにいるデュークと、背後にシェルドナの手綱を引くアルイトを見つけた。

「あ、デューク様、あちらにいますよ」

人混みの中、ナチュアに庇われるように肩を抱かれながら歩いてきたサフォーネは、デュークの前で立ち止まる。
それに気が付いたアルイトがナチュアと目で会釈すると、デュークに声をかけた。

「デューク様、サフォーネ様です」

その声に振り替えると、そこにはサフォーネが俯き加減で立っていた。
サフォーネは明らかに沈んでいる様子で、どう声を掛けようか躊躇っていると、カルニスがやってきた。

「隊長!野営に必要な荷物、全て積み終わりました!…あ。すみません。取り込み中でしたか…」

サフォーネと対面するデュークを見て、カルニスはアルイトから手綱を受け取ると、遠慮するように一歩退いた。
役目を終えたアルイトが頭を下げて去っていく様子を見送りながら、デュークは第二騎士団隊長の険しい表情を解いて、サフォーネに優しい眼差しを向けた。

「サフォーネ…」

魔烟との戦いは、例えそれが小規模なものであっても決して油断することはならない。
戦いに挑むということは、それなりの覚悟で行くものだ。
目の前のサフォーネを見て、かつてメルクロの元に置いて行ったことを思い出す。
あの時は、この天使を独りにするまいと、死に物狂いで帰ってきた。
この旅でも恐らく、サフォーネのことを思って救われる自分がいるかもしれない。
だからこそ、サフォーネには明るく前向きに過ごしてほしい、ここで普段通りの暮らしを送っていて欲しいのだ。

「元気で…しっかり修行するんだそ?…ナチュア、サフォーネのことを頼む」

後ろで控えるナチュアが力強く頷く傍ら、サフォーネは顔を上げた。

「デューク、あの……あの…」

見送る言葉は昨夜ナチュアに教わったのに、いざ言おうとしても出てこなかった。
再び俯くサフォーネ。

デュークを止めることはできないとわかっている。
デュークを心配させないよう笑って見送ろうとしても、それができない。
泣きそうになるこの気持ちは、ナチュアに教わった言葉では伝えることができないと思った。

ふと顔を上げると、デュークの背後で、女性の羽根人が旅立つ騎士に自分の羽根を一枚抜いて差し出しているのが目に止まった。
…自分の一部をデュークと共に…。
一緒に旅に連れて行ってもらえるなら、ただ待つだけよりは、自分の気持ちも救われる気がした。

サフォーネは柔らかく翼を広げると、自身の羽根を一枚抜いて、デュークに差し出した。

「デューク、きをつけて。サフォしゅぎょうがんばって、まってる」

伝えられない思いはこの羽根に託そう。
そう思うと、練習した言葉がすらりと出て、サフォーネは満足そうに笑みを浮かべた。

だが、その行為に面食らったのは、デュークだった。
ナチュアは思わず両手で口元を抑え、戸惑いを見せている。

「え、ええ!た、たたた隊長…まさか…」

カルニスが素っ頓狂な声を上げると、サフォーネは不思議そうに辺りを見渡した。
周囲はそれぞれの別れを惜しんで気が付いていない者もいれば、何人かは気づいたように、ひそひそと声を忍ばせて笑っている者もいた。
その中でも一番に、目ざとく気が付いたルシュアが、遠目から冷やかすような口笛を一つ吹いて近づいてきた。

「やるな、サフォーネ。どこでそんな情熱的なことを習ったんだ?それはな…」

「ルシュア!そろそろ時間だろ」

デュークは説明しようとするルシュアの前に立ちはだかり、慌ててそれを阻止した。

確かに。意味がわかっていないだろうサフォーネを揶揄い、説明する時間はなかった。
少し狼狽えている幼馴染みの様子を見るだけでルシュアは満足だった。

「良かったじゃないか、デューク」

揶揄いの矛先をデュークに向け、にやりと笑みを浮かべた後、自らの天馬に跨がり全騎士団に号令をかけた。

「全騎士団、出発する。各隊長に続け」

ルシュアの号令とともに、それぞれの騎士団が出発し始める。
カルニスはまだ動揺が隠せないながらも、シェルドナの手綱を引いてデュークの元へ連れてきた。
一本の白い羽根を両手で握りしめたまま、きょとんとした大きな瞳を向けられて、デュークは苦笑しながらもその羽根に手を伸ばした。

「ありがとう、サフォ。これはお守りにするよ」

その赤い瞳に映し出された己の表情は、今までにない優しい顔に見えた。
デュークは羽根を受け取ると胸甲冑の留め具に差し、サフォーネの頭を軽く撫でて、シェルドナに跨がった。

「じゃぁ、行ってくる」

遅ればせながら第二騎士団隊長が片手を上げて第二部隊に号令を送ると、最後の一団が飛び立っていった。

空を飛び立っていく天馬や、二頭立ての馬車。騎士団を象徴する旗が何本も翻る。
その羽根人たちの軍団は見事な光景だった。

空中で一度集まった蒼の騎士団は、それぞれの部隊が向かう担当地域に飛び立っていく。
地上から見上げる者たちは、期待と羨望の眼差しでそれを見つめた。

「こんな光景、初めて見ます。すごいですね、サフォーネ様」

ナチュアは溜息交じりに呟いた。
サフォーネには、その光景はただただ夢のようで、羽根人たちの姿が全て見えなくなるまで見送り続けた。


~つづく~
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