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10、猟犬リリィは帰れない

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「……否。そのような事実はない!!」

 はっきりとしたその宣言に、リリィは真実の腕輪に視線を移す。リリィ以外の人間も皆腕輪を注視していたことだろう。
 噛み付くようなユーゴのその返答に、果たして腕輪は微動だにせず、沈黙を続けるだけだった。
 ユリウスが息を吐く音だけが固唾をのむ人々の中に落ちた。
 それを中心に徐々にざわめきが波紋のように広がってゆく。

「どうやら、今回の嫌疑は事実無根だったようですね」
「そんな馬鹿な……っ」

 ジュールの悲鳴じみた声が響く。それをユリウスはしらけた目で見ると「真実の腕輪は反応を示しませんでした」と淡々と事実を告げた。

「これにより、被告人ユーゴ・デルデヴェーズには偽りがないことを証明したこととする」

 終わりを告げるようにベルを取り上げて静かに鳴らす。
 じわじわとその事実を受け止めた人々が囁きだした。
 一際大きな歓声が響いた、と同時に背後の入り口から人が押しかけてくる音がした。
 ユーゴとリリィは振り向く。そこには街中の人々が詰めかけていたのではというほどの人数が押し合いながら、中になだれ込んできていた。

「ユーゴ様っ!信じていましたっ!」
「ユーゴさまぁ、一生ついていきます!」
「よかったぁ! 本当によかったぁ……っ!」

 アンナやカイル、他には青鷲団などリリィにわかる人物はその程度だったが、皆がむせび泣いていユーゴに駆け寄ってくる。
 その人間達の塊に、リリィは慌ててユーゴの手を離してホールの隅のほうへと避難した。
 あんなものにぶつかったらただでは済まない。
 腕輪をはずすのに時間を要したユーゴは案の定、人の波にのまれてもみくちゃになっていた。
 顔を引きつらせながらもなんとか唇に笑みを浮かべようとしているのが見て取れる。
 押しかけた人々の後方には、赤獅子団の面々が距離を取るようにしているのが見えた。
 アイゼアが帰ろうとするのをガスパールが必死に引き留めている。

 しばらくして人々の興奮が少し収まって来た頃に、ユリウスが衛兵に命じて人々の退場を促した。そこでやっとユーゴは解放されて、他の人々はユーゴと一緒に帰りたそうにしていたが、事務手続きがまだ残っているからと再びリリィの近くへと戻ってくる。
 ユリウスに提示された書面にサインを行い、二人が帰路につく頃にはもう空は赤紫色にそまっており、夕焼けが周囲を包んでいた。
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