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盗人世にはばかり

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 潰れそうなほど強く抱きしめながら、自分の心がリオンに直接伝わればいいのにと思った。
 自分の心を取り出してリオンにあげられればいい。
 そうすればリオンは自分がどれだけ大切で、愛されるべき存在なのかをきっと理解することができるだろうに。
 しかしそれは言葉や態度で伝えることを放棄した怠慢な考え方だろうか。
 そんな2人の様子を商人は笑顔のままじっと見つめていた。
「……そろそろ解放してやれ、ほんとに潰れるぞ」
 ジルがべりっとイヴをリオンから引きはがす。
「ええーん、もうちょっとっ」
「とっとと選べ!」
「なによう、おじさんはもう選んだの」
「もう選んだ」
 しばらく待ったがジルは選んだ品をイヴに見せてくれる気はないようだった。とっとと行け、と手を振られる。
「んん~……」
 唸りながらも仕方がなく再度荷台を覗きこもうとして、縛られた盗賊達を御者が馬車に乗せようとしていることに気づいた。少し不用心な気もするが乗せる場所が荷台しかないのだろう。乗せやすいようにイヴは横にずれて道を開ける。
「おお、これはすまないね、お嬢さん」
 御者はにっこり笑って礼を言うと、よいしょっと手も足も縛られて自らでは移動できない盗賊を引きずるようにして乗せようとした。
 失敗して盗賊が地面に落ちた。
「おや、すまないね、もう一度」
 よいしょっ、気合いを入れ直す。盗賊がまた地面に落ちる。
 3回ほど繰り返したあたりで耐えきれなかったジルが「じいさん、俺がやるよ」と交代を申し出た。
 元盗賊なのもあり、地面に落とされるたびに尻をしたたか打ち付けて呻く盗賊を人ごとだと思えなかったのかも知れない。
「いやぁ、すまない、すまない。いつもならちゃんと護衛がついているんだが、今日に限って護衛をつれてなくてね」
 その様子を見て、商人がほがらかに笑った。
「どうして今日はいないの?」
「うちは専属の護衛を保有していなくてね。いつも紹介所で紹介してもらうんだがなんでも都が騒がしいらしくて、人手が足りなくていつもより割高のわりに腕のいい傭兵はみんなそちらに駆り出されてしまっていたんだよ。こんなことなら見せかけだけでも連れてくればよかったよ」
「そうなの……」
 しおらしく頷いてみるがおそらく十中八九、都を騒がした原因はイヴ達だ。
 つまり間接的に商人が襲われる要因を作ったのはイヴ達だ。
 こんなところにまで影響が出ているのか、とイヴは驚く。
    故意ではないとはいえ罪悪感は拭えなかった。
「なんで俺たちがこんな目に……」
 その時、泣き声混じりの嗚咽を漏らしたのは盗賊のうちの一人だった。
 すすり泣き、縛られた両手で顔を覆う。その左手には手作りだろうか、少し不格好で素朴な木でできた指輪がはまっていた。太陽とおぼしき意匠が彫り込まれている。
「おい……っ」
「こんなにあるんだから、一つくらいいいじゃねぇか!世の中不公平だ……っ」
「……どうしてそう思うの?」
 イヴはそっと泣いている盗賊に近づくと話しかけた。しかしそれを「ほっとけ」とジルが止める。
「こいつらは元農民だ。おそらく不作か何かで食い詰めて盗賊になったクチだろう」
「どうしてわかるの?」
「剣の使い方がなっちゃいねぇ。抵抗されることにも慣れてねぇから俺が飛びかかった時にもろくに抗戦できていなかったんだろう」
 それにこいつらの手のたこの付き方は剣じゃなく鍬やら鎌やらを扱う人間の付き方だ。
「良くある話さ。しかし、盗賊家業に足を突っ込んだ以上はなんの言い訳にもなりやしねぇ。人様のしのぎをかすめ取って生きる商売だ。恨みは買って当たり前、しくじりゃ命がねぇのは承知の上だ」
「……ジルもそうだったの?」
 思わず発したイヴの問いに、
「……さぁな、忘れちまった」
 ジルは答えてくれなかった。
 その時、盗賊のうちの一人がジルの顔を見て何かに気づいたかのように目を見開いたが、口をつぐんで何も言わなかったのでそれは見過ごされた。
「盗賊さん達はどうなるの?」
 イヴは今度は商人に問いかけた。
「街で憲兵達に引き渡すつもりさ。お嬢さん、可哀想に思うかもしれないがこれは必要なことなんだ。彼らを許せば同じような事をする人間が増加する。毎日きちんきちんと働いている人間が馬鹿をみることになってしまうし、そうすると社会が成り立たなくなってしまう」
 それはそうだ、十分に納得できる。しかし感情的には納得しきれないような部分も残る。
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