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美しい装飾の街

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「後はこの道を抜ければ表通りに出る」
「ありがとう、助かったわぁ」
 意外なことに、リーダー格の男の子は別に他の子に比べて体格が大きいわけではなかった。
 どうやら求心力や指導力と単純な腕力は別物らしい。リーダーの子だけでなく、他の子達もよそ者が珍しいのかぞろぞろと着いてきている。
 子ども達はどうやら孤児であるらしかった。
 話を聞くとこの花の町は文字通りの花の栽培を生業にしているだけでなく、いわゆる色街も売りにしているらしい。
 女の子ならばそのまま色街の住人になるが、男の子はわずかな護衛役を除いて外へ捨てられてしまうという。
 中には内緒で作った子や、女の子ではあるものの親が同じ道を辿ることを哀れに思って外へ逃がした子なども混じっているという。
 彼らの存在はこの町の住人にとっては暗黙の了解のようなもので、物乞いをしたり、ごみを漁ったりしてなんとか生きているとのことだった。
 表通りに出るともうすでにあの苛烈なパレードは通り過ぎた後のようだ。
 そのことに少しほっとする。またあれにもみくちゃにされてはかなわない。
 美味しそうな肉の焼ける匂いに、すぐ近くに屋台があることに気づきイヴはみんなに着いてくるよう手招きすると屋台のおじさんに声をかけた。
「その肉の串を13本ちょうだい」
 肉はどうやら牛の肉のようだ。そこそこ分厚い塊が6個ほど串に刺さっており、とてもボリューミーだ。甘辛いタレがたっぷりとかかっていて、その刺激的な匂いも食欲をそそった。
 子ども達もそのごちそうの匂いとイヴの行動にもらえると悟ったのかぞろぞろと屋台を囲む。
 屋台の回りに子ども達の円ができた。
 しかし、屋台を開いている男はちょい、と不愉快そうに顔をしかめると、すぐには串を差し出さなかった。
「お嬢さん、まさかとは思うが、その買った串をそいつらにやろうってんじゃないだろうな」
「だったらなぁに?」
 屋台の男はまるで重大な問題ごとを提起するかのような仰々しさでイヴにのたまったが、イヴにはまるでその問題ごとが何なのか検討がつかなかったので素直に問い直した。
 すると男は大げさに驚いて肩をすくめて見せる。
「冗談だろう?そいつらは浮浪児だぞ。そんなやつらにうちの品をやろうなんて……、よそでやってくれよ。うちの評判が下がっちまう」
 ご丁寧に、犬を追い払うような仕草つきだ。
 イヴは理由がわからず、いぶかしげに首をひねる。
 わざわざそんなオーバーリアクションを取られる意味もわからなかった。
「あら? どうして評判が下がってしまうの?」
「当たり前だろ。物乞いにものを恵んでやるなんて……」
 男はイヴの直裁な物言いにしばし言いよどんだが、すぐに意を決したのか言い切った。
「害獣にえさをばらまいてこの近辺に良く出るようにしちまうようなもんだ。よそに迷惑がかかる」
 イヴにはその理屈が全くもって理解できない。
 男がさも当たり前の常識かのように口にするその態度も含めて疑問だった。
「彼らはこの町の一員よ。どこにいようが自由なはずだわ」
「景観を損なう」
 イヴはぽかん、と口を開ける。
 イヴの質問の答えになっていない。
 それどころか、なんの言い訳にも理由にもなっていなかった。
 しかし、目の前の男がまるでこれがこの世の真実かのような口調であまりにも堂々と語るものだから、イヴは自分が間違っていたのかと錯覚しかけてしまう。
 いや、そんなわけがない。
 景観を損なうだなんて、だからと言って彼らを追い払って見て見ぬふりをして、それで一体どうしようというのだろうか、一体何が解決するというのだろうか。
 彼らの出入りを制限したところでそれには何の意味もない。
 これはもっと根本的に整えなければ解決しない問題だろう。
「それはこの事態を見過ごしてきたこの町のやりようの問題であって、彼らに責任があることではないわ」
 ひとまずイヴはそれだけを口にした。
「じゃあ、町の代表に今すぐ掛け合って来いよ。このガキどもに飯を売ってもいいっていう法を作れってな! そしたら売ってやるよ!」
 イヴは絶句する。
 この男は一体何を言っているのだろう。そんな話は今、何一つしていないというのに。
「法律を作れなんて言っていないわ。彼らが孤児なのは彼ら自身の責任ではないし。彼らが孤児なことで被る被害があるのならば、そもそも孤児を作るような町の運営方法を見直すべきだと言っているのよ。だから、景観を損ねるなんていう理由で物を売ることを拒否するのは不当な行為だと言っているの」
 男は難しい話が出てきたからか、もしくは反論がすぐには思いつかなかったからか、苛立たしげに舌打ちをした。
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