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毒膳の宴
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「安心してちょうだい! 次の街についたらまた働いてあげるわ!! なにせわたしは一家の大黒柱だもの!!」
この逃亡劇の資金は旅費も経費も何もかもを含めてイヴから出ているのは周知の事実だ。
街に着くたびにイヴが路上でパフォーマンスをしてみせて、その投げ銭といままでの貯蓄を食いつぶして続けているのである。
もちろん、今回の件の発起人はイヴなので、イヴが全額負担するのは当然のことだろう。
しかしどうやらジルはこの事実を多少気に病んでいるらしい。
イヴにはよくわからない感覚である。
気にしい過ぎるのも考えものだ。
「なんだったらおじさん! 専業主夫になってくれてもいいのよ! 一生養ってあげるわ!!」
「やめろ! おまえに一生付き合うなんて冗談じゃねぇ。どうせおまえの立てる家は地獄の一丁目にでも建ってるんだろう!」
「ご希望だったらそうするわ!!」
「違う! そうじゃねぇ、俺が望んでいるみたいな言い方をするな!」
「望んでなかったの?」
「望んでるわけねぇだろうが!! 俺は誰にも恥ねぇ正道を行くんだよ!!」
リオンはこてん、と首をかしげる。
「せいどうってなに?」
「正しい道のことよ。正しい行為とか、まぁ、間違ったことや、人に批判されるような事をしない方向へ向かうという意味かしら」
説明しながら合ってる? と尋ねると、ジルはしぶしぶ頷いた。
「なんかまぁ、そんなもんだ。つまりは人に恥じねぇ人生を送るってことだ」
「おじさんは恥ずかしいことがあるの?」
リオンからのとんでもない剛速球にジルは言葉に詰まる。
みぞおちを容赦なくぶん殴られたような心地がした。
軽い気持ちでの質問であることはわかっているし、リオンには何の含みがないこともわかっている。
しかしその言葉はジルの後ろ暗いところを容赦なくえぐった。
とっさに言葉が出てこない。
「いっぱいあるわよぅ。おじさんは恥ずかしがり屋だから」
その時助け船はあっさりと差し出された。
イヴだ。
「誰がだ、誰が」
思わず反射で適当に言い返す。
イヴはふふん、と指を立てて言った。
「わたしからのプロポーズも恥ずかしがって受け取ってくれないのよ」
「はぁー? プロポーズ? あの質のわりい冗談のことか?」
「ひどいわ! さっきだって養ってあげるって言ったのに!!」
「もう少し言葉を選べ!」
「言葉を選べば受けてくれるのね! やったわ、リオン! 今夜は祝杯よ! お赤飯よ!!」
「誰もんなこと言ってねぇよ!!」
「待ってて、ロマンチックなシチュエーションでロマンチックな言葉をあげるわ!!」
「おい、話をきけ、てめぇ!」
怒鳴りながらもいつもの雰囲気に内心安堵する。
イヴがわざと話題をそらしてくれたことに感謝した。
ジルには“恥ずかしいこと”ではなく“恥ずべきこと”が山ほどあった。
「次の街が見えてきたわよ」
できればいつまでも忘れたままでいたいことばかりが、ジルの記憶には降り積もって巨大な山を築いていた。
この逃亡劇の資金は旅費も経費も何もかもを含めてイヴから出ているのは周知の事実だ。
街に着くたびにイヴが路上でパフォーマンスをしてみせて、その投げ銭といままでの貯蓄を食いつぶして続けているのである。
もちろん、今回の件の発起人はイヴなので、イヴが全額負担するのは当然のことだろう。
しかしどうやらジルはこの事実を多少気に病んでいるらしい。
イヴにはよくわからない感覚である。
気にしい過ぎるのも考えものだ。
「なんだったらおじさん! 専業主夫になってくれてもいいのよ! 一生養ってあげるわ!!」
「やめろ! おまえに一生付き合うなんて冗談じゃねぇ。どうせおまえの立てる家は地獄の一丁目にでも建ってるんだろう!」
「ご希望だったらそうするわ!!」
「違う! そうじゃねぇ、俺が望んでいるみたいな言い方をするな!」
「望んでなかったの?」
「望んでるわけねぇだろうが!! 俺は誰にも恥ねぇ正道を行くんだよ!!」
リオンはこてん、と首をかしげる。
「せいどうってなに?」
「正しい道のことよ。正しい行為とか、まぁ、間違ったことや、人に批判されるような事をしない方向へ向かうという意味かしら」
説明しながら合ってる? と尋ねると、ジルはしぶしぶ頷いた。
「なんかまぁ、そんなもんだ。つまりは人に恥じねぇ人生を送るってことだ」
「おじさんは恥ずかしいことがあるの?」
リオンからのとんでもない剛速球にジルは言葉に詰まる。
みぞおちを容赦なくぶん殴られたような心地がした。
軽い気持ちでの質問であることはわかっているし、リオンには何の含みがないこともわかっている。
しかしその言葉はジルの後ろ暗いところを容赦なくえぐった。
とっさに言葉が出てこない。
「いっぱいあるわよぅ。おじさんは恥ずかしがり屋だから」
その時助け船はあっさりと差し出された。
イヴだ。
「誰がだ、誰が」
思わず反射で適当に言い返す。
イヴはふふん、と指を立てて言った。
「わたしからのプロポーズも恥ずかしがって受け取ってくれないのよ」
「はぁー? プロポーズ? あの質のわりい冗談のことか?」
「ひどいわ! さっきだって養ってあげるって言ったのに!!」
「もう少し言葉を選べ!」
「言葉を選べば受けてくれるのね! やったわ、リオン! 今夜は祝杯よ! お赤飯よ!!」
「誰もんなこと言ってねぇよ!!」
「待ってて、ロマンチックなシチュエーションでロマンチックな言葉をあげるわ!!」
「おい、話をきけ、てめぇ!」
怒鳴りながらもいつもの雰囲気に内心安堵する。
イヴがわざと話題をそらしてくれたことに感謝した。
ジルには“恥ずかしいこと”ではなく“恥ずべきこと”が山ほどあった。
「次の街が見えてきたわよ」
できればいつまでも忘れたままでいたいことばかりが、ジルの記憶には降り積もって巨大な山を築いていた。
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