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第二章
[第17話]森の聖都
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蒼の聖殿の裏手、噴水広場を抜けると、聖都へと繋がる裏口がある。
そこは張役が常駐しておらず、翌朝、まだ陽も昇らない時間に三人は集まった。
アリューシャは耳の後ろの羽根を格納できないため、大きな頭巾で頭を覆ってそれを隠していた。
デュークは翼を格納し、フードを被って髪の色を目立たないようにしている。
ルシュアは翼を格納してもその容姿は隠しきれないため、開き直ったように普通の旅装束で現れた。
それぞれがお忍びの様相でそっと旅立つのは、サフォーネの出生調査が秘密裏ということに加え、緑の聖都に訪問することを公けに伝えていないからだ。
蒼の聖殿内で、三人のお忍びを知る者は極僅か。
その中のひとりである馬番が、パキュオラとシェルドナを連れてきた。
「聖都へは抜けず、ここから飛び立とう」
それぞれの馬に跨り、まだ朝靄が立ちこめる中、デュークとルシュアは天馬を空へ駆り出した。
天馬は気流に乗ってしまえば、普通の馬より倍以上の速さで空を駆け抜ける。
羽根人の翼は、長距離飛行には向いていないため、長い移動には天馬を利用することが多い。
ただし、誰もが天馬を所有している訳ではない。
それは財力を示すようなもので、個人で所有するのは隊長クラスや貴族出身の者が殆どだった。
デュークの天馬・シェルドナは、実の父親が16歳の入隊祝いに密かに贈ってくれたものだ。
「アリューシャ、そっちに飽きたらこっちに乗ってもいいんだぞ?」
アリューシャは、前日頼んでいたように、デュークの馬に相乗りしていた。
自分の馬に乗らないのを知りながら、ルシュアがわざと揶揄うと、アリューシャは舌を出した。
「変態がうつるから遠慮しておくわ」
その声に大笑いしながら、ルシュアはさらに軽口を叩く。
「安心しろ。私の相手にお子様は対象外だ。むしろ、そちらの御仁を歓迎するが?」
投げられる視線に、デュークは「はぁ」と大きく溜息を吐いた。
ルシュアのいつもの冗談に、真っ向から言い返すほどの気分にはなれない。
昨夜の悪夢がまだ自分を蝕んでいる気がする。
いくら追っても届かない、母と思しき後ろ姿。
己に向けられる、冷たい銀の瞳…。
手綱を操る汗ばむ手に視線を落とすと、目の前に座っている金色の巻き毛が風に揺れているのが見えた。
「ちょっと、やめてよ。今回のことだって、あたしが一緒に来なければ、あんたたち二人だけだったんでしょ?デュークはサフォーネのものなんだから。ね?」
普段、サフォーネからデュークの話を散々聞かされているのだろう。
冷やかすように見上げてくるアリューシャに対して、デュークは溜息混じりに静かに返した。
「……アリューシャ…サフォーネは男だぞ?…」
「あら、分かってるわよ!最初は女の子だと思ってたから、知った時は驚いたけど…。でも、愛に性別なんて関係ないわよ。あたしは応援するわ。…でも…あっちはダメ!変態だから」
「さっきから変態、変態と…。大人になったらお前も私の魅力に気づくだろうさ」
「それはない!あり得ない!絶対あり得ないわ!ね?デューク」
「……」
ふたりの会話に加わる気力もなく、デュークはただ黙々と馬を駆った。
「デューク…今からそんなんじゃ疲れるぞ?まるで仇にでも会いにいくようだな…」
やれやれと肩を聳やかしたルシュアの目前に、やがて大きな森が開けてきた。
「お。見えてきたな…聖都はさらに奥になる…その前に一度馬たちを休憩させよう」
森の入り口付近で地上に降り立つと、水辺のある場所へ馬を進ませる。
アリューシャが二頭の天馬に水や草を与えてくれるのを見ながら、木陰の草むらに予備用に持ってきた外套を敷き、デュークは横になった。
心の靄が晴れず、僅かに頭痛もする。
手の甲を額に当て、息を吐きながら瞳を閉じる様子を、ルシュアが心配そうに覗き込んだ。
「…大丈夫か?」
「……あぁ…夢見が悪く、殆ど寝付けなかっただけだ」
デュークの傍らに腰を下ろして、ルシュアは空を見上げる。
夢見が悪かった…?子供の頃の夢でも見たのだろうか…。
『母親』の絡む話になると、目の前の幼馴染みはいつだって沈んだ顔になる。
デュークの生い立ちはおおよそ分かっている。
本人の口から語られることは殆ど無いが、周囲から聞いた話と、自分もその場に居合わせた『事故』については。
当時、ルシュアは光の聖殿へ修行に出ていた時期でもあった。
デュークの両親にも会ったことはある。
デュークの母は、美しいがどこか冷たさのある人だった。
そしてその口からは、一度もデュークの名すら、語られることは無かった。
ルシュアはわざと明るく声を出した。
「どんな人だろうな…サフォーネの母親は…」
「……」
ルシュアの言葉にデュークは黙り込む。
母親のいないルシュアにとって、その存在はどんなものと映っているのだろう…。
ルシュアは幼い頃に、母親から引き離されたという話は聞いていた。
病弱で子育てが難しかった母親は、死の間際にルシュアを兄夫婦に託したという。
「母親が生きてるだけましだ」というルシュアと、幼い頃に喧嘩したのを思い出す。
デュークは瞳を開け、徐に呟いた。
「…母親って、なんだろうな…」
一瞬、沈黙が訪れた。
母親と縁のない自分たちが、その存在意義を語れるのか…?
「……女性だ。そして、美しければ尚更いい。もしも、サフォーネの母親が私好みの女性なら、口説いてしまうかもしれんな…」
「…ばか言うな…」
真面目な話を茶化すルシュアを、この時だけは嬉しく思った。
母親とは…?それを追求したとて、今の状態では心を乱すだけだった。
デュークは再び目を閉じて、しばらく周囲の自然の音にだけ耳を傾けた。
少し顔色が良くなった幼馴染みの様子を見て、ルシュアが立ち上がる。
「よし。そろそろ行こう」
再び天馬を駆り、目的地に辿り着く頃には昼時を過ぎていた。
大陸の4分の1ほどを占める広大な森は『精霊の森』とも呼ばれており、森の奥には『精霊の祠』もある聖地となっている。
その森のほぼ中央に『森の聖都』、通称『緑の聖都』がある。
聖都の入り口は、南側に位置している。
その場所を目視すると、天馬を地上に降り立たせ、城壁を護る張役の元にルシュアが声を掛けた。
「蒼の聖都から所用のために訪れた、蒼の騎士団・ルシュアという者だ。開門を頼む」
「ん?蒼の…?……あぁ!蒼の騎士団長殿でしたか。失礼しました。何用でこちらに?とにかく、聖殿の方へ連絡を…」
言いかけた相手の言葉をルシュアは片手で制した。
「いや、ちょっとしたお忍びなんだ。こちらの聖都では珍しい酒も手に入るし、店には綺麗な子もいると聞いてね。束の間の休暇を楽しみたいんだ…察してくれないか?」
その言葉を真に受けたのは、蒼の騎士団長の噂がここにも届いているせいなのか。
張役たちは自分たちと同じく、酒や女性が好きな仲間を見るように「そうでしたか」と、親し気な笑みを浮かべた。
しかし、背後に控えるデュークとアリューシャの存在が話とは裏腹で訝し気に見る。
「あぁ、私の従兄妹たちだ。一度こちらの聖都を見てみたい、というんでね。町に入ったら、私は彼らと別行動だ…」
予め用意していた言葉なのか、すらすらと口から出まかせを言うルシュアは立派な如何様師に見える。
その如何様師の仲間であると認めるよう、アリューシャは張役たちに見えないところで舌を出した。
「なるほど。ご滞在はいつまでですか?」
「…あぁ、そうだな。三日もあれば充分かな…」
「…じゅうぶん…?」
その意味が解らず鸚鵡返しする張役の横をすり抜けて、三人は緑の聖都の門をくぐった。
緑の聖都は、蒼の聖都に比べると、どこか田舎のような風情もある木造りの家が多かった。
個人の家や店はもちろん、教会や劇場などの大きな公共施設も、ほぼ木材を主体に造られている。
森から賜る木は、神の恵みに等しく、神聖に扱われているようで、その信仰心と温もりが伝わってくる。
屋根の色は緑色が多く、どの敷地にも必ずと言っていいほど木々が植えられていた。
緑の聖都に来るのは初めてだったデュークは、シェルドナの足を止め、しばし目的を忘れるようにその景観を眺めていた。
柔らかい緑と神聖な空気に包まれる街中に居ると、悪夢からの呪縛も薄れていくようだった。
デュークが街の景色に心を囚われている様子を見て、アリューシャが声を掛ける。
「おもしろい所でしょ?住人も、蒼の聖都とはまた違うわよね」
ここに住む者は、精霊の森の加護を受け、森を護り、森を愛する種族たちが多いと聞く。
街を歩くのは、羽根人たちの他に、エルフやドワーフ…時折、獣人の姿もあった。
対して、森を切り拓き、王都を造った祖人を嫌う傾向もあるため、祖人の姿は殆ど無い。
「さて。まずは宿だな…。この先にある宿屋なら、私の顔利きで急な話でも泊まれるはずだ」
ルシュアが先導し、馬を歩ませ始めた。
案内したのは、聖都の中心より少し離れたところにある、小さな旅籠だった。
小さいながらも伝統ある旅籠は、各地からお忍びでくる高官が多くいるようだ。
従業員も上品で、お客の情報は一切漏らさないよう教育されているのがわかる。
「滞在中に噂が広まるのも困るしな…ここはお忍びで来るのにもってこいの宿だ」
「へぇ…手慣れてる感じね…」
遊び人でも役に立つことはあるようだ。
アリューシャは呆れると同時に感心した。
宿に天馬と大きな荷物を預けると、ルシュアとデュークは、念のため護身用の短剣を身に着けた。
アリューシャはお手製の革袋を大事そうに肩に掛けると、身軽になった三人は街に出る。
「検見隊の話では、リマノラの生家が聖都の端にあるというんだが…。まずはそこへ行く前に、少し腹ごしらえしないか?」
「そうね。朝も早かったし、お腹ぺこぺこだわ。デュークもいいかしら?」
「…あぁ、そうしよう」
デュークはすぐにでも、その生家を訪ねてみたい気持ちもあったが、空腹感もあるのは事実だ。
食事を後回しにて、二人を巻き込むのも気が引ける。
それに、ここがサフォーネの産まれた聖都なら、少しでも多くのことが知りたいと思った。
「よし。では、私の贔屓にしている店へ案内しよう」
ルシュアの案内で入った店は、小さな舞台を備えた料理屋だった。
夜は酒も提供し、入店の年齢制限をしているが、昼間は誰でも楽しめる店だ。
華やかさのある女性の店員がひとり、ルシュアを見つけると声を掛けてきた。
「あらー。ルシュア様?お久しぶりですわね!今日は可愛らしいお連れ様と…あら、こちらも素敵な殿方…」
女性は、アリューシャとデュークの存在を珍しそうに見ながらルシュアの腕に絡みつき、「こちらへどうぞ」と、大通りが見える窓際の席に案内してくれた。
「相変わらず君は美しいね、ソニアラ。この二人はここが初めてなんだ。この店一番の料理を頼む」
食器を揃えるソニアラの手を取り、軽くキスを落とすと、ソニアラはウィンクを添えて注文を受け付けた。
その後も、行きかう女性店員の全てがルシュアと顔見知りのようで、代わる代わる挨拶に来る。
ルシュアは全員の名前を憶えており、その度に軽く抱擁したり、手を握ったり、サービス精神が尽きることはなかった。
そのやり取りを、アリューシャはげんなりと見ていたが、デュークは慣れているのか、特に気にも留めていない様子だった。
やがて、ソニアラと他の店員がたっぷりの肉と野菜の乗った大皿を出してきた。
慣れた手つきで皿に取り分けながら、ルシュアが語る。
「蒼の聖都の魚もうまいが、ここの肉も相当うまいぞ?本当は酒もあるといいんだがな…」
「…確かに美味しいけど…ルシュアあんた、どんな時間作ってこの店にきてるの…」
料理を口にしながら、呆れるアリューシャの傍らで、デュークはずっと窓の外を見ていた。
街並みを歩く人々。往来する馬車。
この中に、もしかしたらサフォーネかその母親を知る者が居るかもしれない…。
「おい、デューク。料理が冷めるぞ?このあと時間は充分にあるんだ。今は食事を楽しめ」
「あ、あぁ…すまない…」
ルシュアの言葉に促され、デュークも食事に手を付けた。
食事を済ませ、「夜にまたいらしてね?」というソニアラに愛想を振りまきながら、ルシュアが店を出ると、その後に続いてデュークとアリューシャも出てきた。
改めて街の中を見渡す。
蒼の聖都ほど規模は大きくないのだろうが、緑の聖都も歩くとなるとそれなりの広さのようだ。
「さて、リマノラの生家へ向かうか。乗合馬車もあるが…」
「あたし、歩きたい!ゆっくり街が見たいわ。…だめ?」
アリューシャの願いで、目的地を目指しながら歩くことにした。
緑の聖都は、蒼の聖都と違い、露店が多い。
アリューシャが歩きたくなる気持ちも解ったが、時折、珍しそうな屋台を見つけては買い食いする様子に、ルシュアが呆れたように言った。
「お前、まだ腹に入るのか?…それに、ついこの間までここに居たんだろ…」
森の果物をシロップに付け込んだ甘味を味わいながら、アリューシャが口を咎らす。
「甘味は別腹って言うじゃない?それに居たと言っても聖殿の中が殆どだったわ。聖都に出たくてもなかなか出られなかったんだから…」
アリューシャの言う通り、修行中の羽根人の休日には自由がない。
雑念をなるべく入れないようにするため、殆どが聖殿内で過ごし、聖都やその外への外出はなかなか許可が下りない。
どうしても、というときは面倒な手続きが必要であり、そして、申請内容によっては、通らない場合もある。
「そうだよな。修行というのは、そういうもんだ…」
デュークがぽつりと呟いた。
自身の修行時代を思い返せば、周囲の子供たちの中には、親元に帰りたくて泣く者もいた。
デュークには帰りたい親元もなく、クエナの町に思いを馳せることが多かったが…。
故郷のないサフォーネも、恐らくクエナの町を思うだろう。
(窮屈な聖殿に連れてこられて、もしかしたら俺を恨んでるかもしれない…)
先日、手を振るだけで去って行ったのは、そういった理由があるのではないか?
そんなことを考えるとやるせなくなる。
隣で甘味を楽しむアリューシャは、サフォーネと同じ年頃だ。
修行が明けたとはいえ、まだまだ子供で、こうやって手に入れた自由を楽しんでいる。
サフォーネは、今頃何をしているのだろう…。
「サフォーネも…辛い思いをしているだろうな…」
「…え?」
突拍子もないことを言い出したデュークに驚いて、見上げてくるアリューシャの姿に、サフォーネの姿が重なった。
デュークは徐にその頭に手を伸ばし、そっと優しく撫でてやった。
「ちょ…!ルシュア?!デュークが変なんだけど!」
優しい手と眼差しを向けられたアリューシャはみるみる頬が赤くなり、慌ててデュークから離れると、ルシュアの元へ駆け寄った。
「デューク…お前のそういうところ、結構罪深いぞ?」
デュークが蒼の聖殿にやってきてから、その自然で優しい気遣い、何気ない仕草が、一部の女性たちを魅了しているのをルシュアは知っていた。
剣術大会後には、見学に来た浄清の天使の中で『デューク様を応援する会』という集まりを創った、若い女性たちがいると聞いているし、あれからも「世話役をどうしても引き受けたいから騎士団長から推薦してくれないか」という、なりふり構っていない女性たちもいる。
そういう女性はまず、デュークの好みではないこともわかっていたので取り合わずにいたが…。
「出発した時も、店でもそうだったが…まるで、心ここにあらず、だな…。はっきりさせることをはっきりさせないと、デュークの心はどこかに行ったままだ」
心労を抱えるデュークは、夢と現を行ったり来たりしているように見える。
まずはサフォーネの母親のことだ。
それがはっきりすれば、デュークに充分な休暇を取らせてやれるだろう。
「ねぇ、あっちの空、真っ暗よ?」
アリューシャの声に天を仰げば、陽が差していた空には、いつの間にか遠くに黒い雲が現れ始めていた。
間もなく夕立になるかもしれない。
「一雨くるな。急ごう。…アリューシャ、今後買い食いは遠慮してもらうぞ?」
その後、黙々と歩き続けた三人は、ようやくリマノラの生家に到着した。
その惨状に、アリューシャが驚いて声をあげる。
「ここ…が…?」
そこはもう長らく人が住んでいないのか、鉄の門扉は錆び付き、木の扉も半ば朽ちていた。
その扉から塀一帯に絡みつく蔦が、屋敷の外壁にまで蔓延っている。
羽根人の貴族の屋敷、という割には、少し控えめの大きさではあったが、その造りは美しく、杜族としての威厳を表すには十分な建て構えだった。
しかし、小さな庭は雑草で荒れていて、全てが昔の栄華を語るようであった。
「やはり、人が住んでいるとは思えんな…検見隊も数回訪ねたようだが、人の気配は無かったということだ。近くに住む者たちに聞いてみるか…」
「待って。家の中、誰かいる」
踵を返そうとしたルシュアをアリューシャが止めた。
磨りガラスの玄関扉の窓に人影が現れる。
息を呑んで立ち尽くす三人の前で、その扉がゆっくりと開かれた。
「…あなた方は…?ここに何か御用ですか?」
出てきたのは中年の女性の羽根人だった。
門扉の前でこちらを窺っている三人の様子を見て、そのままの疑問を投げつけてきた。
女性は、年齢から到底リマノラ本人ではないだろう。
身なりも貴族のものというよりも、そこに使える侍女のようなものだった。
どう答えたものか、言葉を探すルシュアとデュークを後目に、口を開いたのはアリューシャだった。
「あ…あの、ここに昔、リマノラって人が、住んでませんでしたか?」
単刀直入な言葉に、面食らったのは二人の男だけではなく、目の前の女性もだった。
一度目を大きく見開いた後、静かに息を吐きだして扉を開け放ち、三人が通れるよう一歩退いた。
「お嬢様のお知り合いですか?どうぞ中へ」
思いがけない答えに、三人は顔を見合わせた。
女性の言葉から「今」を感じさせる答えを聞けるとは思わずに…。
「どういうこと?リマノラ…いるってこと?」
「まさか…検見隊の報告では、とっくに亡くなっている筈だが…」
戸惑う二人の隣で、デュークが意を決するように拳を握った。
「それを確かめに来たんだ…行こう」
その言葉に押されるように、三人は家の中へと入って行った。
~つづく~
そこは張役が常駐しておらず、翌朝、まだ陽も昇らない時間に三人は集まった。
アリューシャは耳の後ろの羽根を格納できないため、大きな頭巾で頭を覆ってそれを隠していた。
デュークは翼を格納し、フードを被って髪の色を目立たないようにしている。
ルシュアは翼を格納してもその容姿は隠しきれないため、開き直ったように普通の旅装束で現れた。
それぞれがお忍びの様相でそっと旅立つのは、サフォーネの出生調査が秘密裏ということに加え、緑の聖都に訪問することを公けに伝えていないからだ。
蒼の聖殿内で、三人のお忍びを知る者は極僅か。
その中のひとりである馬番が、パキュオラとシェルドナを連れてきた。
「聖都へは抜けず、ここから飛び立とう」
それぞれの馬に跨り、まだ朝靄が立ちこめる中、デュークとルシュアは天馬を空へ駆り出した。
天馬は気流に乗ってしまえば、普通の馬より倍以上の速さで空を駆け抜ける。
羽根人の翼は、長距離飛行には向いていないため、長い移動には天馬を利用することが多い。
ただし、誰もが天馬を所有している訳ではない。
それは財力を示すようなもので、個人で所有するのは隊長クラスや貴族出身の者が殆どだった。
デュークの天馬・シェルドナは、実の父親が16歳の入隊祝いに密かに贈ってくれたものだ。
「アリューシャ、そっちに飽きたらこっちに乗ってもいいんだぞ?」
アリューシャは、前日頼んでいたように、デュークの馬に相乗りしていた。
自分の馬に乗らないのを知りながら、ルシュアがわざと揶揄うと、アリューシャは舌を出した。
「変態がうつるから遠慮しておくわ」
その声に大笑いしながら、ルシュアはさらに軽口を叩く。
「安心しろ。私の相手にお子様は対象外だ。むしろ、そちらの御仁を歓迎するが?」
投げられる視線に、デュークは「はぁ」と大きく溜息を吐いた。
ルシュアのいつもの冗談に、真っ向から言い返すほどの気分にはなれない。
昨夜の悪夢がまだ自分を蝕んでいる気がする。
いくら追っても届かない、母と思しき後ろ姿。
己に向けられる、冷たい銀の瞳…。
手綱を操る汗ばむ手に視線を落とすと、目の前に座っている金色の巻き毛が風に揺れているのが見えた。
「ちょっと、やめてよ。今回のことだって、あたしが一緒に来なければ、あんたたち二人だけだったんでしょ?デュークはサフォーネのものなんだから。ね?」
普段、サフォーネからデュークの話を散々聞かされているのだろう。
冷やかすように見上げてくるアリューシャに対して、デュークは溜息混じりに静かに返した。
「……アリューシャ…サフォーネは男だぞ?…」
「あら、分かってるわよ!最初は女の子だと思ってたから、知った時は驚いたけど…。でも、愛に性別なんて関係ないわよ。あたしは応援するわ。…でも…あっちはダメ!変態だから」
「さっきから変態、変態と…。大人になったらお前も私の魅力に気づくだろうさ」
「それはない!あり得ない!絶対あり得ないわ!ね?デューク」
「……」
ふたりの会話に加わる気力もなく、デュークはただ黙々と馬を駆った。
「デューク…今からそんなんじゃ疲れるぞ?まるで仇にでも会いにいくようだな…」
やれやれと肩を聳やかしたルシュアの目前に、やがて大きな森が開けてきた。
「お。見えてきたな…聖都はさらに奥になる…その前に一度馬たちを休憩させよう」
森の入り口付近で地上に降り立つと、水辺のある場所へ馬を進ませる。
アリューシャが二頭の天馬に水や草を与えてくれるのを見ながら、木陰の草むらに予備用に持ってきた外套を敷き、デュークは横になった。
心の靄が晴れず、僅かに頭痛もする。
手の甲を額に当て、息を吐きながら瞳を閉じる様子を、ルシュアが心配そうに覗き込んだ。
「…大丈夫か?」
「……あぁ…夢見が悪く、殆ど寝付けなかっただけだ」
デュークの傍らに腰を下ろして、ルシュアは空を見上げる。
夢見が悪かった…?子供の頃の夢でも見たのだろうか…。
『母親』の絡む話になると、目の前の幼馴染みはいつだって沈んだ顔になる。
デュークの生い立ちはおおよそ分かっている。
本人の口から語られることは殆ど無いが、周囲から聞いた話と、自分もその場に居合わせた『事故』については。
当時、ルシュアは光の聖殿へ修行に出ていた時期でもあった。
デュークの両親にも会ったことはある。
デュークの母は、美しいがどこか冷たさのある人だった。
そしてその口からは、一度もデュークの名すら、語られることは無かった。
ルシュアはわざと明るく声を出した。
「どんな人だろうな…サフォーネの母親は…」
「……」
ルシュアの言葉にデュークは黙り込む。
母親のいないルシュアにとって、その存在はどんなものと映っているのだろう…。
ルシュアは幼い頃に、母親から引き離されたという話は聞いていた。
病弱で子育てが難しかった母親は、死の間際にルシュアを兄夫婦に託したという。
「母親が生きてるだけましだ」というルシュアと、幼い頃に喧嘩したのを思い出す。
デュークは瞳を開け、徐に呟いた。
「…母親って、なんだろうな…」
一瞬、沈黙が訪れた。
母親と縁のない自分たちが、その存在意義を語れるのか…?
「……女性だ。そして、美しければ尚更いい。もしも、サフォーネの母親が私好みの女性なら、口説いてしまうかもしれんな…」
「…ばか言うな…」
真面目な話を茶化すルシュアを、この時だけは嬉しく思った。
母親とは…?それを追求したとて、今の状態では心を乱すだけだった。
デュークは再び目を閉じて、しばらく周囲の自然の音にだけ耳を傾けた。
少し顔色が良くなった幼馴染みの様子を見て、ルシュアが立ち上がる。
「よし。そろそろ行こう」
再び天馬を駆り、目的地に辿り着く頃には昼時を過ぎていた。
大陸の4分の1ほどを占める広大な森は『精霊の森』とも呼ばれており、森の奥には『精霊の祠』もある聖地となっている。
その森のほぼ中央に『森の聖都』、通称『緑の聖都』がある。
聖都の入り口は、南側に位置している。
その場所を目視すると、天馬を地上に降り立たせ、城壁を護る張役の元にルシュアが声を掛けた。
「蒼の聖都から所用のために訪れた、蒼の騎士団・ルシュアという者だ。開門を頼む」
「ん?蒼の…?……あぁ!蒼の騎士団長殿でしたか。失礼しました。何用でこちらに?とにかく、聖殿の方へ連絡を…」
言いかけた相手の言葉をルシュアは片手で制した。
「いや、ちょっとしたお忍びなんだ。こちらの聖都では珍しい酒も手に入るし、店には綺麗な子もいると聞いてね。束の間の休暇を楽しみたいんだ…察してくれないか?」
その言葉を真に受けたのは、蒼の騎士団長の噂がここにも届いているせいなのか。
張役たちは自分たちと同じく、酒や女性が好きな仲間を見るように「そうでしたか」と、親し気な笑みを浮かべた。
しかし、背後に控えるデュークとアリューシャの存在が話とは裏腹で訝し気に見る。
「あぁ、私の従兄妹たちだ。一度こちらの聖都を見てみたい、というんでね。町に入ったら、私は彼らと別行動だ…」
予め用意していた言葉なのか、すらすらと口から出まかせを言うルシュアは立派な如何様師に見える。
その如何様師の仲間であると認めるよう、アリューシャは張役たちに見えないところで舌を出した。
「なるほど。ご滞在はいつまでですか?」
「…あぁ、そうだな。三日もあれば充分かな…」
「…じゅうぶん…?」
その意味が解らず鸚鵡返しする張役の横をすり抜けて、三人は緑の聖都の門をくぐった。
緑の聖都は、蒼の聖都に比べると、どこか田舎のような風情もある木造りの家が多かった。
個人の家や店はもちろん、教会や劇場などの大きな公共施設も、ほぼ木材を主体に造られている。
森から賜る木は、神の恵みに等しく、神聖に扱われているようで、その信仰心と温もりが伝わってくる。
屋根の色は緑色が多く、どの敷地にも必ずと言っていいほど木々が植えられていた。
緑の聖都に来るのは初めてだったデュークは、シェルドナの足を止め、しばし目的を忘れるようにその景観を眺めていた。
柔らかい緑と神聖な空気に包まれる街中に居ると、悪夢からの呪縛も薄れていくようだった。
デュークが街の景色に心を囚われている様子を見て、アリューシャが声を掛ける。
「おもしろい所でしょ?住人も、蒼の聖都とはまた違うわよね」
ここに住む者は、精霊の森の加護を受け、森を護り、森を愛する種族たちが多いと聞く。
街を歩くのは、羽根人たちの他に、エルフやドワーフ…時折、獣人の姿もあった。
対して、森を切り拓き、王都を造った祖人を嫌う傾向もあるため、祖人の姿は殆ど無い。
「さて。まずは宿だな…。この先にある宿屋なら、私の顔利きで急な話でも泊まれるはずだ」
ルシュアが先導し、馬を歩ませ始めた。
案内したのは、聖都の中心より少し離れたところにある、小さな旅籠だった。
小さいながらも伝統ある旅籠は、各地からお忍びでくる高官が多くいるようだ。
従業員も上品で、お客の情報は一切漏らさないよう教育されているのがわかる。
「滞在中に噂が広まるのも困るしな…ここはお忍びで来るのにもってこいの宿だ」
「へぇ…手慣れてる感じね…」
遊び人でも役に立つことはあるようだ。
アリューシャは呆れると同時に感心した。
宿に天馬と大きな荷物を預けると、ルシュアとデュークは、念のため護身用の短剣を身に着けた。
アリューシャはお手製の革袋を大事そうに肩に掛けると、身軽になった三人は街に出る。
「検見隊の話では、リマノラの生家が聖都の端にあるというんだが…。まずはそこへ行く前に、少し腹ごしらえしないか?」
「そうね。朝も早かったし、お腹ぺこぺこだわ。デュークもいいかしら?」
「…あぁ、そうしよう」
デュークはすぐにでも、その生家を訪ねてみたい気持ちもあったが、空腹感もあるのは事実だ。
食事を後回しにて、二人を巻き込むのも気が引ける。
それに、ここがサフォーネの産まれた聖都なら、少しでも多くのことが知りたいと思った。
「よし。では、私の贔屓にしている店へ案内しよう」
ルシュアの案内で入った店は、小さな舞台を備えた料理屋だった。
夜は酒も提供し、入店の年齢制限をしているが、昼間は誰でも楽しめる店だ。
華やかさのある女性の店員がひとり、ルシュアを見つけると声を掛けてきた。
「あらー。ルシュア様?お久しぶりですわね!今日は可愛らしいお連れ様と…あら、こちらも素敵な殿方…」
女性は、アリューシャとデュークの存在を珍しそうに見ながらルシュアの腕に絡みつき、「こちらへどうぞ」と、大通りが見える窓際の席に案内してくれた。
「相変わらず君は美しいね、ソニアラ。この二人はここが初めてなんだ。この店一番の料理を頼む」
食器を揃えるソニアラの手を取り、軽くキスを落とすと、ソニアラはウィンクを添えて注文を受け付けた。
その後も、行きかう女性店員の全てがルシュアと顔見知りのようで、代わる代わる挨拶に来る。
ルシュアは全員の名前を憶えており、その度に軽く抱擁したり、手を握ったり、サービス精神が尽きることはなかった。
そのやり取りを、アリューシャはげんなりと見ていたが、デュークは慣れているのか、特に気にも留めていない様子だった。
やがて、ソニアラと他の店員がたっぷりの肉と野菜の乗った大皿を出してきた。
慣れた手つきで皿に取り分けながら、ルシュアが語る。
「蒼の聖都の魚もうまいが、ここの肉も相当うまいぞ?本当は酒もあるといいんだがな…」
「…確かに美味しいけど…ルシュアあんた、どんな時間作ってこの店にきてるの…」
料理を口にしながら、呆れるアリューシャの傍らで、デュークはずっと窓の外を見ていた。
街並みを歩く人々。往来する馬車。
この中に、もしかしたらサフォーネかその母親を知る者が居るかもしれない…。
「おい、デューク。料理が冷めるぞ?このあと時間は充分にあるんだ。今は食事を楽しめ」
「あ、あぁ…すまない…」
ルシュアの言葉に促され、デュークも食事に手を付けた。
食事を済ませ、「夜にまたいらしてね?」というソニアラに愛想を振りまきながら、ルシュアが店を出ると、その後に続いてデュークとアリューシャも出てきた。
改めて街の中を見渡す。
蒼の聖都ほど規模は大きくないのだろうが、緑の聖都も歩くとなるとそれなりの広さのようだ。
「さて、リマノラの生家へ向かうか。乗合馬車もあるが…」
「あたし、歩きたい!ゆっくり街が見たいわ。…だめ?」
アリューシャの願いで、目的地を目指しながら歩くことにした。
緑の聖都は、蒼の聖都と違い、露店が多い。
アリューシャが歩きたくなる気持ちも解ったが、時折、珍しそうな屋台を見つけては買い食いする様子に、ルシュアが呆れたように言った。
「お前、まだ腹に入るのか?…それに、ついこの間までここに居たんだろ…」
森の果物をシロップに付け込んだ甘味を味わいながら、アリューシャが口を咎らす。
「甘味は別腹って言うじゃない?それに居たと言っても聖殿の中が殆どだったわ。聖都に出たくてもなかなか出られなかったんだから…」
アリューシャの言う通り、修行中の羽根人の休日には自由がない。
雑念をなるべく入れないようにするため、殆どが聖殿内で過ごし、聖都やその外への外出はなかなか許可が下りない。
どうしても、というときは面倒な手続きが必要であり、そして、申請内容によっては、通らない場合もある。
「そうだよな。修行というのは、そういうもんだ…」
デュークがぽつりと呟いた。
自身の修行時代を思い返せば、周囲の子供たちの中には、親元に帰りたくて泣く者もいた。
デュークには帰りたい親元もなく、クエナの町に思いを馳せることが多かったが…。
故郷のないサフォーネも、恐らくクエナの町を思うだろう。
(窮屈な聖殿に連れてこられて、もしかしたら俺を恨んでるかもしれない…)
先日、手を振るだけで去って行ったのは、そういった理由があるのではないか?
そんなことを考えるとやるせなくなる。
隣で甘味を楽しむアリューシャは、サフォーネと同じ年頃だ。
修行が明けたとはいえ、まだまだ子供で、こうやって手に入れた自由を楽しんでいる。
サフォーネは、今頃何をしているのだろう…。
「サフォーネも…辛い思いをしているだろうな…」
「…え?」
突拍子もないことを言い出したデュークに驚いて、見上げてくるアリューシャの姿に、サフォーネの姿が重なった。
デュークは徐にその頭に手を伸ばし、そっと優しく撫でてやった。
「ちょ…!ルシュア?!デュークが変なんだけど!」
優しい手と眼差しを向けられたアリューシャはみるみる頬が赤くなり、慌ててデュークから離れると、ルシュアの元へ駆け寄った。
「デューク…お前のそういうところ、結構罪深いぞ?」
デュークが蒼の聖殿にやってきてから、その自然で優しい気遣い、何気ない仕草が、一部の女性たちを魅了しているのをルシュアは知っていた。
剣術大会後には、見学に来た浄清の天使の中で『デューク様を応援する会』という集まりを創った、若い女性たちがいると聞いているし、あれからも「世話役をどうしても引き受けたいから騎士団長から推薦してくれないか」という、なりふり構っていない女性たちもいる。
そういう女性はまず、デュークの好みではないこともわかっていたので取り合わずにいたが…。
「出発した時も、店でもそうだったが…まるで、心ここにあらず、だな…。はっきりさせることをはっきりさせないと、デュークの心はどこかに行ったままだ」
心労を抱えるデュークは、夢と現を行ったり来たりしているように見える。
まずはサフォーネの母親のことだ。
それがはっきりすれば、デュークに充分な休暇を取らせてやれるだろう。
「ねぇ、あっちの空、真っ暗よ?」
アリューシャの声に天を仰げば、陽が差していた空には、いつの間にか遠くに黒い雲が現れ始めていた。
間もなく夕立になるかもしれない。
「一雨くるな。急ごう。…アリューシャ、今後買い食いは遠慮してもらうぞ?」
その後、黙々と歩き続けた三人は、ようやくリマノラの生家に到着した。
その惨状に、アリューシャが驚いて声をあげる。
「ここ…が…?」
そこはもう長らく人が住んでいないのか、鉄の門扉は錆び付き、木の扉も半ば朽ちていた。
その扉から塀一帯に絡みつく蔦が、屋敷の外壁にまで蔓延っている。
羽根人の貴族の屋敷、という割には、少し控えめの大きさではあったが、その造りは美しく、杜族としての威厳を表すには十分な建て構えだった。
しかし、小さな庭は雑草で荒れていて、全てが昔の栄華を語るようであった。
「やはり、人が住んでいるとは思えんな…検見隊も数回訪ねたようだが、人の気配は無かったということだ。近くに住む者たちに聞いてみるか…」
「待って。家の中、誰かいる」
踵を返そうとしたルシュアをアリューシャが止めた。
磨りガラスの玄関扉の窓に人影が現れる。
息を呑んで立ち尽くす三人の前で、その扉がゆっくりと開かれた。
「…あなた方は…?ここに何か御用ですか?」
出てきたのは中年の女性の羽根人だった。
門扉の前でこちらを窺っている三人の様子を見て、そのままの疑問を投げつけてきた。
女性は、年齢から到底リマノラ本人ではないだろう。
身なりも貴族のものというよりも、そこに使える侍女のようなものだった。
どう答えたものか、言葉を探すルシュアとデュークを後目に、口を開いたのはアリューシャだった。
「あ…あの、ここに昔、リマノラって人が、住んでませんでしたか?」
単刀直入な言葉に、面食らったのは二人の男だけではなく、目の前の女性もだった。
一度目を大きく見開いた後、静かに息を吐きだして扉を開け放ち、三人が通れるよう一歩退いた。
「お嬢様のお知り合いですか?どうぞ中へ」
思いがけない答えに、三人は顔を見合わせた。
女性の言葉から「今」を感じさせる答えを聞けるとは思わずに…。
「どういうこと?リマノラ…いるってこと?」
「まさか…検見隊の報告では、とっくに亡くなっている筈だが…」
戸惑う二人の隣で、デュークが意を決するように拳を握った。
「それを確かめに来たんだ…行こう」
その言葉に押されるように、三人は家の中へと入って行った。
~つづく~
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