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盗人世にはばかり

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「残念だが社会には秩序が必要なんだ。ルール違反には罰がある。その秩序が成り立たなくなってしまっては、私達は生きていけなくなってしまうよ」
「盗賊さんは捕まったら殺されてしまうの?」
「前科にもよるが、今回は未遂だからきっとしばらく牢屋で暮らして数年後には釈放されるんじゃないかな」
「持ち物はすべて没収されてしまうかしら」
「ところにもよるが、おそらく没収されてしまうね。けれど食べ物などの期限があるものを除けば釈放時には返ってくるだろう。もしくは家族に送られるかもしれないね」
「商人さん、お礼の話なのだけれど、その箱をもらってもいいかしら」
 イヴが指さしたのは、色とりどりの宝石で飾られた金色の小さな宝石箱だった。
「かまわないよ」突然の話題変換に疑問を抱きつつも、商人は寛容に頷く。
「そしてその箱をこの人達のご家族に届けて欲しいの」
 指さされた先には3人の盗賊がいた。
 泣いていた盗賊が思わずといったように顔を上げる。
「……私は構わないが、そうすることに何か意味があるとは思えないね」
 商人は渋い顔をして告げた。
 イヴはそれに笑って頷いて見せる。
「そうね、ないかもしれないわ。でもあるかもしれないじゃない」
 それを少し、信じてみたいわ。
「ここから先の沼地に村がある!」
 泣いていた盗賊の男が声を上げた。
「少しでいい! それがあればかかぁと子どもが生活できる!! 頼む!」
 盗賊はそのままうなだれるように頭を下げた。
 残りの二人も、少し考えた後に男に続くように頭を下げた。
「……なら、この箱ではなく宝石を3粒にしよう。3人のご家族に1つの品物では、逆に争いを生みかねないからね」
 それを見てか、商人は了承の返事を口にした。
「いいの?」
「かまわないさ。しかし、結果を見届けることはきっとできないだろう」
「かまわないわ」
 イヴは無意味な行為だと思っているにも関わらず、そんな自分の感情に関係なくイヴのことを気づかい、よりよい提案を示してくれた商人に心の底から感謝をした。
「ありがとう、商人さん」
「いいや、お嬢さん。これはただの正当な取引さ。」
 礼には及ばないさ、と商人は小粋なウィンクをしたつもりだったようだが、それは実際は目を両方ともぎゅっと閉じるようなとても下手くそなものだった。
 しかし、とても決まっていて格好いいものにイヴには思えた。
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