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町の外への遠い道のり

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なんだかイヴがどうしようもないわがまま娘のように言われてしまったが、まぁ、いい。イヴは寛大な少女なのだ。そのくらいは許容してやろう。
 当初の目的通り、くるりと勇者に向き直ると、首をかしげて尋ねた。正直話題はなんでもいい。
「勇者さまはどこの人なの?」
「……出身の話かい?」
 そんな周囲の様子に諦めたのか、勇者はイヴに向き直ってくれた。
「いいえ、どこでお仕事しているのかと思って」
 勇者様は憲兵さんとも騎士団の人とも教会の人とも、みんなと格好が違うわ。
 そういうイヴに「ああ、僕だけ仲間はずれなんだ」と勇者は力なく笑って見せた。
 憲兵達は鋼の甲胄に身を包んでいるのは一緒だが、その鎧の肩当ての部分に王国の紋章が刻み込まれ、また、鎧についた装飾は赤色で統一されている。
 騎士になると、そこに更に、みんなそろいの王国の紋章が刻まれた紅いマントを羽織っていた。
 これはランスウェルズ王国の公式に定められた国の色が赤色だからだ。
 それに対して勇者は青いマントを羽織っており、鎧自体の形も他の兵士達に比べて軽装で、むき出しの部分も多かった。もちろん、王国の紋章は刻まれているが、その場所は胸当ての部分だ。
 むろん、イヴとしては勇者推しのため、露出が多い格好は非常に嬉しい。しかし、そういった、イヴの個人的な好みはともかくとして。

「いじめられているの?」

 イヴのぶしつけでストレートな質問にも、勇者は笑みを崩さなかった。
「あはは、いじめではないんだけど、特別扱いなのさ」
「それっていじめとどう違うの?」
 勇者の笑顔が凍る。
 しかし、一拍を置いて、すぐに立て直すと、穏やかな笑顔を改めて作り直した。
「そうだね、どう違うのかな、僕もわからない。わかったら教えてくれ」
「………」
 業者台の上でイヴは首をかしげる。
 その言い方では、なんだか勇者は本当にいじめを受けているかのようだった。
「ねぇ、勇者様。勇者様はさっき話していた誘拐犯は悪者だと思う?」
「……どうして、そんなことを聞くんだい?」
 勇者は明言を避けた。
 本来ならば、ここは「当たり前じゃないか、誘拐犯が悪者でないなんてことがあるのかい」とでも言うような場面だ。
 そのことにイヴは更に首をかしげる。
「なんだか、勇者様。この誘拐犯探しに、あんまり乗り気じゃないみたい」
「…………。そんなことはないさ」
「そうなの?」
「そうとも」
 勇者はもっともらしく頷いてみせる。
「悪い人間を捕らえるのに、乗り気も乗り気じゃないも存在してはいけない。万が一手を抜かるようなことがあって、悪者を野放しにして、他に被害がでては悔やんでも悔やみきれないからね」
「そうね、そうだわ。わたしが伝記で読んだ勇者様はそういう人よ」
 イヴは手を叩いて喜ぶ。
 勇者はそれに苦笑を返した。それは自嘲の笑みに近かった。
「だから、勇者様が乗り気でないのならば、もしかしたら誘拐犯さんは悪者ではないのかしら、と思ったのよ」
 それはイヴの願望も含んだ発言だったが、
 はたして、――勇者の笑顔は再度凍り付いた。
 しかし、解凍するのは一度目のそれよりも早く、それはほんの瞬きほどの硬直だった。
「そんなことはないさ。いいかい、罪は罪だ」
 それは自分自身に言い聞かせているかのようにもイヴには聞こえた。
「どんな理由があれ、犯罪行為はいけないことだよ」
「……そうなの」
 なんとも不完全燃焼だ。煮え切らない。
 もしかしたら、勇者は本当に、イヴ達“国家反逆者”を捕らえるのに消極的なのかもしれない。
 そんなふうに思えて仕方がないのは、イヴがそう思っていて欲しいと願っているからだろうか。
 その時、遠くのほうから勇者に声がかかった。
 どうやら荷物の確認が終わったらしい。
「どうもありがとう、素敵なお嬢さん。君とお話できて楽しかったよ」
「それはわたしの台詞だわ、ありがとう、勇者様」
 にこやかに笑いあう。
 勇者の笑顔は素晴らしく、どの角度からみても完璧だった。
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