サフォネリアの咲く頃

水星直己

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第一章

[第12話]蒼の聖殿

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デュークとサフォーネが辿り着いた大陸の南東には、大小さまざまな湖が集まっている。
それは古来より岩場が多い地域のため、地面の起伏に水が溜まって形成されたものが殆どだった。
今はその岩場も、長年蓄積された土や苔、草などに覆われて、緩やかな草地に見えてはいるが、地面を掘っていけば岩層にぶつかる場所ばかりだ。
よって、この辺の開拓は難しく、村や町は数えるほどしかなかった。

1日かけて湿地帯を抜けた3人は、その日は途中の集落に立ち寄った。
そこは村というほど人が定住している訳ではなく、旅人が利用する通過点のような場所で、質素な宿屋と旅人向けの商いをする店があるくらいのものだった。
宿屋で簡単な食事と、ごろ寝するくらいの部屋で一晩休むと、まだ夜も明けないうちに出立した。

周囲が複数の湖や池に囲まれているため、道は入り組んでいるが、確実に蒼の聖都は近づいている。
まだ闇に包まれる中を、2頭の馬はゆっくりと歩んでいった。

「暗くてよく見えないだろうが、この辺一帯は小さな湖や池が密集している。数がありすぎて、全てに名前はつけられないが、形が個性的なものや、そこに生息する魚、動物の種類によって愛称みたいなものはあるな。いずれそれも知ることになるだろう。もう少し先に行けば、大きな湖が集まっていて、一番有名な湖も見えてくるからな」

「みず、み…たくさん?……ひゃ、ひゃっこ、くらい?」

ルシュアの案内に、サフォーネが質問を投げかける。
サフォーネがたくさんと認識する数字が出ると、ルシュアは思わず吹き出した。

「確かに、100個も多い数だが…蒼の聖都周辺の湖は、大小含め、その数は20万以上と言われている」

「…に、じゅぅまん……?………デューク…ゆび、いくついる?」

必死に指を折って数えようとするサフォーネの様子に、デュークもルシュアも笑いを誘われて、夜明け前の湖にその声が響いた。

「指だけじゃ足りないかもな。それも聖殿に入ったら勉強できるようになるから…」

デュークの言葉に、サフォーネは指折り数えるのをやめて嬉しそうに振り返ると、東の空が白んで行くのに気が付いた。
湿った空気を吸いながら、空の色が少しずつ明るくなっていくのを馬上から見つめる。

「夜明けか…」

左右違う色の目を細めながら、ルシュアが呟いた。

徐々に顔を出す陽の光は柔らかく、それは地平線に落ちた雲間から差し込んでいるように見えた。
しかしそれは雲ではなく、早朝の湖に立ちこめる霧だった。
それはまさしく地上に広がる雲海そのもの。
幻想的な世界を映し出していた。

雲海を突き抜けるよう二つの塔が聳え立ち、それを囲む高い城壁が浮かび上がっている。
城壁は横に長く伸び、地上に居ながら、天空の要塞を見ているようだった。

その美しさに、サフォーネが溜息をつくのが聞こえ、デュークは馬を止めた。
サフォーネは馬から滑り降りると、数歩踏み出し、ゆっくり首を巡らせて、その景色を見つめる。

「ようやく着いたな。サフォーネ、これが蒼の聖都だ…と言っても、裏側になるがな」

呆けて口を開けたままのサフォーネを面白そうに見ながら、ルシュアが馬を止めて声を掛けた。

「……み、みず、みのせいと?」

「あぁ。『蒼の聖都』と呼ばれてはいるが、正しくは『湖の聖都』だな。それは知っていたか。では、どうして蒼の聖都と呼ばれているか…まぁ、それは入ってみればわかるだろう」

蒼の聖都…。
デュークから聞いた聖都は、クエナの町の何倍もの大きさで…。
サフォーネはこの広い城壁の中を想像すると、ただその場に立ち尽くした。

「サフォ、行くぞ」

デュークは再びサフォーネに馬に乗るように促した。
その声にようやく我に返ったサフォーネは、デュークの手を取り、シェルドナに跨った。
それを確認したルシュアが先導をとる。


城門は南側にあるため、聖都の城壁を半周する。
城壁はクエナの町の教会くらいの高さだろうか。
覗こうにも覗けない高さだったが、サフォーネが首を長くするようにその天辺を見つめていると、ある程度の間隔に置かれた見張り台らしき所に人影を確認した。

「あれが、我が『湖の聖都』の象徴『三日月湖』だ」

ルシュアの声に前方を見ると、右方面に巨大な湖が見えてきた。

「ここからじゃわからないが、名前の由来はその形にある。空から見れば一目瞭然だろうな」

「みかづき…」

「一番有名な湖で、大きさもかなりのものだ。外周を一周するのに、人の足で1か月掛かると言われている」

近づくにつれ、三日月湖の細い先端が確認される。
その向こう、曲線が描かれる湖面に、浮島が見えた。
そこには橋も架かっているようだ。

「あの橋は、聖都に住む大工職人と近郊の町に住む人々が協力して架けたものだ。あの島から見る景色はすごいぞ?まるで大陸の外海を展望する気分になれる。この辺に住む者が愛している景色だ。そして蒼の聖都は、この湖に抱かれるように存在している」



ルシュアの説明に耳を傾けていると、長く続いていた城壁の中に、城門が見えてきた。
その両端には細い物見塔が建っている。
聖都に近寄る者を確認し、立ち入る者に許可を与える場所だ。
そこには、警護する『張役』の羽根人が10数名控えている。
2頭の馬が近寄っていくと、2人の張役が出迎えた。

「ルシュア総隊長、お疲れ様です」

張役たちは、蒼の騎士団・総隊長のルシュアと認めると、扉に掛けられている閂を抜き、少人数でも可能な仕掛けを用いて、その重い城門を押し開く。

門が開いた先には、一つの巨大な街並みが広がっていた。


統一された綺麗な石造りの家は、白壁に青い屋根が基調とされている。
それらが整列し、建ち並んでいるのは見事な景観だ。

建物の間隔で、大きな通りや小さな通りが、網の目の様に入り組んでいるのが判る。
足元に目をやると、路も美しい石組で舗装され、雑草などは一つも生えていない。

そのまま、城門からまっすぐ延びる大通りに目線を伸ばせば、両脇は商業地区になっているようで、様々な店が構えている。
店の軒先に掲げられている紋章の生地も青色だった。

その大通りの遥か先に、聳え立つ二つの塔が見える。
塔の屋根も青く染められ、都全体の景色が青色に包まれているようだった。

「…あお、の、せいと……」

『湖の聖都』が『蒼の聖都』と言われるのは、その色彩にあるのだと、サフォーネは気が付いた。
言葉を失っているサフォーネの様子を見て、背中からデュークが声をかける。

「この先に二つの塔が見えるだろ?あれが『聖殿』だ。この街の中央にある聖殿には限られた者しか住めない。そういった人たちを支えてくれるのがこの街だ」

「ここ、蒼の聖都の住人は、8割は羽根人だが、残りは祖人やエルフなど様々な種族がいる。いずれも有能な学者や医者、鍛冶屋などの技術者たちだ。優れた能力を持つ者は種族に関係なく、聖殿にとっての財産だからな。それに反して、光の聖殿や緑の聖殿は、種族の時点で聖都に住まう者を判別しているようだが…。私にしてみれば、それは愚かしいことだな」

デュークに続いて説明するルシュアの声を聞きながら、ゆっくりと歩み始めた馬の上からサフォーネは街並みを眺めた。

静かな街道に、2頭の馬の蹄が響き渡る。
朝早く、人影はほとんどなかったが、靄がかかっている街並みに、何人か働いている姿もあった。
飲食店では食材の配達を受け取る店主や、鍛冶屋では火が焚かれているのか、窯の煙突から煙が上がっている。
クエナの町でも見かけた光景だが、ここの規模はそれとは全然違っているのをサフォーネは目の当たりにした。
建物の数だけ、いやそれ以上に人がいる。その息遣いが聞こえてくるようだった。

やがて、街並みが切れると、そこには聖殿を囲む水路が横切っており、その向こうには自然の花畑が広がっていた。
まっすぐ伸びる道は、花畑を両側に添えながら、聖殿に続く正門へと繋がっている。
近づくにつれ、その高さを実感させる二つの塔の間には大きな建物もあるようで、開かれている正門からその建物が垣間見えた。

「この先が『蒼の聖殿』だ。真っすぐ先に見えるのは『中央塔』。その両脇に『闇祓いの塔』と『浄清の塔』がある。この門は緊急事態ではない限り、通常いつも開かれている。…まぁ、開かれている、といっても、そう簡単には入れない仕組みになっているがな」

ルシュアが一足先に天馬を駆けさせた。
門柱の近くには詰所があり、そこにはまた張役が4名ほどいる。
駆け寄ってくる天馬の姿を見つけると、そのうちの2名が出迎えてくれた。

ルシュアが馬を降り、出迎えた張役に馬を預ける。
続いてデュークも馬から降り、サフォーネに手を伸ばして降ろすと、近づいてきた張役に手綱を渡した。

地上に降りるとさらに高くなる門扉を見上げたサフォーネは、霞が掛かっている景色とは違う何かが、聖殿を包んでいるのを感じ取っていた。
不思議に思いながらもそのまま正門から入ろうとすると、ルシュアに呼び止められる。

「待つんだ。魔を寄せ付けないよう聖殿には結界が張られている。それが『簡単に入れない』理由だ。外界で魔烟に触れた者は、聖殿に入る前にここで魔を祓ってからじゃないと、敷地に入れないんだ」

よく見ると、門扉の前には薄いベールが掛かっているように結界が張られていた。
ルシュアの声に振り替えると、詰所の隣に小さな社がある。
そこで魔が祓えるのだろう。
そのまま抜けると、聖殿の敷地に続くようだった。
デュークとルシュアがそれぞれの馬とともにその中に入っていくのが見える。
サフォーネもそれに倣い、後に続いた。

「お帰りなさいませ、ルシュア様。この者たちは…?」

「これから聖殿で仕える者たちだ。禊の用意を…あぁ、見習いたちで構わん」

社を抜けたところで、訝し気に声を掛けてきた張役たちに告げると、そのうちの一人が伝令を出しにいった。

間もなくして、社の傍にある建物から、4人の若い男女の羽根人たちが出てきた。
サフォーネと同じくらいか、それよりも少し上くらいの羽根人だったが、その物腰は柔らかく、大人の様な落ち着きが見えた。
3人の元へ近寄ってくると、全員が綺麗に同じ角度で頭を下げた。
驚くサフォーネに向かってルシュアが口を開く。

「禊は、これから長く聖殿に滞在する者には必ずやってもらうことだ。彼らは世話役の見習いとしてここで働いている者たち。今は客人を迎える作法の修行中だが、彼らの言うことを聞いて支度を頼むぞ?」

サフォーネに語りつつも、世話役見習いたちに目配せすれば、心得た頷きをするのが見えた。

「どうぞこちらへ。ご案内いたします」

4人の世話役見習いたちは、日頃から厳しい指導を受けているのだろう、それぞれが無駄のない決まった動きで、デュークとサフォーネを禊の間がある場所へと案内する。
その中の、責任者らしき年長者をルシュアは呼び止めた。

「禊が終わったら大広間で顔合わせをする。正装の用意も頼むな」

「畏まりました」

去って行く世話役の背中を見ながら、今度は馬たちを馬番に預けて戻ってきた張役に声を掛けた。

「そこの君。『おさ』とババ様、長老…あとは、各隊長、団長たちにも、大広間に来るよう伝えてくれ」

「しょ、承知しました!」

もう役目が終わったと思っていた張役は、ルシュアに声を掛けられ、飛びあがって駆け出していった。

「…さて。私も支度するか…」

この後は二人の羽根人を聖殿に迎え入れる準備で忙しくなる。
ルシュアも身支度を整えるため、一度自身の部屋へと帰って行った。


デュークとサフォーネは世話役見習いたちに連れられ、それぞれ隣り合った禊の間へ通された。

デュークは身に付けていた甲冑や衣服を全て脱ぎ、決まっている腰布と浴衣を身に着けると浴場へ入った。
香草を浮かべた湯船は、身体の汚れを落とすと共に、外界の穢れも落とすと考えられている。

しばらくすると、浴衣に身を包んだひとりの世話役見習いが入ってくる。
香草を束ねた祓串や切麻など、禊に必要な道具を携え、衝立越しに浴場の隅に控えるのは、客人が身体の汚れを落とした後、清めの儀式を行うためだ。

「失礼いたします…何かお手伝いすることはございますか?」

これは客人を迎える作法としての建前の言葉であり、客人側は断るのが礼儀である。
言葉の意味をそのまま取って手伝いを強要するのは、羽根人としての仕来りを知らない、且つ横柄な王都の役人くらいだろう。
身体を洗う手伝いを要求し、挙句の果てには羽根人の浴衣に手を掛けようとする輩もいる。
中には知っていながら、という不届き者もいるので、そういった恐れのある来客には、最初から熟練者の世話役もつき、丁重にお断りを入れることにしている。

今回の二人の来訪者には、その心配は無用とされたのだろう。
デュークに就いたのは、まだ年端もいかない少女の見習いで、かなり緊張している様子だった。
道具を入れた箱がカタカタ鳴り、震える声で尋ねられれば、それは誰にでもわかる。



役割とは言え、少女にやらせる仕事としては気の毒なことだと思いながら、デュークは断りを入れた。

「いや、構わないでくれ。それよりも…」

隣の禊の間から、物が倒れる音と、慌てている若い男性の世話役見習いの声が届いた。

「あー、それは違います!お身体を洗うものではありません。湯船に入るだけでいいのです…あぁ、その、浴衣はどうか着たままで…」

何が起きているのか想像がつくと、デュークは軽く肩を聳やかした。

「すまないが、何の仕来りも知らない子なんだ。向こうの手伝いをしてきてくれないか」

「…か、畏まりました」

衝立越しの低く優しい声音に、見習いの少女は緊張をとくと、デュークの言葉に従って、一度その場から退席した。

「サフォーネにこれから教えていくことは山のようにあるな…」

隣の様子を聞きながら、デュークは苦笑した。


旅の汚れを落とし、清めの儀式が終わると、用意された衣を着るように言われた。
禊の間を出たところは間仕切りがあるだけの一つの部屋で、そこには大きさや色など何種類かの衣が用意されていた。
それらは聖殿内での正装で、たっぷり使用した生地を寄せ、緩やかな襞を二層に重ねた足元まで丈のあるものだ。

デュークは自身の背丈に合う青い衣に袖を通した。
サフォーネはどれを選んでいいか判らなかったのか、世話役見習いからいろいろ指南を受けているのが間仕切りの向こうから確認できた。

「サフォーネ、衣を選んだら翼は出したままにするんだ。ここでは正式な場では翼を出すのが礼儀となるから、忘れないようにな…」

サフォーネは薄い黄色の衣に袖を通すと、デュークに言われた通りに翼を広げる。
デュークも翼を広げると、その色を見た世話役見習いたちが息を呑むのが聞こえた。

「…とうとう来てしまったか…。サフォーネ、準備ができたなら行くぞ」

「…う、うん。…まって、デューク」

サフォーネは初めて着る正装に戸惑っているのか、その裾を踏まないよう、手で引き揚げながらデュークの元へ歩み寄った。
もう引き返せない。
覚悟を決めるよう、青の長衣を整えて歩き出そうとしたところ、先ほどデュークの清めの儀式を担当した見習いの少女が、恐る恐る声をかけてきた。

「…あ、あの……、お、大広間まで、ご案内いたします…」

黒い翼を目にしたのは初めてなのだろう。
緊張と恐れが伝わってくる。
それでも自分の務めを果たそうとする様子に、デュークは目を細めて静かに笑った。

「…いや、ここは以前から知っているんだ。案内は必要ない。ありがとう」

「え。…ぁ、は、はい…」

整った面差しで優しく微笑まれ、その場から動けなくなった少女の頬が染まる。
他の世話役見習いたちは、禊の間を後にする二人を見送ると、ひそひそと囁きあった。

「あの翼の色…びっくりした…」

「赤い髪も、珍しいわよね…」

「…こら。お客様の噂はご法度だぞ。さ、仕事仕事。禊の間の湯を替えないと…」

責任者の世話役に言われ、見習いたちはその場を去っていく。
デュークの笑顔に魅了された少女だけは、しばらくほぅっと立ち尽くしていたが、皆がいなくなっていることに気が付くと、慌てて仕事に戻っていった。


デュークはサフォーネを先導し、大広間を目指して歩き出す。
そこは5年前と何ら変わらない景色だった。

ただ違うのは、珍しい生地の衣にそわそわしているサフォーネが傍らにいることだ。
長い裾を踏まないように、ぎこちない歩き方をしているのが見えると頬が緩むが、見覚えのある大広間へ続く回廊が近づくとデュークは気を引き締めた。

サフォーネに至っては、大理石の壁、床、柱…全てが目新しく、床や壁に映る自分を珍しそうに見ながら、デュークの後を送れないように着いて行くのが精一杯だった。

「サフォーネ、これからここで一番偉い人に会いに行くんだ。俺の真似をして頭を下げるんだぞ?」

軽く後ろを振り返ったデュークの言葉に、サフォーネはこくんと頷いた。


大広間の入り口では、二人の警備兵がその扉を守るよう両側に立っていた。
近寄ってくる新入りの顔を訝し気に見る。

黒い翼を持つ者と赤い髪を持つ者。

異端の色に対してあまりいい印象を持っていないのだろう。
するどい視線を向けられるのは仕方のない事だった。

サフォーネは、立ち止ったデュークの後ろに隠れるようにして、警備兵たちの視線を交わしている。
その様子にデュークが表情を曇らせたところへ、正装したルシュアが現れた。
警備兵の二人は、ルシュアの出現に視線を真っすぐ正面に戻し、姿勢を正した。

「お。見違えたじゃないか、サフォーネ。初めての正装はどうだ?」

ルシュアの言葉にどう返したらいいのか戸惑っているサフォーネは、明らかに正装に対して良い印象はないのだろう。
生地がたっぷり使われている分、重みもあるし、長い裾は動きにくい。

「…サフォ…あるくの、むずかしい…」

「そうか。…まぁ、少しの辛抱だ。我慢してくれ」

素直な感想に、ルシュアが面白そうに笑った。
サフォーネの様子を見守るデュークに、ルシュアは改めて声を掛ける。

「どうだ?久しぶりの蒼の聖殿は」

「……。…相変わらず教育が行き届いていて素晴らしいな、と言いたいところだが…御覧の通り、俺やサフォーネには窮屈なところだ」

その答えに大きな声で笑うルシュアを、警備兵の二人は驚いたように見つめた。

「…ま、そう言うな。少なくとも私や『おさ』は歓迎側だからな。あとはお前たち次第だ」

「…だといいがな…」

クエナの町では、物怖じせずいろいろな人に声を掛けていたサフォーネが、警備兵の冷たい視線には怖気づいている。
聖殿の中でサフォーネが『異端』として見られる日々を考えると、デュークは深く溜息をついた。

大広間の向こうから、軽やかなベルが鳴り響いた。
おさ』が玉座に現れたことを示す合図だ。

「いよいよだな。…おい、扉を開けてくれ」

ルシュアの命令に、戸惑いながらも警備兵の二人は広間への扉を開けた。
デュークの影からサフォーネはおずおずと顔を出す。
そこに広がる光景は、今までに見たことのないものだった。


~つづく~
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